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100 答え合わせ④
しおりを挟むトリカが討伐に向かったのは、そうまで遠くはない領地の森の中。
害虫が大量発生したとのことだった。
害獣や害虫などの魔獣以外の討伐は、そこまで危険ではないとの判断から、騎士見習の者達が行う。
ここで活躍すれば、魔獣の討伐に参加できるようになる。
トリカは張り切った。
森も深くなり、鬱蒼とした木々の間に洞窟があった。それほど大きなものではない。人が数人入れるぐらいのものだろう。
ここから害獣が出入りしていると、木こりや猟師から連絡が入っていた。
洞窟の奥は光が差し込まず暗いかもしれないからと、松明を手に進んで行った。
何が出てこようとも大丈夫。トリカはそんな自信があった。
一緒に来ている者達の中で、一番剣の腕が立つのは私。私に敵う者はいないのだから。
それでもトリカは初の討伐ということで、先頭にはトリカより三歳年上の従兄、次に兄、そしてトリカで進んで行った。
すぐに洞窟の最奥へと着いた。
そこは少し広くなっており、害虫の巣のようだった。
一番に襲って来たのは臭い。
独特の臭いが充満していた。油が腐ったような、ねっとりと纏わりつくような臭い。
思わず吐きそうになってしまったのを何とか堪える。
こういう時のためにと首に巻いていたネックカバーを鼻まで覆うように引き上げる。
剣を持つ手に力を入れる。
害虫のことは事前に聞いていた。
そこまで大きくない。成人男性の足の裏程度の大きさ。
毒は持っておらず、飛ぶこともあるが、だいたいは地を這う。
素早く逃げるため、討伐に手はかかるが、攻撃してこないため、魔獣の認定はされていない。
どこにでも入り込み、何でも食い荒らす。
一番厄介なのは、人家にも入り込み、身体に持つ病原菌を振りまくことがある。
説明を受けた時、トリカは気づかなかった。
この世界にも、あの黒い虫がいるということに。
「きゃあー、いやあぁぁぁっ」
トリカは、この世界に転移して、初めて絶叫した。
目の前には、大量の害虫がいた。
壁一面に張り付く、黒光りしている大量の虫。
カサカサと動き回り、飛んでいるものもいた。
無理だ、無理。絶対に無理。生理的嫌悪で涙が出てくる。
「どうしたんだトリカッ。さっさとやっつけてしまうぞっ」
従兄の声が聞こえてくるが、身体は動かない。
吐き気が襲ってきた。
とうとうトリカは逃げ出した。
「お姉ちゃんは見たことがないでしょう。ここのGは前世のものよりも大きいのよ。こんなに大きいのっ」
トリカは両手を使って肩幅ぐらいの大きさを表す。
「黒い虫って、ゴッキーナのこと?」
ティナは頭を傾げる。
Gというのは分からないが、口ぶりからするとゴッキーナのことのようだ。
トリカは大げさに言っているが、田舎者のティナにすれば珍しいものじゃない。一匹見かければ三十匹はいると言われているぐらい、よく目にする馴染みの虫だ。
食料を食い荒らしたり、ゴミ処理用に飼っているスライムを襲ったりするので、見たらすぐに退治しなければならない。
大きいし身体が固いので素手や箒で殺すことは無理で、鍬や鋤を使って潰す。
素早いから難しいが、村では小さな子どもですら、やっていることだ。
生まれた時から、当たり前のことだと思っているティナには、トリカが騒いでいる意味が分からない。
「それに、異世界の虫は大きいのよっ。ムカデとか2メートルは超えているし、ちょうちょでも両手を広げても足りないぐらいに大きいじゃない。そんなの討伐できるわけがないわっ」
トリカは思い出したのか、身震いしている。
トリカが言う通り、ちょうちょは大きいらしい。この頃、ハロルドに教えてもらった。なぜかティナは、ちょうちょは小さくて可愛らしいと思い込んでいた。
自我を持ったまま転移したトリカは、前世に引きずられる。
ゴッキーナは見るだけで嫌悪し、他の虫にも悲鳴を上げる。
魔獣にも認定されないただの虫に、近づくことが出来ないのだ。
従兄には呆れられ、兄からは罵られた。
両親に討伐結果はすぐに伝えられた。驚かれ失望されたが、まだ巻き返せるはずだった。
虫だけが苦手なら、まだいい。
害獣や害虫は見習いたちが相手にするものだから、それ以外を頑張ればいい。
虫が駄目ならばと、魔獣の討伐に特別に参加させてくれることになった。
今度こそは!
トリカは気合を入れた。みっともない姿を晒してしまったが、今度は活躍してみせる。
自分にはチートがあるから大丈夫。
トリカは気合を入れて魔獣の討伐へと向かった。
領地内にある村の比較的近い場所にオークの巣があるとの連絡があった。
オークはオスしか生まれず、他種族のメスを捕まえて繁殖する。
一番適しているのが人族の女性のため、人族の集落に近い場所に巣を作ることがある。
発見次第、早急に討伐しなければならない。
やっと魔獣を倒すことができる。
これで経験値を獲得できる。レベルアップできるのだ。
トリカは嬉しかった。忌々しいCランクから解放される。
そう思っていたのは、オークを見るまでだった。
オークは人型だった。
それも身体には汚いが布のような物をまとい、手には木で作ったこん棒や、人から奪ったのだろう剣を持っている。
まるで人間だ。
いきなり魔獣とはいえ、人を殺せと言われたようなものだった。
前世では人を傷つけたことは元より、刃物を向けたことすらない。
今まで屋敷でしていた訓練では、人に向けるのは木剣だった。剣を使うこともあったが刃は潰してあった。
自分の振り下ろした剣が肉を裂き、骨を叩き折るなど、考えただけでも震え上がった。
それでもやらなければならない。
トリカは魔獣を倒し、経験値を獲得しなければならないのだから。
オークは魔獣の中でも下位で、雑魚といわれている。Cランクのトリカなら、単独で討伐することができる相手だ。
それに今回の討伐には、多くの騎士達が参加していた。危ないことは無い。
トリカは向かって来たオークに斬りつける。
辺りに血が飛び散り、肉を裂く感触が手から伝わってくる。
オークの口からは断末魔の声がほとばしり、憎々しげな視線を向けられたまま、目は閉じられることはない。
そのままオークは倒れて息絶えた。
周りの騎士達は次々とオークを倒していく。
辺りには血の臭いが立ちこめ、叫び声や絶叫が響き渡っている。
オークの死骸が、いたる所に転がり、血が地面を濡らしている。
トリカは動くことが出来なかった。
身体が震え、手には感触が残っている。
「いやあぁ、助けてぇ。お願いだからぁ」
女性の悲鳴が上がった。
巣の奥から、何人もの女性が連れられて来た。
近くの村から攫われて来たのだろう。
オークから犯され、全ての女性の腹は膨れていた。
「やめてぇぇ。ぎゃああ」
騎士達は、次々と女性達を殺していく。
すぐにオークの子どもが生まれてくるだろう。
それも母親の腹を食い破って。
オークに攫われた時点で、女性の未来は決まっていた。
犯され、子どもを産むときに死ぬのか、助けに来た騎士に殺されるのか。
自分に剣を向ける騎士に、涙を流し拝むように両手を合わせ女性は懇願する。
一思いに殺してやる。
それが騎士にできるたった一つのことだ。
トリカは、そこで気を失ってしまったのだった。
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