素直になるのが遅すぎた

gacchi(がっち)

文字の大きさ
2 / 16

2.最後の忠告

しおりを挟む
「いた!」

角を曲がった先に見慣れた金髪を見つけ声を上げた。
学園の廊下で探していたシャルルを見つけると、私の侍従が後ろから捕まえる。

歩いていただけなのに急に捕まえられて驚いたシャルルは、
首もとをつかんで自分を捕まえたのが私の侍従だとわかるとおとなしくなった。
整った顔立ちが引きつったようになっているのは、
私が怒っているのがわかるからだろう。

「…ミラージュ、何か用か?」

「ちょっと顔貸しなさいよ。」

問答無用で人気のない場所まで引きずるように連れていく。
辺りに人がいないのを確認してから話を始めた。

「シャルル、あなたいい加減にしなさいよ。」

「え?何の話だよ。」

「昨日のお茶会、ローズマリーがいじめられた挙句、
 お茶とハチミツを頭からかけられて、
 髪とドレスぐちゃぐちゃにされたまま泣きながら帰ったそうよ。」

「は!?なんだよ、それ。知らないぞ。
 うちの使用人たちからの報告もなかったし。」

本当に知らなかったようで、目を大きく見開いて驚いている。
普段は表情一つ変えないくせに、ローズマリーのことになるとすぐに崩れる。
この情けないところをあの令嬢たちにみせてやりたい。

「馬鹿ねぇ。
 公爵家の使用人たちはみんな、
 シャルルがローズマリーのこと嫌っていると思ってんのよ。
 見ていても止めないし、いい気味くらいに思っていたでしょうよ。」

「…嘘だろ。」

真っ青な顔をしているシャルルに同情する気はなく、とどめを刺す。

「…もういい加減にしないと元に戻れないわよ。
 後悔しても遅いんだから。」

「…わかってる。
 だけど…ローズマリーを見ると素直になれなくて。」

「そんなことは何度も聞いたわ。
 だけど、もう限界よ。いい加減にしなさい。
 自分の婚約者を大事にしないどころか、
 他の令嬢たちと一緒になって馬鹿にするって。
 頭おかしいんじゃないの?
 婚約者とのお茶会なのに、他の令嬢たちも同席させたあげく、
 剣の稽古に逃げるって…馬鹿なの?」

「…。」

シャルルが子爵家のローズマリー・シンフォルと婚約したのは七歳の時だった。
第一王女である私のお友達を選ぶため、
年の近い令息令嬢を全員集めた王宮の中庭でのお茶会だった。
その時に一目ぼれして婚約したいと言い出したのはシャルルのほうだった。

ローズマリーは栗色の髪と目をしていて、目立つ令嬢ではなかった。
金髪水色の目のシャルルに比べたら地味に見えてしまうのは当然のことだ。
だけど、ローズマリーがふんわりと笑うとまるで砂糖菓子のように見えた。
一緒にいるとこちらまで穏やかな気持ちになれる。
他の令嬢にはない、ローズマリーだけが持つ魅力だった。

そんなローズマリーと婚約したいとシャルルが言い出した時には、
意外と見る目あるのねと思っていたというのに。

シャルルは私の婚約者候補ではあったが、
無理に公爵家の一人息子であるシャルルを選ぶ必要はなかった。
お互いに幼いころから会っているからか、
仲はいいし嫌いではないがそういう意味では好きになれない。
幼馴染の一目ぼれを手放しで喜んだのだが、問題は婚約してから起きた。

婚約が決まって初めて会うことになった時、
シャルルの口から出たのはローズマリーを侮辱する言葉だった。

「平凡で地味で取り柄がないようだが、仕方ない。
 婚約した以上は少しでも美人になれるように努力しろよ。」

あとから報告を受けて公爵家まで殴り込みに行った私が見たのは、
自分で言った言葉に落ち込んで泣いているシャルルだった…。

それから何度も注意し、二人の仲を良くしようと頑張ってはみたのだが。
シャルルの追っかけ令嬢三人が絡んだことで、余計に悪化している。

シャルルの父の公爵はシャルルのこのめんどくさい性格をわかっているため、
ローズマリーとの婚約はそのまま継続されている。
おそらく子爵家のほうは早く婚約解消してくれと願い続けていることだろう。

あんなにふんわりとした砂糖菓子のような令嬢だったのに、
もうしばらくローズマリーの笑顔を見ていない。
下級貴族たちが庇うと思っていたのに、残念ながらそういう動きは無かった。
公爵家に見初められた子爵家というのは嫉妬の対象になってしまったようだ。
シャルルをねらっている高位貴族の令嬢たちがローズマリーをいじめたことにより、
庇えるものはほとんどいなくなってしまっていた。

だからこそ…庇えるのは、助けられるのはシャルルしかいないというのに。

「本当にローズマリーのことが大事だというのなら、目を覚まして。
 後悔した時にはもう遅いのよ。」

これが最終通告だと告げたが、シャルルは黙ったままだった。
こりゃだめだなと思った時に追っかけ令嬢三人がこちらに来るのが見えて、
そのまま立ち去ることにした。


「…いいのですか?」

「もう私にできることはないわ。あれは…せめてもの忠告よ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

一番でなくとも

Rj
恋愛
婚約者が恋に落ちたのは親友だった。一番大切な存在になれない私。それでも私は幸せになる。 全九話。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。 ※全6話完結です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

処理中です...