これが運命ではなかったとしても

gacchi(がっち)

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54.式の前夜

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侍女たちの気配がしなくなるまでベッドの中で待って、
こっそり起き上がってガウンを羽織る。

リマには今日くらい我慢してと言われたけれど、
一人では眠れそうにない。

ふかふかの絨毯の上を音もなく進む。
ゆっくりとドアを開けたら、上から声がかかった。

「……こら、どこに行くつもりだ?」

「…………どうして?」

ドアの外ではアルフレッド様が待ち構えていた。

「眠れないからと抜け出して、
 俺の部屋まで来るんじゃないかと思っていた」

「……だって」

ずっと今までアルフレッド様と一緒に寝ていたのに、
婚姻の前日は王太子の部屋で一人で眠るようにだなんて。
お父様がそんなことを言い出すのが悪い。

「一日くらい陛下の言うことを聞いてもいいだろうに」

「でも……明日は結婚式なのに、眠れないで目を腫らしてしまうのも……」

「わかってる……どうしても眠れないんだろ。
 ほら、風邪をひくから早く部屋に入りなさい」

「一緒に寝てくれるんですか?」

「さすがにそれはできないから、眠るまでそばにいる」

やっぱり一緒には寝てくれないらしい。
それでもアルフレッド様はベッドの横に椅子を置いて、
私が眠るまで手をつないでいてくれるようだ。

「ちゃんと毛布をかけて」

「はぁい」

肩まで毛布をかけられ、アルフレッド様の手を握る。
伝わって来る温かさで、ようやく眠気がやってくる。

「やっと結婚式か……」

「待たせてしまってごめんなさい」

「いや、年齢はわかっていたことだし、
 この国を落ち着かせるためにも時間が必要だっただろうしな」

「もう大丈夫だと思います」

「そうだな」

二年前、アントシュに戻ってきた時、お父様の帰還を喜ぶ貴族ばかりではなかった。

このままベルコヴァの属国になったほうがいいのではないかと言い出す者や、
ベルコヴァとは一切手を切ってアントシュの独立を訴える者もいた。

ベルコヴァはアントシュを属国にしたわけではない。
だが、属国にしてもいいほどの状況だった。

エッカルト様の名のもとに、実際にアントシュを管理していたのはアルフレッド様だ。
だからこそ、お父様へ引き継ぐのも問題なく行われた。

ほとんどの者は属国にせずお父様に国を返してくれたエッカルト様に感謝していた。
だからこそ、私の王配にアルフレッド様が選ばれたことにも不満を言うものは少なかった。

まぁ、まったくいなかったわけではないけれど、
アルフレッド様よりも優秀な貴族令息はいなかったので、
何も問題なく明日の結婚式を迎えることになった。

「私は……ずっと待たせてしまったので、
 ようやく結婚できるのがうれしいです……」

「……ああ、そうだな。俺もうれしいよ」

「アルフレッド様の妻になれるのが楽しみです……」

「……その言葉は、明日聞きたいかな」

どうしてだろうと思ったけれど、もう目が重くて開かなかった。
すぐに眠りに落ちたので、アルフレッド様が部屋から出て行ったのも気づかなかった。

次の日、目を覚ましたらベッドに一人でいた。
アルフレッド様と過ごすようになって、初めて一人の朝だった。

思わず泣きそうになったけれど、ベッドの横に置かれたままの椅子を見て、
眠るまで一緒にいてくれたアルフレッド様を思い出す。

今日の夜からはもう離れなくていい。
機嫌を直して、ベッドから出る。


結婚式までアルフレッド様とは会えない。
朝食を食べた後、すぐに準備に入る。

花を浮かべた湯につかり、身体を磨き上げてもらった後、
伝統の衣装を身につける。

たくさんの花の刺繍が施された赤い布で仕立てたドレス。
何枚も重ねているから、ずっしりと重い。
特に後ろ側が長いから、引きずって歩くような感じだ。

「もうすぐ式の時間です。そろそろ教会へと移動しましょうか」

「ええ」

衣装が重いので、侍女たちに裾を持ってもらい教会へと向かう。
中にはもうすでにお父様や貴族たち、そしてアルフレッド様が待っている。

大きな扉が開かれ、中にいた人たちが一斉に私を見る。
この衣装のせいだろうか、令嬢や夫人たちから綺麗という声が漏れる。

四人の侍女が衣装の後ろを手で持ってついてくる。
それでも重いけれど、一歩ずつゆっくりと前に進む。

祭壇の前にはお父様とアルフレッド様。
どちらも心配そうな顔で私を見ている。

そんなに心配しなくても転ばないのに。

「あっ」

小さな段差を見落として、前のめりになる。
転んじゃうと思った瞬間、しっかりとした両腕に支えられる。
その嗅ぎなれた匂いに安心して抱き着いた。

「式でも転ぶとは思わなかったな」

「ごめんなさい……転ぶつもりはなかったのですが」

「わかっている。こんなに重かったら動きにくいだろう。
 綺麗だが、一人で歩かせるのは不安だな」

「アルフレッド、そこまで迎えに行ったのなら、
 もう支えて連れて来てくれ」

「わかりました、陛下」

祭壇で待っているお父様までもがそういうので、
遠慮なくアルフレッド様の腕に支えてもらいながら進む。

ようやく祭壇までたどり着くと、お父様が軽くため息をついている。
今日は心配させないつもりだったのだけどな……。

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