2 / 109
プロローグ②
しおりを挟む(な、なんだ、どうしたんだっ?)
スーは自分の身に起こっている衝撃に耐えきれないでいた。
身体の奥が熱い。熱が身体を突き破りそうだ。
スライムは声を発することができないのだが大声で叫びたい。
どうすることも出来ずに、ただただのたうち回ることしかできない。
スーの身に起こっていることはレベルアップに伴う成長痛だ。
スライム種はレベル1からレベル2へとレベルアップする時、本人すら気づかないうちにレベルアップをしている。成長痛なんてものは存在しない。それどころかレベルアップに伴う身体の大きさやステータスに変化はない。
レベルアップの成長痛を、スライム種のスーが体験することは本来ならば無いはずなのだ。
スーは変化していった。
体力も防御力も攻撃力も全てのステータスが爆上がりしていく。
知能も上昇し、スーはおバカを脱却し、賢くなっていった。
今まで本能のままに生きていたスーは “考える” ことが出来るようになっていったのだ。
しかし、中心にかけて濃くなっていく水色のプルプルした身体の外見は、まったく変わらなかった。
ただ、今まで小玉スイカぐらいの大きさだったのが、普通のスイカぐらいまでに大きくはなっていた。
……、……、……。
どれくらいの時間が経ったのか、衝撃が治まっていくと、今までの自分とは違っていることを感じた。
身体の奥底に力の塊がある。何でも出来る、そう思えるほどのエネルギーを持った塊だ。
そして物事を考えている自分に気づき驚愕する。感情の他に思考することができている。
(俺は、このトカゲモドキ……。もしかしたらドラゴン種かもしれないな。こいつを倒したことになって経験値を得たのか? それでレベルアッフしたんだな)
スーは魔獣の本能なのか、己がレベルアップしたのだと理解した。
目の前に横たわる死骸をワイバーンだと認識してはいないが納得した。
スーは身体をプルプルと震わせると意識を集中する。
水を1滴たらした雫のような身体つきをしているスーは、その一番太い胴回りの側部から1本の触手を出す。
ニュルリと出てきた触手は、スーの思い通りに動く。まるで人族の腕のように。
(こんなこともできるようになったんだな)
レベルが上がったことにより、自分に何ができるようになったのか本能で分かる。
一通り触手を動かし、問題なく動かせることを確認すると、反対側の胴体からも2本目の触手を出す。
そして両方の触手を使い、目の前に横たわるワイバーンの死骸を自分の中へと取り込みだす。
スイカの大きさしかないスーが、巨大なワイバーンを持ち上げることができることがそもそも驚きなのだが、身体を広げ死骸を難なく飲み込んでいく。
自分の数十倍。いや数百倍の大きさのワイバーンを徐々に飲み込んでしまったが、スーの身体の大きさや形は元のスイカの大きさに戻ってしまった。
今までのスーなら出来なかったし、やろうとも思わなかった。
食べ残しがあっても、お腹一杯になってしまえば興味は無くなる。それがスライムという種だ。
だが今のスーは違う “欲” がある。
ワイバーンを食べるためではなく “収納” するために取り込んだのだ。
スーは思ったのだ。
目の前のトカゲモドキはドラゴン種だろう。
ドラゴン種は貴重で、鱗や血液はもちろん爪の先まで価値がある。
このまま森の中に放置しておけば、人族が見つけて持ち帰るだろう。人族に発見されなくても、獣の餌になってしまう。
お金の種類や使い方は、まだ分かってはいないが、このドラゴン種は売れる。それも高く。
ご主人様のためになるだろう。
そう、ご主人様のために。
ご主人様のことを思うと、身体の奥底にある、溢れるようなエネルギーの塊とは別に、温かい思いが身体を満たしてくる。
ご主人様のことが好きだという心だ。
プルプルの身体を捩りたくなるほどに、ご主人様が好きだ。
いくらレベルがアップし身体能力が爆上がりしようとも、この想いは一切変わることはない。
生まれたばかりのベビースライムの時にご主人様に拾われ、それからスーさんという名前を付けて貰った。
今のスーなら、スーという名前に敬称が付いたものだと分かる。だが、おバカ時代のスーは、自分の名前を “スーさん” だと思い込んでいた。
今更変えることなんてできないから、自分は “スーさん” のままだ。
ご主人様は何時も優しい。
おバカなスーは、何度かご主人様を食べようとしたことがあったが、その度に笑いながら引き剥がしてくれた。
そして優しく身体を撫でてくれる。
早くご主人様の元に帰ろう。
自分のレベルが上がったことを喜んでくれるだろうか? いつものように撫でてくれるだろうか?
逸る心のままにスーは飛び跳ねる。ちょっと気が急いて、力が入りすぎた。
ビヨヨヨ~ッ!!
近くに生えていた木の天辺近くまで飛び上がってしまった。
いくら背の低い木だったとはいえ、ゆうに2メートルは超えている。
(なっ、なんだっ! ちょっと力を入れただけなのに)
そのまま落下する。
ポヨンポヨン、ポテン。
地面で2度バウンドしたが、それだけだった。
これ程高い所から無防備に落ちたというのに、怪我どころか痛みも無い。
(もしかして……)
スーは木に向かって体当たりをする。
さっき跳ねた時ぐらいの力だ。
ベキィッ。
木の体当たりした所に、折れはしなかったが大きなヒビが入った。
(凄いな……。これがレベルアップしたってことか)
実感すると、じわじわと喜びが湧いてくる。
調子に乗って、高く跳ねあがってみたり、近くに生えている木に何度もぶつかって倒してみる。
(ちょっと待て!)
大事なことに気づき青い身体がもっと青くなる。
(よ、よかったぁ。気づいて良かった。いつもの調子でご主人様に抱っこを強請って飛びついていたら、ご主人様が吹っ飛んでしまうところだった。怪我をさせるどころか、もしかしたら死んで……)
スーは恐ろしい考えにプルプルと身体を震わせる。
気づくことが出来て良かった。大惨事になる前に分かって良かった。
安堵の息を漏らす。
そしてまたも気づく。レベルアップしたことで身体が大きくなっている!
大きくなった自分を、ご主人様はいつものように抱っこしてくれるだろうか?
確実に重くなっているだろう。もし抱っこどころか嫌われてしまったらどうしよう……。
死ぬほど辛い。
青くなっていた身体を更に真っ青にしてしまうスーなのだった。
181
あなたにおすすめの小説
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ノアは、敵を弱体化させる【呪物錬成】スキルで勇者パーティを支えていた。しかし、その力は地味で不吉だと疎まれ、ダンジョン攻略失敗の濡れ衣を着せられ追放されてしまう。
全てを失い、辺境の街に流れ着いたノア。生きるために作った「呪いの鍋」が、なぜか異常な性能を発揮し、街で評判となっていく。彼のスキルは、呪いという枷と引き換えに、物の潜在能力を限界突破させる超レアなものだったのだ。本人はその価値に全く気づいていないが……。
才能に悩む女剣士や没落貴族の令嬢など、彼の人柄と規格外のアイテムに惹かれた仲間が次第に集まり、小さな専門店はいつしか街の希望となる。一方、ノアを追放した勇者パーティは彼の不在で没落していく。これは、優しすぎる無自覚最強な主人公が、辺境から世界を救う物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる