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第28話
しおりを挟む第28話 東方の創造者
――旅立ちの日の朝。
アマギの空は澄み渡り、白い雲が静かに流れていた。
しかし、その穏やかな空の下で、
エリスの胸には、確かな緊張が走っていた。
東方の大陸“ナーヴァ”――
そこに現れた未知の創造者、名をルゼア。
人々の夢や恐怖を強制的に具現化するという、
“創造の秩序”そのものを歪める存在。
彼の出現は、“創造連盟”にとって最大の試練だった。
⸻
「出発準備、完了しました!」
報告に来たリィナが、軽く敬礼をする。
腰には改良型の思念銃――“クロノス・デュアル”。
創造素を圧縮し、瞬時に物質化する新時代の兵器だ。
「よし、予定どおりアマギを出る」
エリスが頷く。
「ゼオル、街の防衛は任せてもいい?」
「問題ない。
防衛機構は“創造連環”と連動している。
俺が残れば、どんな侵入も防げる」
「ありがとう。必ず戻るわ」
ゼオルは静かに頷き、言葉を添えた。
「……創造が歪む時、必ず“影”も生まれる。
気をつけろ、エリス。ルゼアは“お前の対”かもしれん」
「――対?」
「創造を“共有”するお前に対し、
彼は“支配する創造”を体現している。
つまり、創造の極点が分岐した存在だ」
その言葉に、エリスは胸の奥がざわついた。
まるで、何かを思い出しそうな――そんな感覚。
⸻
旅は長く、過酷だった。
荒野を越え、霧の谷を抜け、
やがて一行はナーヴァの国境へと到達した。
空はどこまでも赤く、地面には奇妙な模様が刻まれている。
それは、まるで“夢の残滓”のような光景だった。
「ここ……現実、だよな?」
リィナが辺りを見回す。
「ええ。でも、現実の“基盤”が揺らいでいる」
エリスが答える。
「ルゼアの力によって、“夢と現実の境界”が曖昧になってるの」
その言葉どおり、遠くの森では、
ありえない形をした建物が空中に浮かび、
巨大な鳥が砂の中から現れては霧のように消えていく。
リィナが苦笑した。
「夢の世界が現実になってるってか……
まるで“神の悪趣味な遊び”みたいだな」
「いいえ。これは神じゃない。
“人の無意識”そのものが作り出してる」
エリスの声は硬かった。
「人間の“想い”が制御を失うと、
世界はこうして“現実を侵食する”の」
⸻
ナーヴァの中心都市“ヴェルダ”。
そこはかつて交易と学問の都として栄えたが、
今は廃墟と化していた。
街中には“夢の残響”と呼ばれる影が彷徨い、
笑い声や悲鳴が風に混ざって響いていた。
エリスとリィナは慎重に街を進む。
その途中、中央広場に差しかかると――
まるで待っていたかのように、空気が変わった。
黒い霧が渦巻き、
その中心から一人の男が現れる。
銀髪、白衣、瞳は深い蒼。
しかしその瞳の奥には、底知れぬ虚無があった。
「――やはり来たか、エリス・アマギ」
その声は静かで、どこか懐かしさを含んでいた。
「あなたが……“ルゼア”ね」
エリスが構える。
男はゆっくりと頷き、微笑んだ。
「そう呼ばれている。
もっとも、私の名などどうでもいい。
私は“人の夢”そのもの――
そして、お前たちが信じた“創造”の成れの果てだ」
「成れの果て……?」
「お前たちは“想いを共有する”と謳い、
人々の意識を繋げた。
だが、共有はやがて“同一化”を生む。
意識の境界が曖昧になれば、“個”は消える。
それこそが――創造の死だ」
リィナが叫ぶ。
「黙れ! あんたの言うことはただの恐怖だ!」
ルゼアは穏やかに笑う。
「恐怖こそ、最も純粋な創造の源だよ。
夢は希望からではなく、恐怖から生まれるのだから」
その瞬間、地面が波打ち、
街の建物が歪んで空へと伸び上がる。
人々の記憶、願い、悪夢――
それらが実体化し、世界を覆っていく。
リィナが叫ぶ。
「エリス、どうする!?」
エリスは拳を握り、瞳を閉じた。
胸の奥の光――蓮の声が響く。
――『恐怖を創造で上書きしろ。
“想う力”を、もう一度信じるんだ。』
目を開く。
エリスの瞳が金と蒼に輝く。
「――創造連環、解放」
彼女の背中に光の翼が広がり、
都市全体を覆うほどの光の陣が展開する。
「ルゼア。
あなたが“夢”で世界を縛るなら、
私は“希望”で現実を繋ぐ!」
光と闇がぶつかり、
ヴェルダの空が二色に裂かれた。
そして――
創造時代最大の“思想の戦い”が、
静かに始まった。
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