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44.二人の企み
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ジネットとレベッカ様が魔術式を書き始める。
ジネットは火、レベッカ様は風。
同時に使われたら初期魔術でも危ない……。
どうしよう。走って逃げたとしても魔術の方が早い。
この状況で魔力が出せるかどうか試してみたけれど、やっぱり魔力は出せない。
どうしようと悩んでいる時間などなく、
二人の魔術が発動して私に爆炎が襲い掛かって来る。
もう無理だとあきらめて目を閉じた。
……なのに、何も起こらない。
爆炎で吹き飛ばされるはずなのにどうして。
目を開けたら半球の結界の中にいた。
結界の外で爆発したのか、外は煙だらけで見えない。
「どうして?」
「それは俺が言いたい。どうして俺を呼ばないんだ」
「え?」
怒りを抑えているような低い声と共に、後ろから腕を回され抱きしめられる。
この声を、抱きしめてくれる腕を間違えることはない。
「シリウス様……」
「どうして早く呼ばなかったんだ。
名前を呼べば気がつくと言ってあっただろう」
「あ、そうでした」
言われてみれば指輪をぶつけなくても名前を呼ぶだけでよかった。
自分が魔術を使えなくなって、思っていたよりも焦っていたようだ。
「でも、どうして名前を呼ばなくてもわかったんですか?」
「こいつが知らせてきた」
「え?」
こいつって、と指さされたところを見れば、
紫色の蝶がひらひらと飛んでいる。
「蝶?」
「髪飾りにしていたものだ。俺の使い魔」
「え?あの髪飾り、使い魔だったんですか?」
「指輪もそうだ」
「指輪も!?」
知らなかった。残された左手の指輪を見れば、
指輪は正体を見せてくれるように赤い目の白蛇になってから、
もう一度くるりと丸くなって指輪に戻った。
今思えば、シリウス様に出会って次の日には指輪を渡されていた。
私の体質を知ってから魔術具を作ったにしては早すぎる。
使い魔に命じて魔力を吸わせ、排出させていたのだろう。
「あ、申し訳ありません。もう一つの指輪を取られてしまって」
「心配ない。すぐに逃げ出して戻って来るだろう」
「そうですか……」
「逃げ出してくるときに一度くらい噛みついてくるかもな」
「噛みついて……」
白蛇に噛まれたら痛そうだなと思ったけれど、
人の指輪を勝手に持ち去るようなことをしたのだから、
そのくらい痛い目にあってもいいはずだ。
シリウス様が来てくれてほっとしたのはいいけれど、
結界の外は何度も魔術がぶつけられて爆発している。
どうやらジネットとレベッカ様は結界が見えていないらしい。
私への恨みが高じて、結果も見ずに何度も魔術をぶつけている。
魔術式はまだ間違って覚えていそうだけど、
何度も攻撃されていたら死んでいたかもしれない。
憎まれていたのはわかるけど、殺したいほどだったとは。
ため息をついたら、シリウス様に頭を撫でられる。
「あいつらはすぐに捕らえる。
指輪を盗んだものも。ナディアは何も心配しなくていい」
「ありがとうございます」
しばらくすると攻撃が止んだ。
煙が薄れていくと、肩で息をしている二人が見えた。
どうやら限界まで攻撃したせいで魔力切れを起こしている。
「な!?」
「どうして無事なのよ!」
「え、まさか、シリウス様!?」
「うそ、シリウス様が来るなんて……」
私が無事だったこととシリウス様がいることに気がついて、
怒っていた顔が急に真顔になって青ざめていく。
「お前たち、学園内でこんなことをしでかすとは呆れる。
どのくらい重い罪になるかわからないな」
「え……あの、そんなつもりはなくて」
「どんなつもりなのかはわからない。
平民が貴族に魔術を向けたら死罪になってもおかしくない。
覚悟するんだな」
「え……あの、アンペール侯爵家の養女になるので平民ではないです。
それにさっきのは魔術の訓練をしていただけで。
ナディアにぶつけるつもりはなかったんです」
「そんな言い訳が通用するとでも思っているのか。
ああ、衛兵が来たか」
「え?衛兵?どうして!」
「俺が呼んだからだ」
私を助けに来たのと同時に王宮に連絡して衛兵を呼んだらしい。
衛兵たちはジネットとレベッカ様に向かっていく。
「シリウス様!私たちは何も悪いことはしていません!」
「そうです!ナディアがそうしろって言ったから」
「ええ、そうです!ナディアが自分を被害者にしたいから、
私たちにそんなことを言ったんだと思います!」
今度は私のせいだと言い出すジネットとレベッカ様に、
衛兵たちが近づいて縄をかける。
その間もずっと言い訳を続けていたけれど、
シリウス様は一切聞く気がないようだ。
「ナディアに近づいた時点から今まで使い魔に声を記録させてある。
そのような言い逃れはできないと思え」
「声……そんな」
「いや……死罪なんて嫌よ!」
取り乱したレベッカ様が暴れそうになったけれど、
魔力切れを起こしているから力はない。
簡単に取り押さえられて連れて行かれる。
これで会うのは最後だと思い、後ろから声をかけた。
「レベッカ様は私を恨むんじゃなく、その思いを努力する方向に向けていたら、
卒業して王太子妃になれたかもしれないのにね。
ジネットもそれを普通に応援していればこんなことにはならなかったのに」
聞こえていたはずだけど、どちらからも返事はなかった。
ただうなだれたまま連れて行かれた。
ジネットは火、レベッカ様は風。
同時に使われたら初期魔術でも危ない……。
どうしよう。走って逃げたとしても魔術の方が早い。
この状況で魔力が出せるかどうか試してみたけれど、やっぱり魔力は出せない。
どうしようと悩んでいる時間などなく、
二人の魔術が発動して私に爆炎が襲い掛かって来る。
もう無理だとあきらめて目を閉じた。
……なのに、何も起こらない。
爆炎で吹き飛ばされるはずなのにどうして。
目を開けたら半球の結界の中にいた。
結界の外で爆発したのか、外は煙だらけで見えない。
「どうして?」
「それは俺が言いたい。どうして俺を呼ばないんだ」
「え?」
怒りを抑えているような低い声と共に、後ろから腕を回され抱きしめられる。
この声を、抱きしめてくれる腕を間違えることはない。
「シリウス様……」
「どうして早く呼ばなかったんだ。
名前を呼べば気がつくと言ってあっただろう」
「あ、そうでした」
言われてみれば指輪をぶつけなくても名前を呼ぶだけでよかった。
自分が魔術を使えなくなって、思っていたよりも焦っていたようだ。
「でも、どうして名前を呼ばなくてもわかったんですか?」
「こいつが知らせてきた」
「え?」
こいつって、と指さされたところを見れば、
紫色の蝶がひらひらと飛んでいる。
「蝶?」
「髪飾りにしていたものだ。俺の使い魔」
「え?あの髪飾り、使い魔だったんですか?」
「指輪もそうだ」
「指輪も!?」
知らなかった。残された左手の指輪を見れば、
指輪は正体を見せてくれるように赤い目の白蛇になってから、
もう一度くるりと丸くなって指輪に戻った。
今思えば、シリウス様に出会って次の日には指輪を渡されていた。
私の体質を知ってから魔術具を作ったにしては早すぎる。
使い魔に命じて魔力を吸わせ、排出させていたのだろう。
「あ、申し訳ありません。もう一つの指輪を取られてしまって」
「心配ない。すぐに逃げ出して戻って来るだろう」
「そうですか……」
「逃げ出してくるときに一度くらい噛みついてくるかもな」
「噛みついて……」
白蛇に噛まれたら痛そうだなと思ったけれど、
人の指輪を勝手に持ち去るようなことをしたのだから、
そのくらい痛い目にあってもいいはずだ。
シリウス様が来てくれてほっとしたのはいいけれど、
結界の外は何度も魔術がぶつけられて爆発している。
どうやらジネットとレベッカ様は結界が見えていないらしい。
私への恨みが高じて、結果も見ずに何度も魔術をぶつけている。
魔術式はまだ間違って覚えていそうだけど、
何度も攻撃されていたら死んでいたかもしれない。
憎まれていたのはわかるけど、殺したいほどだったとは。
ため息をついたら、シリウス様に頭を撫でられる。
「あいつらはすぐに捕らえる。
指輪を盗んだものも。ナディアは何も心配しなくていい」
「ありがとうございます」
しばらくすると攻撃が止んだ。
煙が薄れていくと、肩で息をしている二人が見えた。
どうやら限界まで攻撃したせいで魔力切れを起こしている。
「な!?」
「どうして無事なのよ!」
「え、まさか、シリウス様!?」
「うそ、シリウス様が来るなんて……」
私が無事だったこととシリウス様がいることに気がついて、
怒っていた顔が急に真顔になって青ざめていく。
「お前たち、学園内でこんなことをしでかすとは呆れる。
どのくらい重い罪になるかわからないな」
「え……あの、そんなつもりはなくて」
「どんなつもりなのかはわからない。
平民が貴族に魔術を向けたら死罪になってもおかしくない。
覚悟するんだな」
「え……あの、アンペール侯爵家の養女になるので平民ではないです。
それにさっきのは魔術の訓練をしていただけで。
ナディアにぶつけるつもりはなかったんです」
「そんな言い訳が通用するとでも思っているのか。
ああ、衛兵が来たか」
「え?衛兵?どうして!」
「俺が呼んだからだ」
私を助けに来たのと同時に王宮に連絡して衛兵を呼んだらしい。
衛兵たちはジネットとレベッカ様に向かっていく。
「シリウス様!私たちは何も悪いことはしていません!」
「そうです!ナディアがそうしろって言ったから」
「ええ、そうです!ナディアが自分を被害者にしたいから、
私たちにそんなことを言ったんだと思います!」
今度は私のせいだと言い出すジネットとレベッカ様に、
衛兵たちが近づいて縄をかける。
その間もずっと言い訳を続けていたけれど、
シリウス様は一切聞く気がないようだ。
「ナディアに近づいた時点から今まで使い魔に声を記録させてある。
そのような言い逃れはできないと思え」
「声……そんな」
「いや……死罪なんて嫌よ!」
取り乱したレベッカ様が暴れそうになったけれど、
魔力切れを起こしているから力はない。
簡単に取り押さえられて連れて行かれる。
これで会うのは最後だと思い、後ろから声をかけた。
「レベッカ様は私を恨むんじゃなく、その思いを努力する方向に向けていたら、
卒業して王太子妃になれたかもしれないのにね。
ジネットもそれを普通に応援していればこんなことにはならなかったのに」
聞こえていたはずだけど、どちらからも返事はなかった。
ただうなだれたまま連れて行かれた。
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