私は貴方を許さない

白湯子

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第10章「奈落の告白」

207話

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エリザベータside


耳を劈いた轟然たる爆発音。
額から青い血を噴き出して地面に崩れたベティ。
嗅ぎ慣れない火薬の匂い。
上ずった声で叫ぶトミー=キッシンジャー…

この目で全てを見ていた。
この耳で全てを聞いていた。
それなのに、眼前で起きたことが何一つ理解ができない。
思考力が霧散され、考える力を根っこから奪っていく。


「モニカ!!!」


酷く取り乱した殿下の声にハッとする。
誰もが呆然と立ち尽くすなか、隣に居た殿下が弾かれたようにベティの元に駆け出したのだ。その背中を見て、私を見かけるたびに満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきたベティの姿が脳裏を過る。
可憐で無邪気。
残酷で冷徹。
だが彼女をそうさせたのは、私だ。
一度ならず二度までも。
自分の業の深さに愕然とする。

彼女が私に向けた歪んだ慈愛の訳を知り、胸の奥に熱くて苦いものが込み上がった。


「あ…あ…あぁっ、も、モニカ…モニカァ…!!」


凄まじい後悔と罪悪感に掻き立てられた私は、震える手で眼前に聳え立つ騎士の背中を割って転がるように前に出た。
後ろから誰かが私を呼び止めるが、そんなことに構ってなどいられない。
足がもつれて、転んで、つまずいて、ほとんど這うようにしてモニカの元に駆け寄った。


「その男に薬を飲ませなさい!!!」


ビアンカの地を揺るがす怒声が聖堂内に響き渡る。トミーは数名の騎士に取り押さえられ、虫下しの薬を飲まされた。


「おいモニカ!しっかりしろ!!おいっ!!!」


倒れたモニカを片腕で抱き起した殿下は、彼女の名前を何度も叫びながら身体を揺さぶった。


「ふざけんな…!さっさと返事をしろ!俺はなお前に言いたいことが山ほどあるんだよ!!」
「お願い…お願いモニカ…!起きてっ!お願いだから…!!」


彼女の冷たい身体に縋りついて何度も名を呼ぶが、彼女はピクリとも動かない。見開かれた瞳には光が失われ、ただただ虚空を見続けている。
心の底では分かっている真実を認めたくなくて、私たちはモニカの名前を血を吐く思いで呼び続けた。


「ハハハ…呼んでも無駄ですよ。」


乾いたトミーの声に、モニカを呼ぶ声がピタリと止まる。
取り押さえられ地面に伏せるトミーを見遣ると、彼はうっとりと口の端から唾液を垂らしながら誇らしげに微笑んだ。


「聖女様の魂は理想郷に旅立たれました。その器は空っぽです。」


虫下しの薬を飲んでもなお揺るぎない信仰心をみせるトミーに、ビアンカ達はどよめいだ。


「どうして寄生虫を除去できないの…」
「寄生虫…!?とんでもない!!」


ビアンカの戸惑いにトミーは過剰に反応した。


「私が聖女様を敬うこの心は本物だ!!紛い物で薄情な君たちと一緒にしないでくれたまえ…!!」


噛みつくような双眸を周りに向け、トミーの口調は荒々しく熱を帯びていく。


「どいつもこいつも私を親の七光り呼ばわりで!何も知らない貴族共は異国で商売するなんて下品だと蔑む!!誰も私を見てくれない!!だが、聖女様だけは違った…!」


トミーの口調が再びうっとりとしたものに変わる。まるで目の前に聖女が居るかのように、彼は奇妙に瞳を輝かせた。


「聖女様は優しく手を差し伸べ私を見てくれた…!居場所をくれた…!私を理想郷へ誘ってくれた…!!私に慈しみの愛を与えて下さった…!!!!!」


私たちは唖然とした。


「そんな聖女様を私はこの腐った世界からお救いしたんだ…!!!!」


彼は寄生されていたんじゃない。
心の底から聖女ベティを崇拝していたのだ。


「てめぇ…!!」


奥歯をギリ…ッと噛み締めた殿下は、放たれた矢のようにトミー目掛けて駆け出した。
途中、殿下が騎士の腰から剣を奪うのを見て、モニカの身体を抱きしめる私の顔がサッと青ざめる。


