ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

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57.自分の気持ち

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「ジュリアンヌ、学園でジェラルドに会っていないのか?」

「……会っていないわ」

「今まで昼食は一緒に取っていたんじゃないのか?」

「今までは兄妹だったから……でも」

「なんで兄妹じゃなくなると、会わなくなるんだ?」

「え?」

「もう兄妹じゃなくても会いたい、そばにいてほしい、
 そう素直に言えばいいじゃないか」

その言葉に、心の中の殻が壊されたような気がした。

「……妹じゃなくても、会いたいって言っていいの?」

「いいに決まっているだろう」

「ジェラルド兄様のそばにいても怒られないの?」

「誰が怒るんだ?むしろジェラルドは喜ぶだろう」

「……喜ぶのかしら」

その言葉にレイモン兄様は面白そうに笑った。

「喜ぶだろうよ。というか、気持ちは言わないと伝わらないぞ。
 ジェラルドのことが好きなんだろう?」

「え?……あの、兄様?どうして」

「どうして?気がつかれていないと思ったのか?
 俺にはすぐわかったけど」

レイモン兄様に気持ちが知られていたことが恥ずかしくて、
毛布の中にもぐりこみたくなる。

「……ジェラルド兄様も気がついてる?」

「……いや、それはどうかな。
 意外と自分に関することは気がつきにくいものだ」

「そう……」

ジェラルド兄様に気がつかれていないのならとほっとしていると、
兄様はそれでよしとしてくれなかった。

「とりあえず、大事なのはジュリアンヌの気持ちだ。
 ジェラルドに会いたいんだろう?
 眠れなくなって倒れるほど、ジェラルドが必要なんだろう?
 ちゃんと言葉にしないと伝わらない。
 今頃、ジェラルドも倒れているかもしれないな」

「え!?」

ジェラルド兄様が倒れる?病気もしたことがないのに!?

「ああ、そういえば。
 今日の午後はアゼリマ侯爵家がレドアル公爵家に来るって聞いたな。
 ジュリアンヌがイフリア公爵家に戻ったことは知っているだろうから、
 ジュリアンヌへの婚約の申し出ではないはずだ。
 あきらめずにシャルロット嬢がジェラルドに婚約を申し出るつもりかな」

「シャルロット様が……」

「ジェラルドが血迷って婚約を受けてしまわないか心配だよ。
 気が弱っているときは断るのも大変だろうから。
 誰かさんが徹底的に避けるから、ジェラルドも眠れていないらしいし」

「それ……本当なの?」

「伯父上とは何かと連絡を取り合っているからね。
 ついでにジェラルドの様子も聞いた。
 睡眠不足で倒れそうなのは本当だ。
 アゼリマ侯爵家が訪問するという話も。
 いいのか?このままシャルロット嬢に奪われても」

ジェラルド兄様はシャルロット様のことが苦手だと言っていた。
だけど、こんなに何度も婚約の申し出があれば断りにくいのも事実。
ましてや体調が悪い時に強く出られたら断れないかもしれない。

兄様がシャルロット様と結婚する……?
そんなの……

「……そんなのは嫌だわ」

「じゃあ、邪魔をしに行くか」

「え?」

「さぁ、行くか」

「ええ!?」

横になっていたのに、無理やり起こされて馬車に乗せられる。
着いた場所は本当にレドアル公爵家だった。

しかも、アゼリマ侯爵家の紋章がついた馬車が止まっている。

「兄様、本当に邪魔する気なの!?」

「もともと今日は訪問する約束していたんだ。
 少し伯父上と相談したいことがあったからね」

「え?そうなの?」

「ああ、先に約束したのはこちらだ。
 それなのにアゼリマ侯爵家から訪問すると手紙があったらしい。
 勝手に向こうが日時を決めてね。
 邪魔しているのはアゼリマ侯爵家だから問題ない」

「そうなの……」

もともと約束していたのがレイモン兄様のほうだというのなら、
たしかに悪いのはアゼリマ侯爵家ということになる。
それでも向こうが話している席に押しかけていくのは気まずい。

レイモン兄様はそんなことを気にしないようで、
応接室へ迷わずに進んでいく。

応接室の前に来ると、使用人がうなずいてドアをノックする。
レイモン兄様が返事を待たずにドアを開けると、
中にいたアゼリマ侯爵家の人たちが驚いた顔をしていた。

レイモン兄様はそれにも動じずにスタスタと入っていく。

「な、なんですか!?」

「ああ、約束の時間か。いらっしゃい、レイモン」

「ええ、伯父上」

「なぜここにイフリア公爵が!?」

空いているソファにレイモン兄様が座ったので、私もその隣に座る。

斜め向かいの席に座る金髪の小太りの男性が慌てているが、
この人がアゼリマ侯爵に違いない。
隣に座る気の弱そうな夫人は侯爵にしがみつくようにして青ざめている。
そして、その隣には私をにらみつけるシャルロット様。

「どうしてジュリアンヌ様が……いなくなったんじゃなかったの!?」

「用があるのは私で、妹は連れて来ただけだ。
 それにしても伯父上と約束していたのはこちらだったと思うが」

「そうなんだよ、レイモン。
 先約があるから断ったのに押しかけて来られたんだ」

「押しかけて来ただなんて人聞きが悪い!
 私はイフリア公爵家のためを思って話をしに来たんです!」

アゼリマ侯爵が大げさな動作で伯父様に訴えかける。
それをうんざりするように止めたのはジェラルド兄様だった。

「話はもう聞いた。俺がその話を受け入れることはない。
 レイモンが来たことだし、お帰り願おうか」

「待ってくれ!ジェラルド殿はまだ若いから、
 この話の重要さを理解できていないんだ!
 シャルロットと結婚すれば、中立派を取り込めるんだ!」

「だから、その必要はないと言っている」

「レドアル公爵はわかりますよね!
 そうすれば、これからの社交界を牛耳ることもできるんです!」

シャルロット様と結婚すれば中立派が推進派に派閥替えをしてくれる。
それはたしかに重要なことかもしれないけれど、
それは伝統派が残っていた場合だ。

うんざりしたようなジェラルド兄様と伯父様。
きっと何度も同じやり取りを繰り返しているんだろう。

そこに口を挟んだのはレイモン兄様だった。

「アゼリマ侯爵、その必要はないよ」

「イフリア公爵は邪魔したいでしょうけど、
 口を挟まないでいただきたい!」

「そういう意味で邪魔したいわけじゃない。
 伝統派がなくなるから派閥争いは意味がないと言いたいんだ」

「……は?」

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