最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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79 今日も授業を受けられそうにない

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「突然押しかけて悪いな」
ぜんぜん悪いとは思っていなさそうな国王シルベストが床にどっかりと座り込んでいる。

ティナの寮の部屋だ。
結局ティナは社交辞令で三人を部屋に招くことはなかったが、三人は勝手にティナの部屋へと入って来ている。
女性の部屋に押しかけるなどマナー違反! と、ティナが言えるはずもない。

そもそもティナの部屋は最小の従魔用なので狭い。
部屋の作りは単身者用のワンルームなので、来客に対応していない。
部屋の中には勉強机兼テーブルと椅子は一脚のみ。後はベッドだけだ。
ここに三人もの男性を、どう持て成せと? お茶の一杯も出せない。
食堂から届けられた朝食の果実水は、食事の時に飲んでしまったし、元からコップは3個も無い。

こんな所に王族が、それも国王が来るなんて……。
三人は勝手に床に座り込んでいる。
ティナは途方に暮れすぎて、全てを投げ出してしまっている。逆に平常心に戻っている。

「ほう、この方が神獣殿か」
小さなスライムのみかんに国王は敬意を払う。
神獣は人族よりは上位の存在だ。国王だろうと人族に変わりない。

プイ。
みかんは国王のことが気に入らないのか、スーの後ろに隠れる。

大きなスライムの後ろに小さなスライム。
色は違えどもプルプルが並んでいるのは可愛らしい。
ティナが微笑ましく見ていると、そう感じているのはティナだけではなかったようで、クライブが身もだえしそうになるのを必死で堪えていた。
小さなもの好きのクライブにすれば、みかんはかもしれない。
ちょうちょに可愛らしい服を着せて愛でていたが、ちょうちょは人型をしている分、クライブ的にはみかんの方が可愛らしく感じるようだ。

「俺ってば、お役御免? そうなると王宮シェフのサンドイッチはどうなるんだ」
クライブの反応を見たちょうちょは、ファンシーな服を着るのは嫌だったから喜ばしいのだが、サンドイッチを手に入れる方法を新たに考えなければと思ってしまう。

「幼き神獣よ、お前の神から与えられた使命はなんだ?」
人族になっているグリファスだが、念話でみかんに話しかける。
ティナには、関わらせ聞かせない方がいいだろうと判断したのだ。
シルベストとクライブは、グリファスの守護があるので、グリファスの念話を聞くことが出来る。他の魔獣達の念話は聞こえないが。

ザイバガイト王国我が国には、グリファスというグリフォンの神獣がすでにいる。その巨大な力は他の国々にも知れ渡っており、ザイバガイト王国へと、ちょっかいをかけてくる国はない。
グリファスは我が国の国防のかなめとなっており、おかげで国は安定している。

グリファスが神から与えられた使命は、この地を平定することだった。
人族は多くの小さな部族に分かれ、常に争い続けており、魔獣はいたる所に出没し、人族や獣たちを見境なく襲っていた。
だからグリファスはザイバガイト王国を作り、人族をまとめ上げた。そして魔素の流れを正して、魔獣の住む森を作った。

人族の国は栄え、秩序が生まれ、魔獣は安住の地を得た。
グリファスはそう思っていた。自分は神からの使命を遂行できたのだと。
しかし神は、そう思ってはいないのだろうか?
新たに神獣が現れる意図が分からない。神は何を思って神獣をつかわしたのか。
何かが間違っていたのか、何かが足りなかったのか。神の意志が分からない。

「僕はね、神獣って言われても、自分のことが分からないんだ」
みかんはスーの隣まで移動すると。グリファスへと答える。

生まれたばかりのベビースライムは無色透明だ。
最初に食べた物により、分類が決まる。スーの場合は水際に生えていたこけを食べたので、ブルースライムになった。
みかんは、そのベビースライムの時に、ただの雑魚スライムと思われ、人族ナッカに捕まり、井戸に入れられたのだ。
生まれてからスーに助けられるまで、井戸の底に隠れることしか出来なかったみかんは、神獣として目覚めていないのだろう。

「神からの使命なんて知らない」
みかんは己が神獣であることが気に喰わないのか、拗ねたような言い草だ。

神が神獣を地上に遣わしたのであれば、神獣は何らかの使命を与えられているはずだ。
だがみかんは、そのことを知らないと言う。
では神獣ではないのか?
だがグリファスはみかんが神獣だと分かる。自分と同じ神獣なのだと。

