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10.伸びていく髪
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「ねぇ、もうすぐ兄様は学園に行くのよね?」
「行かないよ」
「え?」
「中等部は行かないことにした」
「どうして?……私のせい?」
もうすぐジェラルド兄様は学園の中等部に入学する時期になる。
王都に屋敷がある中央貴族はほとんどが学園に通うのに、
公爵令息である兄様が通わないなんて本気だとは思えない。
「ジュリアンヌのせいじゃないよ。同じ学年に第二王子がいるんだ。
派閥だとか考えてくれるような奴ならよかったんだが、
何も考えずにみんなで仲良くすればいいとか言い出すような奴なんだ」
「奴って……王子なのに、いいの?」
「これからも関わる気がないからいい。本当にめんどくさいんだ。
中等部で会ったら一緒に勉強しようとか言い出しそうで……。
高等部になれば、さすがに周りが見えてくるだろう」
「そんな理由で行かなくていいの?」
王子と関わりたくないなんて理由になるんだろうか。
たしかに第二王子を産んだ側妃は伝統派の侯爵家出身だから、
推進派であるレドアル公爵家の兄様はあまり近づきたくないはずだけど。
「表向きは叔母上が亡くなり、従妹も病気で寝たきりだから。
俺も精神的に落ち込んでいて学園に通うどころではない、という理由かな。
それなら学園も無理強いできないだろう」
兄様はその理由で社交をすべて断っている。
私のために髪を短く切っていたからでもあるけれど……。
そういえば、まだ貴族令息とは思えないほど短い。
この姿で学園に通えば何か言われるかもしれない。
もしかしたら、それが本当の理由なのかも。
「……本当に行かなくていいの?」
「ああ、勉強なら中等部で覚えることはもう終わっている。
社交も高等部からで十分間に合う。
ジュリアンヌは邪魔だと思うかもしれないけど、あと三年は一緒にいるよ」
「邪魔だなんて思うわけないわ」
「そう?ならいいけど」
軽く言うけど、公爵令息が中等部から通わないなんて大騒ぎになる。
それを伯父様と伯母様も認めたというのなら、私には何も言えないけれど。
ジェラルド兄様がそう決めたのは私のためな気がした。
私を一人にはできないから、通うのを止めたんだと。
「兄様、……明日から伯父様たちと食事しようかな」
「本当に?父上たちも喜ぶよ!あぁ、でも無理はしなくていい。
明日になって、平気そうだったらそうしようか」
「ええ」
少しずつでも、一人でいられるようにならなくちゃ。
いつまでもジェラルド兄様だけに甘えてはいられない。
兄様を困らせて嫌われることがないように、
少しずつ離れることに慣れていかないと……。
その決意に気がついていないジェラルド兄様は、
いつものように私の頬をなでる。
……もう少し髪が伸びたら、もっと勇気を出せるようになるのに。
それから二年が過ぎ、ジェラルド兄様と一緒に勉強していた私も、
高等部まで学ぶことは終えてしまった。
今後は伯母様から礼儀作法を学ぶ以外は特にすることはない。
ジェラルド兄様は領主になるための勉強が始まる。
「今まで一緒に勉強してくれてありがとう」
「ジュリアンヌのためにしていたわけじゃないよ?
俺だって必要な勉強をしていたんだし」
「でも、中等部に行かないでいたのは私のためでしょう?
ずっと私につきあわせてごめんなさい。
もう一人でも大丈夫なくらい立ち直ったから。
明日からはジェラルド兄様の勉強を頑張ってね」
これ以上、私のためにジェラルド兄様の時間を使わせることはできない。
そう思って、勇気を振り絞って言ったのに、兄様は悲しそうな顔をする。
「兄様?」
「……そっか。ジュリアンヌは今まで俺が一緒にいたのは、
ジュリアンヌのためだと思っていたんだね?」
「ええ、そうよ?」
「ふうん。じゃあ、それを悪いと思っているのなら、
俺の願いも聞いてくれる?」
「わかったわ。願いって、なぁに?」
これまで私に優しくしてくれた兄様に恩返しができるのなら何でもする。
そう思って聞いたのに、兄様の願いは意外なことだった。
「領主になるための勉強を一緒にしてくれないか?」
「え?」
「明日から領地経営とかレドアル公爵領について学ぶだろう?
一人で勉強するとやる気がでないんだ。
だから、ジュリアンヌも一緒に勉強してくれないか?」
「私が領主の勉強しても意味がないわ」
「そうだね。だから、お願いしているんだ。
俺のために一緒に勉強してくれないか、と」
「ええぇ?」
公爵令息として学ぶ勉強を、私が学んでも意味がない。
だけど、ジェラルド兄様の目は本気のようだ。
「だめかな」
「……本当にそれが願いなの?」
「ああ。今までずっと二人で勉強してきただろう?
一人でやろうと思っても気合が入らないんだよ。
一緒に勉強して、俺がさぼらないように見ててくれないか?
「兄様がさぼるなんて想像もできないけど……。
わかったわ。それが願いなら一緒に頑張るわ」
「よかった。明日から本当にどうしようかと思ってたよ。
これからもよろしくね」
ジェラルド兄様は安心したようににっこり笑う。
あれ……兄様から離れようとしていたのに、
明日からも一緒にいることになってしまった?
早く離れたほうがいいと思っていたけれど、
これが兄様の願いなら仕方ない。
どっちにしてもあと一年もすれば兄様は高等部に入学しなくてはいけない。
それは義務だから、行かないということはできない。
あと一年だけ、そばにいても許されるかな……。
あんなに短かった髪も、肩につくほどまで伸びてきていた。
「行かないよ」
「え?」
「中等部は行かないことにした」
「どうして?……私のせい?」
もうすぐジェラルド兄様は学園の中等部に入学する時期になる。
王都に屋敷がある中央貴族はほとんどが学園に通うのに、
公爵令息である兄様が通わないなんて本気だとは思えない。
「ジュリアンヌのせいじゃないよ。同じ学年に第二王子がいるんだ。
派閥だとか考えてくれるような奴ならよかったんだが、
何も考えずにみんなで仲良くすればいいとか言い出すような奴なんだ」
「奴って……王子なのに、いいの?」
「これからも関わる気がないからいい。本当にめんどくさいんだ。
中等部で会ったら一緒に勉強しようとか言い出しそうで……。
高等部になれば、さすがに周りが見えてくるだろう」
「そんな理由で行かなくていいの?」
王子と関わりたくないなんて理由になるんだろうか。
たしかに第二王子を産んだ側妃は伝統派の侯爵家出身だから、
推進派であるレドアル公爵家の兄様はあまり近づきたくないはずだけど。
「表向きは叔母上が亡くなり、従妹も病気で寝たきりだから。
俺も精神的に落ち込んでいて学園に通うどころではない、という理由かな。
それなら学園も無理強いできないだろう」
兄様はその理由で社交をすべて断っている。
私のために髪を短く切っていたからでもあるけれど……。
そういえば、まだ貴族令息とは思えないほど短い。
この姿で学園に通えば何か言われるかもしれない。
もしかしたら、それが本当の理由なのかも。
「……本当に行かなくていいの?」
「ああ、勉強なら中等部で覚えることはもう終わっている。
社交も高等部からで十分間に合う。
ジュリアンヌは邪魔だと思うかもしれないけど、あと三年は一緒にいるよ」
「邪魔だなんて思うわけないわ」
「そう?ならいいけど」
軽く言うけど、公爵令息が中等部から通わないなんて大騒ぎになる。
それを伯父様と伯母様も認めたというのなら、私には何も言えないけれど。
ジェラルド兄様がそう決めたのは私のためな気がした。
私を一人にはできないから、通うのを止めたんだと。
「兄様、……明日から伯父様たちと食事しようかな」
「本当に?父上たちも喜ぶよ!あぁ、でも無理はしなくていい。
明日になって、平気そうだったらそうしようか」
「ええ」
少しずつでも、一人でいられるようにならなくちゃ。
いつまでもジェラルド兄様だけに甘えてはいられない。
兄様を困らせて嫌われることがないように、
少しずつ離れることに慣れていかないと……。
その決意に気がついていないジェラルド兄様は、
いつものように私の頬をなでる。
……もう少し髪が伸びたら、もっと勇気を出せるようになるのに。
それから二年が過ぎ、ジェラルド兄様と一緒に勉強していた私も、
高等部まで学ぶことは終えてしまった。
今後は伯母様から礼儀作法を学ぶ以外は特にすることはない。
ジェラルド兄様は領主になるための勉強が始まる。
「今まで一緒に勉強してくれてありがとう」
「ジュリアンヌのためにしていたわけじゃないよ?
俺だって必要な勉強をしていたんだし」
「でも、中等部に行かないでいたのは私のためでしょう?
ずっと私につきあわせてごめんなさい。
もう一人でも大丈夫なくらい立ち直ったから。
明日からはジェラルド兄様の勉強を頑張ってね」
これ以上、私のためにジェラルド兄様の時間を使わせることはできない。
そう思って、勇気を振り絞って言ったのに、兄様は悲しそうな顔をする。
「兄様?」
「……そっか。ジュリアンヌは今まで俺が一緒にいたのは、
ジュリアンヌのためだと思っていたんだね?」
「ええ、そうよ?」
「ふうん。じゃあ、それを悪いと思っているのなら、
俺の願いも聞いてくれる?」
「わかったわ。願いって、なぁに?」
これまで私に優しくしてくれた兄様に恩返しができるのなら何でもする。
そう思って聞いたのに、兄様の願いは意外なことだった。
「領主になるための勉強を一緒にしてくれないか?」
「え?」
「明日から領地経営とかレドアル公爵領について学ぶだろう?
一人で勉強するとやる気がでないんだ。
だから、ジュリアンヌも一緒に勉強してくれないか?」
「私が領主の勉強しても意味がないわ」
「そうだね。だから、お願いしているんだ。
俺のために一緒に勉強してくれないか、と」
「ええぇ?」
公爵令息として学ぶ勉強を、私が学んでも意味がない。
だけど、ジェラルド兄様の目は本気のようだ。
「だめかな」
「……本当にそれが願いなの?」
「ああ。今までずっと二人で勉強してきただろう?
一人でやろうと思っても気合が入らないんだよ。
一緒に勉強して、俺がさぼらないように見ててくれないか?
「兄様がさぼるなんて想像もできないけど……。
わかったわ。それが願いなら一緒に頑張るわ」
「よかった。明日から本当にどうしようかと思ってたよ。
これからもよろしくね」
ジェラルド兄様は安心したようににっこり笑う。
あれ……兄様から離れようとしていたのに、
明日からも一緒にいることになってしまった?
早く離れたほうがいいと思っていたけれど、
これが兄様の願いなら仕方ない。
どっちにしてもあと一年もすれば兄様は高等部に入学しなくてはいけない。
それは義務だから、行かないということはできない。
あと一年だけ、そばにいても許されるかな……。
あんなに短かった髪も、肩につくほどまで伸びてきていた。
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