王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香

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第3話 王国魔導院、そして“測れない才能”

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 王国魔導院は、王都の中心に近い高台に建てられていた。
 白い石造りの建物は威厳に満ち、長い歴史と権威を誇示するかのように空へと伸びている。

 その正門をくぐった瞬間、リオンは小さく息を呑んだ。

「……すごい魔力の流れだ」

 無意識の呟きだった。

 だが、その一言に反応した者がいる。

「流れ、だと?」

 前を歩いていた魔導院の試験官――壮年の魔導士が、思わず足を止めて振り返った。

「何か見えるのですか?」

「え?えっと……建物全体が、こう……水路みたいに魔力を巡らせてるなって」

 試験官の顔が、わずかに強張る。

(見えている……?魔力循環を?)

 魔導院全体を覆う魔法構造は、上級魔導士でも「理論として理解する」のが精一杯だ。
 それを、目に見えるものとして捉えているなど、あり得ない。

 セレスティアは一歩前に出た。

「この子は、少し感覚が鋭いだけですわ」

 にこやかな微笑み。
 だが試験官は、その言葉を鵜呑みにできなかった。



 試験は、魔導院の中でも特に厳重な「測定室」で行われることになった。

 水晶柱、魔力感知板、耐圧結界――
 どれも、王国が誇る最新設備だ。

「まずは魔力量の測定から行います」

 試験官の指示に従い、リオンは水晶柱の前に立った。

「手を、そっと触れてください」

「はい」

 触れた瞬間、水晶が淡く光る。
 次の瞬間――

 ひび割れた。

「――っ、結界を強化しろ!」

 水晶柱の周囲に張られていた安全結界が、慌てて増設される。
 光量は一気に跳ね上がり、測定針は振り切れ、警告音が鳴り響いた。

「ちょ、ちょっと待って!これは……!」

 試験官たちが騒然とする中、リオンは青ざめた。

「ご、ごめんなさい!強く触りすぎましたか?」

「触る、という問題ではありません……」

 試験官の声が震えている。

 測定不能。
 それが、機器の下した結論だった。

(……想定以上ね)

 セレスティアは内心でそう呟きつつ、表情には出さない。



「次は、制御試験です」

 場所を移し、耐久結界で囲まれた演習場へ。

「指定された規模で、魔法を発動してください。破壊は厳禁です」

「壊さない……はい」

 リオンは真剣な顔で頷いた。

 母の言葉を思い出す。

 ――魔法は、人を守るもの。

 彼は深呼吸し、地面に指先を向けた。

 小さな防護結界。
 ただ、それだけのつもりだった。

 だが。

 結界は発動と同時に、空間全体と調和した。

 魔力の波紋が広がり、演習場全体が一つの構造体として再定義される。
 攻撃も、防御も、破壊という概念すら入り込めない、完全安定領域。

「……これは……」

 誰かが、呆然と呟いた。

「“完全防護結界”……?」

「いえ、違う……これは、もっと上位……」

 結界の専門家である老魔導士が、震える声で言った。

「攻撃を防ぐのではない。攻撃という“事象”そのものを許容しない空間だ」

 沈黙。

 王国魔導院の誇りが、音を立てて崩れていく。

「……失敗、ですか?」

 恐る恐る尋ねるリオンに、誰もすぐには答えられなかった。

 セレスティアは一歩進み出る。

「大丈夫よ、リオン。“壊していない”もの」

 その一言が、決定打だった。



 試験終了後、別室。

 魔導院長を含む重鎮たちが集められ、緊急会議が開かれていた。

「測定不能の魔力量」

「再現不可能な制御精度」

「理論を超越した空間構築」

 報告が重なるたび、空気が重くなる。

「……育成対象、ではないな」

 院長が、低く呟いた。

「これは……管理対象だ」

 その言葉を、セレスティアは聞き逃さなかった。

「――お言葉ですが」

 静かに、しかしはっきりと。

「私の息子は“物”ではありません」

 視線が一斉に集まる。

「この子は、王国のために存在しているわけでも、魔導院の研究対象でもない」

 柔らかな声。
 だが、反論を許さぬ強さ。

「才能があるからといって、縛る理由にはならないでしょう?」

 院長は一瞬、言葉に詰まった。

(この女……)

 その気配は、かつて王都を震わせた公爵令嬢そのものだった。



 その頃、別の場所で。

「……天才、だと?」

 王太子――いや、元王太子は、報告書を睨みつけていた。

 そこに記された名を見て、眉がぴくりと動く。

「リオン……母親は、セレスティア・フォン・アルヴェイン?」

 忘れたはずの名。
 追放した女。

「……馬鹿な」

 胸の奥に、嫌な予感が広がる。



 夕刻。
 魔導院の客室で、リオンは椅子に座り、困ったように呟いた。

「母さん……僕、何か変なことした?」

 セレスティアは、その問いに少しだけ微笑んだ。

「いいえ。あなたは、いつも通りよ」

 ただし――
 王国にとっては、想定外すぎただけ。

 彼女は息子の頭に手を置く。

「大丈夫。どんな評価をされようと、あなたはあなた」

 そして心の中で、静かに思う。

(……もう後戻りはできないわね)

 王国は、この才能を放ってはおかない。
 だが同時に――

(私も、守る覚悟はできている)

 母は、決して譲らない。

 この物語は、まだ始まったばかりだった。




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