53 / 57
53.旅立ち
しおりを挟む
アルフレッド様と私の婚約が調ったとはいえ、
お父様はすぐに旅に出られるような体調ではなかった。
そのため、私の一学年の授業が終わるのを待って、
アントシュに戻ることになった。
学園で仲良くなったダイアナとアラベルに帰ることを伝えると、
二人とも泣き出してしまう。
「ど、どうしたの!?」
「だって……せっかくルーチェ様と仲良くなれましたのに」
「そうですわ~まだ二年あると思ってましたのよ」
「……ごめんなさい」
二人が私と過ごす二年間を楽しみにしてくれていたのだとわかり、
申し訳なく感じるけれど、どうしようもない。
どうしたら泣き止んでくれるか悩んでいたら、
二人は無理やり涙を止めるようににっこり笑った。
「では!残りの時間は一緒に楽しんでくださいますよね!」
「え、ええ」
「お茶会する約束、果たしてくださいね!」
「ええ、わかったわ」
二人も高位貴族として育てられている。
王族としての責任もわかっているから、これ以上のことは言わないでくれる。
本当に二人と仲良くなれてよかった。
そうでなかったら、ベルコヴァの貴族への印象は悪いままだったかもしれない。
夜会でも私のことを助けようと一生懸命だった。
国は離れてしまうけれど、ずっと友人でいてほしいと思う。
それからは残りの学園生活を惜しむように楽しみ、
宮に帰ってからはアルフレッド様との仲を深めていった。
私がアルフレッド様の宮にいることをお父様はあまりいい顔をしなかったけれど、
今さら違うベッドで寝ようとしても眠れる気がしない。
私のいないところでアルフレッド様がお父様たちから何か言われていたようだけど、
これだけはわがままを通させてもらった。
そして一学年の授業がすべて終わり、ベルコヴァを立つ日が来た。
アルフレッド様の宮で働いていた四十人の使用人たちは、
全員がアントシュへの移籍を願い出た。
それだけではなく、アントシュの戦いの時に派遣されていた騎士の半数近くが、
アルフレッド様の下につきたいと願い出たそうだ。
さすがにこれにはエッカルト様も苦笑いだったそうだけど、
結果的には全員の移籍が認められた。
出発前、ダイアナとアラベルと別れを惜しんでいると、
意外にもシンディ様が姿を見せた。
どうやらラウレンツ王子がシンディ様を引っ張って来たらしく、
シンディ様は嫌そうな顔をしている。
「ラウレンツ様、シンディ様、見送りに来てくれたの?」
「はい。せっかくお姉様が増えたのに、叔父様がルーチェ様を隠してしまうから、
あまり交流できなくて残念でした。
しかもアントシュに戻ってしまうなんて……本当に残念です」
「そうね、でもアントシュに戻っても、
ベルコヴァのことは忘れないし、ラウレンツ様のことは弟だと思っているわ」
「本当ですか!うれしいです。
あの、手紙を書いてもいいですか?」
「ええ、もちろんよ」
やったと喜んでいるラウレンツ様を微笑ましく見ていると、
シンディ様と目があった。
「何か言いたいことでも?」
「そうね……一応はルーチェ様はお父様の養女だったわけだし、
……お姉様って呼んであげてもいいのよ」
「ふふふ。呼んでくれるのならうれしいわ」
「本当に?私のこと嫌いでしょう?」
素直にうれしかったのだけど、シンディ様はそうは思わなかったようだ。
「いいえ?嫌われているなとは思っていたけれど、
私は嫌いになれなかったわ」
「どうして?」
「アルフレッド様を好きだっていう気持ちはわかるから。
同じ気持ちを持っているからか、嫌いにはなれなかったの。
ああ、わかるなぁって思ってしまって」
「恋敵だったのに、ずいぶんとお人好しなのね。
そんなんで女王になって大丈夫なの?」
「わからないけれど、頑張ってみるわ」
「そう……せいぜい頑張んなさいよね、お姉様」
「ええ、ありがとう」
恥かしそうな顔のシンディ様をラウレンツ様がにこにこ笑って見ている。
ここにいる間は仲良くなれなかったけれど、
最後は笑ってお別れできそう。
「ルーチェ、準備ができた」
「はーい」
少し離れたところからアルフレッド様が私を呼ぶ。
二人と話すつもりはないみたい。
シンディ様が悲しがるかと思ったけれど、平気そうな顔をしている。
もう吹っ切れたということなのかもしれない。
「それじゃあ、またね」
「ええ」
「お気をつけて!」
軽く手を振ってからアルフレッド様のもとへと向かう。
「笑顔だったな。何を話していたんだ?」
「お姉様、と呼んでもらえました」
「へぇ。そうか……よかったな」
「はい」
アルフレッド様の手を借りて馬車に乗る。
ここに最初に来た時とは違った思いで城を眺める。
「あの時、本当はすごく不安でした。
なのに、アルフレッド様に抱き上げられて謁見室まで連れて行かれて、
緊張だとかそんなのが吹き飛んだのを思い出します」
「そうか。懐かしいな」
馬車がゆっくりと動き出す。
手を振ってくれる皆に手を振り返す。
その手が疲れても、ずっと振っていたかった。
また会える日まで、どうか元気で。
