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1.公爵家でのお茶会
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この国でも広い領地を持つドワーレ公爵家の王都の屋敷は、
王宮に一番近い場所にあった。
昼過ぎから屋敷の中庭でお茶会が行われていたが、
それはお茶会とは形ばかりで、
令嬢三人が一人の令嬢をいじめている場となっていた。
お茶会の主催である令息シャルルは始まってすぐに、
この令嬢たちの異様な雰囲気に耐えられなくなり逃げてしまった。
剣術の稽古があるからと言ってさっさと退席し、
こうして令嬢四人が残されたのだった。
シャルルが消えてからというもの、
一人の令嬢が嫌味を言われ続けていた。
それは嫌味というよりも罵倒に近いかもしれない。
地味だ、取り柄がない、目障りだ。早く消えてしまえばいいのに。
こんなことを笑いながら言われ続け、悲しくなったのかずっとうつむいている。
小柄な身体をもっと小さくして震えているのは、
シャルルの婚約者でもある子爵家の令嬢ローズマリーだ。
ローズマリーは婚約者との交流のために公爵家に呼ばれていた。
一方的に呼び出されるような交流会でも、ローズマリーに逆らうことはできない。
それなのに婚約者のシャルルは逃げ出し、
全く関係のない令嬢たちに囲まれ…たった一人でこの仕打ちに耐え続けている。
その一部始終を一人の監視がずっと見ていた。
もう何度もこのような状況を見てきたが、見慣れるわけはない。
助けられないのをわかっていながらも、こんなお茶会は早く終われと願っていた。
「ほら、これでちょっとは見た目が良くなったのでは?」
良いことを思いついたとばかりにバルック侯爵家の令嬢ロザリアが、
うつむいたまま黙っている令嬢の頭からぬるくなったお茶をかけた。
「あら本当。じゃあ、これもかけましょうか。」
ロザリアに続いてお茶の横に置いてあったハチミツをかけたのは、
ミゼル公爵家のユリアナ。
ロザリアとユリアナはどちらも金髪緑目で、まるで姉妹のように見える。
二人で笑いあっていると、もう一人の声が重なる。
「ふふふ。嫌ですわ、お二人とも。
茶色のものに茶色のものをかけても同じですわ。
地味なのは変わりませんわよ?」
それを見たガルゼル伯爵家のジュリアは楽しそうに笑った。
こちらは銀髪に緑目、王家に近い色を持つのが自慢だった。
この国の貴族は高位に近い立場になるほど金髪か銀髪を持つ。
色素が薄ければ高貴だという証明になる。
金髪と銀髪の三人が自慢に思うのも当たり前のことだった。
お茶とハチミツをかけられても身動きしないローズマリーの髪は茶色。
よく見れば栗色なのだが、ぐっしょりと濡れて茶色になってしまっていた。
「あら、そうね。茶色なのは変わらなかったわ。」
「ええ、地味なのは変わりませんでしたわね。」
ロゼリアは自分が言ったことを簡単に覆すと、
髪色を変えるにいいものはないかと辺りを探し始めた。
「じゃあ、泥をかけたら変わるかしら?」
「あらいいわね。でも、どうやってかけるの?
