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52.報告
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使用人たちに囲まれ、爪の手入れを終えたと思ったら、
シリウス様が私を迎えにきた。
「中庭にお茶の用意をさせてある。行こう」
「はい」
結婚準備のためになかなかシリウス様と過ごす時間もなかったせいか、
抱き上げられて連れて行かれるのが少し恥ずかしくなる。
間近で見るシリウス様に見惚れていたら、
私の視線に気がついたシリウス様に微笑まれる。
「どうかしたか?」
「いえ、こうして近くにいるのが久しぶりな気がして」
「そうだな。あまり一緒にいられないからな。
それもあと数日のことだ」
「……はい」
四日後にはシリウス様と結婚することになる。
特にお披露目をすることもなく、初夜を迎えるだけなのは、
元魔術師の塔の管理人として必要以上に社交をしたくないシリウス様と、
社交界で嫌われていて友人がいなかった私のせいだ。
友人と呼んでもいいのは王太子マルセル様とミリアくらい。
どちらもお披露目に呼ぶには身分が問題になる。
知らない貴族たちを呼んでお披露目するくらいなら、
しないほうがいいとシリウス様と相談して決めた。
中庭にはテーブルとソファが置かれてあった。
ソファは三人掛けのものが一つだけ。
シリウス様は私をソファに座らせると、そのすぐ隣に座る。
その重みでシリウス様に寄りかかるようになると、
私の肩に腕を回して安定させてくれた。
日差しが直接にあたらないように布が張られた下で、
心地よい風が吹き抜けていく。
その中でシリウス様の胸にもたれかかるようにして、
お茶の用意がされるのを待つ。
こんなに幸せでいいのかしらと
ふと思ってしまう。
シリウス様は私の髪をゆっくりと撫でた後、
少しだけ嫌そうに口を開いた。
「あやつらの報告が来たぞ」
「ああ、もうそんなになるんですね。
……十日過ぎましたか」
「そうだな。思ったよりも時間がかかった。
報告を聞くか?」
「お願いします」
アンペール侯爵家を乗っ取っていたお義母様とジネット。
それに手を貸していたモフロワ公爵家と、
お義母様の姉であるバラチエ侯爵夫人、そして私に嫌がらせを続けていたレベッカ。
一緒にルーミアがいたのは想定外だったけれど。
五人とモフロワ公爵家の報告は聞きたいと思っていた。
「まず、夫人の二人は隣国に送られた」
「隣国ですか?」
「この国に居たら手を貸す者もいるかもしれないからな。
一応は元公爵令嬢で社交界を牛耳っていた二人だ。
どこで力をつけるかわからない。
だから、あの二人を一番憎んでいるだろう人間がいる国に送った」
「一番憎んでいる……?」
「バラチエ侯爵夫人が陛下の元婚約者なのは知っているだろう?
もう一人婚約者候補だった者を蹴落とすのに卑怯な手を使ったらしい。
そのせいでその令嬢はこの国で嫁ぐことができず、
隣国の侯爵家に後妻として嫁いでいる。
まぁ、今は嫡子を産んで幸せに暮らしているようだが、
過去のできごとを知った嫁ぎ先の侯爵が二人を恨んでいた」
「卑怯な手……あれは母親の教えでしたか」
レベッカとジネットは夜会の最中に私を呼び出し、
数人の令息に襲わせようとしていた。
婚約者を襲わせることに同意したロドルフ様もどうかと思うけれど、
そんなことを企むレベッカ様に呆れていた。
おそらく夫人二人が共謀して、陛下の婚約者候補を蹴落とした。
傷ついた令嬢が隣国で今は幸せになっているとしても、
大事な妻を傷つけられた過去を侯爵は許していないに違いない。
「二人は声が出せないようにされた上で、
貴族相手の娼婦として使われているようだ」
「貴族相手ですか?」
「モフロワ公爵家、バラチエ侯爵家に恨みを持つ者は多い。
自分が誰なのかわかっている相手に、
娼婦として扱われるのは屈辱だろう」
「それはそうですね。
でも、自分たちがしたことの恨みが返ってきているのなら、
それは仕方ないですよね」
高貴な生まれ、高貴な育ち、
誰よりも自分たちが上の存在だと疑うこともなかった二人。
娼婦として扱われて何を思っているのかわからないが、
反省することはないような気がした。