お父様はすぐに旅に出られるような体調ではなかった。
そのため、私の一学年の授業が終わるのを待って、
アントシュに戻ることになった。
学園で仲良くなったダイアナとアラベルに帰ることを伝えると、
二人とも泣き出してしまう。
「ど、どうしたの!?」
「だって……せっかくルーチェ様と仲良くなれましたのに」
「そうですわ~まだ二年あると思ってましたのよ」
「……ごめんなさい」
二人が私と過ごす二年間を楽しみにしてくれていたのだとわかり、
申し訳なく感じるけれど、どうしようもない。
どうしたら泣き止んでくれるか悩んでいたら、
二人は無理やり涙を止めるようににっこり笑った。
「では!残りの時間は一緒に楽しんでくださいますよね!」
「え、ええ」
「お茶会する約束、果たしてくださいね!」
「ええ、わかったわ」
二人も高位貴族として育てられている。
王族としての責任もわかっているから、これ以上のことは言わないでくれる。
本当に二人と仲良くなれてよかった。
そうでなかったら、ベルコヴァの貴族への印象は悪いままだったかもしれない。
夜会でも私のことを助けようと一生懸命だった。
国は離れてしまうけれど、ずっと友人でいてほしいと思う。
それからは残りの学園生活を惜しむように楽しみ、
宮に帰ってからはアルフレッド様との仲を深めていった。
私がアルフレッド様の宮にいることをお父様はあまりいい顔をしなかったけれど、
今さら違うベッドで寝ようとしても眠れる気がしない。
私のいないところでアルフレッド様がお父様たちから何か言われていたようだけど、
これだけはわがままを通させてもらった。
そして一学年の授業がすべて終わり、ベルコヴァを立つ日が来た。
アルフレッド様の宮で働いていた四十人の使用人たちは、
全員がアントシュへの移籍を願い出た。
それだけではなく、アントシュの戦いの時に派遣されていた騎士の半数近くが、
アルフレッド様の下につきたいと願い出たそうだ。
さすがにこれにはエッカルト様も苦笑いだったそうだけど、
結果的には全員の移籍が認められた。
出発前、ダイアナとアラベルと別れを惜しんでいると、
意外にもシンディ様が姿を見せた。
どうやらラウレンツ王子がシンディ様を引っ張って来たらしく、
シンディ様は嫌そうな顔をしている。
「ラウレンツ様、シンディ様、見送りに来てくれたの?」
「はい。せっかくお姉様が増えたのに、叔父様がルーチェ様を隠してしまうから、
あまり交流できなくて残念でした。
しかもアントシュに戻ってしまうなんて……本当に残念です」
「そうね、でもアントシュに戻っても、
ベルコヴァのことは忘れないし、ラウレンツ様のことは弟だと思っているわ」
「本当ですか!うれしいです。
あの、手紙を書いてもいいですか?」
「ええ、もちろんよ」
やったと喜んでいるラウレンツ様を微笑ましく見ていると、
シンディ様と目があった。
「何か言いたいことでも?」
「そうね……一応はルーチェ様はお父様の養女だったわけだし、
……お姉様って呼んであげてもいいのよ」
「ふふふ。呼んでくれるのならうれしいわ」
「本当に?私のこと嫌いでしょう?」
素直にうれしかったのだけど、シンディ様はそうは思わなかったようだ。
「いいえ?嫌われているなとは思っていたけれど、
私は嫌いになれなかったわ」
「どうして?」
「アルフレッド様を好きだっていう気持ちはわかるから。
同じ気持ちを持っているからか、嫌いにはなれなかったの。
ああ、わかるなぁって思ってしまって」
「恋敵だったのに、ずいぶんとお人好しなのね。
そんなんで女王になって大丈夫なの?」
「わからないけれど、頑張ってみるわ」
「そう……せいぜい頑張んなさいよね、お姉様」
「ええ、ありがとう」
恥かしそうな顔のシンディ様をラウレンツ様がにこにこ笑って見ている。
ここにいる間は仲良くなれなかったけれど、
最後は笑ってお別れできそう。
「ルーチェ、準備ができた」
「はーい」
少し離れたところからアルフレッド様が私を呼ぶ。
二人と話すつもりはないみたい。
シンディ様が悲しがるかと思ったけれど、平気そうな顔をしている。
もう吹っ切れたということなのかもしれない。
「それじゃあ、またね」
「ええ」
「お気をつけて!」
軽く手を振ってからアルフレッド様のもとへと向かう。
「笑顔だったな。何を話していたんだ?」
「お姉様、と呼んでもらえました」
「へぇ。そうか……よかったな」
「はい」
アルフレッド様の手を借りて馬車に乗る。
ここに最初に来た時とは違った思いで城を眺める。
「あの時、本当はすごく不安でした。
なのに、アルフレッド様に抱き上げられて謁見室まで連れて行かれて、
緊張だとかそんなのが吹き飛んだのを思い出します」
「そうか。懐かしいな」
馬車がゆっくりと動き出す。
手を振ってくれる皆に手を振り返す。
その手が疲れても、ずっと振っていたかった。
また会える日まで、どうか元気で。
868
あなたにおすすめの小説
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる