最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

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101 答え合わせ⑤




トリカは記憶を持ったまま転移した。
それがトリカを苦しめる。
転移した世界は、元の世界とは倫理も価値観も、人の命の重ささえも違っていた。
ことが出来なかった。

討伐はトリカのトラウマになり、もう討伐に参加することはできなくなっていた。
それは経験値を獲得することができず、レベルアップできないということを意味する。
あっという間に兄や姉に、そして弟にまでレベルは抜かれてしまった。
武門の家系であるサーリャ男爵家において、魔獣の討伐が出来ないということは致命的だ。
それまでは、サーリャ男爵家の跡継ぎだと言われていたのに、一気にサーリャ男爵家の恥さらしとさえ言われるようになってしまったのだ。

15歳になると、逃げるようにして家を出て、ザイバガイト学園へと入学した。
チートのCランクを持っているので、入学することは簡単だった。
学園内の座学や実習授業は軽くこなすことができる。
だが、屋外実習、それも野外実習になると、トラウマが思い出され、身体が硬直する。

Aブロックに所属しているトリカには、1年生から魔獣の討伐実習がある。
数日かけて魔獣の生息する森や山へと分け入り、指示された魔獣を討伐するというものだ。
もちろん教師が引率し、危険がないように配慮されている。

1年生の内はランクの低い魔獣の討伐になる。
それがかえってトリカを苦しめる。
ゴブリンやコボルト、オークなど、全てが人型だ。
見ただけでトラウマが蘇る。
身体は硬直し、吐き気がする。
レベルの高い魔獣の方が、トリカには討伐しやすかっただろう。だが学園側がそれを認めるわけはなかった。
トリカは落ちこぼれになっていった。

それでもトリカは真面目に学園で過ごしていた。
行き場がなかったからだ。
サーリャ男爵家実家には帰れない。あの家に、自分の居場所はなかった。

日々思うのは自分の力不足。
力が足りない。こんな辛い目に合わなければならないのは、転移するときに天使が力を半分しかくれなかったから。
それが原因。それが原因。
害虫だって一瞬で焼き尽くすことが出来れば、恐怖に動けなくなることなんてないし、人型の魔獣だって、巣ごと消滅させてしまえば、気持ち悪く思うこともない。
自分が苦しむことなんてないのだ。目の前から消してしまえばいい。それだけのことなのだから。

憎い。天使が憎い。
そして自分の力を半分奪って行ったお姉ちゃんが憎い。
天使に会って、力を戻せと言いたい。
だが、あの白い世界に行くことは無理だろう。行くためには死ぬしかないのだから。

じゃあ、お姉ちゃんから取り戻せばいい。
お姉ちゃんに奪われているのだから、戻してもらう。
元々お姉ちゃんは力を要らないと言っていた。何の問題もないじゃないか。
お姉ちゃんを探さなければ。

学園を卒業すると、サーリャ男爵家の娘というだけで、王宮の騎士になることができた。
王宮の騎士とはいっても、一番下っ端だ。
王宮の建物内に入ることはできないし、貴人達の近くに行くことすらできない。
街の警邏けいらや平民達のいざこざを処理する毎日。
それでも、お姉ちゃんに会えるかもしれない。街を巡回しながら、そう思って日々を過ごしていた。

トリカは職務で裏家業の者達と接触することが多かった。
そしてなっていった。
捜査状況や警邏予定、そんなことを教えてやると、便宜をはかってくれる。
お金も融通してくれるし、色々な物も手に入る。
その頃から、トリカは人を脅すことに抵抗がなくなっていった。
自分に反発する者には威嚇や暴言、暴力を振うようになっていった。どんなことをしても、裏の者達がもみ消してくれる。
人型の魔獣が討伐できないトリカだったが、人に刃物を向けるのは平気になっていった。

でもそんな日は長く続かなかった。
トリカが裏の者達と通じていることがバレそうになった。
裏の者達と一緒にいる所を同僚に見られてしまったのだ。だが、まだ証拠は掴まれてはいない。
トリカは逃げるように騎士を辞めた。

次の仕事を決めなければと思っていると、学園で寮母の募集があった。
もしかしたら12歳年下のお姉ちゃんが学園に入学してくるかもしれない。
トリカは採用試験を受けることにした。
学生の頃、学園長はトリカのことを可愛がってくれていいた。
武門の家系に生まれたのに、討伐をすることができないトリカを、憐れんでくれていたのだろう。
学園長の推薦を受け、すぐに採用された。

学園に入学してくるかと待っているが、中々お姉ちゃんが見つからない。
考えてみれば、転生をしたお姉ちゃんが、どんな容姿になっているか分からない。
このまま見つけられないのか……。

自分の将来を思う。
このままお姉ちゃんが見つからなかったら、寮母のまま朽ち果てていくのか。
それは嫌だ。
また騎士へと戻りたい。それも下っ端ではなく、上位の騎士に。

寮母であるトリカの周りには、将来有望な生徒達が大勢いた。
学園を卒業したら、官僚になる者や騎士になる者。先々では国を動かしていくであろう者たちだ。
この子達を自分の駒にしておけば、自分を騎士として王宮に迎え入れてくれるだろう。
寮母の自分を疑う者など、誰もいない。
特性のドリンクを役に立ちそうな生徒に飲ませてあげよう。

そんなある日、入学試験の試験監督の手伝いに呼ばれた。
入学試験には多くの受験生が集まって来るので、職員だけでは手が足りないのだ。
毎年のことなので、二つ返事で了承する。

そして第一次試験会場で試験監督をしていると、見つけた。
二つ向こうのゲートを通ろうとしている黒髪黒目の少女。
この国、いいや、この大陸には存在しない色味をした少女。
お姉ちゃんだ!

やっと会えた。
やっと力を返してもらえる。
そこで、ふと考える。どうやって、お姉ちゃんから力を取り戻す?
簡単だ、殺せばいい。お姉ちゃんに宿っている力は、お姉ちゃんを殺せば、元の持ち主である自分に戻ってくるはずだ。

ゲートをスライムと共に通過しようとしているお姉ちゃんを見て、たまらず笑顔になってしまうトリカだった。


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