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52 入寮
しおりを挟むアール教頭に入学したいと伝えると、ハロルドから事務所に連れて行かれ、そこで様々な手続きをした。
その後、寮に連れて行ってもらった。
テイマー用の寮は、寮とはいっても、1階が獣舎で2階が住居という、一人用の建物だった。
食堂や風呂、トイレは共同棟にある。
少し離れているから不便かけるね。と、ハロルドに言われたが、ティナにとっては贅沢すぎた。
一人で部屋を使える上に、ベッドや家具が揃っている!
部屋の中にゴミは落ちてないし、ベッドにシミも無い。窓から隙間風が入ってくることはないし、きっと雨漏りもしないのだろう。
ハロルド曰く、テイマー用の寮は従魔の大きさによって決まるので、大型の従魔を連れていれば部屋は広くなる。
ティナの連れているスーは最小扱いなので(ちょうちょは言わずもがな)一番狭い寮になったとのことだった。
こんなに広いのに!
無料でこんな高級な場所を使っていいなんて、ティナは夢心地だ。
「疲れた……」
今日も一日、何だかんだと忙しかった。
ティナはポフンとベッドに倒れこむ。
ハロルドが帰って行き、共同棟で夕飯を取り、お風呂に入った後、ティナの一日はやっと終わった。
力が抜けてゆく。
バタタタ!
「あっ、こらっ、フェネックちゃん、暴れたら駄目よ」
カーバンクルが枕の上を走って行く。
ティナが寮でひと段落ついた頃、カーバンクルを胸に入れたクライブが訪ねてきた。
カーバンクルを王宮に連れて行くことはできないし、このまま学園に置いておくこともできない。
ティナの獣舎に置いてほしいとのことだった。
ティナは二つ返事で受け入れる。
カーバンクルが人を襲う魔獣だということを、ティナは丸っと忘れている。だって可愛いし。
スーやちょうちょもいるから、一緒に仲良くお泊りね。それぐらいの感覚だ。
「カーバンクル、身体に気をつけて……」
カーバンクルを胸から出しティナに渡す時、クライブがギュッとカーバンクルを抱きしめた。
その顔が、とても切なそうだった。
分かるぅ。ティナは頷く。少しでも離れるのは寂しいよね。自分もスーやちょうちょと一晩でも離れるのは嫌だもの。
クライブは何度も振り返りながら帰っていった。その後姿をカーバンクルは、ただじっと見つめていた。
普通のテイマーなら、従魔は獣舎に入れて、自分の部屋には入れない。
従魔の扱いが酷いテイマーになると、獣舎に入れたまま長時間放置したりする。
だがティナはいつもスーと一緒だった。
もともと村には獣舎なんてものはなかったから、同じ部屋にいて、同じベッドで寝ていた。
獣舎があっても、今更別々に寝るなんて、そんな考えは思いつくことすらなかった。
今もティナの部屋にはスーとちょうちょ、そしてカーバンクルがいる。
スーとちょうちょは大人(?)の貫禄なのか、どっしりと落ち着いてベッドの上にいるが、初めての場所に興奮しているのか、ただ単に仔どもだからなのか、カーバンクルは忙しなく動き回っている。
「ふっわふわするっ。おもしろい!」
今度はベッドの上で飛び跳ねている。
(チビ助、落ち着け)
「もう寝んねの時間だぞー」
スーとちょうちょがカーバンクルを落ち着かせようとしているが、効果はないようだ。
だてに12年もの歳月を魔獣のスーと共に暮らしてきたわけじゃない。枕元でカーバンクルが飛び跳ねようと、ベッドの上で走り回ろうとも、ティナは動じない。というか気にしない。
さすがに顔を踏まれたら怒るかもしれないが、それよりも今は眠気が勝っている。
このところ毎日が濃い。
やっとゆっくりくつろぐことができている。
ティナは、ウトウトし始めると、すぐに深い眠りに落ちてしまった。
(おい、ご主人様が眠ったから静かにしろ)
「スー、ご主人様に毛布をかけてやれ」
スーは触手でカーバンクルを捕まえ、ちょうちょは毛布を引っ張っていたが、諦めてスーにヘルプをだす。
(おい、覚悟はできたか)
「うん」
触手に捕まったまま、カーバンクルはスーの問いかけに頷く。
今までは無邪気に遊んでいた仔どもだったが、その瞳には魔獣本来の凶暴な光が宿っている。
従魔ではなくなったカーバンクルは、学園に居続けることは出来ない。
生まれ故郷の森に帰るのが一番だ。
だが、その前にカーバンクルの無念な思いを、少しでも晴らしてやりたい。自責の念を軽くしてやりたい。
「もう行くのか?」
(ああ、早い方がいいからな)
ちょうちょの問いに、スーはご主人様へと視線を向ける。
もうぐっすりと深い眠りに入っているようだ。
(ちょうちょ、すまないが、ご主人様を頼む)
「おう、任せろ。添い寝しといてやるぜ」
(くそう、行くのを止めるか)
ちょうちょの返事にスーは嫌そうな表情を浮かべる。
ご主人様の元を離れたくない。
自分のいない間にご主人様に危険が迫ったらと思うと心配だし、怖い。
だからちょうちょに頼む。
スーとちょうちょは同じペットだからなのか、互いの心が通じている。
もし危険な目に合ったり、助けが必要な時は分かる。
(なにかあれば、どんなことをしても戻ってくる)
ちょうちょ以外にご主人様を任せることができる相手はいない。
「あのいけ好かないエリオットは、まだ学園にいるのか?」
(いや、家族が迎えに来て、家に帰ったとグリファスが言っていた)
「家の場所は分かるのか?」
(チビ助、分かるか?)
ちょうちょの問いに、スーがカーバンクルへと問いかける。
「分かってる」
カーバンクルは頷く。
従魔として屋敷に閉じ込められていたし、色々と連れ回されることもあった。
屋敷の場所は覚えている。
(じゃあ行くか)
すでに辺りは闇に包まれている。
スーとカーバンクルは静かに寮から出て行くと、エリオットがいるであろうワークス侯爵家へと向かうのだった。
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