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しおりを挟む暗闇の世界にわたしは迷い込んでいた。
上も下も右も横もわからない。
ただ真っ暗な闇が広がっている。
「お姉ちゃん」
目の前にセーラー服を着た女子高生が現れた。
女子高生は瞳を潤ませ、涙を一筋こぼす。
何で女子高生がここにいるの?
それにお姉ちゃんって…?
日本人らしい顔立ちは可愛らしく、
黒髪をポニーテールにして纏めている。
その顔に見覚えがあった。
「まさか、翠なの?」
当時七歳だったはずの翠は綺麗な少女へと
成長していた。
「……そうだよ、わたし翠だよ。
ずっと、お姉ちゃんに会いたかった。」
「翠……!」
あぁ、よかった。
生きていたんだ。
あんなふうに別れてしまって
ずっと心残りだった。
わたしは翠に抱きついた。
今の私は十歳だから翠の下半身を
抱きしめる形になる。
涙が止まらない。
翠はわたしの体をぎゅっと抱きしめる。
「あのときは、ごめんなさい。
だけど、お姉ちゃんが守ってくれたから
わたしはこうして十八歳を迎えることができた。
すごく感謝してる。ありがとう」
翠は優しく笑い体を離した。
胸が温かくなり、わたしも笑みを浮かべる。
「妹を守るためだもん。気にしなくていいのよ。
元気そうで良かった。
あれからどう過ごしているの?」
「あの日から、叔母さんが
わたしを引き取ってくれたの。
叔母さんがわたしを育ててくれた。
感謝してもしきれないよ」
翠は幸せそうに笑う。
その顔を見て安堵する。
わたしのことを引きずっているんじゃないかと思っていたけど大丈夫みたい。
「でも翠、どうしてここに来れたの?
ここは異世界だよ?」
「それは……わたしも分からないけど
姉妹だからかな。お姉ちゃんが
危ないってわかったの」
真剣な顔でわたしを見つめる翠。
わたしが危ないってどういうこと?
「お姉ちゃん、ここは夢の中なんだよ。
お姉ちゃんは眠ってるの。魔力暴走を起こしてお姉ちゃんの体力が尽きかけてる。」
「え?」
そうだ、わたし大公爵家のアリス様の
誕生日パーティーに
出席して、紅茶を飲んで……
あれ。その後が思い出せない。
「だから、もう起きて。
お姉ちゃん、一度でも会えて良かったよ。
元気でね」
「待って、翠、わたしもっと話したいことが」
翠が涙を流すと同時に黒いモヤが
翠に纏わりついて、その場から彼女は消えた。
◯◯◯
「翠っ!!」
手を伸ばすと心配そうなお父様とお母様の顔が
目に入った。二人の隙間から見えるのは
薄いピンクの花柄の模様。
わたしの部屋のようだ。
「ヴァイオレット!!」
お母様が涙目になって明るい顔をする。
「レティ!良かった。
目が覚めて本当に良かった!!」
お父様は安堵したように表情を和らげた。
「ヴァイオレット!!大丈夫か?!」
カイルもいたんだ。
「わたし、どうしちゃったんですか?」
上半身を動かそうとするけど体が重くて、動かない。
「無理をするな!
ヴァイオレット、お前は大公爵家で
魔力暴走を起こして倒れたんだ。
安静にしてろ」
「そうよ、殿下が封魔具を付けてくれなかったら
どうなっていたことか」
セレニテがうんうん頷いている。
ボスもいつの間にかわたしのお腹に乗っていた。
〈魔力を食べても無限に魔力が噴き上がってきたから
大変だったんだぞ〉
「心配かけてごめんね、ボス」
ボスの頭を撫でると満足そうな顔をした。
…封魔具ってわたしの髪を結んでいる
リボンのことだよね?
それを触ろうとするけどどこにも
リボンの感触がない!