「いけません殿下っ!!」


私は力の限りに叫んだ。
今トミーを殺めたとしても何の解決にもならない。彼が一生降ろせない十字架を背負うだけだ。

周りの騎士が止めようとするが、殿下は止まらなかった。
彼らの手を振り切り、取り押さえられているトミーの元に辿り着いた殿下は、剣を大きく振り被る。
ビアンカが殿下の名を叫んだ。だが間に合わない。殿下はありったけの力を吐き出すかのように、片手で剣を振り降ろした。

半壊した聖堂に耳を劈くような衝撃音が響き渡る。
反響が夜空に吸い込まれると、辺りは静寂に包まれた。


「…お前がやったことは救いでも何でもねぇ。」


殿下の絞り出すような苦々しい声が、静寂の中に静かに重く落ちる。


「ただの人殺しだ。」


その言葉に、トミーが息を呑んだのが分かった。
よく見ると殿下が突き立てた剣はトミーの眼前の地面に突き刺さっていた。


「…そうだろ?エリザ。」


こちらを振り返った殿下はそう言って痛々しく笑った。
一瞬、殿下の意図が分からず呆けてしまったが、すぐにハッとする。
脳裏に浮かぶのはあの日の夜、子供のように私の腰に縋った彼の姿。あの頃の殿下は、復讐のためならば自分の手が血で汚れることも厭わなかった。
私たちの被害者で罪のない彼が幼き頃から築き上げた歪んだ正義感。その揺らぎなかった正義感が彼の中で変わってきてる。
そのことに気付いた途端、胸に熱いものが込み上げ、目頭が熱くなり、言葉が喉に詰まった。
私は言葉の代わりに、何度も頷いてみせた。

殿下から罪を言い渡されたトミーは、震える唇で「違う…違う」と繰り返し、地面に顔を擦り付ける。
彼の呟きはすすり泣きへと変わっていった。


「…連れていけ。」


殿下の言葉に、トミーを取り押さえていた複数の騎士は彼を抱えて聖堂の外へと向かった。
トミーはぐったりと項垂れ、騎士にされるがまま。表情は見えない。


「…。」


トミーは居場所を求め、聖女の存在を心を拠り所にした。そして盲目的な信仰心ゆえに罪を犯してしまった。
私はーーーその原因の一端を担っている。
トミーと初めて出会ったあの日。私は自分が優位に立つことしか考えていなかった。クラスメイトの前で辱しめを受けた彼が、その後どうなるかなんて考えもしなかったのだ。
攻撃されたから攻撃をし返す。それの繰り返し。だからこの世界は300年前から何も変わらない。
トミーに何か言うべきだ。だが何も言葉が浮かばない。増えていく罪に心が重くなる。
結局、私はただただ黙って見送ることしかできなかった。


「エリザ。」


トミーを見送った殿下が私たちの元に戻ってきた。その後ろにはビアンカが控えている。
殿下は私たちの前で片膝をつき、見開かれたモニカの目を手でそっと閉じた。


「…ビアンカ。コイツを外に連れ出してやってくれ。」
「御意。」


前に出たビアンカは私たちの前に膝をつき、手を差し出してきた。


「蛙ちゃん。」


殿下とビアンカ、そしてその手を見て、私は弱弱しく首を振った。
モニカの氷のように冷たい身体をきつく抱きしめる。
彼女と離れてしまったら、とめどなく溢れ出る罪悪感に押しつぶされてしまう。


「…俺の腕じゃ、そいつを外に連れ出せない。」


殿下の言葉が胸の奥に突き刺さる。思わず彼の失った腕に目がいった。


「こんな所からさ、早く出してやろうぜ。」


後悔と悲しみ、やりきれなさを抱えた殿下の笑みに、堪えていた涙が溢れ出し、私は泣き声を上げた。


「あぁ…っ!あぁ…、ごめんなさい…ごめんなさい…気付いてあげられなくて…モニカ…」


零れ落ちる涙が、モニカの頬を伝う。
どんなに言葉をかけても、もう彼女には届かない。
全てが遅すぎた。
今も昔も彼女は私を想ってくれていたのに。
私はまた気付けなかったのだ。


