その手をとって、反撃を

gacchi(がっち)

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43.卒業式

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卒業式、私が優秀学生に選ばれるとは思わなかった。
卒業生の中で一番優秀な学生に贈られるもので、
その中でも優秀だと認められたら最優秀学生という賞になる。

最優秀学生は三年間すべての教科で一番だった時に贈られるもので、
女生徒が最優秀学生に選ばれたことはない。

本当なら保護者席にお父様を呼びたいけれど、
まだ体調が戻っていないために難しく、空席のまま卒業式は進む。

クラデル侯爵とシリウス様が参列すると言ってくれたのだけど、
二人が席に座っていたら貴族たちが押し寄せてしまう可能性がある。
卒業式をだいなしにしないために、学園長は講堂の控室を用意してくれた。
控室からは卒業式の様子が見えるようになっているらしい。

私からは見えないけれど、シリウス様が見守ってくれている。
そう思うと心強く、まっすぐ前を見て優秀学生として表彰される。

無事に卒業式を終え、講堂から卒業生が退室する。
混むのが嫌なので少し人が少なくなってから退室しようとした。
講堂の外に出た途端、ななめ後ろから誰かにぶつかってこられる。

「きゃあ」

押された勢いで倒れそうになったけれど、なんとか踏みとどまる。
私にぶつかった人はそのまま謝りもせずに駆けていく。
後姿を見れば女生徒のようだ。

「急いでいるのかもしれないけど、謝りもしないなんて」

ぶつかった場所をさすりながらつぶやいて、違和感に気がつく。
右手にはめていた指輪がない。

「え?どうして?落としちゃったの?」

足元を見ても指輪は落ちていない。
まさか、今ぶつかった女生徒が持って行った?

あれがないと困る!
急いで女生徒の後を追うと、校舎のほうに走っていく後姿が見えた。

「待って!」

叫んでも聞こえないのか女生徒は止まってくれない。
仕方なく追いかけていくと、外の訓練場についた。

広い訓練場の真ん中で、やっと女生徒が止まったと思ったら振り返る。
薄茶色の髪をゆるく巻いた、しっかりと化粧をした顔。
どこかで見たことがあると思ったら、この女生徒はミリアの異母妹だ。
名前はルーミアだったはず。

「あなた、一年のルーミア・ポワズよね?
 さっき私とぶつかった時に指輪を持って行かなかった?」

「へー?私のこと知っているんだ?指輪ってこれのこと?」

ルーミアは私を馬鹿にするような笑い方をして、
光にかざすように取り出した指輪を見た。

「そう、その指輪。返してくれる?」

「嫌よ」

「は?」
 
ルーミアはにっこり笑うと、私の後ろを見る。
後ろに何があるというの?

「これでいいんですよね?ジネット様」

「ええ、ありがとう。助かったわ」

「え?」

振り返ったら、そこにはジネットとレベッカ様がいた。

「レベッカ様?どうしてここに?」

「あんたにどうしても仕返しがしたくて来たのよ。
 卒業できなくなったし……私が優秀学生になるはずだったのに」

「退学にならなくても選ばれなかったと思うけど?」

「うるさい!全部あんたが悪いんじゃない!
 最初からあんたがいなかったら全部うまくいったのに!」

「まだそんなことを言っているの……呆れるわ。
 もう貴族でもなくなったのに、こんなところにいたら捕まるわよ」

今のレベッカ様は学園を退学になった学生で平民だ。
つかまったらただでは済まない。

「それは大丈夫よ。うちの養女にするから」

「養女?」

「ええ。もともとレベッカお姉様とは従姉妹だし。
 姉妹になっても問題ないもの」

アンペール侯爵家の養女にしようとしているらしいが、それは無理な話だ。
お父様が回復したら陛下に婚姻無効を訴えることになっている。

実際に夫婦としての生活は皆無だったそうなので、
問題なく婚姻無効が認められるとの話だった。
たとえ問題があってもクラデル侯爵とシリウス様がなんとかするだろうけど。

そうなればお義母様とジネットもアンペール侯爵家から追い出される。
行先はモフロワ公爵家くらいだろうけど、
そちらのほうもお父様の監禁の件で訴えるそうなので、
お義母様とジネット、元バラチエ侯爵夫人とレベッカ様を、
受け入れられるかどうかは疑問だ。

「そんなことはどうでもいいのよ。
 ねぇ、その指輪大事なものなんでしょう?」

「そうよ」

「その指輪がなければ魔術が使えないって本当?」

「!?」

「ふうん。本当なんだぁ」

うれしそうにジネットとレベッカ様が笑う。
まさかそのためにルーミアに指輪を奪わせたの?
どうしよう。あの指輪がなければ魔術を使えない。
魔術さえ使えれば、二人が相手でも怖くないのに。

指輪が二つなければシリウス様を呼ぶこともできない。

「あー楽しい。どうやって甚振ろうかしら」

「燃やしちゃう?それとも切り刻む?」

「……そんなことをしたら、あなたたち捕まるわよ?」

「そんなのあんたが言えなくなれば誰のせいかわからないじゃない」

「殺す気?」

「もちろん」

ジネットとレベッカ様が魔術式を書き始める。
ジネットは火、レベッカ様は風。
同時に使われたら初期魔術でも危ない……。

どうしよう。走って逃げたとしても魔術の方が早い。
この状況で魔力が出せるかどうか試してみたけれど、やっぱり魔力は出せない。

悩んでいる時間などなく、
二人の魔術が発動して私に爆炎が襲い掛かって来る。

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