ていうか、髪を結んでない。
「リボンがないです!!」
「リボンが破れかけていたから
イザベルの封魔具をカイル殿下
につけてもらったんだよ」
お父様はチラリとカイル殿下に目を向ける。
そういえば、お母様の胸元のペンダントがない。
「本当に命懸けだったんだからな。
お前の闇の魔力、すげーな。
死ぬかと思ったよ」
命懸け…。
胸がキュッと苦しくなる。
翠が危ないと言ったのはこのことだったんだ…。
「ごめんなさい、カイル殿下。
わたしを助けるためにありがとうございます。
お怪我はありませんか?」
「ちょっと腕を怪我したけど
こんなもんかすり傷だよ」
カイルは紺色の瞳を細めて笑った。
……初めて見たかも。カイルのそんな笑顔。
「殿下!私の娘に色目を使わないでいただきたい!」
お父様が素早くわたしとカイルの間に滑り込む。
カイルは「違いますから!」と声を上げた。
「あらあら、これはどうしたことかしら」
お母様が楽しそうに笑う。
「え?」
「ふふっ、何でもないわ。
それより、体調は大丈夫?レティ。
魔力暴走を起こして二日も寝ていたのよ。」
お母様がわたしの額に手を当てる。
〈アタシが癒しの力で体力の回復を
早めなければ死んでいたわよ~〉
セレニテ、さりげなく爆弾発言はやめてください。
二日?
「えっ?? わたし二日も寝ていたんですか!!」
「それだけ元気なら大丈夫そうね。
そうよ。魔力暴走を起こしたときは
アルフレッドと二人でレティの
魔力を抑え込むのが大変だったわ~」
お父様…。お母様…。
「ごめんなさい。
わたしが魔力暴走を起こしたばかりに……」
俯くとわたしの手を誰かがふわりと包み込む。
「お母様」
「レティちゃん。今回のことでレティが
責任を感じる必要はないわ。だから謝らないで?
それにレティちゃんが寝ている間に
こんなものを用意したの。」
そう言ってお母様が、メイドから
水色のものを受け取りわたしに見せる。
「じゃーん、可愛いでしょう?」
それは水色の大きなリボンだった。
真ん中には前のリボンのときより二倍程大きい
菱形の黒の石が嵌め込まれていて
レースがあしらわれている。
「わぁっ!とても可愛いです!!」
思わず声を上げるとお母様は微笑んだ。
「そうでしょう。これから
水色、赤、紫、いろんな色を作る予定だから
楽しみにしててね。
この魔石は破滅の女神であるオプスキュリテ様の
名前がついた石。『オプスキュリテ』よ。
オプスキュリテ様と同じ力を持つあなたには
いいんじゃないかしら?どうやらこの石は
魔力を吸収してくれるらしいの」
オプスキュリテ様と同じ色と力を持つ石。
女神様と一緒の封魔具に嬉しくなると同時に
親しみが湧いた。
「ありがとうございます。お母様!
とても嬉しいです!!」
お母様も嬉しそうに笑い、わたしの髪を
ハーフアップにまとめてリボンを結んだ。
「うん、似合ってるわレティ!!
カイル殿下もそう思いますでしょう?」
「え、あ、ま、まあ、そうですね」
ん?何で顔を赤くするの?
「ヴァイオレットが可愛すぎる…」
地面にへたり込んでいるお父様はよしとして…
「お母様、このペンダントはお返ししますね。
お母様の大事なものでしょうし」
ペンダントを外そうとする
わたしをお母様が手で制す。
「いいえ、それはレティに
あげるわ。お母様からのプレゼントだけど
娘のために使えるなら本望よ!!
それにレティちゃんは高魔力だし
何があってもいいようにね」
お母様の心遣いに胸がジーンとなる。
「ありがとうございます…。
大事に使わせてもらいますね」
「話は変わるが、ヴァイオレット、
紅茶を飲む前に交流していた人物は大公爵家夫妻、
イザベル、王妃様、カイル殿下、アリス様
で合っているか?」
お父様が神妙な面持ちをわたしに向ける。
「はい、そうですが……どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。
確認したかっただけだ」
お母様とカイルも頷く。
何だか様子のおかしい三人ですね。
「本当は何があるんじゃないですか?」
お父様はギクっとなり、ため息をつく。
お母様も隣で苦笑いを浮かべていた。
「……まったくウチの娘には敵わないな。
実は、レティの飲み物に毒が入れられていた
可能性があったんだ…」
「えっ!? 毒??」
「あぁ。後で毒が入っているか調べさせたのだが
毒の反応はなかった。あったのは
大公爵家の魔力の残り香だった。」
えっ、ということは。
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仕掛けたんだ」
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