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42.落ち着かない
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いつまでもぼうっとして動かない私に、
ミリアが心配して声をかけた。
「ナディア様?何かあったのですか?」
「あ、うん。あのね……」
今日は王宮に話をしに行くだけだったはずなのに、
気がついたらシリウス様の部屋で求婚されて、
クラデル侯爵に初めて会えたと思えばお父様のところへ。
今思えばとてつもなく大変な一日だった気がする。
それらをミリアに説明すれば、疲れを癒すお茶を淹れてくれる。
「ありがとう……少し落ち着いたわ」
「はい、お食事をお持ちしますね」
「ええ」
食事などをして寝る用意をして寝室に入ると、
シリウス様といた時間を思い出す。
口づけをされたことを思い出しながら唇にふれると、
また顔が熱くなってくる。
シリウス様に女性として求められていることがうれしくて、
でもその要求にきちんと応えられたのかと不安になる。
私が子ども過ぎてあきられたらどうしよう。
布団にもぐりこんでも眠くなれず、
シリウス様のことばかり考えてしまう。
「シリウス様……」
いないのに名前を呼んでしまったら、
空間がぐらりとゆるれるのを感じた。
「え?」
まさかと思ったけれど、そこにはシリウス様がいた。
「どうかしたのか?」
「え?どうして?」
「名前を呼ばれたと思ったんだが、違うか?」
「……違わないですけど、どうしてわかったんですか?」
「……なんとなくだ」
なんとなくで離れているのに名前を呼んだだけで気がつくのだろうか?
疑問に思ったけれど、シリウス様は答えてくれなさそうなので聞くのは止めた。
「眠れないのか?」
「はい。いろんなことがあったからか落ち着かなくて」
「そうか。……寝るまでここにいる」
「寝るまで?」
起き上がった私を寝かせると髪を撫でてくれる。
ゆっくりと落ち着かせるような優しい手にうっとりするけれど、
寝かしつけようとしているのだろうか。
このまま寝たらシリウス様は帰ってしまう。
そう思うけれど、シリウス様は何か魔術でも使ったのか、
気がついたら朝になっていた。
当然、シリウス様の姿もなかったけれど、
枕元には紫色の蝶の形をした髪飾りが置かれていた。
「シリウス様からの贈り物かしら」
シリウス様がいなかったさみしさが少しだけ薄れて、
髪飾りを持って寝室を出た。
食事の後、髪を結ってくれるミリアに髪飾りを渡し、
つけてくれるようにお願いする。
「綺麗な髪飾りですね」
「そうね。とても綺麗」
「シリウス様の色ですね」
言われてみればシリウス様の目の色だった。
婚約者に自分の色の装飾品を贈るのは普通のことだが、
ロドルフ様に贈り物をされたことはない。
初めての婚約者からの贈り物がうれしくて、
頬が緩んでどうしても笑ってしまう。
その日、昼の休憩時間になって迎えに来たのは、
ミリアではなくシリウス様だった。
カフェテリアではなく、教室まで迎えに来るなんて。
「急ぎの用ですか?」
「いや、一緒に食事をしようと思った。嫌か?」
「いえ、うれしいです」
「では、行こう」
シリウス様が私の手を取ってつなぐ。
そのまま教室から出て行くのを周りが驚いて見ている。
廊下でもカフェテリアでもそれは続き、
あっという間に私とシリウス様が婚約したという話は広まっていった。
それからは毎日シリウス様が迎えに来て一緒に昼食を取り、
眠る時は寝かしつけに来てくれるようになった。
今までとはあきらかに違う対応に、
クラデル侯爵が言っていたのはこういうことかと納得する。
特に困ることはないのでそのままシリウス様に甘えていたら、
貴族社会にも私たちの婚約の話が広まったらしい。
婚約してから一か月、マルセル様が王太子になることが発表された。
ロドルフ様が王太子にならなくてほっとしていると、
マルセル様から手紙が届いた。
どうやら私とシリウス様が婚約したことを知った陛下が、
これ以上ロドルフ様が何かしでかさないためにも、
マルセル様を王太子に指名したらしい。
たしかにお父様と約束したことを守らなかったことだけでも、
クラデル侯爵とシリウス様は怒っていた。
また私と婚約したいと言い出したこともあるし、
ロドルフ様を私に会わせることは二度とないと思う。
マルセル様もそれはわかっているのか、
ロドルフ様から王子の権限を一切取り上げ、
王宮から出ることを禁じたらしい。
陛下はシリウス様を怒らせたかもしれないと怯えて暮らしているそうで、
噂ではマルセル様に譲位するのも時間の問題だとか。
卒業まであと少し。
ロドルフ様もレベッカ様もいない学園は快適で、
午前中の授業以外はほとんどをシリウス様と過ごしている。
卒業したらすぐに結婚することが決まっているし、
ミリアはシリウス様の屋敷で私の専属侍女として雇われることになっている。
シリウス様と出会う前は憂鬱なだけの毎日だった。
それがこんなにも楽しくて幸せな毎日に変わるとは思っていなかった。
最後の学園生活もしっかり楽しんで、
そして迎えた卒業式。
私が卒業生の代表として優秀学生表彰されることになった。
ミリアが心配して声をかけた。
「ナディア様?何かあったのですか?」
「あ、うん。あのね……」
今日は王宮に話をしに行くだけだったはずなのに、
気がついたらシリウス様の部屋で求婚されて、
クラデル侯爵に初めて会えたと思えばお父様のところへ。
今思えばとてつもなく大変な一日だった気がする。
それらをミリアに説明すれば、疲れを癒すお茶を淹れてくれる。
「ありがとう……少し落ち着いたわ」
「はい、お食事をお持ちしますね」
「ええ」
食事などをして寝る用意をして寝室に入ると、
シリウス様といた時間を思い出す。
口づけをされたことを思い出しながら唇にふれると、
また顔が熱くなってくる。
シリウス様に女性として求められていることがうれしくて、
でもその要求にきちんと応えられたのかと不安になる。
私が子ども過ぎてあきられたらどうしよう。
布団にもぐりこんでも眠くなれず、
シリウス様のことばかり考えてしまう。
「シリウス様……」
いないのに名前を呼んでしまったら、
空間がぐらりとゆるれるのを感じた。
「え?」
まさかと思ったけれど、そこにはシリウス様がいた。
「どうかしたのか?」
「え?どうして?」
「名前を呼ばれたと思ったんだが、違うか?」
「……違わないですけど、どうしてわかったんですか?」
「……なんとなくだ」
なんとなくで離れているのに名前を呼んだだけで気がつくのだろうか?
