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63.結婚式の準備
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学園を卒業した一週間後、結婚式の準備のため、レドアル公爵家に向かう。
レイモン兄様とコリンヌは別の馬車で向かう。
あまり婚約者との時間が取れていないレイモン兄様には、
この準備の期間もコリンヌとの仲を深めてほしい。
私とコリンヌのドレスは仮縫いが終わったところで、
伯母様と三人で問題はないか、デザインの変更は必要か確認する。
幸い、どちらのドレスも大きな問題はなく、細微な変更だけで終わる。
男性陣が終わったらお茶にしましょうと言われ、応接室に戻ると、
ジェラルド兄様が読んでいた手紙をさっと隠す。
「……兄様、今隠したのは何?」
「……やましい気持ちがあって隠したわけじゃないぞ」
「いいから、見せて」
「わかった」
観念したように渡された手紙を読めば、差出人はシャルロット様だった。
「……まだあきらめてないなんて」
「本当にな……執念深い」
アゼリマ侯爵家のシャルロット様は、ジェラルド兄様からはっきり断られた後、
いろいろと大変だったらしい。
まず、アゼリマ侯爵家は兄であるロベルト様が継ぐことになった。
侯爵が仕事をロベルト様に押しつけていたことが判明したためだ。
新法により侯爵は爵位をはく奪、長年ないがしろにされていたロベルト様は、
両親を領地の別邸に送り社交界への出席を禁じた。
そして妹の嫁ぎ先として、王宮の夜会に招待されることがない、
地方貴族の中でも遠い領地の伯爵に嫁がせようとした。
だが、シャルロット様はそれを拒否し、最終的には修道院に入ることになった。
なのに、こうして修道院からシャルロット様の手紙が届いている。
「私を迎えに来てくださいませ、お待ちしています、ね」
「ジェラルドを待つために修道院に入ったんだろうな。
他の者の妻になってしまえば二度と会えないだろうし」
「普通は修道院に入っても二度と会えないと思うけど?」
「シャルロット嬢は普通じゃないからなぁ」
「それもそうね」
「レイモン、ジュリアンヌ、面白がらないでくれ」
私とレイモン兄様が面白がっているように聞こえたのか、
ジェラルド兄様は額に手をあてたままつぶやく。
「大丈夫だよ。ロベルトには連絡しておこう。
シャルロット嬢をもっと厳しい修道院に入れなおすように」
「……頼んだ」
レイモン兄様とロベルト様は学園の同級生だった。
派閥は違っても仲がよかったらしく、
アゼリマ侯爵家で不遇な扱いを受けていたのを知っていた。
ロベルト様の件も、アドルフ様が新法を制定した理由の一つらしい。
当主となったことでレイモン兄様にも感謝しているそうなので、
シャルロット様のことをお願いすれば聞いてくれるだろう。
「二家の公爵家合同の結婚式なんて初めてのことだ。
不安要素は全部消しておかないとな」
「まさか修道院を抜け出してきたりはしないだろうが」
「わからないぞ。厳しい修道院に入れた後、監視していたほうがいい。
アドルフ様にも報告しておこう」
「ああ、そうだな」
公爵家の当主は国王の相談役でもある。
レドアル公爵家はまだ伯父様が当主だけど、イフリア公爵家はレイモン兄様が当主。
継いだばかりのころは本当に大変でジェラルド兄様と私が手伝っていたけれど、
最近は慣れてきたからかほとんど手伝う必要がない。
手持無沙汰になったジェラルド兄様はレドアル公爵家の仕事に戻り、
伯父様は代替わりを考えていると聞いた。
「ジュリアンヌ、部屋の改装もそろそろ終わりそうだけど、見ていくか?」
「……ううん、いい。当日の楽しみにするわ」
「そうか」
レドアル公爵家で私が使っていた部屋は、夫婦の部屋へと改装されることになった。
兄様と一緒の部屋になるのはうれしいけれど、夫婦の部屋といわれると緊張する。
結婚式のことだけでも頭がいっぱいなのに、これ以上は無理。
部屋に立ち寄ることはなく、イフリア公爵家へと戻る。
この屋敷で過ごすのもあと三か月……母屋での思い出はこの三年しかないけれど。
それでもイフリア公爵家の娘として嫁いでいくんだと思うと不思議な気がする。
そして迎えた結婚式。
朝起きたらジェラルド兄様はいなかった。
「あ、そっか。ジェラルド兄様はレドアル公爵家から行くのね」
「今日くらいはね。ちゃんと家から王宮に向かうようだよ」
「そうよね」
わかってはいたけれど、朝食の場にジェラルド兄様がいないのが落ち着かない。
本来なら、結婚するまでは一緒に暮らしていないのだから、
朝から会えないのが普通なのに。
結婚式用のドレスは王宮に用意されている。
そのため、王宮に上がる用のドレスに着替えてレイモン兄様と向かう。
コリンヌはマロール伯爵家の馬車で王宮に向かっているはず。
王宮に着くと、公爵家から連れて来た侍女だけでなく、
王宮侍女たちも私の準備に手を貸してくれる。
ドレスはレドアル公爵家の色、紫色。
胸元から袖まで薄地の上に銀糸で小花の刺繍がされている。
腰を大きなリボンできゅっと絞り、ふくらませたスカートはレースを重ねてある。
そして、大ぶりな紫水晶のイヤリングとネックレス。
レドアル公爵家というよりも、ジェラルド兄様の色をまとうようで少し恥ずかしい。
あとはベールをおろすだけになって、ドアがノックされる。
入ってきたのは伯父様と伯母様だった。
レイモン兄様とコリンヌは別の馬車で向かう。
あまり婚約者との時間が取れていないレイモン兄様には、
この準備の期間もコリンヌとの仲を深めてほしい。
私とコリンヌのドレスは仮縫いが終わったところで、
伯母様と三人で問題はないか、デザインの変更は必要か確認する。
幸い、どちらのドレスも大きな問題はなく、細微な変更だけで終わる。
男性陣が終わったらお茶にしましょうと言われ、応接室に戻ると、
ジェラルド兄様が読んでいた手紙をさっと隠す。
「……兄様、今隠したのは何?」
「……やましい気持ちがあって隠したわけじゃないぞ」
「いいから、見せて」
「わかった」
観念したように渡された手紙を読めば、差出人はシャルロット様だった。
「……まだあきらめてないなんて」
「本当にな……執念深い」
アゼリマ侯爵家のシャルロット様は、ジェラルド兄様からはっきり断られた後、
いろいろと大変だったらしい。
まず、アゼリマ侯爵家は兄であるロベルト様が継ぐことになった。
侯爵が仕事をロベルト様に押しつけていたことが判明したためだ。
新法により侯爵は爵位をはく奪、長年ないがしろにされていたロベルト様は、
両親を領地の別邸に送り社交界への出席を禁じた。
そして妹の嫁ぎ先として、王宮の夜会に招待されることがない、
地方貴族の中でも遠い領地の伯爵に嫁がせようとした。
だが、シャルロット様はそれを拒否し、最終的には修道院に入ることになった。
なのに、こうして修道院からシャルロット様の手紙が届いている。
「私を迎えに来てくださいませ、お待ちしています、ね」
「ジェラルドを待つために修道院に入ったんだろうな。
他の者の妻になってしまえば二度と会えないだろうし」
「普通は修道院に入っても二度と会えないと思うけど?」
「シャルロット嬢は普通じゃないからなぁ」
「それもそうね」
「レイモン、ジュリアンヌ、面白がらないでくれ」
私とレイモン兄様が面白がっているように聞こえたのか、
ジェラルド兄様は額に手をあてたままつぶやく。
「大丈夫だよ。ロベルトには連絡しておこう。
シャルロット嬢をもっと厳しい修道院に入れなおすように」
「……頼んだ」
レイモン兄様とロベルト様は学園の同級生だった。
派閥は違っても仲がよかったらしく、
アゼリマ侯爵家で不遇な扱いを受けていたのを知っていた。
ロベルト様の件も、アドルフ様が新法を制定した理由の一つらしい。
当主となったことでレイモン兄様にも感謝しているそうなので、
シャルロット様のことをお願いすれば聞いてくれるだろう。
「二家の公爵家合同の結婚式なんて初めてのことだ。
不安要素は全部消しておかないとな」
「まさか修道院を抜け出してきたりはしないだろうが」
「わからないぞ。厳しい修道院に入れた後、監視していたほうがいい。
アドルフ様にも報告しておこう」
「ああ、そうだな」
公爵家の当主は国王の相談役でもある。
レドアル公爵家はまだ伯父様が当主だけど、イフリア公爵家はレイモン兄様が当主。
継いだばかりのころは本当に大変でジェラルド兄様と私が手伝っていたけれど、
最近は慣れてきたからかほとんど手伝う必要がない。
手持無沙汰になったジェラルド兄様はレドアル公爵家の仕事に戻り、
伯父様は代替わりを考えていると聞いた。
「ジュリアンヌ、部屋の改装もそろそろ終わりそうだけど、見ていくか?」
「……ううん、いい。当日の楽しみにするわ」
「そうか」
レドアル公爵家で私が使っていた部屋は、夫婦の部屋へと改装されることになった。
兄様と一緒の部屋になるのはうれしいけれど、夫婦の部屋といわれると緊張する。
結婚式のことだけでも頭がいっぱいなのに、これ以上は無理。
部屋に立ち寄ることはなく、イフリア公爵家へと戻る。
この屋敷で過ごすのもあと三か月……母屋での思い出はこの三年しかないけれど。
それでもイフリア公爵家の娘として嫁いでいくんだと思うと不思議な気がする。
そして迎えた結婚式。
朝起きたらジェラルド兄様はいなかった。
「あ、そっか。ジェラルド兄様はレドアル公爵家から行くのね」
「今日くらいはね。ちゃんと家から王宮に向かうようだよ」
「そうよね」
わかってはいたけれど、朝食の場にジェラルド兄様がいないのが落ち着かない。
本来なら、結婚するまでは一緒に暮らしていないのだから、
朝から会えないのが普通なのに。
結婚式用のドレスは王宮に用意されている。
そのため、王宮に上がる用のドレスに着替えてレイモン兄様と向かう。
コリンヌはマロール伯爵家の馬車で王宮に向かっているはず。
王宮に着くと、公爵家から連れて来た侍女だけでなく、
王宮侍女たちも私の準備に手を貸してくれる。
ドレスはレドアル公爵家の色、紫色。
胸元から袖まで薄地の上に銀糸で小花の刺繍がされている。
腰を大きなリボンできゅっと絞り、ふくらませたスカートはレースを重ねてある。
そして、大ぶりな紫水晶のイヤリングとネックレス。
レドアル公爵家というよりも、ジェラルド兄様の色をまとうようで少し恥ずかしい。
あとはベールをおろすだけになって、ドアがノックされる。
入ってきたのは伯父様と伯母様だった。
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