62 / 237
第4章「好奇心は猫をも殺す」
60話
しおりを挟む「…約束って何ですか?」
邸へと向かう馬車の窓から雪景色をぼんやりと眺めていると、隣りに座る義弟がそう尋ねてきた。
突然の問いに、一瞬何のことだか分からなかったが、直ぐに殿下が去り際に言ったことかと思い至った。
「あぁ、それは…」
『いいか、これは俺とお前だけの秘密だ。』
ふと、彼の真摯な言葉が脳裏を過った。途中まで開いた口を閉じる。
「姉上?」
黙り込んでしまった私を不審に思ったのだろう。義弟は心配そうに私の顔を覗き込んできた。
おっと、いけない。
義弟を安心させるために、私は咄嗟に笑みを貼り付けた。
「殿下が暫く皇宮に籠るから、その間にしっかり勉強していなさいって。」
「あの殿下が、姉上に勉強を…?」
疑うような視線に内心冷や汗をかく。
下手に誤魔化さず、正直に言った方が良かっただろうか。いや、それでは殿下の約束が守れない。私は殿下に対して、誠実で居たいのだ。
少し無理があるが、何とか義弟に納得してもらわなければ。
「えぇ、そうよ。」
「…少し信じられませんが、姉上がそう言うならそうなんでしょう。」
案外とあっさり信じてくれたことに、拍子抜けする。
過保護の義弟のことだ。とことん追求してくると思ったのだが…。まぁ、納得してくれたのなら、それで良い。私は心の中で安堵の息を漏らした。
「明日からの放課後は、図書室で勉強しながらユーリを待っているわ。」
「姉上、僕を待たなくてもいいんですよ?貴女を遅くまで待たせるのは、心苦しいです。」
「私が貴方を待ちたいの。……もしかして、私が待っているのは嫌?迷惑だった?」
もしそうだとしたら、話しは変わってくる。大切な義弟の嫌がることはしたくない。だが、私のわがままのせいで、知らずのうちに迷惑をかけてしまっていたら…。
不安を隠せない私は、恐る恐る義弟の様子を伺った。
「迷惑だなんて、そんなこと有り得ません。…嬉しいですよ、とっても。」
義弟は優しく微笑みながら、私の右手の甲に触れる。
そこが偶然にも、殿下の魔法がかけられた場所だったので、心臓が小さく跳ねた。
「…ねぇ、姉上。殿下が居なくて寂しいですか?」
「え?あ、あぁ、そうね、寂しいわ。でも、私にはユーリが居るもの。貴方が居てくれるなら、それでいい。」
私は甘えるように義弟の肩に頭を乗せる。一瞬、義弟の身体が強ばる。が、すぐに弛緩し、義弟も私に身体を擦り寄せてきた。
「僕もですよ、姉上。」
お互いがお互いの存在を求め合う、この関係はとても居心地がよい。
だが、一方で麻薬のようだとも思う。
この居心地の良さを知ってしまえば、離れることは難しい。ずぶすぶに溺れている私は、この先もずっと義弟の存在に依存していくのだろう。
それで良いのだ。義弟もそれを望んでいる。
無理してまで、何かを変えようとする必要なんてない。そんな無駄なことをしなくても、私たちの世界は永遠だ。
―――だから
私は、義弟に感じた違和感を全て蓋をする。
そうすれば、この世界は壊れない。
余計なものは箱に詰めて、心の奥底にしまっておこう。
世界で最も信頼している義弟の傍らで、私は静かに目を閉じた。
56
あなたにおすすめの小説
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる