聖女が落ちてきたので、私は王太子妃を辞退いたしますね?

gacchi(がっち)

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8.顔合わせ

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聖女様がマルセル様の婚約者になることを承諾してくれたので、
顔合わせは次の日に行われることになった。

書類上はその日のうちに作られ、国王の名で許可されている。
正式に婚約したことで、貴族には三日後に知らせがいくことになる。

これで少なくとも他の者が聖女様の婚約者に名乗り出ることはない。
あとはお互いに気に入ってくれることを祈るだけ。

次の日、私は昼過ぎに王宮へと向かった。

私は聖女様とマルセル様の顔合わせに立ち会う必要はないのだが、
聖女様がまた動揺してマルセル様に失礼なことを言ってしまわないように、
念のため立ち会うことにした。

用意された場所は中庭。
聖女様が落ちて来た池が見える場所だった。

王太子妃の部屋に入ると、可愛らしい桃色のドレスを着た聖女様は、
鏡の前でくるくると回り喜んでいる。

「すごい!こんなドレス初めて!!」

「とてもよく似合っていますね」

「あ、セレスティナ様、来てくれたんだ!ありがとう!
 でも、セレスティナ様はどうして地味なドレスなの?」

自分のドレスとの差が気になったのか、聖女様がじっと見て来る。

今日の私は深緑のすっきりとしたデザインのものだった。
これは聖女様を引き立てるためにわざと地味なものにしたのだが、
本人に言う必要はない。

「あまり目立つようなドレスは好きじゃないので」

「そうなんだ~セレスティナ様も可愛いのを着ればいいのに!」

「そうですね、そのうち着てみます」

つい一昨日までは聖女様が着ていたようなドレスも着ていた。
マルセル様が好きな、可愛らしいドレス。
しばらくは着たいと思えない。

「さて、行きましょうか。そろそろ時間です」

「あー緊張してきた。嫌いなタイプだったらどうしよう……」

「あかり様、もし嫌いだなと思ったとしても、
 顔には出さないでくださいね。話は後で聞きますから」

「そのくらいわかっているわ。
 本人に言うようなことはしないから安心して」

少しも安心できないけれど、時間だから連れて行かなくてはいけない。
聖女様と廊下にでると、後ろからルカスがついてくるのがわかる。

聖女様はこれから会うマルセル様のことで頭がいっぱいなのか、
後ろから護衛騎士がついてきても気づいていない。

顔合わせの場所に着いたら、マルセル様はまだのようだ。
待たせることなかったことで一応はほっとする。

「まだなのね……」

「座って待っていましょうか」

「ええ」

緊張しているのか、落ち着かない聖女様に座るように言うが、
すぐに立ち上がってうろうろとしている。

聖女様がすっかり待ちくたびれた頃、
マルセル様は約束した時間から一時間後にやってきた。

「待たせてすまないね。君があの時の聖女か」

「は、はいっ」

待たされて不機嫌そうな顔をしていた聖女様が、
マルセル様の顔を見て頬を上気させる。

この国の王族は容姿が良いことで知られている。
さらさらの長い金髪に切れ長の青目。小さな顔に長い手足。
歴代の聖女様たちは皆、麗しい王族に夢中になったと書かれていた。

今回の聖女様も同じようにマルセル様が気に入ったらしく、
両手を胸の前で握りしめるようにして目をうるませた。

「マルセルだ。よろしく頼む」

「あ、あかりです!」

「あかりか。名前も可愛らしいのだな」

「そんな、可愛いだなんて……」

マルセル様も聖女様を気に入ったようで、
腰を抱くようにして二人掛けの椅子に座る。

お互いに好みだったのか、あっという間に仲良く話している。
この分なら私が立ち会わなくてもよかったかもしれない。

マルセル様に見つかる前にそっとこの場を離れる。
王宮につながる渡り廊下まで来たところで、
ルカスが後ろからついて来ているのに気づく。

「ルカスはこちらに来てはダメでしょう?」

「あの場にはマルセル様付きの護衛がいました。
 セレスティナ様を一人にするわけにはいきません。
 馬車まで送らせてください」

「ありがとう」

肩の荷が下りた気持ちで足早になりそうだったけれど、
幸せをかみしめるようにゆっくりと歩く。

次の日から昼間は学園に行き、授業が終われば聖女様のところへ向かう。
マルセル様のことを話したがる聖女様を制して、
少しずつこの国の歴史や地理、礼儀作法などを教えていく。

幸いなことに聖女様は勉強が嫌いではないようで、
教えたことはすんなりと覚えてくれた。
これなら問題なく王妃になることができるだろう。

婚約解消から二週間。
今日も急いで王宮に向かおうとしたところ、後ろから呼び止められる。

「セレスティナ!」

「あら、ヴェルナー様」



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