「残りの三人はまだ国内にいるのですか?」
「ルーミアはポワズ子爵家に戻ったが、
ちょうど借金取りが来ている時に戻ったらしく、
両親に売られて娼館に行ったようだ」
「……見捨てられたのに家に戻ったんですか?」
ルーミアの罪は、ポワズ家がすべてを差し出すのなら許すと言ってあった。
それを受け入れることなくルーミアを見捨てたのに、
どうしてポワズ家に帰ったのかわからない。
「見捨てられたのは嘘だと思ったらしい。
商業ギルドから娼館に行っていればまだ借金はなかったのにな」
「借金の肩代わりになっているのですか。
では、ポワズ子爵家は?」
「娘一人で払いきれるわけないだろう。
父親は借金奴隷に、母親は別の娼館に売られたようだな」
「そこまで借金を?」
「ミリアがクラデル侯爵家の使用人になったことを吹聴して、
新しい事業を複数の貴族に持ち掛けていたらしい」
「は?」
ミリアは卒業までは便宜上ポワズ家を名乗ってはいたが、
クラデル侯爵家の使用人になった時にポワズ家の籍は抜けていた。
今まで先妻の娘だからと使用人扱いして、
娘だとは思っていなかったくせに利用しようとしていたとは。
「そう怒るな。そのおかげで子爵家は自滅するのが早かった。
これも自業自得というやつだろう」
「……それもそうですね」
ただ単にクラデル侯爵家に嫌われただけなら、
借金を抱えることなく爵位と領地の返上だけで済んでいただろうに。
虐げていたミリアを利用しようとしたからそんな目にあうのだ。
そのこと自体にはたしかに満足する。
「そして、ルーミアが売られた娼館に、
商業ギルドから紹介されてジネットとレベッカが来た」
「……ふふふ」
思わず笑ってしまう。
あの二人が自ら娼婦に落ちたのがおかしくて仕方ない。
シリウス様が私を迎えにきた。
「中庭にお茶の用意をさせてある。行こう」
「はい」
結婚準備のためになかなかシリウス様と過ごす時間もなかったせいか、
抱き上げられて連れて行かれるのが少し恥ずかしくなる。
間近で見るシリウス様に見惚れていたら、
私の視線に気がついたシリウス様に微笑まれる。
「どうかしたか?」
「いえ、こうして近くにいるのが久しぶりな気がして」
「そうだな。あまり一緒にいられないからな。
それもあと数日のことだ」
「……はい」
四日後にはシリウス様と結婚することになる。
特にお披露目をすることもなく、初夜を迎えるだけなのは、
元魔術師の塔の管理人として必要以上に社交をしたくないシリウス様と、
社交界で嫌われていて友人がいなかった私のせいだ。
友人と呼んでもいいのは王太子マルセル様とミリアくらい。
どちらもお披露目に呼ぶには身分が問題になる。
知らない貴族たちを呼んでお披露目するくらいなら、
しないほうがいいとシリウス様と相談して決めた。
中庭にはテーブルとソファが置かれてあった。
ソファは三人掛けのものが一つだけ。
シリウス様は私をソファに座らせると、そのすぐ隣に座る。
その重みでシリウス様に寄りかかるようになると、
私の肩に腕を回して安定させてくれた。
日差しが直接にあたらないように布が張られた下で、
心地よい風が吹き抜けていく。
その中でシリウス様の胸にもたれかかるようにして、
お茶の用意がされるのを待つ。
こんなに幸せでいいのかしらと
ふと思ってしまう。
シリウス様は私の髪をゆっくりと撫でた後、
少しだけ嫌そうに口を開いた。
「あやつらの報告が来たぞ」
「ああ、もうそんなになるんですね。
……十日過ぎましたか」
「そうだな。思ったよりも時間がかかった。
報告を聞くか?」
「お願いします」
アンペール侯爵家を乗っ取っていたお義母様とジネット。
それに手を貸していたモフロワ公爵家と、
お義母様の姉であるバラチエ侯爵夫人、そして私に嫌がらせを続けていたレベッカ。
一緒にルーミアがいたのは想定外だったけれど。
五人とモフロワ公爵家の報告は聞きたいと思っていた。
「まず、夫人の二人は隣国に送られた」
「隣国ですか?」
「この国に居たら手を貸す者もいるかもしれないからな。
一応は元公爵令嬢で社交界を牛耳っていた二人だ。
どこで力をつけるかわからない。
だから、あの二人を一番憎んでいるだろう人間がいる国に送った」
「一番憎んでいる……?」
「バラチエ侯爵夫人が陛下の元婚約者なのは知っているだろう?