「その罪はお前だけのモノじゃない。」


殿下の言葉に顔を上げると、彼の袖で目元を強引に拭われた。呻き声を上げる私に構わず、殿下は言葉を続ける。


「俺たちの罪だ。」
「…、」
「だからって罪が軽くなったわけじゃねぇ。だが、1人で抱えるよりはずっといいだろ。」


私は目を見開く。


「後悔しながら生きていくぞ。」


その言葉と真摯な双眸に、私の顔がくしゃりと歪んだ。
私に足りなかったものはきっと背負って生きていく覚悟だ。
また涙が溢れ、喉が詰まる。それでも絞り出すように私は「はい…っ、はい…!」と何度も頷き、モニカの身体をきつく抱いていた腕の力を緩めた。


「ビアンカ。モニカをよろしくね。」


私の腕でも彼女を外に連れ出すことはできない。
私がモニカを解放すると、ビアンカは「任せて頂戴。」と言って、そっとモニカの身体を抱き上げた。


「なるべく丁重に扱ってやってくれ。頼む。」


切なる殿下の頼みに、立ち上がったビアンカは「御意。」と静かに頷いて、外へ向かって歩き出した。
ビアンカは最後まで何も聞かなかった。何も知らない彼らから見た私と殿下の行動は明らかに奇妙で不自然だというのに。
私は彼女の背中に「ありがとう。」と伝えた。

ずっと張り詰めていた緊張の糸が少し緩んだ、ちょうどその時。



「逃げて!!!」



突然、10歩ほど歩いたところで立ち止まったビアンカがこちらを振り返り、必死の形相でそう叫んだ。
その声に全身の毛が逆立ったのと同時に、ビアンカが抱きかかえているモニカの口から何かが勢いよく飛び出したのが見えた。
それは無数の脚を左右交互に波打たせながら、デコボコ地面をものともせず、物凄い速さでこちらに這いよってくる。
僅かに届く月明かりが、その姿を不気味に照らした。
揺れる2本の触覚に、艶やかで毒々しい桃色の肢体。
その見るだけで本能的に激しい嫌悪感を覚える姿には見覚えがあった。
ユリウスがこの聖堂に現れた際に、懐から取り出した瓶の中で蠢いていた桃色の虫―――女王ムカデ。
モニカの身体を乗っ取った寄生虫。
逃げろと本能が警報を鳴らす。だが、恐怖に慄いた身体は石のように動かない。
黒く底が見えない女王の無機質な瞳が、私を獲物として捕らえた。


「エリザッ!!」


殿下の瞳がサファイア色の光を帯びる。だがすぐにその輝きは霧散してしまった。殿下の表情が絶望で塗り潰される。魔力切れだ。
人間の都合などお構いなしに、女王ムカデは地面にへたり込む新しい苗床のスカートの裾を捕らえる。
無数の脚を這わせ、今まさに駆け上がろうとしたその瞬間ーーー女王ムカデの肢体が激しい青い炎に包まれた。
炎の中で女王ムカデは踊るように肢体をくねらせる。唖然とその光景を眺めていると、ふと女王ムカデと目が合った。真っ黒で底が見えない無機質な瞳は、確実に私を捉えている。そして、目を合わせたまま、女王ムカデはジュッと音を立てて青い炎と共に世界から消えてしまった。
私は燃え後のじっと見つめる。


「…。」


それは一瞬の出来事であった。



「公子様!しっかりして下さい!公子様!!」


その声にハッと意識が現実に引き戻される。咄嗟に後ろを振り返ると、騎士の腕の中でぐったりと倒れるユリウス姿が視界に飛び込んできた。数名の騎士がユリウスの身体を揺さぶり、声を掛け続けるが、彼はピクリとも動かない。
一瞬止まった心臓が激しく脈打ち、全身の血が冷えわたって、指先がカタカタと震え始めた。
思考力が塗り潰され、視界が急激に狭くなる。
あぁ、駄目だ。
視界が完全に閉ざされた。



