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9.学園内のこと
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婚約解消から二週間。
今日も急いで王宮に向かおうとしたところ、後ろから呼び止められる。
「セレスティナ!」
「あら、ヴェルナー様」
「ど、どうして最近学生会室に来ないんだ?」
走って追いかけて来たらしい第二王子のヴェルナー様は
まだ息が苦しいのか真っ赤な顔をしている。
銀髪に緑目のヴェルナー様は陛下に似て、
切れ長の一重でまだ十六歳なのに色っぽさもある。
中身はしっかりしていて腹黒いところもあるのだが、
人前では見せていないためにおとなしい王子だと思われている。
「私が婚約解消されたのは知ってますよね?」
「ああ。ようやく解放されてよかったな」
「ええ、ですが、聖女様の教育係を任されていまして」
「は?教育係?」
「ええ。王太子妃になってもらわなくてはいけませんから」
もし王太子妃にできないと判断されてしまったら、
やはりセレスティナでなければと貴族たちに言われてしまいかねない。
そうならないためにも聖女様にはマルセル様を支えてもらって、
無事に結婚式まで迎えてもらわなくてはならない。
マルセル様が国王になることには不安があるが、
新しいことを決める時には議会の許可が必要になる。
その議会の中には私やヴェルナー様も出席する。
マルセル様がおかしなことを言い出したとしても止められるだろう。
「聖女の王太子妃教育……それで来なかったのか」
「しばらくは無理ですね」
「セレスティナがいないと俺だけで仕事しなくちゃいけなくなるんだが」
「それは大変でしょうけど、私は今年で卒業するんですよ?
そろそろ他の者を探しておかないとどちらにしても困ります」
「そうなんだが、兄上のせいでまともな者が入ってくれない」
「……卒業したら頑張って探してくださいね」
学生会に入っているのはマルセル様と私とヴェルナー様だけ。
本当はもっと人数を入れなくてはならないのだが、
令息が入るとマルセル様は気に入らないとやめさせてしまうし、
令嬢が入ると手を出してしまうので来なくなってしまう。
もともとマルセル様は遊んでばかりで仕事をしないので、
仕方なくヴェルナー様と二人だけで仕事をしていた。
おかげでヴェルナー様は義理の兄弟というよりは戦友のような仲になっている。
だが、それも卒業したら終わりだ。
あとは残るヴェルナー様になんとかしてもらうしかない。
「卒業したらって……お前、他人事だからって簡単に言うなよ」
「申し訳ありません。マルセル様も今年で卒業ですから。
いなくなれば楽になります。それまでの辛抱だと思ってください」
「学園では楽になるだろうが、兄上がおとなしくなるわけじゃない。
聖女と結婚するまであと二年もあるじゃないか。
もめなきゃいいんだが……」
結婚式は聖女様が成人してから。
マルセル様が卒業して二年も待てるだろうか。
こちらもその前に手を打っておかないとまずそうだ。
「とにかく、私はしばらく手伝えません。
がんばってください」
「聖女が落ちてきたのは喜ばしいが、
よけいな仕事も増えそうな気がするな」
「嫌なこと言わないでください」
ヴェルナー様は勘がするどいのか、たまにこういうことを言う。
お互いに励まし合いながら手を振って別れ、王宮へと向かう。
王太子妃の部屋に入ると、聖女様は私を待ち構えていた。
「遅いわ!待ってたんだから!」
「友人と話していたら遅れました。
そんなに待っていたんですか?」
「だって、私は日中することがないのよ!?」
私がいない時は女官に聞くように言ってあるのだが、
どうやら女官との仲がうまくいっていないらしい。
「自習していればいいじゃないですか」
「一人で勉強しているなんてつまんないもの。
そうだ!私も学園に行くわ!」
「え?」
「十六歳から学園に行けるんでしょう?