もう一人婚約者候補だった者を蹴落とすのに卑怯な手を使ったらしい。
そのせいでその令嬢はこの国で嫁ぐことができず、
隣国の侯爵家に後妻として嫁いでいる。
まぁ、今は嫡子を産んで幸せに暮らしているようだが、
過去のできごとを知った嫁ぎ先の侯爵が二人を恨んでいた」
「卑怯な手……あれは母親の教えでしたか」
レベッカとジネットは夜会の最中に私を呼び出し、
数人の令息に襲わせようとしていた。
婚約者を襲わせることに同意したロドルフ様もどうかと思うけれど、
そんなことを企むレベッカ様に呆れていた。
おそらく夫人二人が共謀して、陛下の婚約者候補を蹴落とした。
傷ついた令嬢が隣国で今は幸せになっているとしても、
大事な妻を傷つけられた過去を侯爵は許していないに違いない。
「二人は声が出せないようにされた上で、
貴族相手の娼婦として使われているようだ」
「貴族相手ですか?」
「モフロワ公爵家、バラチエ侯爵家に恨みを持つ者は多い。
自分が誰なのかわかっている相手に、
娼婦として扱われるのは屈辱だろう」
「それはそうですね。
でも、自分たちがしたことの恨みが返ってきているのなら、
それは仕方ないですよね」
高貴な生まれ、高貴な育ち、
誰よりも自分たちが上の存在だと疑うこともなかった二人。
娼婦として扱われて何を思っているのかわからないが、
反省することはないような気がした。
「残りの三人はまだ国内にいるのですか?」
「ルーミアはポワズ子爵家に戻ったが、
ちょうど借金取りが来ている時に戻ったらしく、
両親に売られて娼館に行ったようだ」
「……見捨てられたのに家に戻ったんですか?」
ルーミアの罪は、ポワズ家がすべてを差し出すのなら許すと言ってあった。
それを受け入れることなくルーミアを見捨てたのに、
どうしてポワズ家に帰ったのかわからない。
「見捨てられたのは嘘だと思ったらしい。
商業ギルドから娼館に行っていればまだ借金はなかったのにな」
「借金の肩代わりになっているのですか。
では、ポワズ子爵家は?」
「娘一人で払いきれるわけないだろう。
父親は借金奴隷に、母親は別の娼館に売られたようだな」
「そこまで借金を?」
「ミリアがクラデル侯爵家の使用人になったことを吹聴して、
新しい事業を複数の貴族に持ち掛けていたらしい」
「は?」
ミリアは卒業までは便宜上ポワズ家を名乗ってはいたが、
クラデル侯爵家の使用人になった時にポワズ家の籍は抜けていた。
今まで先妻の娘だからと使用人扱いして、
娘だとは思っていなかったくせに利用しようとしていたとは。
「そう怒るな。そのおかげで子爵家は自滅するのが早かった。
これも自業自得というやつだろう」
「……それもそうですね」
ただ単にクラデル侯爵家に嫌われただけなら、
借金を抱えることなく爵位と領地の返上だけで済んでいただろうに。
虐げていたミリアを利用しようとしたからそんな目にあうのだ。
そのこと自体にはたしかに満足する。
「そして、ルーミアが売られた娼館に、
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