手を汚すのは嫌ですわ。」
「えー、じゃあ、ジュリアは?」
「わたくしも泥を触るのはちょっと…。
ねぇ、いつまでもこの女に関わっていないで、
シャルル様の稽古を見に行きませんか?」
「…それもそうね。行きましょう?」
この令嬢三人はシャルルの追っかけ令嬢として有名な三人だった。
今日も約束なしに公爵家まで来てこのお茶会に無理やり参加していた。
その押しの強さが苦手でシャルルは逃げてしまったのだが…。
中庭から令嬢三人がいなくなった後、一人ローズマリーが残された。
お茶とハチミツをかけられ、ぐちゃぐちゃにされた髪もドレスもそのままに、
公爵家の使用人に助けを求めることもなく帰っていった。
「こりゃ…ひでぇな。
姫さん、報告きいたら激怒すんだろうなぁ。」
主の命令で監視していたが、あまりにも一方的ないじめで腹が立って仕方ない。
これを報告したら、人一倍おひとよしな姫は怒り狂うに違いない。
きっと怒った後に悲しむのだと思うと、気が重かった。
それでも仕事は仕事だ。
すぐさま王宮へと戻り報告することにした。
王宮に一番近い場所にあった。
昼過ぎから屋敷の中庭でお茶会が行われていたが、
それはお茶会とは形ばかりで、
令嬢三人が一人の令嬢をいじめている場となっていた。
お茶会の主催である令息シャルルは始まってすぐに、
この令嬢たちの異様な雰囲気に耐えられなくなり逃げてしまった。
剣術の稽古があるからと言ってさっさと退席し、
こうして令嬢四人が残されたのだった。
シャルルが消えてからというもの、
一人の令嬢が嫌味を言われ続けていた。
それは嫌味というよりも罵倒に近いかもしれない。
地味だ、取り柄がない、目障りだ。早く消えてしまえばいいのに。
こんなことを笑いながら言われ続け、悲しくなったのかずっとうつむいている。
小柄な身体をもっと小さくして震えているのは、
シャルルの婚約者でもある子爵家の令嬢ローズマリーだ。
ローズマリーは婚約者との交流のために公爵家に呼ばれていた。
一方的に呼び出されるような交流会でも、ローズマリーに逆らうことはできない。
それなのに婚約者のシャルルは逃げ出し、
全く関係のない令嬢たちに囲まれ…たった一人でこの仕打ちに耐え続けている。
その一部始終を一人の監視がずっと見ていた。
もう何度もこのような状況を見てきたが、見慣れるわけはない。
助けられないのをわかっていながらも、こんなお茶会は早く終われと願っていた。
「ほら、これでちょっとは見た目が良くなったのでは?」
良いことを思いついたとばかりにバルック侯爵家の令嬢ロザリアが、
うつむいたまま黙っている令嬢の頭からぬるくなったお茶をかけた。
「あら本当。じゃあ、これもかけましょうか。」
ロザリアに続いてお茶の横に置いてあったハチミツをかけたのは、
ミゼル公爵家のユリアナ。
ロザリアとユリアナはどちらも金髪緑目で、まるで姉妹のように見える。
二人で笑いあっていると、もう一人の声が重なる。
「ふふふ。嫌ですわ、お二人とも。
茶色のものに茶色のものをかけても同じですわ。
地味なのは変わりませんわよ?」
それを見たガルゼル伯爵家のジュリアは楽しそうに笑った。
こちらは銀髪に緑目、王家に近い色を持つのが自慢だった。
この国の貴族は高位に近い立場になるほど金髪か銀髪を持つ。
色素が薄ければ高貴だという証明になる。
金髪と銀髪の三人が自慢に思うのも当たり前のことだった。
お茶とハチミツをかけられても身動きしないローズマリーの髪は茶色。
よく見れば栗色なのだが、ぐっしょりと濡れて茶色になってしまっていた。
「あら、そうね。茶色なのは変わらなかったわ。」
「ええ、地味なのは変わりませんでしたわね。」
ロゼリアは自分が言ったことを簡単に覆すと、
髪色を変えるにいいものはないかと辺りを探し始めた。
「じゃあ、泥をかけたら変わるかしら?」
「あらいいわね。でも、どうやってかけるの?
手を汚すのは嫌ですわ。」
「えー、じゃあ、ジュリアは?」
「わたくしも泥を触るのはちょっと…。
ねぇ、いつまでもこの女に関わっていないで、
シャルル様の稽古を見に行きませんか?」
「…それもそうね。行きましょう?」
この令嬢三人はシャルルの追っかけ令嬢として有名な三人だった。
今日も約束なしに公爵家まで来てこのお茶会に無理やり参加していた。
その押しの強さが苦手でシャルルは逃げてしまったのだが…。
中庭から令嬢三人がいなくなった後、一人ローズマリーが残された。
お茶とハチミツをかけられ、ぐちゃぐちゃにされた髪もドレスもそのままに、
公爵家の使用人に助けを求めることもなく帰っていった。
「こりゃ…ひでぇな。
姫さん、報告きいたら激怒すんだろうなぁ。」
主の命令で監視していたが、あまりにも一方的ないじめで腹が立って仕方ない。
これを報告したら、人一倍おひとよしな姫は怒り狂うに違いない。
きっと怒った後に悲しむのだと思うと、気が重かった。
それでも仕事は仕事だ。
すぐさま王宮へと戻り報告することにした。
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