「行ってこいよ。」


肩にポンッと手を置かれ、視界が開く。横に目を遣ると苦痛に耐えながら無理やり笑みを浮かべる殿下が居た。


「俺に飲ませたやつ、まだあんだろ?」


私は咄嗟にポケットを握った。確かにここにはまだあのカモミールの花弁がある。


「しかし、」


これは魔力欠乏症を起こしている今の殿下にも必要だ。


「殿下!蛙ちゃん!!」


ビアンカが猪の如く土埃を上げながら駆け寄ってきた。
彼女が腕の中いるモニカを見て小さく息を吞む。モニカのストロベリーブロンド髪が、ミルクをたっぷり入れたミルクティー色に染まっていた。きっとこれが本来のモニカの姿なのだろう。静かな寝顔はユリウスと瓜二つだ。


「俺とモニカのことは気にすんな。ビアンカがいる。」
「…殿下、」
「お前はアイツに会いに来たんだろ?」


殿下の言葉に、自分の目的を思い出す。そうだ、そうだった。途中、トミーに連れ去られてしまったが、私の目的は変わらない。
私はーーー


「とっとと過去に区切りをつけて、今を生きろ。エリザベータ。」


まっすぐに私を見据え、苦痛から絞り出したその声は、とても強かった。
積み重なった言い訳も後悔も罪も、どれだけ並べても世界は戻ってはくれない。
だから今は、その全てを背負って立ち上げるしかない。


「…はい。」


熱い喉から声を絞り出す。かすれていたけど、芯は確かにあった。
ふらつきながら立ち上がり、目元を擦る。大丈夫。私は立てる。ちゃんと歩ける。
回り続ける世界とともに今を歩かなければ。


「行ってきます。殿下。」
「…あぁ。」


そう言った殿下は、まるで眩しいものを見るかのように眼を細めた。どこか安堵しているようにも見える。
私は振り返り、一歩を踏み出した。


「公子様!!欠乏症か!?」
「いや、欠乏症のような症状がみられない…!」


騎士たちの焦った声と慌ただし足音。
近づけば近づくほど、彼らの緊迫した空気が肌を焦がす。
皆、必死にユリウスを助けようとしている。


「なんでもいい!!早く魔力の補給を…!」
「その必要はありません。」


前まで来た私の言葉に、彼らは目を剥いた。


「何をおっしゃっていられるのですか…!」
「事態は一刻を争いますぞ!!」
「分かっています。」


私はぐったりとするユリウスの前で膝をつき、ポケットから花弁か欠けた一輪のカモミールの花を取り出した。ずっとポケットに入れていたせいで少しよれているが、瑞々しさは健在だ。


「令嬢、それは…」
「彼の魔力です。」


正確には300年前の、だが。
私はユリウスの顎を指で掬い上げた。


「ユーリ。」


ほとんど死人のような顔色に呼びかける。すると白い瞼がピクリと動き、薄く目が開かれた。


「…姉上…?」


かすれてほとんど聞こえないその声は、確かに私を呼んだ。


「ご無事でしたか…?」


そう訊ねる彼の目は、私が見えていないのかもしれない。


「おかげさまで。」


私がぶっきらぼうに答えると、ユリウスは口元を緩めた。


「良かった…」


…女王ムカデを燃やすために僅かに残っていた力を使い果たすなんて、馬鹿な男だ。


「...口を開いて。」
「なぜ?」
「貴方にカモミールを食べさせたいからよ。」
「…。」


ユリウスは唇を固く結んだ。無言の抵抗。


「貴方がそういう態度なら、私もそれなりの行動を取らせてもらうわよ。」
「…。」
「…言ったからね?」
「…うぐっ…!?」


ユリウスの口を無理やりこじ開けた私は、カモミールの花を喉奥に突っ込んだ。


「れ、令嬢…!?」
「お気を確かに!相手は重症ですぞっ!!」


令嬢のご乱心だと言わんばかりに、周りは慌てふためく。彼らはユリウスから私を引き剥がそうとするが、私は頑なにその場を退かなかった。
ユリウスがカモミールを吐き出さないよう、必死に口を押える。


「呑み込みなさい!」


私の言葉にユリウスは弱弱しく首を振る。


「こんなところで死ぬなんて許さないわ!私は貴方に話したいことがあるのよ!ーっいった、」


あろうことか、ユリウスは私の手を噛んだ。私は咄嗟に手を引っ込める。ほとんど死にかけだというのに、まだ抵抗する力があるのか。
口元を解放されたユリウスはカモミールをペッと吐き出した。


