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ルーチェはまどろみの中で、昔の夢を見ている。
ルーチェとエリアスは幼なじみで、幼少期はよく一緒に遊んでいた。ルーチェはおてんばで、子供の頃から令嬢の自覚がある他家の女の子たちとはあまり気が合わなかった。
「エリアス様! とってもいい感じの棒をみつけましたの!」
ルーチェはよく王家が所有する広大な森で遊ばせてもらっていて、エリアスはそれによく付き合ってくれた。ルーチェとは対照的にエリアスは大人しい子で、いつも何を考えているかわからないが、とりあえずルーチェのことは気に入っているようだ──と、家柄が釣り合っていたのもあって二人の婚約が結ばれたのだった。
「そう。良かったね」
少し大きめの木の枝を拾ってはしゃぐルーチェを見て、一つ年上のエリアスは楽しそうに笑ったものだった。
「これで冒険の旅に出かけましょう!」
「冒険って、どこへ?」
エリアスにまっとうなことを尋ねられて、ルーチェは口ごもった。
「ええと……山とか、海とかです!」
「ルーチェは冒険に行きたいの?」
「はい。だって、楽しくないと思いません? あそこへ行ってはだめ、これをしてはだめ。貴族なんて、つまらないですわ」
「でも、そういう風に生まれたのだから、そうしないと」
「やめればいーのです」
小さなルーチェは胸を張って答えた。
「やめる?」
「ええ」
ルーチェは木の枝を芝生の上に置いて、スカートをつまんでくるりと一回転をした。
「貴族をやめてしまえば、冒険に出られます。ばあやも言っていましたの。ルーチェ様の叔母君は他国の『いけめん』に一目惚れして、その人と一緒に暮らすために海の向こうへ行ってしまったのですよ、って」
「……ルーチェは、好きな人を見つけたら僕を置いて、どこか遠くへ行ってしまうの?」
エリアスは芝生に座ったままで、うつむいた。
「いいえ。ルーチェはエリアス様が好きです。ですから、ルーチェは他国の『いけめん』が出てきてもついていきません」
「でも、冒険には行きたいんでしょう?」
「うう……じゃあ、エリアス様も行きましょう」
「分かった。じゃあ、冒険に行くときは、必ず誘ってね」
「はい!」
「じゃあ、約束の記念に、これをあげる」
エリアスはそう言って、ルーチェに手に持っていた花を差し出した。
「ありがとうございます!なら、私はこの『伝説の剣』を差し上げますね!」
拾った木の枝を差し出すと、幼いエリアスは困った様に笑った。
──ああ、そんなこともあったっけ。私はエリアス様と約束していたのに、勝手に冒険の旅に出ようとしたんだわ。
あの頃は、二人の未来に別れが待っているなんて、思いもしなかった。エリアスはいつも隣にいて、ルーチェはずっと彼を見ていた。だからこそルーチェは彼を、心から一途に愛した。
それなのに──大きくなるにつれて、お互いに未来の王位継承者とその婚約者としてしっかりしなければ、という重圧に飲み込まれてしまって、元々の性格はすみっこに追いやられてしまった。
そしてすれ違いが生まれた。いいえ、でもそのすれ違いこそが正しい道だったのかも。私と彼は一緒に居られない運命なのだもの……。
「……エリアス様……ごめんなさい」
夢の中で、彼の名をそっと呼んだその瞬間。
「気にしていないよ」
──んっ?
まどろみの中で、ルーチェは覚醒した。
低く、けれどどこか柔らかい声が現実へと引き戻す。意識が浮上し、まぶたを上げると、目の前には少し乱れた金の髪に、ロイヤルブルーの瞳。
目が合うと、にっこりと笑いかけてくる。
「おはよう、ルーチェ」
「……えええええっ!?」
跳ね起きたルーチェの声がスイートルームに響き渡った。
エリアスがまるで当たり前のような顔で、ルーチェに添い寝しているのだった。いや、正しくは、ルーチェが自分からエリアスに抱きついたような格好のまま、眠っていたのだ。
「な、な、な、なぜっ、同衾……」
ルーチェは慌てて、寝間着の合わせを確認した。
記憶をたどれば、昨夜、どちらがベッドでどちらがソファに寝るかで軽い問答があったのを思い出す。
「部屋主の君がベッドを使うべきだ」
「いいえ、エリアス様がベッドを使うべきです」
広いベッドは大人二人が寝ても十分な広さがあるが、ルーチェとしては間違いを起こしてしまっては困るので、別々に寝ることを主張したのだった。
最終的にルーチェが粘りに粘って、エリアスがベッド、ルーチェがソファーで就寝したはずだった。
「夜中、ものすごい音を立てて君がソファーから落ちたんだ」
「うう……」
ルーチェは寝相が悪かった。というよりは活発な夢を見ていると、どうしても身体が動いてしまうらしいと使用人達から聞いたことがあった。
「部屋の主を床に転がしておくわけにもいかないだろう」
だからルーチェを回収したのだとエリアスは言う。抱き上げたはいいものの、ルーチェがしがみついているので離れることもできなくて、そのまま朝になったとエリアスから説明が入る。
「起こしてくだされば……」
「抱き上げてベッドに運んでも起きないのだから、何をしても起きないのじゃないかな」
「……そ、そのあと、何かしました?」
「さあ。まあとにかく、起きたならこちらに座って」
エリアスはルーチェの手を引いて、鏡台の前に座らせた。
ルーチェとエリアスは幼なじみで、幼少期はよく一緒に遊んでいた。ルーチェはおてんばで、子供の頃から令嬢の自覚がある他家の女の子たちとはあまり気が合わなかった。
「エリアス様! とってもいい感じの棒をみつけましたの!」
ルーチェはよく王家が所有する広大な森で遊ばせてもらっていて、エリアスはそれによく付き合ってくれた。ルーチェとは対照的にエリアスは大人しい子で、いつも何を考えているかわからないが、とりあえずルーチェのことは気に入っているようだ──と、家柄が釣り合っていたのもあって二人の婚約が結ばれたのだった。
「そう。良かったね」
少し大きめの木の枝を拾ってはしゃぐルーチェを見て、一つ年上のエリアスは楽しそうに笑ったものだった。
「これで冒険の旅に出かけましょう!」
「冒険って、どこへ?」
エリアスにまっとうなことを尋ねられて、ルーチェは口ごもった。
「ええと……山とか、海とかです!」
「ルーチェは冒険に行きたいの?」
「はい。だって、楽しくないと思いません? あそこへ行ってはだめ、これをしてはだめ。貴族なんて、つまらないですわ」
「でも、そういう風に生まれたのだから、そうしないと」
「やめればいーのです」
小さなルーチェは胸を張って答えた。
「やめる?」
「ええ」
ルーチェは木の枝を芝生の上に置いて、スカートをつまんでくるりと一回転をした。
「貴族をやめてしまえば、冒険に出られます。ばあやも言っていましたの。ルーチェ様の叔母君は他国の『いけめん』に一目惚れして、その人と一緒に暮らすために海の向こうへ行ってしまったのですよ、って」
「……ルーチェは、好きな人を見つけたら僕を置いて、どこか遠くへ行ってしまうの?」
エリアスは芝生に座ったままで、うつむいた。
「いいえ。ルーチェはエリアス様が好きです。ですから、ルーチェは他国の『いけめん』が出てきてもついていきません」
「でも、冒険には行きたいんでしょう?」
「うう……じゃあ、エリアス様も行きましょう」
「分かった。じゃあ、冒険に行くときは、必ず誘ってね」
「はい!」
「じゃあ、約束の記念に、これをあげる」
エリアスはそう言って、ルーチェに手に持っていた花を差し出した。
「ありがとうございます!なら、私はこの『伝説の剣』を差し上げますね!」
拾った木の枝を差し出すと、幼いエリアスは困った様に笑った。
──ああ、そんなこともあったっけ。私はエリアス様と約束していたのに、勝手に冒険の旅に出ようとしたんだわ。
あの頃は、二人の未来に別れが待っているなんて、思いもしなかった。エリアスはいつも隣にいて、ルーチェはずっと彼を見ていた。だからこそルーチェは彼を、心から一途に愛した。
それなのに──大きくなるにつれて、お互いに未来の王位継承者とその婚約者としてしっかりしなければ、という重圧に飲み込まれてしまって、元々の性格はすみっこに追いやられてしまった。
そしてすれ違いが生まれた。いいえ、でもそのすれ違いこそが正しい道だったのかも。私と彼は一緒に居られない運命なのだもの……。
「……エリアス様……ごめんなさい」
夢の中で、彼の名をそっと呼んだその瞬間。
「気にしていないよ」
──んっ?
まどろみの中で、ルーチェは覚醒した。
低く、けれどどこか柔らかい声が現実へと引き戻す。意識が浮上し、まぶたを上げると、目の前には少し乱れた金の髪に、ロイヤルブルーの瞳。
目が合うと、にっこりと笑いかけてくる。
「おはよう、ルーチェ」
「……えええええっ!?」
跳ね起きたルーチェの声がスイートルームに響き渡った。
エリアスがまるで当たり前のような顔で、ルーチェに添い寝しているのだった。いや、正しくは、ルーチェが自分からエリアスに抱きついたような格好のまま、眠っていたのだ。
「な、な、な、なぜっ、同衾……」
ルーチェは慌てて、寝間着の合わせを確認した。
記憶をたどれば、昨夜、どちらがベッドでどちらがソファに寝るかで軽い問答があったのを思い出す。
「部屋主の君がベッドを使うべきだ」
「いいえ、エリアス様がベッドを使うべきです」
広いベッドは大人二人が寝ても十分な広さがあるが、ルーチェとしては間違いを起こしてしまっては困るので、別々に寝ることを主張したのだった。
最終的にルーチェが粘りに粘って、エリアスがベッド、ルーチェがソファーで就寝したはずだった。
「夜中、ものすごい音を立てて君がソファーから落ちたんだ」
「うう……」
ルーチェは寝相が悪かった。というよりは活発な夢を見ていると、どうしても身体が動いてしまうらしいと使用人達から聞いたことがあった。
「部屋の主を床に転がしておくわけにもいかないだろう」
だからルーチェを回収したのだとエリアスは言う。抱き上げたはいいものの、ルーチェがしがみついているので離れることもできなくて、そのまま朝になったとエリアスから説明が入る。
「起こしてくだされば……」
「抱き上げてベッドに運んでも起きないのだから、何をしても起きないのじゃないかな」
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