王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)

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31.回想 令嬢との対決

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「で、どうやってその令嬢に会うんだ?」

学園内に来たのはいいけど、令嬢に会う方法が思いつかず、
とりあえず様子を見ることにした。
レオとジョエルは危険なので、馬車の中で待機してもらっている。
何かあればすぐに引き返せるように。

「そうよね…1学年の教室に行くのもおかしいし…どうしよう。」

まだ授業が始まるまで余裕があった。
今なら行って帰ってくる時間はあるだろう。
だけど、話をして、シオンに魅了を使ってもらわないといけない。
相談するために食堂の個室に行くことにした。

廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り向いて、思わず声をあげそうになる。
探していた令嬢がいたからだ。

「ねぇ、どうしてレオルド様はいないの!?」

どうやら怒っているらしい。
私に向かって来ようとしているのを、シオンが前に出て庇う。
令嬢相手にシオンから何かすることは出来ないが、
シオンの大きな体を避けてこちらに来るのは無理だろう。
やはり邪魔になったようで、シオンを睨みつける。

「もう!邪魔よ!どきなさい!」

声と同時に令嬢の身体から青い光が出てくるのが見えた。
その青い光がシオンを取り巻くように流れている。
これが魅了の魔力だ。見つけた!

シオンの背に隠れるようにして、その光を掴む。
そして、力の限り、身体に吸い込んだ。
どこまでも流れるように力が入り込んでくる。
他人の魔力が入ってくるのは辛いが、魔女の力に比べれば平気だった。
時間としては短かったのかもしれないが、魔力との戦いはとても長く感じた。
ようやく青の光が消えたと思ったら、どさっと音がした。
シオンの背から顔を出してのぞくと、令嬢が倒れている。
…封じ込められた?


「姫様、近寄ってはいけませんよ。私が確認します。」

令嬢のそばに寄ろうとしたら、シーナに止められた。
シーナが近寄り、令嬢の顔を覗き込んでいる。

「気を失っているようです。医務室から人を呼んできましょう。
 お二人はここでお待ちください。
 どうやら我慢できなくて、レオ様とジョエル様も来てしまったようですし。」

シーナが見ている方を向くと、確かにレオとジョエルがいた。
馬車の中で待つのに耐えられなくなったんだろう。

「もう、レオったら。危ないって言ってあるのに。」

「だからだろう?姫さんに危ないことさせるのは嫌なんだろう。」

もう大丈夫だとは思うが、それでも令嬢の近くには行かせたくない。
慌ててレオのいる方に向かって歩き出した。

「レオ、そこで止まって待ってて。私がそっちに行くわ。」

「わかった。」


レオのそばまで行くと、ぎゅっと抱きしめられる。

「良かった、無事で。魔力は吸えたんだね?
 あの倒れているのが魅了の令嬢なのか?」

「ええ。気を失っているみたいなの。
 シーナが医務室に人を呼びに行っているわ。
 ああ、ほら、来たみたいよ。」

シーナが3人の男性を連れて戻って来た。
目の前で倒れたけど原因はわかりませんと言っているのが聞こえる。
なるほど、そういうことにするのね。
令嬢は男性が持ってきた大きな布に包まれ、医務室に運ばれて行った。


「さて、他の人に見られる前に帰ろうか。
 俺たちが来た日に令嬢が変わったら、何か疑われるかもしれないし。」

「そうね…魅了の力がどうなってるのかもわからないし、
 魔女の森に帰りましょうか。」

その日は魔女の森に帰り、魔女に成功したことを報告した。
少しは様子を見た方が良いと思い、学園に行くのは3日後にした。



3日後、学園に戻った私たちが目にしたのは、
以前と何一つ変わらない学園生活だった。

「どういうこと?」

「それがさ、みんな覚えていないみたいなんだよ。
 あの令嬢に振り回されていたことを。」

「そうなの?じゃあ、もしかしてあの令嬢自身も覚えていないの?」

「いや、その令嬢は覚えているみたいだよ。
 あの日、意識が戻ったあとに第一王子のところに行って話しかけて、
 側近候補たちに追い出されたらしい。
 その時に、いつもなら優しいのにとか言ってたそうだから、
 覚えているだろう。」

魅了の力が無くなったことをどう思っているんだろう。
魔力を最低値まで減らした影響なのか、黒髪が茶髪に変化してしまったらしい。
他にも今までとは違うことがあるのかもしれない。

これからは伯爵令嬢としての常識が無ければ、ここではやっていけないだろう。
早く気が付いて、行動を改めてもらえるといいのだけど。

その後、一度その令嬢にからまれたけど、シオンが追い返していた。
それを聞いたレオが、第二王子の名前で伯爵家に抗議したようで、
それからは何も言ってくることは無かった。








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