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しおりを挟む▶︎イザベル◀︎
ガシャンッと何かが割れたような音に
王妃様と談笑していたわたしは音のした方を見る。
大公爵家にいる貴族が大きくざわめき
カイル殿下が膝立ちで
銀髪を二つに結った私の娘を抱きかかえていた。
「ヴァイオレット!」
わたしは突然倒れたレティに駆け寄る。
一体何があったというの。
「殿下、これは一体どういうことですか?!」
「それが、俺にもよく分からなくて…
紅茶を飲んだ瞬間、倒れたんです」
紅茶を飲んだ瞬間?
もしかして毒が盛られていたの?
でも、私達もワインを飲んでいたけれど
何ともなかったのに。
いえ、考えている場合じゃないわ。
わたしは娘の額に手を乗せる。
熱い!!
火に触れているかのような温度に手を引っ込める。
「熱があるわ。
風よ、この子の身体の熱を冷ませ」
詠唱するとレティの身体に
冷たい風が纏わりつきしばらくすると消えた。
ヴァイオレットの苦しそうな顔がいくらか和らいだ。
「ヴァイオレット嬢!!
大丈夫ですか!
客室にヴァイオレット嬢を寝かせてください!」
アリス様が駆け寄り、わたくしは頷く。
「ありがとうございます、アリス様」
「これは一体、どういうことだ!!」
振り向くと顔を真っ青にした夫、
アルフレッドがいた。
「あなた、レティが紅茶を飲んで倒れたの。
大公爵家の客室に寝かせてもらうわ。
レティを運んで」
「くそっ、悪い予感が当たってしまった…」
アルフレッドは悔しそうに歯軋りをした。
「そんなこと言っている場合ですか!
早くヴァイオレットを!」
私が声を上げるとアルフレッドは
気まずそうに頷きヴァイオレットを抱き上げた。
「後のことはわたくしに任せて」
王妃様が真剣な表情で告げる。
「…ありがとうございます、王妃様」
私達は大公爵の案内を受け、客室へと急いだ。
◯◯◯
ヴァイオレットをベッドに寝かせ、布団をかける。
「なぜ、ヴァイオレットは倒れたのでしょうか…」
カイル殿下が顎に手を当てる。
「毒かと思いましたが、私たちの飲み物には
何も入っていませんでした。
…もしかすると、ヴァイオレットの紅茶だけに
毒が入っていたのかもしれません」
何せ、ヴァイオレットは闇の力を持つ。
そのことが誰かに知られてしまったのかもしれない。
それに、娘は類い稀なる美貌を持つ。
妬む者がいたとしてもおかしくはない。
「毒だと!? 何ということだ…!!
あぁっ! だからレティをパーティーに
行かせたくなかったんだ!!」
「アルフレッド、落ち着いて。
心配なのは私も同じよ」
アルフレッドの背中に手を添え、寄り添う。
いつかはこんなことが起きると思っていた。
けれど、こんなに早く事件が起きるなんて。
「公爵家には使いをやりました。
すぐに迎えが来るでしょう」
「ありがとうございます。大公爵様」
「俺の妹の誕生パーティーで
倒れるなんて不吉すぎる」
アルヴァン様が舌打ちをしてヴァイオレットを軽く
睨んだ。
「おいっ!何ということを言うんだ!」
カイル殿下がアルヴァン様に掴みかかる。
「おやめください、殿下。
アルヴァン様も本心で言ったわけではありませんわ」
アルヴァン様は本心を言うのが
苦手だということをわたしは知っている。
以前、アルヴァン様とお会いしたときも
同じような態度だったもの。
そのとき魔力の奔流をどこからか感じた。
ヴァイオレットの契約者、
つまりは従魔であるボスが必死に
何かを伝えようとている。
まさか!
アルフレッドと顔を見合わせる。
「ヴァイオレットから離れろ!!」
アルフレッドが声を張り上げたと
同時に水の壁をつくり出す。
ヴァイオレットの体から黒いモヤが溢れて
私たちのいる部屋を黒く染める。
窓にヒビが入り、音を立てて割れる。
そこから黒いモヤは勢いよく噴き出した。
アリス様たち大公爵家一家は真っ青になった。
「な、なんなの。これは…」
アナスタシア夫人が小刻みに震えた。
「皆さん!ここはわたし達が引き受けますから
逃げてください!」
「でも…」
アリス様が不安そうな顔をする。
「大丈夫です!わたし達が
ヴァイオレットの力を抑え込みます!!
あなたたちは、会場へ戻って皆さんに心配はいらないということを伝えてください!!」
「……分かりました。パーティーが終わり次第
わたし達も加勢します」
大公爵が言い、彼らは会場へと戻っていった。
けれど、わたし達の力ではヴァイオレットを
抑えられそうにない。
さっきからアルフレッドは汗を流して
ヴァイオレットの魔力から私たちを守っている。
ボスもヴァイオレットの中の魔力を
食べているようだが、魔力は次から次へと溢れ出る。
これは、魔力が暴発している!!
このままでは屋敷が崩壊しかねないわ!!
魔力暴発を止める方法は封魔具をつけること。
封魔具は魔力を封じる石が嵌め込まれた
アクセサリーなど、身につけるものだ。
高魔力を持つ者は大抵が所持している。
しまった。
ヴァイオレットの封魔具は紫の石が
真ん中にある対の紫水晶色のリボンだが
片方が破けそうになっている。
原因はあれだったというの?
でも何かリボン以前の問題がある気がする。
だって、ヴァイオレットは
普段リボンをつけていないときも
魔力を上手く抑えられていたんだから。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
ヴァイオレットが悲鳴に似た声を上げる。
まずいわ。このままではレティの体力が持たない!
私は自身の封魔具である
水色の石が嵌め込まれたペンダントを外す。
「イザベルッ!危険だ!
今封魔具をつけるのはやめておいたほうがいい!」
「娘の危機を救うのが母親よ!
私はどうなっても構わないわ。
ヴァイオレットを救えるのなら!」
「お待ちください!」
後ろから声がして振り返ると会場へ戻ったはずの
カイル殿下が息を切らして立っていた。
「俺も同じ気持ちです。
ヴァイオレットを救えるのなら
どうなっても構わない。
その封魔具は俺が付けます」
「殿下、けどあなたは
フォルトゥナ王国の王子。何かあったら…」
「王子である以前に俺は一人の男です」
まっすぐな眼差しを私に向ける殿下に心を打たれた。
「分かりました。ではお願いします。
くれぐれもお気をつけて!」
カイル殿下はペンダントを手にすると
黒く染まった視界に向かって飛び出した。
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