疑問に思ったけれど、シリウス様は答えてくれなさそうなので聞くのは止めた。
「眠れないのか?」
「はい。いろんなことがあったからか落ち着かなくて」
「そうか。……寝るまでここにいる」
「寝るまで?」
起き上がった私を寝かせると髪を撫でてくれる。
ゆっくりと落ち着かせるような優しい手にうっとりするけれど、
寝かしつけようとしているのだろうか。
このまま寝たらシリウス様は帰ってしまう。
そう思うけれど、シリウス様は何か魔術でも使ったのか、
気がついたら朝になっていた。
当然、シリウス様の姿もなかったけれど、
枕元には紫色の蝶の形をした髪飾りが置かれていた。
「シリウス様からの贈り物かしら」
シリウス様がいなかったさみしさが少しだけ薄れて、
髪飾りを持って寝室を出た。
食事の後、髪を結ってくれるミリアに髪飾りを渡し、
つけてくれるようにお願いする。
「綺麗な髪飾りですね」
「そうね。とても綺麗」
「シリウス様の色ですね」
言われてみればシリウス様の目の色だった。
婚約者に自分の色の装飾品を贈るのは普通のことだが、
ロドルフ様に贈り物をされたことはない。
初めての婚約者からの贈り物がうれしくて、
頬が緩んでどうしても笑ってしまう。
その日、昼の休憩時間になって迎えに来たのは、
ミリアではなくシリウス様だった。
カフェテリアではなく、教室まで迎えに来るなんて。
「急ぎの用ですか?」
「いや、一緒に食事をしようと思った。嫌か?」
「いえ、うれしいです」
「では、行こう」
シリウス様が私の手を取ってつなぐ。
そのまま教室から出て行くのを周りが驚いて見ている。
廊下でもカフェテリアでもそれは続き、
あっという間に私とシリウス様が婚約したという話は広まっていった。
それからは毎日シリウス様が迎えに来て一緒に昼食を取り、
眠る時は寝かしつけに来てくれるようになった。
今までとはあきらかに違う対応に、
クラデル侯爵が言っていたのはこういうことかと納得する。
特に困ることはないのでそのままシリウス様に甘えていたら、
貴族社会にも私たちの婚約の話が広まったらしい。
婚約してから一か月、マルセル様が王太子になることが発表された。
ロドルフ様が王太子にならなくてほっとしていると、
マルセル様から手紙が届いた。
どうやら私とシリウス様が婚約したことを知った陛下が、
これ以上ロドルフ様が何かしでかさないためにも、
マルセル様を王太子に指名したらしい。
たしかにお父様と約束したことを守らなかったことだけでも、
クラデル侯爵とシリウス様は怒っていた。
また私と婚約したいと言い出したこともあるし、
ロドルフ様を私に会わせることは二度とないと思う。
マルセル様もそれはわかっているのか、
ロドルフ様から王子の権限を一切取り上げ、
王宮から出ることを禁じたらしい。
陛下はシリウス様を怒らせたかもしれないと怯えて暮らしているそうで、
噂ではマルセル様に譲位するのも時間の問題だとか。
卒業まであと少し。
ロドルフ様もレベッカ様もいない学園は快適で、
午前中の授業以外はほとんどをシリウス様と過ごしている。
卒業したらすぐに結婚することが決まっているし、
ミリアはシリウス様の屋敷で私の専属侍女として雇われることになっている。
シリウス様と出会う前は憂鬱なだけの毎日だった。
それがこんなにも楽しくて幸せな毎日に変わるとは思っていなかった。
最後の学園生活もしっかり楽しんで、
そして迎えた卒業式。
私が卒業生の代表として優秀学生表彰されることになった。
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