男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~

百門一新

文字の大きさ
7 / 39

一章 総隊長からの提案と依頼

しおりを挟む
 話を聞かせろよ、というノエルの声を聞いて、セドリックとユリシスとラビが見守る中、ルーファスは初任務となるかもしれないその『本題』について語り始めた。

「西に【ザイアース遺跡】と呼ばれている場所がある。昔から『砂の亡霊が守っている宝がある』と言われている古代遺跡の一つで、元は宗教的な跡地だったのだろうと推測されている」

 とはいえ、そこまでしか情報はない。

 ルーファスは、真剣味を帯びた声色でそう告げ、表情なく一同を見渡した。

「宗教的な繋がりがあるとされているザイアース遺跡では、砂の亡霊の話があるように、いつの間にか蛇科の害獣が大量発生し調査団が命からがら逃げ帰る事が続いた。そのため、調査はその途中の段階で終了してしまっている」

 二十年前にも国家獣師を連れた調査団が入ったが、やはり踏み込んで早々に撤退したらしい。プロの獣師達は「あれは本物の亡霊に違いない」と手も足も出なかったと口にし、危険だと判断されて立ち入りが制限されている。

 とはいえ、各専門部署に通達がされているだけで、法的な拘束力は何もない。監視員を立てている訳でもないので、森の入口の看板の表記を読んでの自己責任だ。

 ラビは、ぱっと思い付いた事を質問してみた。

「つまり、オレ達は遺跡の正体というよりは、そこに『宝』があるか調べるって事?」
「その通りだよ、ラビ。今回の目的は、その遺跡にあるとされている『宝』の方だ」

 相槌を打って、ルーファスは手元の資料を指先で叩いた。

「調べる価値は十分にある。そこが宗教的な遺跡でなく、不思議な術を使っていた古代の獣師にとって特別な場所だったとしたならば、その『宝』は黄金や財宝ではなく、不思議な力を持った遺物である可能性が高いからだ」

 妖獣と呼ばれるモノが、当たり前にある暮らしがあった古き時代が存在していたとすれば、宗教的な跡地だと専門家が評価しただけに期待は出来る。

 それを肯定するように、ノエルが『可能性は十分あるだろうな』と強く言った。

『俺はその遺跡とやらは知らないが、『砂の亡霊』がもし、一瞬前まで生物の気配がなかったにも関わらず突然大量発生する害獣だとしたら、術による仕掛けの可能性も高い』
「術とはなんです?」

 これまで大人しく話を聞いていたユリシスが、声のする方向へ顔を向けて、一同を代表するように間髪入れず質問した。

「というより、姿が見えないと本当に不便ですね。どこが顔なのか分かりません」
『おい、手を伸ばしてくるんじゃねぇよぶっ殺――』
「ここが頭で、ここが耳だよ」

 ラビは親友の頭を撫でて、ふわふわとした大きな耳の左右をそっとつまんで立てて見せた。姿が見えないというのに、存在を認めてくれているようなやりとりが、なんだかとても嬉しい。

 思わずノエルが言葉を切り、室内はしばし沈黙に包まれた。

 普段は起こっているか顰め面のラビに、正面から愛想の良さを向けられたユリシスが、じっくり観察するように僅かに顔を顰めた。隣からその光景を見ていたセドリックが、「なんって可愛――」と言い掛けて、素早く自分の口を手で塞ぐ。

 ルーファスがにこにこと見つめる中、ノエルは、自分の姿がラビ以外には見えないと知りつつも、思わず前足で顔を隠した。

『……ラビ、頼むからこのタイミングでクソ可愛い事してくれるなよ……緊張感が丸ごと吹き飛ぶだろうが……そういう所もチビの時から何一つ変わってないとか逆にすげぇわ…………』
「え、今なんて言ったの? よく聞こえなかった」
『…………うん、なんでもねぇよ。お前、マジで俺の耳とか好きだよな』

 両手で両方の耳をふにふにとされていたノエルは、もう彼女の好きにさせる事にして、諦めてそのまま説明を続けた。

『【月の石】同様に、昔は魔力を有した鉱物も多く存在していた。元々【使い手】となる人間は――面倒だから【妖獣師】で統一するか――は、それを使って術を起こし、動物だけでなく妖獣との共存にも一役買っていた』
「魔力を使って術を行使……つまりは『魔術』という表現が適しているのかな?」

 ルーファスが、馴染みのない魔法のような不思議な力について、そう憶測を述べた。

 ノエルは『その解釈で間違っちゃいねぇな』と言って、話の先を続けた。

『なにしろ、当時も魔術という呼ばれ方はあった。それを利用して装飾品や武器、道具を作り上げて【術具】として使っていた訳だ。そいつを利用する事で、魔力の供給源である妖獣師がいなかろうと、その術具の魔力の力が失せない限りは発動が続く物も誕生した」

 魔術は魔力を持った【妖獣師】を介して行われるため、当人の魔力が底を尽きたり、死亡によって供給源が途絶えた場合は消えてしまう。だが、妖獣師時代の後半からは、術具自体にあらかじめ魔力源を組み込む事でそれを回避可能にもなった。

『術具が作られていた時代は、かなり大昔だ。今でも遺跡に怪奇現象のような効果を引き続き起こしているとなると、かなりまともな物である可能性も高い。砂の亡霊と呼ばれている害獣が幻影なのか投影なのか、殺傷性のある実体なのかによっても変わってくるが』

 情報の少ない現時点では、術具の性能値や種類までは絞り込めない。

 ルーファスは、そんなノエルの憶測を聞いて満足そうに「わざわざ遺跡関係の資料を調べた甲斐があったな」と頷いた。

「私としては、それが術具として価値ある物なのかという事には興味がない。君にとって使える物かどうか、が重要だ。見えて都合がいい場合と、姿を消している方が行動しやすい場合もあるだろう?」
『つまり俺の意思で【実体化】出来るかどうかが焦点なんだろ? んなことは話を聞かされた当初から察してるっての』

 ラビの手が頭をふわふわと撫でてきて、ノエルはその手へと目を向けながら、ふと思い出して言葉を続けた。


『――言い忘れていたが、月明かりも微量の魔力を含む。妖獣は、満月くらいの強い月明かりの下であれば、自らの意思で実体化する事が出来る』

「ご開示頂き感謝するよ。また一つ、私は妖獣(きみたち)を理解する事が出来た」


 ルーファスは、にっこりと微笑んだ。それから「話は以上だ」と締めの言葉を切り出すと、総隊長らしく表情を引き締めて、それぞれの顔をしっかり見据えてこう言った。

「それでは明日一番に開始する任務を言い渡す。第三騎士団の副隊長セドリック、補佐官のユリシスは、部隊班としてヴァン、サーバル、ジン、テトを同行させ、専属獣師ラビと共に【ザイアース遺跡】の調査を依頼する」

 セドリックとユリシスがピシリと軍人立ちし、敬礼を取って承知した旨の言葉を唱えた。ラビも、ひとまず専属獣師として初仕事に挑もうと決意して、二人のポーズを真似て「了解」と答えた。

 第三騎士団の本部は王都にあるので、ラビの活動拠点地も、本日からは王都となる。これから泊まる宿の手配も行わなければならない事もあり、話し合いが終わったので早々に執務室から退出する事となった。

 セドリックが、今回の件で第三騎士団の隊長グリセン・ハイマーズの印が必要な分の書類を確認しながら受け取り、ユリシスがザイアース遺跡の資料を抱え持つ中、ラビは帽子を深々とかぶり直した。

 彼らの話を聞いていると、明日一番の行動開始時刻については、追ってセドリック達の方で改めて予定を組んでから確定するらしい。

 という事は、それまで自分は宿で待機になりそうだ。

「早朝になる可能性も十分にあるよね?」
『軍の朝一ってのは、大抵早いからな。そうなるんじゃね?』
「だとすると、宿の前で待つ方がいいんだろうけど……」

 待っている間、金髪金目の自分を、通りる人々がじろじろと見ていくところを想像すると気が乗らない。

『心配すんなって。伯爵家の次男坊――あいつも名前で呼ぶべきか――セドリックが一緒に宿を手配するってんなら、部屋まで迎えに来ると思うぜ?』

 そうであれば不安はなくなるけれど、どうなるのかは後でしっかり確認してみよう。ラビはそう思いながら、手短に話を終えた男達と共に、さてそろそろ行くかと揃って踵を返した。


「まだそこにいるかい、ノエル?」

 
 ふと、ルーファスがそう言った。
 
 室内を出ようとしていたラビは、開いた扉の外でセドリックとユリシスが待ってくれている前で、幼馴染のルーファスを振り返った。そばにいたノエルも、優雅な尻尾を揺らせて訝しげにセドリックの兄を見つめ返す。

『そりゃ、ラビがいるんだから俺もいるに決まってんだろ。俺はラビよりも前を歩くなんて、必要時以外はほとんどやらないからな』
「そうか、それを聞いてますます安心したよ。――君は、ラビと離れるつもりはないんだろう?」
『何故そんな事を聞く?』

 ノエルが、訳が分からない人間だな、と赤い瞳を顰める。

 すると、ルーファスはとても穏やかな様子で微笑んだ。セドリックとユリシスが小さく目を見張る視線の先で、彼がそこに腰かけたまま、ゆっくりと小さく頭を下げた。

「それを、私は心の底から感謝している。これまでも、ずっとありがとう。そして、もっと早めに感謝の言葉を告げられなかった事をお詫びする」
『………………』

 返す言葉を探して口を開きかけ、ノエルは、何も言わずに閉じた。視線をゆっくり巡らせると、ルーファスに対して答えないまま踵を返した。


『頭を下げられるほどの事はしちゃいねぇよ。……いつも救われてんのは、ずっと俺の方なんだ』


 誰にも聞こえない声で、ノエルはそう呟いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。

待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。 もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

【完結】お察し令嬢は今日も婚約者の心を勝手にお察しする

キムラましゅろう
恋愛
ロッテンフィールド公爵令嬢オフィーリアは幼い頃に祖母に教えられた“察する”という処世術を忠実に守ってきた。 そんなオフィーリアの婚約者はこの国の王太子、エルリック。 オフィーリアはずっと、エルリックの心を慮り察することで彼の婚約者として研鑽してきた。 そんなある日、オフィーリアは王宮の庭園でエルリックと伯爵令嬢バネッサの仲睦まじい姿を目の当たりにしてしまう。 そこでオフィーリアは察したのだった。エルリックが真に妃として望むのはバネッサなのだと。 それを察したオフィーリアはエルリックのために婚約解消を決意するが……? mixi2異世界恋愛作家部、氷雨そら先生主催の『愛が重いヒーロー企画』参加作品です。 完全ご都合主義。誤字脱字、ごめんあそばせ。 \_(・ω・`)ココ重要!テストデルヨ! 華麗なる表紙は、 作家のあさぎかな先生のコラージュ作品です✨ ❤︎.*‪(ノ ˘͈ 。˘͈)ノᵕᵕ)╮アリガタヤー✨

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね

迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。 愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。 「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」 兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。

処理中です...