最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ

文字の大きさ
34 / 109

32 入学試験・三次試験当日

しおりを挟む


ティナとスーは妖精の里に一晩泊めてもらうと、次の日の早朝、試験会場側の入り口へと戻ることにした。
もうそのまま学園に行けばいいじゃないかとスーは思ったし、長老や戻って来た族長も、身振り手振りで勧めたが、持っている木札を返さなければいけないからと、ティナは一旦戻ることにしたのだった。

「お世話になりました」
ティナは見送りに出てきた妖精達へと頭を下げる。

本当に妖精達は良くしてくれた。
沢山の果物でお腹は一杯だったし、近くに綺麗な泉があると案内してくれた。水浴びをすることができたのだ。
村を出てからはお風呂に入ることはできず、身体を拭いたり、たらいに汲んだ水で髪を洗ったりするのがせいぜいだった。
泉の水は少し冷たかったが、ティナは大喜びした。
寝床も皆がわらを沢山運んでくれたからフカフカだった。ぐっすりと眠ることができた。

「また遊びに来てねー。待ってるよー」
「デブスライムもだよ。約束だよ」
「ティナとデブスライムは、ここに住めばいいのに」
(俺はデブじゃねーって何度言えば分かるんだ。お前ら脳みそ無いんじゃねーか)
妖精達が口々に別れを惜しんでくれる。

「ティナさん、スライム殿、我らを救ってくださって、ありがとうございました。またいらして下さい」
族長が頭を下げる。
ティナには族長の言葉は分からないが、皆が別れを惜しんでくれているのは伝わった。

ティナが学園に無事就職できれば、妖精達とは、また会うことができる。そうなれればいいなとティナは思いながら妖精達に背を向けた。
スーはというと、ティナにまとわりつく妖精達と離れることができるからなのか上機嫌だ。さっさ行こうと言わんばかりに、ティナの隣でねている。

「族長っ、長老っ、お、俺っ!」
今までどこにいたのか、いきなりちょうちょがティナの横顔へとぶつかる勢いで飛んできた。
びっくりしたティナが思わず立ち止まる。

(あー嫌な予感がする。まあ一応聞いてやるよ、どうしたんだちょうちょ)
スーが渋い顔をしながらちょうちょを仰ぎ見る。
心の奥底が繋がっている? らしいからなのか、ちょうちょの考えは、分かりたくもないのだが何となく分かってしまう。

「俺、ティナ達に付いて行く!」
ちょうちょは力を込めて、一気に宣言した。

(だよねー。そんな気がしてた)
スーはウンザリとしながら跳ねるのを止めた。

「何を言っている。この集落から出て行くということか?」
「付いて行ってどうする?」
族長は驚いているが、長老は分かっていたかのようにため息を吐いている。

「俺、考えたんだ。このままじゃ駄目だって!」
「何が駄目なんだ? 集落どころか森からも出て行くつもりなのか? 危険すぎる。ティナさんは我らのことを救ってくれたが、他の人族は妖精のことは利用できる道具としか思っていない。捕らえようと虎視眈々と狙っているのだぞ」
「そんなこと分かってるよ。でも俺は行く。行かなきゃならないんだ」
「止めておけ」
「嫌だ!」
(おーい、もう行ってもいいか?)
族長とちょうちょの言い争いが始まってしまった。とは言っても、ティナには言葉が通じていないため、可愛い妖精達が目の前で何か話し合っているとしか思っていない。
スーに至っては、ペット枠ライバルのちょうちょを見捨てて、さっさと行きたいと思っている。

「俺は妖精喰いが出た時、何もできなかった。目の前で仲間が食われたのに、喰われたことにすら気づかなかったんだ」
「妖精喰いは能力ステルス持ちだ、それは仕方がないことだ」
「違う。族長と長老には見えるじゃないか。俺が見えなかったのはレベルが足りてないからだ。それに妖精喰いが見えたとしても、小さな俺じゃあ何もできない。目の前で仲間が食われても、逃げることしかできないんだ」
ちょうちょは悔しそうに握りこぶしに力を入れる。

妖精は生まれてくること自体が稀だが、その分寿命が驚くほど長い。仲間とは長く共にいることになり絆も深い。
そんな仲間が食われたというのに、ちょうちょは気づけなかった。仲間の死をいたむことすらしなかったのだ。

「俺は嫌だ。仲間を守りたいんだ。妖精喰いだけじゃない、仲間を襲う全てのものから守りたいんだっ!」
ちょうちょは叫ぶ。

今から40年ほど前、まだちょうちょが子どもだった頃、人族が妖精を捕らえようと集落を襲ったことがあった。
冒険者崩れの者達だったが、一人強い魔力持ちがいたために何匹もの妖精が捕まった。
手で直接捕まえることができたし、逃げないように魔法を施した籠に入れることもできたから冒険者達は妖精が肉体を持っていないことに気づかなかった。

妖精は魔素マナかたまりであり、他の生き物のように物を食べて生きているわけではない。魔素を吸収し生きているのだ。魔素が溢れる場所にいなければ餓死してしまう。
レベルの高いテイマーにテイムさせればいいと思っていた冒険者達の目の前で、捕らえられた妖精達は、あっという間に衰弱して死んでいってしまった。
幼かったちょうちょは勿論だが、他の妖精達も仲間を助けたくても助けに行くことはできなかった。ただ逃げて隠れて震えていただけだった。
妖精は、それほど非力で攻撃力など皆無な種族なのだ。

「俺は仲間を守る力が欲しい。そのためにはレベルを上げる。レベルを上げて力を手に入れる」
「そんな簡単なものじゃない。分かっているのか、この森から出れば、他の魔素がある場所に行きつく前に死んでしまうぞ」
「それは大丈夫なんだ。俺はいつの間にかティナのペットになっていた。そのせいなのか魔素を取り入れなくても、やっていけるんだ」
「まさか……」
ティナと繋がってはいないと感じているちょうちょだったが、なぜか魔素を取り込まなくても動ける。空腹感も無い。
ティナが果物を食べて、お腹が一杯だと言っていると、自分も力がみなぎる。
これがペットになったということなのか。

(そーいやぁ、そうか)
ちょうちょの話を聞いて、スーも納得する。
スーは食べるためだけの存在といわれるスライムだが、あまり食べない。もちろん食べはするのだが他のスライムに比べれば小食といえる。空腹感があまりないのだ。
もしかしてご主人様からエネルギーでも貰っているのか……。
いや、ちょっと待て。それってばご主人様的にはヤバいことじゃないのか? ご主人様の負担になっていないのか? ご主人様が餓死してしまったらどうしよう!
焦ってしまったが、考えてみればスーがご主人様のペットになって、すでに12年が経つ。ティナは元気だ。

「俺はティナに付いて行く。妖精でも強い力を身に付けることができるかもしれない」
「しかし……」
妖精はわざわざレベル上げをしようとはしない。ただ長い年月により積み重なった経験値でいつの間にかレベルが上がっているだけだ。
レベルが上がれば族長や長老のように能力を得ることができる者もいるが、能力を得ることが出来ない者の方が多い。
元々の特性がある分、能力を得にくくなっているようなのだ。

「族長、行かせてやりましょう」
「長老……」
ちょうちょの決意に、それでも族長は反対しようとした。
ちょうちょはまだ若い。そんな死に急ぐようなことをしてほしくはないのだ。それなのに長老はちょうちょを行かせてやれと言う。

「ちょうちょと名前が付けられジョブが変わったのは、仲間を守りたいという思いがあってのことだろう。遅かれ早かれ集落から出て行くことになっただろうから、ティナさん達に付いて行く方が、まだ安全だということだ」
「そうでしょうか……」
「ちょうちょよ、妖精にとってレベル上げは、何かと苦しいことだと思うが、何かあればいつでも帰って来るがいい。それにお前が自分の能力に納得できた時にはジョブも変わっているだろう」
「はい、ありがとうございます」
まだ族長は承諾しょうだくしかねている様子だったが、長老はちょうちょを送り出す。
ちょうちょも嬉しそうに頭を下げだ。

「えー、行っちゃうのぉ」
「寂しくなるよぉ」
「早く帰って来てね」
他の妖精達もちょうちょを見送る。

「分かった。すぐに強くなって帰って来るからな、待っててくれよ」
仲間に手を振ると、ちょうちょはティナの少し前方を飛ぶ。まるで先導するように。

「あら、ちょうちょさんも付いて来るの?」
昨日もちょうちょは学園まで付いて来ていたから、別に不思議にも思わない。そのまま歩き出す。

「そう、ジョブは変わることがあるし、努力すれば変えることができる……」
「どうされたのですか長老」
「いや、何でもない」
長老の呟きが族長に聞こえたが、内容までは聞こえなかったようだ。

スーとちょうちょのジョブは “ティナのペット” だった。
ジョブはその時の職業や状態を表すから変わることがある。本人の努力で変えることができるのだ。
自分のジョブに納得できたら、ちょうちょは集落に帰ってくるだろう。

長老はティナのステータスも見ていた。
ティナに表示されていたのは “ペットの飼い主”。
それは予想していたことだった。もしかして一種の魅了チャームのようなものかもしれないと思った。魔獣や妖精を手懐けるものなのかもと。
だが違った。
それはジョブではなかったのだ。

天恵ギフト
ギフトは神が与えた祝福だ。
持つ者は非常に稀で、長く生きる長老ですら、今までに、たった一人しか見たことはなかった。

妖精の集落が人族に襲われた後、もう二度と襲われないようにと、人族の王族から保護の申し出があった。
魔石を使い、森全体に目くらましの魔法をかけ、妖精の集落に人族が近寄れないようにするというものだ。
目くらましの魔法自体は、それほど強いものではないが、魔法が破られると、それが警報になり、何者かが侵入したことを知ることが出来る。
ただ、広範囲の常時発動パッシブ魔法になるために魔力の消費が大きく、魔石を使うとはいえ発動し続けることは難しい。
そのために妖精にも力を貸してほしいと、その当時学園に在籍していた王子が王家を代表して族長の元へとやって来たのだ。
その時の王子、今では国王となっているシルベスト=ザイバガイトのステータスを長老は見て知った。
シルベストのステータスに表示されていたのは、天恵ギフト “国をべる者”。
長老は初めてギフトを持つ者を見た。ギフトというものがあることを知ったのだった。

「ジョブは変えることができる。だがギフトは……」
ギフトの持つ力も意味も、長老は知らない。知りようがないのだった。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

処理中です...