ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

文字の大きさ
62 / 66

62.卒業

しおりを挟む
卒業式の後、もう一度教室へ戻り友人たちと別れを惜しむ。
またすぐ社交界で会うことになるのはわかっているけれど、
教室というこの空間の中で会うことはなくなる。

「じゃあ、マリエットはまたしばらく隣国へ行ってしまうのね」

「はい。お父様に彼との結婚を認めてもらうためにも、
 手掛けている仕事を終わらせないといけないのです」

「そう……さみしくなるわね」

「あ、でも!お二人の結婚式には一度戻って来ますから!」

「本当?ありがとう」

「いいえ、イフリア公爵家とレドアル公爵家そろっての結婚式ですもの。
 それに大事なジュリアンヌ様とコリンヌの結婚式です。
 出席しないわけにはいきません!」

「ふふ。ありがとう」

そう、私とジェラルド兄様の結婚式は、
同時にレイモン兄様とコリンヌの結婚式も行うことになっていた。

最初に夜会で会わせた後、私がいろいろとあったせいで、
レイモン兄様とコリンヌを会わせるのは後になってしまったけれど、
イフリア公爵家でのお茶会に招いた後は順調に話が進んだ。

レイモン兄様の理想は推進派で魔力持ち、そして努力家であればいいと言っていた。
コリンヌはその理想にぴったりな上、性格もいいし、見た目も清楚美人だ。
一目ぼれとまではいかなかったようだけれど、お互いに最初から好印象だったらしい。

二つの公爵家合同の結婚式になったのは、昨年国王になったアドルフ様のせいだ。
公爵家当主と次期当主の結婚は国王の前で誓わなければならないのだが、
どちらの公爵家を先に結婚させるかでもめるくらいなら同時にすればいいだろうと。

推進派、伝統派という派閥はなくなっても、まだすべての貴族が納得したわけではない。
どちらが上だと騒いでもめることも少なくなかった。
そのため、アドルフ様も同時にしようと考えたのだろうけど。

準備するこちらにしてみれば二倍の忙しさだ。
それもレイモン兄様とジェラルド兄様が頑張っているからいいけれど。

「コリンヌはまたすぐに会えるけど、
 マリエットとアリスとエリーナとは結婚式まで会えないのね。
 今まで毎日会っていたのにさみしくなるわ」

「私もです。ジュリアンヌ様に会えないなんて……」

「結婚式が終わって落ち着いたら、お茶会に呼んでくださいね!」

「ええ、もちろんよ」

涙ぐむアリスと念押ししてくるエリーナ。
学園に入って、四人と出会えたのは本当によかった。
卒業しても友人だと思える相手に出会えるなんて、
不安に思いながら入学した時には思いもしなかった。

何度も手を握り、抱きしめあい、手を振って別れる。
気が済むまで別れを惜しんでから、
待っていてくれたジェラルド兄様の手を借りて馬車に乗る。

ドアが閉まる瞬間、我慢していた涙があふれて止まらない。

「卒業してもまたすぐに会えるさ」

「……うん……わかってるの……」

「そうだな……わかっていてもさみしいよな」

兄様はそれ以上は言わず、ぎゅっと抱きしめて背中を撫でてくれる。
それに甘えるように泣き続けていたら、
イフリア公爵家に着くころにはすっかり目がはれてしまっていた。

「ああ、目をこすっちゃだめだ。
 中に入ったら冷やそう」

「う、うん」

「歩かなくていい」

目が開かなくて危ないと思ったのか、兄様が私を抱き上げて屋敷の中に入る。

私を私室のソファに座らせると、侍女から冷やした布を受け取る。
それを目の上にのせてから治癒をかけてくれる。
見えなくても兄様の優しい魔力が流れてくるのがわかった。

「治癒をかけなくてもすぐに治るのに」

「このくらい簡単に治るんだから気にするな」

「ん……ありがとう」

ジェラルド兄様が先に卒業して、学園で一緒にいられなくなってから、
ますます過保護になったような気がする。
学園に送り迎えはしてもらっている上に、屋敷に帰った後はずっと一緒にいる。

さすがに寝る時は自分の部屋に帰っているようだけど、
必ず私を寝かしつけてから部屋に戻っている。

最初の頃はレイモン兄様が注意していたようだけど、
すぐにあきらめてしまったようで、今では何も言わなくなった。

まぁ、レイモン兄様も私にかまうよりも、
婚約者になったコリンヌに時間を使いたいだろう。

私がイフリア公爵家を出るのと同時にコリンヌが嫁いでくることになるが、
レイモン兄様が一人にならなくてほっとしている。

「ようやく卒業だな。結婚式まで残り三か月か……」

「あと三か月なのね」

「……まだ三か月もあるのか……」

拗ねたように言った後、私を抱きしめて髪や頬に口づけされる。
こんな風にされるのにも慣れたけれど、それでもどきどきはする。
結婚するまでは口づけだけって約束だけど、それもあと三か月。

ジェラルド兄様の妻になるのは楽しみだけど、
自分がどうなってしまうのかわからなくて少し不安にもなる。




それから一週間後、結婚式の準備のため、私たちはレドアル公爵家に向かう。

レイモン兄様はコリンヌを迎えに行ってから向かうそうだが、
忙しくてあまり婚約者との時間が取れていないレイモン兄様には、
この準備の期間にコリンヌとの仲を深めてほしい。

レドアル公爵家に着いた後、私とコリンヌは伯母様の部屋へ通される。
そこで仕立て屋と結婚式のドレスについて打ち合わせをする。

私とコリンヌのドレスは仮縫いが終わったところで、
伯母様と三人で問題はないか、デザインの変更は必要か確認する。
幸い、どちらのドレスも大きな問題はなく、細微な変更だけで終わる。

男性陣も打ち合わせが終わったようだからお茶にしましょうと言われ、
応接室に戻るとジェラルド兄様が読んでいた手紙をさっと隠したのが見えた。

「……兄様、今隠したのは何?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢、レイラ・フォン・アーデルハイド。 ――しかし彼女は、泣かない。怒らない。復讐もしない。 なぜなら、前世でブラック企業に心身を削られた元OLにとって、 婚約破棄とは「面倒な縁が切れただけ」の出来事だったから。 「復讐? 見返し? そんな暇があったら紅茶を飲みますわ」 貴族の婚姻は家同士の取引。 壊れたなら、それまで。 彼女が選んだのは、何もしない自由だった。 領地運営も、政治も、評価争いも―― 無理に手を出さず、必要なときだけ責任を取る。 働かない。頑張らない。目立たない。 ……はずだったのに。 なぜか領地は安定し、 周囲は勝手に動き、 気づけば「模範的な公爵令嬢」として評価が独り歩きしていく。 後悔する元婚約者、 空回りする王太子、 復讐を期待していた周囲―― けれど当の本人は、今日も優雅にティータイム。 無関心こそ最大のざまぁ。 働かないからこそ、幸せになった。 これは、 「何もしない」を貫いた令嬢が、 気づけばすべてを手に入れていた物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

処理中です...