47 / 62
『ただいま』と『おかえり』
しおりを挟む
ヨークを連れ出し、テレポートスクロールを使用。秘密の場所へ向かった。
久しぶりに屋敷の前に立つ。
ヨークとスイカと共に。
ようやく帰ってこれた。
長い長い旅をしていた気がする。
あまりにも長い道のり。
でも、これからが本当のはじまり。スタートライン。そうだ、まだ僕はやりたいことが多い。けれど、ひとまずはお屋敷で休息だ。
人間、働いてばかりも息が詰まっちゃう。それはギルド職員時代に身に染みて理解していた。あの悪漢ガヘリスにいいように使われていた時代。
虚無しかなかった過去。
でも、今は違う。
ヨークと出会い、金貨バグという能力を手に入れて――それから、スイカを拾った。ネヴィルやリナ、執事のエドワード、メイドのアルマとも出会った。
それがこの屋敷だ。
アサシンさんは、どこかへ行っちゃったけど、きっといつかまた会える。そう信じている。
「ヨーク、ただいま。そして、おかえり」
「――はい、ヘンリーさん。おかりなさい。そして、ただいま」
二人で見つめ合い、スイカを中心にして抱き合った。生きている奇跡を、実感を、喜びを分かち合った。……死に掛けたこともあった。辛い思いをしたこともあった。でも、こうして生きている。
僕らは生きている。
ふと気づけば、自然と涙が出ていた。
僕は……泣いていた。
「僕は……ごめん、ヨーク」
「なぜ泣くのですか? ヘンリーさんは何も悪くないです」
「違うんだ。こうしてまた帰ってこれて嬉しいんだ」
「わたくしもです。もう怖い思いをしたくありません……」
「ああ、これからしばらくは屋敷で住もう」
ぎゅっと抱き合って、僕はヨークとスイカのぬくもりを感じた。
「ヘ、ヘンリー様。痛いですよぅ」
「すまない、スイカ。でも、本当に嬉しくて」
「あたしも頑張りましたっ」
「君の力は素晴らしかった。これからも、僕の仲間でいてくれるかい」
「はい、あたしはヘンリー様のペットですからね!」
「テイマーとしても精進していくよ」
「はいっ」
* * *
屋敷へ入ると、エドワードと遭遇。運んでいた料理を全部ひっくり返して驚いていた。
「ヘ、ヘンリー様!! ヘンリー様ではりませぬか!!」
驚いてワナワナ震えるエドワード。
さらに、異常を察知したアルマも現れて、これまた料理を全部ひっくり返して、お皿を割りまくっていた。
「うそー! ヘンリー様、ヘンリー様ではありませんか!!! 帰ってこないので、てっきりオークに食べれちゃったかと」
酷いなぁ。エドワードはともかく、アルマは僕達を死亡認定かいっ。まあ、随分と屋敷を空けていたし、事実、一週間以上は経っていた。
エドワードをアルマがブルブル震えている間に、リナも現れた。幸い、リナは目が見えないので反応薄だったけど、僕達の気配を感じると顔色を変えた。
「ヘンリー様? うそ、本当に!?」
「あ、ああ……僕だよ。久しぶりだね、リナ」
「わぁぁ! ヘンリー様、ヘンリー様ではないですか!」
リナ、君もその反応なのか。
ぽりぽりと頬を掻いていると、最後にネヴィルも現れた。
「なんだ、騒がしいな――って、うあああああああ!! ヘンリー! どうしてこの屋敷に!! おばけ!? おばけなのかい!?」
「ネヴィルも、僕が死んだと思っていたのかい!?」
「だ、だって一週間以上も姿を見せなかったし……連絡のひとつも寄越さず、何をしていたんだい」
「ガヘリスを止めていたんだよ。それが無事に終わった」
「な、なんだってー!! マジで倒したのか。凄いな、ヘンリー」
「そういうことで、もう奴隷売買もないし、帝国の変な呪いもなくなったよ」
「おぉ、素晴らしい。ヘンリー君は、まさに英雄だよ。礼を言う」
ネヴィルからそう言われて、僕はようやく自分が凄いことしたんだと実感を得た。でも、今はとにかく体を休めたかった。
「ありがとう、ネヴィル。僕はしばらく休む。農業をしようと思うんだ」
「そうか、そりゃいい。今のところ世界は平和になったしな」
今のところ?