「それなら尚更、食べません。」
「こんの…っ!」


ユリウスの反抗的な態度に怒りが頂点に達する。
聖堂で再会してからというもの、この男の態度はいったい何なのだ。
怒りの赴くまま、私はユリウスが吐き出したカモミール拾い上げた。幸運にも花弁は欠けていない。
私の様子を気配で察したのか、ユリウスは失笑した。


「何度やっても無駄ですよ。たとえ天地がひっくり返ったとしても僕は食べなーーんんっ…!?」


ユリウスは見えない目を見開いた。
目が見えなくても、察したようだ。私がカモミールを口移ししていることに。
ユリウスの顔を両手で挟み、力強く固定する。
咄嗟の出来事に抵抗できない彼はされるがまま。…いや、抵抗できる力は既に尽きていただけかもしれない。
私の歯で噛み砕いたカモミールを、ユリウスは思っていたよりも素直にあっさりと呑み込んだ。
彼の喉が上下に動いたのを確認した私は、彼から口を離した。


「な…にして…」


唖然と見開かれたシトリンの瞳が私の姿を捉える。どうやら目が見えるようになったようだ。
蝋のように白かった顔にも血色が戻りつつある。


「仕返しよ。」
「は…?」
「以前、貴方もこうやって私に血を飲ませようとしたでしょ。」
「…あ、」


彼の情けなく呆けた顔を見て、少しだけ溜飲が下がる。下がったからと言って許す気は毛頭ない。


「ご、ご令嬢…。公子様はご無事なのですか…?」


気まずそうに、ユリウスを腕の中で支えていた騎士が恐る恐る尋ねてきた。
彼だけでなく、まわりの騎士たちも気まずげに視線を泳がしている。


「ご覧の通りです。」


確かに義理とはいえ、突然目の前で姉弟が口付けを始めたらさぞ気まずいだろう。だがこれは救命処置であり、人工呼吸のようなもの。別に恥じる必要はない。
私の返答に騎士はぎこちないながらも安堵の息を零した。


「よ、良かった…。では一旦、外に出ましょう。ここでは応急処置しかできません。」


私たちに手を差し伸べる騎士に、私は待ったをかけた。


「ごめんなさい。彼と話したいことがあるので、もう少し待ってください。」
「それは今でないといけませんか…?」
「えぇ。」
「…分かりました。我々は少し離れた所で待機しております。」
「ありがとう。」


騎士たちは私たちに頭を上げ、この場所から離れていった。
遠くで殿下や他の騎士が見守っているが、ようやくユリウスと二人きりになれた。
私たちは地面に座り込んでいる。ユリウスをじっと見るが、彼は私と目を合わせない。
構うものか。
重苦しい沈黙を破るように、私は口を開いた。


「私はーーー」
「い、嫌だ…何も聞きたくない…!」



私の言葉を遮り声を上げたユリウスは、両耳を腕で塞いだ。
まさかこんな形で拒絶されると思っていなかったため、流石に面食らう。


「分かり切っていることを、わざわざ貴女の口から聞く必要なんてない…!」


子供のように喚くユリウスは私から距離をとろうとする。
だが手と足を奪われた彼が作れる距離は悲しいがほんの僅かだ。
彼が必死に作った隙間を、私は膝立ちで容赦なく詰めた。


「ユーリ。」


私はユリウスの両腕を掴み、耳から引き剥がした。


「嫌だ…!!」


ユリウスが強く抵抗して、身体のバランスが崩れる。私は彼の両腕を掴んだまま、彼を押し倒すように前方に倒れた。至近距離で見開かれた双眸。その酷く怯えたシトリンの瞳の瞳に、私が写り込む。


「ユーリ。」
「やめてください…!」
「私は貴方に」
「嫌だ…嫌だ…!!」
「言わないと」
「聞きたくない…!!」
「いけないことが」
「少しでも僕に情があるなら…!」
「あるの。」
「何も言わずこのまま僕を…!」
「私は…」
「死なせて下さい…っ!!」


さようなら。
私のピリオド。


「私は貴方を許さない。」


世界に静寂が訪れる。

月明かりに照らされた彼の瞳が、絶望の色に暗く染まった。





















第10章「奈落の告白」完

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