だったら、私も学園に行きたい。
どうせセレスティナに教わるのは授業が終わった後だもの。
問題ないわよね?」
「え……ええ」
学園に通うだけなら問題ないのだが……。
だけど、通いたいというのなら止めることもできない。
ヴェルナー様が言っていた嫌な予感はこういうことだろうか……。
今日も急いで王宮に向かおうとしたところ、後ろから呼び止められる。
「セレスティナ!」
「あら、ヴェルナー様」
「ど、どうして最近学生会室に来ないんだ?」
走って追いかけて来たらしい第二王子のヴェルナー様は
まだ息が苦しいのか真っ赤な顔をしている。
銀髪に緑目のヴェルナー様は陛下に似て、
切れ長の一重でまだ十六歳なのに色っぽさもある。
中身はしっかりしていて腹黒いところもあるのだが、
人前では見せていないためにおとなしい王子だと思われている。
「私が婚約解消されたのは知ってますよね?」
「ああ。ようやく解放されてよかったな」
「ええ、ですが、聖女様の教育係を任されていまして」
「は?教育係?」
「ええ。王太子妃になってもらわなくてはいけませんから」
もし王太子妃にできないと判断されてしまったら、
やはりセレスティナでなければと貴族たちに言われてしまいかねない。
そうならないためにも聖女様にはマルセル様を支えてもらって、
無事に結婚式まで迎えてもらわなくてはならない。
マルセル様が国王になることには不安があるが、
新しいことを決める時には議会の許可が必要になる。
その議会の中には私やヴェルナー様も出席する。
マルセル様がおかしなことを言い出したとしても止められるだろう。
「聖女の王太子妃教育……それで来なかったのか」
「しばらくは無理ですね」
「セレスティナがいないと俺だけで仕事しなくちゃいけなくなるんだが」
「それは大変でしょうけど、私は今年で卒業するんですよ?
そろそろ他の者を探しておかないとどちらにしても困ります」
「そうなんだが、兄上のせいでまともな者が入ってくれない」
「……卒業したら頑張って探してくださいね」
学生会に入っているのはマルセル様と私とヴェルナー様だけ。
本当はもっと人数を入れなくてはならないのだが、
令息が入るとマルセル様は気に入らないとやめさせてしまうし、
令嬢が入ると手を出してしまうので来なくなってしまう。
もともとマルセル様は遊んでばかりで仕事をしないので、
仕方なくヴェルナー様と二人だけで仕事をしていた。
おかげでヴェルナー様は義理の兄弟というよりは戦友のような仲になっている。
だが、それも卒業したら終わりだ。
あとは残るヴェルナー様になんとかしてもらうしかない。
「卒業したらって……お前、他人事だからって簡単に言うなよ」
「申し訳ありません。マルセル様も今年で卒業ですから。
いなくなれば楽になります。それまでの辛抱だと思ってください」
「学園では楽になるだろうが、兄上がおとなしくなるわけじゃない。
聖女と結婚するまであと二年もあるじゃないか。
もめなきゃいいんだが……」
結婚式は聖女様が成人してから。
マルセル様が卒業して二年も待てるだろうか。
こちらもその前に手を打っておかないとまずそうだ。
「とにかく、私はしばらく手伝えません。
がんばってください」
「聖女が落ちてきたのは喜ばしいが、
よけいな仕事も増えそうな気がするな」
「嫌なこと言わないでください」
ヴェルナー様は勘がするどいのか、たまにこういうことを言う。
お互いに励まし合いながら手を振って別れ、王宮へと向かう。
王太子妃の部屋に入ると、聖女様は私を待ち構えていた。
「遅いわ!待ってたんだから!」
「友人と話していたら遅れました。
そんなに待っていたんですか?」
「だって、私は日中することがないのよ!?」
私がいない時は女官に聞くように言ってあるのだが、
どうやら女官との仲がうまくいっていないらしい。
「自習していればいいじゃないですか」
「一人で勉強しているなんてつまんないもの。
そうだ!私も学園に行くわ!」
「え?」
「十六歳から学園に行けるんでしょう?
だったら、私も学園に行きたい。
どうせセレスティナに教わるのは授業が終わった後だもの。
問題ないわよね?」
「え……ええ」
学園に通うだけなら問題ないのだが……。
だけど、通いたいというのなら止めることもできない。
ヴェルナー様が言っていた嫌な予感はこういうことだろうか……。
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