裏信長記 (少しぐらい歴史に強くたって現実は厳しいんです)

ろくさん

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六話 帰還

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重治の目の前から光の幕が薄れ消えさった時、そこは自分の部屋であった。


夢を見ていたのか?
否!
夢でない証拠なら、自らの着ているその衣装が何より物語っている。

戦国時代のいでたち。あの世話役、池田恒興が重治の身の回り、生活に支障をきたすことのないようにと揃えてくれた品々ある。


重治は、ただただ呆然と、戦国時代と現在を行き来するキッカケとなった竹中家先祖伝来の家宝である小刀をぼんやりと眺めていた。

しかし、いくら眺めていようとも小刀が再び輝き出すことはない。たとえ抜刀することが可能となった今も……



重治は、過去へと飛んで出会った信長の事を考えると胸が熱くなった。



「帰ってきてしまったんだな…」


重治の心は、戻ってきた安心を感じつつも、いくらしかの不安も混在していた。過去へ飛んで戻ったこの世界は、本当に元の世界であるのか?


「ここは、俺の部屋…だよなぁ…でも、……今は、いつ?」


部屋の様子は、ここを離れた時とは、全く変わっていないように感じる。
まず自分のいた、その部屋に間違いない。
重治は、机の上に置かれた携帯の画面を慌てて確認をした。


「日付は、時間は…」


携帯の画面の内容に不安が解消されつつあった重治ではあったが、頭の中には、新たなる別の不安を感じ始めていた。

信長との過去での出会い。その事を考え始めて、一つ、どうしても、気にかかる事があった。それは考えれば考えるほど不安へとつながっていく。


重治は、恒興が用意してくれた、着ている着物を脱ぎ捨て、部屋着にしているジャージに着替えた。
そして、すぐに、勉強机にむかい椅子に腰をかけた。

目の前の本棚に並ぶ日本史の教科書、それ意外にも竹中家家訓によって集められた歴史書の数々をを順にめくり調べ始めたのである。


そう注目したのは、西暦1551年の信秀暗殺から後の歴史だ。


どの書物を見ても、歴史が変わった様子は見当たらない。
確かに信長の人生に関わりを持ったはずだ。
なのに何故?

自分が関わった事が歴史を決める事につながらなかったのか?
ならば、過去へのタイムスリップ自体、何の影響を及ぼすこともない?

解らない事だらけであった。





「重治。何時まで寝てるの。遅刻するわよ」


母の声であった。

今のいつもと変わらない言葉からすると、時間の経過は、ほんのわずかなのであろう。

一階に降りて重治が知った事実は、たった、一日の経過。誕生日から一日たった月曜日の朝になったばかりであった。


「どうしたの、その頭?いつの間に髪、伸びたの?」


母の顔を見て、声を聞いたことで、重治は自分がほんとうに戻ってきた事を実感していた。


「さ、さあ。あっ、今日ちょっと家訓に関わる大事な用事があるから、学校、休むから」


重治は、今見ることの出来る、この家にある全ての歴史書や古文書を調べあげるつもりでいた。


「うぉほん。食事の時は静かに食べること」

「……申し訳ありません、父上」


さっさと食事をすませた重治は、すぐさま、自分の部屋へと戻っていった。

部屋に入ると、再び、歴史書に目を通す作業を開始した。
何かしら自分の残した痕跡を何としてでも探しだすつもりであった。


しかし、痕跡を探す作業は困難を極めていた。
重治が過去に行く前の記憶との照合である。

以前に覚えている歴史の事実に確信がもてなければ、重治の関わった痕跡との証明とはならない。

当たり前のように、過去の出来事の書かれた歴史書。
その当たり前が、以前のままなのか、変わってしまったものなのか、歴史書を見るだけで解るとは限らない。
その変化を照合して解り得るのは、この世でただ一人、重治自身だけなのである。


重治は、ふと、違和感を感じた。

ご先祖様である竹中半兵衞様の登場年がおかしいのだ。

どう、見てもおかしい。これだけは、記憶違いの有るわけはない。

年数にすれば五年か、六年、早まってしまっいる。
自分のご先祖を間違えるはずはない。


それともう一つ、重要な点、最初に記される筈の仕官先が斎藤家ではなく、織田家に名前が残っているのである。


しかし、それだけであった。
他に変わったものは見つけられない。歴史そのもの流れには大きな変化はなかったのである。

最初に記された竹中半兵衞。そして、重治が元々記憶している斎藤家に登場する竹中半兵衛。

この家に伝わる古文書、歴史書、全てに目を通して、竹中半兵衛の存在が一人ではないように感じられる所をのぞいては、重治には違いを見つける事は出来なかったのである。


重治が過去から戻ってきて、一週間のときが過ぎようとしていた。

重治は、毎日のように図書館と歴史資料館へ出かけては、歴史書、古文書を調べ続けていた。
重治の調べあげたそれらは、有に一千点を越えていた。

この日も重治は、学校を休み、自宅の自分の部屋で、一度は調べた書物を再び調べなおしていた。


「シ ゲ ハ ル 。 シ ゲハ ル 」


どこからか声が聞こえてきた。

重治は、あたりを見回した。しかし何も変わりない、いつもの部屋である。


「?気のせいか……」


重治は再び、書物にむかった。


「シ ゲハ ル 。 シ ゲハ ル 」

「えっ」


『今度は、確かに聞こえた』決して聞き間違える筈のない、なつかしい、二度と聞くことは出来ないと思いかけていた声が確かに聞こえてきたのだ。


「信長さま……」


重治の心は、カッと熱くなった。
どうすれば、再び過去の世界にいくことができるのか。


過去より帰った、この一週間は、空気の抜けた風船のように役立たずで、重治は、自分のこの世界における、存在の意味すら見いだせなくなっていた。


『過去に戻りたい』

本来、自分のいるべき居場所は戦国時代なのではないのか。

神様に、祈りもした。
しかしこれまでは、神に祈りは届かず、家宝の小刀が再び光り輝きだすことはなかった。


信長の声を聞いて、重治は、慌てて刀を手に取った。そして素早く鞘からそれを抜いてみた。

家宝の刀は、薄く、淡く、今までとは違う、まったく別の輝きを放っていたのである。


小刀の輝きが重治に語りかけてきた。いや、その様に重治にはそう感じられたのだ。

信長が俺を呼んでいる。
そう素直に感じられた。
今、重治を必要とする出来事が信長に起こっているのだ。


「俺を、過去に。信長の元へ」


重治は、家宝の刀に強く強く念じ続けていた。
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