新たな神獣が現れたとなれば、どれ程の国益をもたらしてくれるのか、国民にどれ程の恩恵を与えてくれるのか。
国は喜びに沸き立つだろう。
シルベストは考える。国としては、まず神獣みかんを王宮に取り込まなければならない。
神殿の者達に知られるわけにはいかない。神獣が神殿ではなく王宮にいることが気に食わない神殿の者達は、必死になってみかんを取り込もうとするだろう。
ましてや他の国へと渡すことなど出来ない。
しかし、どれほど望んでも、神獣の意志に反することなど、人族にできるわけがない。

「そなたは、これからどうしたい?」
グリファスはみかんへと尋ねる。
人族の思惑など、神獣には関係無い。

「僕が人族のために遣わされた神獣だって思っているの?」
グリファスは、みかんの言葉をシルベストとクライブ伝えてやる。

シルベストとクライブはみかんの言葉にドキリとする。
ザイバガイ王国には他の国にはいない神獣がいる。王族を守護し、国を護ってくれている。
だから新たな神獣も、と思い込んでいた。いや、そうであってほしいと願っていたのだ。

「僕は物心ついた時には井戸の底にいたんだ。今日殺されてしまうのか、明日まで生きていることができるのか、そんな毎日を過ごしていたんだよ。恐怖しかなかった。土の中に潜り続けて、生きるのに必死だった」
みかんは自分が神獣だなんて知らなかった。知識を与えられていないのか、忘れてしまっているのか。
ただ、目の前にいたゴブリンに殺されないようにと隠れていることしか出来なかった。
土を食べることができるスライムだったから生きていくことが出来たのだ。

「どうしてそんな目に……」
みかんのことは、スーに連れられて来たこと以外、グリファスは知らない。
みかんがどんな場所で暮らしていたのか知らないのだ。

「井戸の底にはゴブリンがいてね。毎日毎日ゴブリンの怨嗟えんさの声を聞いていたんだよ。最初からゴブリンの独り言を理解できたから、僕は神獣なのかもしれない。でもね、理解できたからって、何にもならなかった。僕のことを殺そうとするゴブリンに同情は出来なかったし、ゴブリンを殺すことも救ってやることもできなかったんだ」
もし自分が神獣だと分かっていたら、何か出来ただろうか?
あの地獄の日々から、少しでも早く抜け出せただろうか?

「僕は助けを求めることしか出来なかったけど、誰も僕の声には応えてくれなかった。苦しくて、悲しくて……。このまま土の中で朽ち果てるしかないんだって思うようになった時に、スーが応えてくれた。スーが僕を助けてくれたんだ!」
みかんはスーへと自分の身体を甘えるように押し付ける。
スーは触手を出すと、ポンポンとみかんの頭を軽く叩く。
あの悲惨な井戸の底を知っているのは、みかんとスーだけなのだから。

「僕さ、思ったんだ。僕がこんな目に合った原因って何だろうって。ゴブリンに僕は殺されそうになって、ゴブリンを恨むべきなのかもしれないけど、ゴブリンも被害者だって分かっているんだ。じゃあ一番悪いのは誰かって言ったら、人族なんだよね」
「えっ!?」
グリファスに通訳をしてもらいながら、みかんの話を聞いていたシルベストとクライブは、みかんが悲惨な目に合って来たことは理解できた。だが、それが人族のせいだと言われて驚く。

「人族が神獣殿に危害を加えていたということなのか? 何と言うことだ。一体誰がっ。早急に調べて対処しよう」
シルベストは憤慨し、みかんに危害を加えた者を探し出すと宣言する。
神獣に人族が恨まれてしまうことがあってはならない。

「スーが助けたというのならば、詳しいことを教えてくれないか」
グリファスはみかんの話だけでは、どうしてみかんが悲惨な目に合っていたのかが分からない。
人族のせいだと言われても、それが何故なのかを理解できない。
スーに何があったのかを教えてくれと頼む。

スーはみかんに会うことになったことを話す。
みかんの声が聞こえたこと。
井戸の底にいた哀れなゴブリンのこと。
そして誰がそんなことをしていたのか。
自分がゴブリンを殺めたことは言わない。もちろん自分がレベルアップしたことや、スーの身体の中にゴブリンロッドが入っていることも。
みかんを助けて、なんとか井戸から脱出したと言っただけだ。

「そんなことが王宮の中で起こっていたのか……。申し訳ない、私の監督不行き届きだった。すぐに調べ上げて、厳罰に処す」
スーの話を聞いたシルベストの怒りは大きい。
よりによって神獣を魔獣の餌にしたなんて。

このことで神獣が人族を恨むようなことになったら、ザイバガイト王国の国民だけではなく、この大陸の人族全てが危険な立場になってしまう。
人に頭を下げることがあってはならない国王が頭を下げるのだった。



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