ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

文字の大きさ
58 / 66

58.拒絶

しおりを挟む
うんざりしたようなジェラルド兄様と伯父様。
きっと何度も同じやり取りを繰り返しているんだろう。

そこに口を挟んだのはレイモン兄様だった。

「アゼリマ侯爵、その必要はないよ」

「イフリア公爵は邪魔したいでしょうけど、
 口を挟まないでいただきたい!」

「そういう意味で邪魔したいわけじゃない。
 伝統派がなくなるから派閥争いは意味がないと言いたいんだ」

「……は?」

「イフリア公爵家とアフレ侯爵家は推進派に変わる。
 伝統派の筆頭家が推進派に変われば、伝統派は消えることになる。
 アドルフ様も陛下も承知のことだ。
 だから、ジェラルドがシャルロット嬢と結婚する意味がない」

「……そんな」

よほど驚いたのか、アゼリマ侯爵の口が開いたままになる。
だが、その後のレイモン兄様の言葉で表情を一変した。

「それにしても、こんなところに来ていていいのか?
 アゼリマ侯爵家も新法の対象だったと思うが。
 今頃、アゼリマ侯爵家の屋敷は調べられていると思うぞ」

「……は?」

「領地の仕事をすべて息子のロベルトに任せているんだろう?
 屋敷を調べてその証拠が見つかれば、爵位ははく奪されて、
 ロベルトが継ぐことになる」

「ま、まさか!」

「娘のことばかり気にして、ロベルトは冷遇されていたようだしな、
 爵位が交代になれば、侯爵は領地に行かされるんじゃないか?
 シャルロット嬢の婚約も、ロベルトの許可がないとできなくなる。
 こんなところでのんきに話し合っていても意味がないだろう」

「……失礼させていただく」

「お父様!今日こそは認めてもらうって言ってたじゃない!」

「いいから、帰るぞ!」

アゼリマ侯爵は夫人とシャルロット様を引っ張るようにして部屋から出ようとする。
だが、シャルロット様はあきらめきれないようにジェラルド兄様に手を伸ばす。

「ジェラルド様、私とのことをちゃんと考えてください!」

「どうして考えなくちゃいけないんだ」

「だって、私はずっとジェラルド様のことが……」

「今、話聞いていなかったのか?」

「え?」

おそらくジェラルド兄様への気持ちを言おうとしていたのに、
冷たく止められてしまったシャルロット様は今にも涙がこぼれそうだ。

「伝統派と推進派の争いはなくなる。
 シャルロット嬢はいつも言っていたよな?
 私と結婚すれば中立派はレドアル公爵家に従う。
 貴族なら家のことを第一に考えて結婚すべきだと」

「……あの……でも」

「ずっと政略結婚をする気はないと言っていた俺に、
 貴族なら家の得になる結婚相手を選ぶべきだとも言っていた」

「……」

「シャルロット嬢と結婚しても家には何の得もない。
 それなら、シャルロット嬢は潔くあきらめるべきなんじゃないのか?」

シャルロット様が兄様に何度も求婚して断られているのは知っていた。
それは好きだからだと思うけれど、どうやら政略的な理由を言っていたようだ。
だからこそ、それがなくなったのならあきらめるべきだと。

兄様に冷たく断られ、シャルロット様の目から涙がこぼれる。
美しいシャルロット様が泣いているのだから、
普通の令息なら優しくしてあげるだろうけど、兄様は違った。

「話は終わりだな。帰ってくれ」

「……嫌です!私は、……私はずっとジェラルド様を好きでっ」

「それがどうした?」

「えっ……だから、好きだからあきらめたくないんですっ」

気持ちを打ち明けられても兄様の表情は変わらなかった。
いや、変わらず冷たいだけでなく、嫌悪も足されたかもしれない。

「今までシャルロット嬢の話をある程度聞いていたのは、
 派閥のことや家の得を考えて結婚するという考え自体は間違っていないからだ。
 そう思って行動していることまでは否定する気はなかった。
 だが、感情だけで求婚してくるというのなら話は違う」

「……ジェラルド様っ。私はずっと、ずっと」

「シャルロット嬢。いいかげんあきらめてくれ。
 感情だけで求婚してくるのなら、感情だけで断ってもいいよな?
 俺はシャルロット嬢と結婚するくらいなら貴族をやめる。
 そのくらい嫌っていると気がついてくれ」

「……そんな……もう私たちを邪魔するものは何もないはずでしょう?」

「何かが邪魔していたから婚約を断ったんじゃない。
 嫌いだから婚約したくなかったんだ」

「……私の何がいけないのですか?
 何でも直します。だから……」

「すべてを直したとしても無理だ。帰ってくれ」

さすがにここまで言われたら傷つくのだろう。
顔を手でおおってしまったシャルロット様を、
夫人が抱きしめるようにして部屋から出て行く。
アゼリマ侯爵家が全員出て行くと、その場にいた全員がため息をついた。

「おつかれ、ジェラルド」

「ああ、すごく疲れた」

「さすがにあれだけ言えばあきらめるだろう」

「そうだといいんだがな」

大きくため息をついたジェラルド兄様の顔色が悪い。
レイモン兄様が話していたように眠れていないのかもしれない。

……どうしてか、ジェラルド兄様と視線があわない。
避けられているのを感じて、うつむいてしまう。

「それで、伯父上。相談があってきたのですが」

「ああ、そうだったな。イフリア公爵家で困ってことでもあるのか?」

「ええ、イフリア公爵家を推進派に変えることを公表するのに、理由が必要でしょう。
 俺に推進派出身の婚約者ができたわけでもないので、困っていて。
 それで、婚約を申し込んでもいいですか?」

「婚約を申し込む?」

「ええ、うちのジュリアンヌをジェラルドの婚約者に」

 「「え?」」

驚いた私とジェラルド兄様の声が重なる。
レイモン兄様はいったい何を言い出したの?

「そうきたか。たしかにジュリアンヌとジェラルドを結婚させるのなら、
 イフリア公爵家の派閥替えする理由になるかもしれないが……。
 私はね、二人に政略結婚をさせるつもりはないんだ」

「そうでしょうね。俺もそう思っていますよ」

伯父様の言葉は予想通りだった。
レイモン兄様もそれは知っているはずなのに。
そう思っていたら、伯父様は私たちの方を向いてにっこり笑った。

「だから、ジェラルド、ジュリアンヌ。
 二人で話し合ってきなさい」

「え?」

「話し合う?」

「そうだ。ちゃんとお互い思っていることを伝えあってこい。
 ああ、部屋の中はダメだぞ。中庭でも散歩しながら話してくればいい」

「……わかった」

ジェラルド兄様が立ち上がって、こちらへ向かってくる。
そして視線はあわないけれど手が差し出される。

「ジュリアンヌ、中庭に行こう」

「……ええ」

その手にふれると、本当に久しぶりな気がして泣きそうになる。
ジェラルド兄様と手をつないで部屋から出て行く時、
伯父様とレイモン兄様がうれしそうに笑っているのが見えた。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読者様へ

腰痛の悪化のため、毎日更新できずに申し訳ありません。
今もベッドの上の住人で、完治まではしばらくかかりそうです。
今後はのんびり更新していこうと思います。

まだ無理はできないため、更新をお休みすることもありますが、
気長にお待ちいただけますでしょうか。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


gacchi









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢、レイラ・フォン・アーデルハイド。 ――しかし彼女は、泣かない。怒らない。復讐もしない。 なぜなら、前世でブラック企業に心身を削られた元OLにとって、 婚約破棄とは「面倒な縁が切れただけ」の出来事だったから。 「復讐? 見返し? そんな暇があったら紅茶を飲みますわ」 貴族の婚姻は家同士の取引。 壊れたなら、それまで。 彼女が選んだのは、何もしない自由だった。 領地運営も、政治も、評価争いも―― 無理に手を出さず、必要なときだけ責任を取る。 働かない。頑張らない。目立たない。 ……はずだったのに。 なぜか領地は安定し、 周囲は勝手に動き、 気づけば「模範的な公爵令嬢」として評価が独り歩きしていく。 後悔する元婚約者、 空回りする王太子、 復讐を期待していた周囲―― けれど当の本人は、今日も優雅にティータイム。 無関心こそ最大のざまぁ。 働かないからこそ、幸せになった。 これは、 「何もしない」を貫いた令嬢が、 気づけばすべてを手に入れていた物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

処理中です...