私は貴方を許さない

白湯子

文字の大きさ
153 / 237
第9章「愚者の記憶」

148話

しおりを挟む


アルベルトside


「ウワァアアアアアアアアア!!!!」


寝静まった皇宮に、僕の叫び声が雷鳴の如く轟く。
その悲鳴を聞きつけてか、慌ただしい足音と共に、2人の人間が寝室に飛び込んできた。叔父と初老の皇宮医だ。


「―っ、」


叔父と皇宮医が同時に息を呑む。
寝室が、猛々しく燃え上がる青い炎に包まれていたからだ。
そして、炎の中には顔面と腕を焼かれて床をのたうち回る指南役と、ベッドの上で嘔吐しながら腕を掻き毟る僕がいた。


「アルベルト!!」


普段聞いたこともないような切迫した声を上げた叔父は、燃え盛る炎をものともせず、僕に駆け寄ってきた。
一方、完全に意識を炎に飲み込まれていた皇宮医は、叔父の声にハッと我に返り、藻掻き苦しんでいる指南役の元へと慌てて駆け出した。


「落ち着きなさい、アルベルト。」


叔父は辺りの炎を魔法で消火しながら、僕の肩に手を伸ばす。


「僕に触るな!!」


唸り声を上げながら叔父の手を払った僕は、瞳からとめどなく溢れ出る青い炎を、叔父に向かって撒き散らした。


「―っあっ、」


咄嗟に腕を交差させ顔面を守った叔父であったが、真正面から炎を浴びた両腕は一瞬で蝋のように焼き爛れた。
服の繊維と肉の焦げた臭いが僕の鼻を刺激し、更なる嘔吐を誘発させる。


「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!!!!!!」


激痛に顔を歪めている叔父のことなんて、どうでもいい。今はただ腕にまとわりつく不快な感触を、一刻も早く取り除きたい。
だが、掻いても掻いても感触が消えない。無理やり快感を引き出そうとした気色悪くて生暖かいあの感触が…!!

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!!

腕を掻いて掻いて掻き毟って毟って毟って爪が割れて、指先が真っ赤に染る。更に鋭利になった爪で皮膚を裂き、肉を抉り出す。
ぐちゃぐちゃズタズタボロボロの傷口から溢れ出る鮮血はボタボタと垂れて、白いシーツを真っ赤に染め上げた。

感触だけではない。
脳裏には指南役の発情した顔が、鼓膜には甘ったるい声が、鼻腔には強めの薔薇の香りが、焼き付いて離れない。
まだ消えないのか。
まだ足りないのか。
まだ、まだ、まだ…!!


「クソックソックソックソガァッッ!」


僕は血塗れの両手で頭を掻き毟る。
指南役が僕に教えようとしていたものは愛ではなく、ただの汚らわしい肉欲だった。だがアイツはそれを愛と呼び、穢れた手で僕に触れてきた。

何が愛だ。何が心だ。

それらは人間の浅ましくて醜い本性を隠すために、人間が都合よく作り上げた口先だけの言葉じゃないか。
だから人間は軽々しく空っぽの愛を語り、ありもしない心を得意げに当たり散らすのだ。

あぁ、なんておぞましい…!!

僕はわかっていなかった。
人間という生き物が、僕が思っていた以上に醜い存在であることを。
神の血を引く皇族の老害共も同じだ。言われるままに子孫を残そうとするだなんて、まるで家畜同然じゃないか。
神の力を欲するあまりに、奴らは家畜に成り下がったのだ。

…いや、違う。家畜以下だ。

存在しているだけで、ただただ僕に害を及ぼす不要な存在。人間は、世界という名の虫かごに収容された蛆虫なのだ。

…あぁ、そうか、わかった。わかったぞ。
何故、青の魔力が世代を超える度に衰えているのか。

本来、青の魔力は神の力。
きっと神は初代皇帝に力を授けたのではく、一時的に貸していただけなのだ。そして、大噴火を鎮め、大地を蘇らせたことにより、青の魔力の役目が終わった。つまり、この力を神に返す時が来たのだ。
それなのに魔力に依存しきった身の程知らずの老害共は、神の意に背き、僕を作った。僕を…


「―ッッ、オエッ…ガバッ…」


吐き気が止まらない。
胃の内容物を全て吐き終えても、ひたすら血が混じった胃液を吐き散らす。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
僕以外の全てが、気持ち悪くて仕方がない!!!


「アルベルト!」


無理やり叔父が僕の両肩を掴んできた。
触れられた所からゾワリと鳥肌が伝染し、反射的に炎を叔父に向けた。だが叔父の手は僕から離れない。


「離せ離せ離せ離せ!!」
「私の目を見なさい。」
「―っ、」


その平坦な声に引っ張られ、僕と同じように青色に煌めいている叔父の瞳と目が合った。その瞬間、寝室の中を渦巻いていた全ての炎が水をぶっかけられたかのように煙を上げながら鎮火した。
叔父の魔力が、暴走する僕の魔力を捩じ伏せたのだ。

魔力を大放出させ、体力を酷く消耗した僕の身体は糸を切られた操り人形のようにカクンッと傾き、そのまま叔父の胸の中に倒れ込んだ。


「…ら、ラ…ル…フ…」
「今は眠りなさい。」
「…。」
「眠りなさい。」


その言葉に導かれるままに、僕の意識は暗闇の底へと沈んでいった。


しおりを挟む
感想 473

あなたにおすすめの小説

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。 ※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...