最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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72 井戸の中③

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ゴブリンメイジを、どうにか助けることはできないのか。
スーは考える。

ギギギギ……。
魔力を全て使い切ってしまったのか、ゴブリンメイジは抵抗どころか動くことすらできないようで、スーに押さえ付けられたままだ。

「死にたい……。なぜ死ねない、なぜ死ねない……」
(ゴブリン、意識が戻ったのか!?)
ゴブリンメイジは薄っすらと目を開け、スーへと視線を向ける。
だが、その瞳の焦点は合っていない。

(お前が自由になる方法が、あるかもしれない)
スーはゴブリンメイジへと話しかける。

ナッカを殺せばいいんじゃないか?
テイムのことが、良く分かっていないスーは短絡的に考えるが、テイムとはテイマーに有利な魔法だ。
ゴブリンメイジが死んでもナッカに影響はないが、ナッカが死ねばゴブリンメイジも共に死ぬしかない。

「なぜ死ねない……。俺はこの手で同胞はらからあやめ、その血肉をむさぼり食ったというのに、なぜ生きている。死ななければ、早く死ななければ……」
ブツブツとゴブリンメイジは呟き続ける。
小さなスライムが言うように、ゴブリンメイジの心は、既に壊れてしまっているのだ。

(ゴブリン。しっかりしろ、ゴブリンッ!)
スーの呼びかけは、ゴブリンメイジへは届かない。
ただ、ゴブリンメイジは死ぬことのみを望んでいる。

「なあ、僕からも頼むよ。ゴブリンを死なせてやってくれ。ゴブリンの最後の望みを叶えてやってくれよ、お願いだよ」
小さなスライムは、スーの隣で伸び縮みをする。
同じスライムだから、小さなスライムが頭を下げているのが分かる。

今、ゴブリンメイジが正気を取り戻したら……。
自分のさせられたことに慟哭どうこくし、また心が壊れてしまうのだろう。
ゴブリンメイジを従魔から解き放つことができたとしても、その心を救うことは、もう無理なのだ。

(ゴブリン……。分かったよ、お前の無念は晴らしてやるからな)
スーはゴブリンメイジを押さえ付けていた触手をどける。

テイムされると、呪文で心臓を鷲掴みにされるのだという。
だから、心臓を開放してやろう。
従魔として死ぬのではなく、ただの魔獣として死ねるように。

グフッ。
触手はゴブリンメイジの胸へと突き刺さる。
ゴブリンメイジの口からは、小さな咳払いのような音と共に、赤黒い血液が流れだす。
一瞬のことに、ゴブリンメイジは痛みも苦しみも、感じなかったかもしれない。

スーはゴブリンメイジの心臓を自分に取り込んだ。
食べるという行為は、スライムの最高の敬意だ。

「ありがとう」
小さなスライムが、ゴブリンメイジの代わりに礼を言う。
食べられないように土の中に潜っていたスライムは、ゴブリンメイジの苦しみを一番近くで見ていた。

(ぐああああっ)
「どっ、どうしたんだっ!」
いきなりスーが苦しみだし、スライムは驚く。

スーの頭の中に、いつもの “ピロロローーン!!” という音が鳴り響き、慣れることのない成長痛がスーを襲っていたのだ。
ゴブリンメイジは無理やり進化させられており、大量の経験値を有していた。スーはレベルアップをしたのだ。

レベルアップでは、いつも身体が作り変えられるような違和感と激痛を伴う。
スーはしばらくの間、身をよじるようにして痛みに耐えていたが、徐々に元に戻ることができた。

(やっと治まってきた)
「大丈夫なの? 一体どうしたの?」
(ああ、心配かけたな、もう大丈夫だ。ゴブリンを取り込んだから、レベルアップしたらしい)
「レベルアップ……。僕もできるかな?」
(ああ、お前は大きさからいうと、レベル1みたいだから、すぐにレベル2になれるさ)
「でも、痛いのは嫌だなぁ」
スライムは困ったように呟く。

今のスライムはトマトの大きさしかないが、通常のスライムは育っていけば、リンゴぐらいの大きさまでは成長する。
ただ、レベルアップによって、急に身体は大きくならない。

「そうだ、ゴブリンの棒を探して!」
(ゴブリンの? 必要なのか?)
「あれはゴブリンロッドだよ。ゴブリンメイジの中でも持っているのはレアで希少なものなんだ」
(売るのか?)
「違うよ。持っていたら役に立つかもしれない。早く探してよ」
スライムは催促するためなのか、ピョンピョンと跳ねる。

(分かった、分かった)
スーは辺りへと視線を向けるのだが、レベルアップしたことによって、身体が変わったのが分かった。
見えるのだ。
今までは、日の当たる場所しか視界が利かなかったが、暗闇の中も薄っすらとだが見える。
身体能力が上がったのか?
遠くに弾き飛ばされた棒を発見すると、面倒くさいので、触手を伸ばして棒を拾い上げる。

「凄いね。僕もレベルアップしたら、触手が出せるかな?」
スライムからワクワクした感情が伝わってくる。

(触手かぁ、どうかな。ん?)
今頃気づいたが、目の前にいる小さなスライムは、スーが井戸に入る前から念話を飛ばしてきた。
今も普通に会話している。

おかしくないか?
目の前のスライムはレベル1に見える。
井戸に投げ込まれて、土以外を食べていないだろうから、身体の成長が止まっているだけで、すでにレベル2になっているかもしれないが、だがスライムはスライムだ。
スライムは食べるためだけの存在といわれるほどに、何もできない。言いたくはないが、頭で物を考えるなんてことはしない。
それほど長い時間、一緒にいたわけじゃないが、目の前の小さなスライムは、念話が出来るし、話しの内容がしっかりしている。
思考しているのだ。

(お前、普通のスライムじゃないのか?)
「普通のスライムって何? 僕は生まれてすぐに捕まって、井戸に投げ込まれたんだ」
スライムの念話は不思議そうだ。
本人は何が普通なのか分からないのだろう。

(こいつは突然変異なのか、それとも俺みたいに、偶然レベルアップしたのか?)
スーは考えるが、どう考えたって、分かるわけがない。

(ん?)
スーに地上にいるちょうちょの思いが伝わって来た。

ゴブリンメイジと戦っている時は、あまりにも必死で、ちょうちょのことまで考えられなかった。
ちょうちょの方は、やきもきしていただろう。

(おい坊主、井戸から出るぞ)
ちょうちょの思いが伝わってくる。井戸の逆止弁が開く。

井戸から出ることが出来そうだ。



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