52 / 57
52.運命
「お父様、ルーチェ様がアントシュの王女に戻って、
アル兄様と婚約するという噂を聞いたのだけど、本当?」
「ああ、本当だ」
「それって、ルーチェ様がアントシュを継ぐからよね?」
「……まぁ、そうだな」
「そう……」
何かを考え込むようなシンディ様を誰もが見ている。
いったい何をしに来たのだろう。
見ていたら、くるりとシンディ様は振り返って私を見た。
「ルーチェ様」
「え?何かしら」
「私と交換してちょうだい」
「……は?」
「私だって、その権利があるはずよね!
だって、私もアントシュの王女なのだから!」
生まれはそうかもしれないけれど……。
そのことについては何を言っていいかわからずお父様を見る。
「シンディ……あの時の子なのか」
「ええ、そうです、初めまして、本当のお父様」
「そうか、この子が……クラリスに似ているな……」
それは知らなかった。
シンディ様はお母様に似ているんだ。
さらさらした金色の髪。お母様もそうだったのかな。
ベルコヴァにはシンディ様の居場所はなくなってしまった。
だから、アントシュに戻ってやり直したいのかもしれないけれど、
お父様はどう判断するのだろう。
悩むような表情のお父様に声をかけたのはアルフレッド様だった。
「ダニエル国王、いいですか?」
「ああ、何かな」
「俺にシンディと話させてください」
「わかった」
私の隣にいたアルフレッド様がシンディ様の前に立つ。
それだけでシンディ様がうれしそうに笑ったのが見えた。
ああ、シンディ様は本当にアルフレッド様が好きだったんだ。
王妃様のせいでうまくいかなかったけれど、気持ちは本物だった。
「シンディ、俺はアントシュの王女と婚約したんじゃない。
ルーチェと、ルーチェだから婚約したんだ。
シンディがアントシュの王女に戻ったとしてもそれは変わらないよ」
「そんなの……だって、ずるいじゃない!」
「ずるい?」
「私たちは双子だったのに、ルーチェ様だけ本当のお父様とお兄様と暮らして、
その上、アル兄様と結婚するだなんてずるいわ!」
私はずるいのだろうか?
たしかにお父様とお兄様とは一緒に暮らせたけれど、
精霊が悪さをするかもしれないからと、幼い頃は会わせてもらえなかった。
私のそばにはリマと何人かの使用人だけ。
大きくなってようやく会えるようになったけれど、
それもクーデターで会えなくなって、リマと二人で閉じ込められていた。
「本当にずるいと思うのか?
精霊付きだからと自由になれなかったルーチェが」
いつもよりも低い声。
アルフレッド様が怒っている。
「精霊付きだから大事にされていたんでしょう?」
「精霊付きだから、閉じ込められていたんだ。
シンディはずっと自由で好きなことばかりしていたじゃないか」
「だけどっ!お母様も使用人たちも私を騙していたわ!
ルーチェ様のほうがずっとずっと幸せじゃない!」
どちらがと比べるのはどうかと思うけれど、
選べるのなら私は私でいたいと思うだろう。
そう思えるのは幸せなことなのかもしれない。
「アルフレッド様、私の代わりに怒ってくれてありがとう」
「ルーチェ……」
「シンディ様が苦しかったのだとしても、私が謝ることではないと思うわ。
だから、この立場を交換することはできないの」
「嫌よ!だって、アル兄様は私の運命の人なのよ!
お母様たちに言われたからじゃないわ!
自分でそう思ったから!」
「俺はシンディの運命の相手じゃない」
「っ!」
泣きそうな顔のシンディ様に本当は気づいているんじゃないのと聞きたい。
気づいていて、それでもあきらめたくないのでしょう、と。
でも、その前にアルフレッド様は終止符を打ってしまう。
「たとえ、シンディが俺の運命の相手だったとしても関係ない。
俺は、これが運命ではなかったとしてもルーチェを選ぶだろう」
「そんな……」
「俺はルーチェが好きなんだ。
シンディの運命の相手じゃなくて悪いな……」
泣き出してしまったシンディ様に罪悪感があるのか、
アルフレッド様の語尾は小さかった。
それでもちゃんと聞こえていたのか、シンディ様がぐいっと手で涙を拭いた。
「もういいわよ!アル兄様なんていらないわ!
ルーチェ様にあげるわよ!」
「あ、ありがとう?」
「……絶対に幸せにならなかったら許さないんだからね!」
「ええ、わかったわ」
真っ赤な顔したシンディ様はそれだけ言うと謁見室から出て行った。
それと同時にため息が聞こえる。
お父様とエッカルト様だった。
「エッカルト……」
「後でシンディとも話してもらえますか」
「ああ、ここまで守ってくれてありがとう」
「シンディは私が責任をもって育てます。
安心してください」
「ああ、これからもよろしく頼む」
もしかしたらシンディ様も連れて帰るのかもと思っていたけれど、
考えてみればシンディ様をアントシュの王女だとは言えないのだった。
連れて帰っても双子であることを公表すれば受け入れてもらえない。
そのくらいなら、ベルコヴァで過ごしていたほうが幸せかもしれない。
「とりあえず、シンディは納得したようだな」
「そうですね。アルフレッド様を幸せにしなかったら恨まれそうです」
「俺を?」
「シンディ様が大事なのはアルフレッド様ですから」
きっとシンディ様はアルフレッド様を幸せにしたかった。
方法は間違えていたけれど、その想いはわかる。
それはもしかしたら、私たちが双子だからなのかもしれない。
アル兄様と婚約するという噂を聞いたのだけど、本当?」
「ああ、本当だ」
「それって、ルーチェ様がアントシュを継ぐからよね?」
「……まぁ、そうだな」
「そう……」
何かを考え込むようなシンディ様を誰もが見ている。
いったい何をしに来たのだろう。
見ていたら、くるりとシンディ様は振り返って私を見た。
「ルーチェ様」
「え?何かしら」
「私と交換してちょうだい」
「……は?」
「私だって、その権利があるはずよね!
だって、私もアントシュの王女なのだから!」
生まれはそうかもしれないけれど……。
そのことについては何を言っていいかわからずお父様を見る。
「シンディ……あの時の子なのか」
「ええ、そうです、初めまして、本当のお父様」
「そうか、この子が……クラリスに似ているな……」
それは知らなかった。
シンディ様はお母様に似ているんだ。
さらさらした金色の髪。お母様もそうだったのかな。
ベルコヴァにはシンディ様の居場所はなくなってしまった。
だから、アントシュに戻ってやり直したいのかもしれないけれど、
お父様はどう判断するのだろう。
悩むような表情のお父様に声をかけたのはアルフレッド様だった。
「ダニエル国王、いいですか?」
「ああ、何かな」
「俺にシンディと話させてください」
「わかった」
私の隣にいたアルフレッド様がシンディ様の前に立つ。
それだけでシンディ様がうれしそうに笑ったのが見えた。
ああ、シンディ様は本当にアルフレッド様が好きだったんだ。
王妃様のせいでうまくいかなかったけれど、気持ちは本物だった。
「シンディ、俺はアントシュの王女と婚約したんじゃない。
ルーチェと、ルーチェだから婚約したんだ。
シンディがアントシュの王女に戻ったとしてもそれは変わらないよ」
「そんなの……だって、ずるいじゃない!」
「ずるい?」
「私たちは双子だったのに、ルーチェ様だけ本当のお父様とお兄様と暮らして、
その上、アル兄様と結婚するだなんてずるいわ!」
私はずるいのだろうか?
たしかにお父様とお兄様とは一緒に暮らせたけれど、
精霊が悪さをするかもしれないからと、幼い頃は会わせてもらえなかった。
私のそばにはリマと何人かの使用人だけ。
大きくなってようやく会えるようになったけれど、
それもクーデターで会えなくなって、リマと二人で閉じ込められていた。
「本当にずるいと思うのか?
精霊付きだからと自由になれなかったルーチェが」
いつもよりも低い声。
アルフレッド様が怒っている。
「精霊付きだから大事にされていたんでしょう?」
「精霊付きだから、閉じ込められていたんだ。
シンディはずっと自由で好きなことばかりしていたじゃないか」
「だけどっ!お母様も使用人たちも私を騙していたわ!
ルーチェ様のほうがずっとずっと幸せじゃない!」
どちらがと比べるのはどうかと思うけれど、
選べるのなら私は私でいたいと思うだろう。
そう思えるのは幸せなことなのかもしれない。
「アルフレッド様、私の代わりに怒ってくれてありがとう」
「ルーチェ……」
「シンディ様が苦しかったのだとしても、私が謝ることではないと思うわ。
だから、この立場を交換することはできないの」
「嫌よ!だって、アル兄様は私の運命の人なのよ!
お母様たちに言われたからじゃないわ!
自分でそう思ったから!」
「俺はシンディの運命の相手じゃない」
「っ!」
泣きそうな顔のシンディ様に本当は気づいているんじゃないのと聞きたい。
気づいていて、それでもあきらめたくないのでしょう、と。
でも、その前にアルフレッド様は終止符を打ってしまう。
「たとえ、シンディが俺の運命の相手だったとしても関係ない。
俺は、これが運命ではなかったとしてもルーチェを選ぶだろう」
「そんな……」
「俺はルーチェが好きなんだ。
シンディの運命の相手じゃなくて悪いな……」
泣き出してしまったシンディ様に罪悪感があるのか、
アルフレッド様の語尾は小さかった。
それでもちゃんと聞こえていたのか、シンディ様がぐいっと手で涙を拭いた。
「もういいわよ!アル兄様なんていらないわ!
ルーチェ様にあげるわよ!」
「あ、ありがとう?」
「……絶対に幸せにならなかったら許さないんだからね!」
「ええ、わかったわ」
真っ赤な顔したシンディ様はそれだけ言うと謁見室から出て行った。
それと同時にため息が聞こえる。
お父様とエッカルト様だった。
「エッカルト……」
「後でシンディとも話してもらえますか」
「ああ、ここまで守ってくれてありがとう」
「シンディは私が責任をもって育てます。
安心してください」
「ああ、これからもよろしく頼む」
もしかしたらシンディ様も連れて帰るのかもと思っていたけれど、
考えてみればシンディ様をアントシュの王女だとは言えないのだった。
連れて帰っても双子であることを公表すれば受け入れてもらえない。
そのくらいなら、ベルコヴァで過ごしていたほうが幸せかもしれない。
「とりあえず、シンディは納得したようだな」
「そうですね。アルフレッド様を幸せにしなかったら恨まれそうです」
「俺を?」
「シンディ様が大事なのはアルフレッド様ですから」
きっとシンディ様はアルフレッド様を幸せにしたかった。
方法は間違えていたけれど、その想いはわかる。
それはもしかしたら、私たちが双子だからなのかもしれない。
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。