金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗

文字の大きさ
48 / 62

新たなる敵

しおりを挟む
 今日は、久しぶりに自分の屋敷でゆっくりした。お風呂に入って、エドワードとアルマの作る美味しい料理をいただき――自室へ戻った。

「一緒に寝ましょう~、ヘンリーさん」
「そうだった。ヨークと一緒の部屋だったんだ」
「そうですよぉ、わたくしを置いて行かないで下さい」
「ごめんごめん」

 ベッドに入ってくる寝間着姿のヨーク。僕の体にくっ付いて機嫌が良さそうだった。こうして、二人で――スイカもドラゴンの姿でいるけど、誰にも邪魔されず、まったりとした空間なのは一週間ぶりだ。

「明日からどうしましょう」
「そうだなあ、ガヘリスも倒したし……うーん、やっぱり農業かな」
「きっと運命が許さないと思いますよ」

「え……どいうことだい?」

「わたくしには『神託』で分かるんです」
「例の……妖精王の神託か。まだ何かあるっていうのかい」

 それ以上、ヨークは話さなかった。
 なにがあるっていうんだ。
 もうこれ以上、倒す敵もいないはず。

「おやすみなさい」
「あ、ちょ……」

 僕の胸の上でまぶたを閉じるヨーク。可愛い寝顔を晒して、無防備すぎる。ついつい、頬を突いてみたくなる。けど、抑えた。

 それから僕も眠くなって――

 眠りに就いたんだ。


 * * *


 翌日。
 今日は珍しく雨が降った。この中立地帯でも大雨は振るんだ。ザアザアと振り続け、とでもじゃないけど、外には出られなかった。

 これでは農業って場合でもないな。


「う~ん、困ったな」


 大広間でみんなと一緒に紅茶を楽しむ。幸せな一時だ。こんな風に、ネヴィルやリナと一緒に過ごせるだなんて……夢のようだ。


「ヘンリー、これでは農業できまい」
「そうだねえ。地下ダンジョンの攻略でも進めようかな」
「やめておけ。この天候で庭に出れば流されて、湖へポチャンだ」
「マジ? それは嫌だな」


 ダンジョンも行けないなんて、退屈だなあ。なんて思っていると“ドンドン”と音がして、みんなが音にビックリした。

「どなたでしょう?」

 ヨークが不安気に声を漏らす。

「恐らく来客だ。俺が見てこよう」

 ネヴィルが席を立つ。
 僕も気になって一緒に向かった。


 玄関へ向かい、扉を開けるとそこにはフードを深く被った人物がいた。……誰だ?


「何用かな。この屋敷は現在、ヘンリーのものだ。もう俺ものではない」

『――金貨のニオイがする。そこの少年、お前だ』


 僕に用があるのか、この男?
 しかも、声がヘンだ。
 まるでモンスターみたいな声。

 モンスターの中には、人間の言語を理解している魔物もいるらしい。その類か。


「僕がどうした」
『これを返しに来た』

「な、なんだ?」


 フードの男は、指から『金貨』を弾いた。……血のついた金貨。えっ、まさか……あれって。


『気づいたようだな、少年。そうだ、これはあの女暗殺者の所持していた金貨』

「おまえ……アサシンさんに何をした!」


 不敵に笑う男は、フードを外した。


『フハハハ!! 我はレッドオークのグレン。お前の暗殺者はすでに我々――ぐあぁぁぁ!!』


 余裕ぶってたレッドオークの首が吹き飛んだ。ちょ、え!!


「レッドオーク、成敗!!」


 いきなりブラッドアックスが掠めていったんだ。って、これは、アサシンさん!!


「あれ、生きていたんだな!」
「当たり前だ。死んだふりをして生き延びた。こいつは、私が死んだと勘違いしていたようだがな」


 ――ザンッと斧でトドメを刺すアサシンさん。良かった、戻ってきてくれたんだ。


「帰ってきてくれたんだね」
「あ、ああ……ヘンリー、お前も趣味が悪いぞ。私のアイテムボックスにテレポートスクロールを複数枚忍ばせておくとはな。おかげで、レッドオークに奪われて、必死に追い駆けたんだ」

 そうか、それでレッドオークがここに現れたんだ。


「ごめん、でも助かったよ」
「いいさ。それと、ネヴィル……モンスターを中に入れてしまって――もうしわけ……ない」

 バタッと倒れるアサシンさん。
 背中が血に塗れ傷だらけだった。


「アサシンさん!! そんな!!」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...