変な言い方をするな、ネヴィルは。
久しぶりに屋敷の前に立つ。
ヨークとスイカと共に。
ようやく帰ってこれた。
長い長い旅をしていた気がする。
あまりにも長い道のり。
でも、これからが本当のはじまり。スタートライン。そうだ、まだ僕はやりたいことが多い。けれど、ひとまずはお屋敷で休息だ。
人間、働いてばかりも息が詰まっちゃう。それはギルド職員時代に身に染みて理解していた。あの悪漢ガヘリスにいいように使われていた時代。
虚無しかなかった過去。
でも、今は違う。
ヨークと出会い、金貨バグという能力を手に入れて――それから、スイカを拾った。ネヴィルやリナ、執事のエドワード、メイドのアルマとも出会った。
それがこの屋敷だ。
アサシンさんは、どこかへ行っちゃったけど、きっといつかまた会える。そう信じている。
「ヨーク、ただいま。そして、おかえり」
「――はい、ヘンリーさん。おかりなさい。そして、ただいま」
二人で見つめ合い、スイカを中心にして抱き合った。生きている奇跡を、実感を、喜びを分かち合った。……死に掛けたこともあった。辛い思いをしたこともあった。でも、こうして生きている。
僕らは生きている。
ふと気づけば、自然と涙が出ていた。
僕は……泣いていた。
「僕は……ごめん、ヨーク」
「なぜ泣くのですか? ヘンリーさんは何も悪くないです」
「違うんだ。こうしてまた帰ってこれて嬉しいんだ」
「わたくしもです。もう怖い思いをしたくありません……」
「ああ、これからしばらくは屋敷で住もう」
ぎゅっと抱き合って、僕はヨークとスイカのぬくもりを感じた。
「ヘ、ヘンリー様。痛いですよぅ」
「すまない、スイカ。でも、本当に嬉しくて」
「あたしも頑張りましたっ」
「君の力は素晴らしかった。これからも、僕の仲間でいてくれるかい」
「はい、あたしはヘンリー様のペットですからね!」
「テイマーとしても精進していくよ」
「はいっ」
* * *
屋敷へ入ると、エドワードと遭遇。運んでいた料理を全部ひっくり返して驚いていた。
「ヘ、ヘンリー様!! ヘンリー様ではりませぬか!!」
驚いてワナワナ震えるエドワード。
さらに、異常を察知したアルマも現れて、これまた料理を全部ひっくり返して、お皿を割りまくっていた。
「うそー! ヘンリー様、ヘンリー様ではありませんか!!! 帰ってこないので、てっきりオークに食べれちゃったかと」
酷いなぁ。エドワードはともかく、アルマは僕達を死亡認定かいっ。まあ、随分と屋敷を空けていたし、事実、一週間以上は経っていた。
エドワードをアルマがブルブル震えている間に、リナも現れた。幸い、リナは目が見えないので反応薄だったけど、僕達の気配を感じると顔色を変えた。
「ヘンリー様? うそ、本当に!?」
「あ、ああ……僕だよ。久しぶりだね、リナ」
「わぁぁ! ヘンリー様、ヘンリー様ではないですか!」
リナ、君もその反応なのか。
ぽりぽりと頬を掻いていると、最後にネヴィルも現れた。
「なんだ、騒がしいな――って、うあああああああ!! ヘンリー! どうしてこの屋敷に!! おばけ!? おばけなのかい!?」
「ネヴィルも、僕が死んだと思っていたのかい!?」
「だ、だって一週間以上も姿を見せなかったし……連絡のひとつも寄越さず、何をしていたんだい」
「ガヘリスを止めていたんだよ。それが無事に終わった」
「な、なんだってー!! マジで倒したのか。凄いな、ヘンリー」
「そういうことで、もう奴隷売買もないし、帝国の変な呪いもなくなったよ」
「おぉ、素晴らしい。ヘンリー君は、まさに英雄だよ。礼を言う」
ネヴィルからそう言われて、僕はようやく自分が凄いことしたんだと実感を得た。でも、今はとにかく体を休めたかった。
「ありがとう、ネヴィル。僕はしばらく休む。農業をしようと思うんだ」
「そうか、そりゃいい。今のところ世界は平和になったしな」
今のところ?
変な言い方をするな、ネヴィルは。
1
あなたにおすすめの小説
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします
紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド
どこにでも居る普通の令嬢レージュ。
冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。
風魔法を使えば、山が吹っ飛び。
水魔法を使えば大洪水。
レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。
聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。
一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。
「その命。要らないなら俺にくれないか?」
彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。
もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!
ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。
レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。
一方、レージュを追放した帝国は……。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる