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第33話
しおりを挟む第33話 現夢時代(リアリア・エイジ)
――世界は、変わった。
それは爆発でも崩壊でもなく、
静かで、美しい“変化”だった。
夜明けとともに、
アマギの空に虹色の光輪が現れた瞬間――
全人類の“意識”がわずかに共鳴した。
誰もが一瞬、夢を見た。
それは過去でも未来でもない。
**「今、この瞬間に生きる他者の想い」**を感じる夢だった。
悲しみを抱く者は誰かの温もりを、
希望を抱く者は誰かの涙を、
憎しみを抱く者は誰かの祈りを――
ほんの一瞬、共有した。
そして世界は、
“夢と現実が重なり合う新時代”――
**現夢時代(リアリア・エイジ)**へと進化した。
⸻
アマギ中央区・創造連盟本部。
透明な天井からは淡い光が差し込み、
建物そのものが“生きている”ように柔らかく呼吸していた。
この構造は“想界物質”――
人の想念を固着させて形成された新素材。
リィナはその廊下を歩きながら、ため息をついた。
「いやぁ……平和ってのはいいもんだな。
でも、なんかこう……“落ち着かねぇ”」
ゼオルが隣で苦笑した。
「お前が戦場育ちだからだ。
今は“創ること”こそが戦いだろう」
「そうかもな。
でも、あたしはまだ引き金の重さを覚えてる。
それを忘れたら、またどっかで何かが狂う気がする」
その言葉に、ゼオルは目を細めた。
「……それも、創造の一部だ。
恐怖を忘れないのは、進化の証だよ」
⸻
一方その頃、
エリスは“現夢制御中枢(リアリア・コア)”の上層にいた。
塔の内部では無数の光の糸が浮かび、
人々の意識が交差しながら、静かに流れている。
それらは新しい世界の“神経”であり、
彼女が開いた“扉”の果実だった。
「……不思議ね。
誰かの夢を感じるのに、ちゃんと“自分”が残ってる」
エリスは目を閉じる。
見知らぬ子どもの笑い声、
遠くの職人の創造する音、
海の向こうの人々の祈り。
それらがすべて、自分の心の奥に響いてくる。
――しかし、その奥底で。
微かな“ノイズ”が混ざっていた。
最初は気のせいだと思った。
けれど、次第にそれは形を持ち始める。
『……エリス・アマギ……聞こえるか……』
「……誰?」
声は、静かで、冷たい。
どこかで聞いたことがあるような響き。
『観測を開始する。
創造も破壊も、もう不要。
我は“見届ける者”――第零階層の意識体。』
その瞬間、
エリスの脳裏に“新たな構造図”が浮かぶ。
創造の五階層のさらに下――
“始まりの下層”とでも呼ぶべき空白。
「第……零階層?」
『我は“観測者(オブザーバー)”。
創造の誕生を記録し、終焉を見届けるために存在する。
お前が“現夢”を開いたことで、再び目覚めた。』
「……あなたは何者? 神? それとも……」
『違う。
我は“記録そのもの”だ。
神も人も、想いも、
すべての“過程”を保存するために創られた――意識の化石。』
その言葉に、エリスの胸がざわめく。
記録……?
それは創造の対極、“変化を止める力”だ。
「あなたは、世界を止めようとしているの?」
『停止ではない。
観測とは、全てを見届けた上で、選択を無に帰す行為。
“変化し続けること”は、いずれ宇宙を壊す。
ゆえに、我はただ――静止を望む。』
エリスは強く首を振った。
「それは、死よ。
創造が止まれば、想いも消える!」
『想いなど、無限に再生される。
観測は痛みを終わらせる唯一の方法だ。』
空間が軋み、塔全体が揺れる。
現実と想界を結ぶ回路に、冷たい波が走った。
人々の夢が一瞬、停止する。
⸻
リィナが駆け込んできた。
「エリス! どうした!? 現夢ネットが不安定だ!」
「“何か”が侵入してる……
創造でも破壊でもない、“観測者”よ」
ゼオルが顔をしかめた。
「観測者……? そんな概念、記録にないぞ」
「ええ。おそらく、“想界のさらに下”から来た存在。
私たちが創造を拡張したことで、
“記録する意志”まで呼び覚ましてしまったの」
リィナが舌打ちした。
「だから言っただろ、平和が一番落ち着かねぇんだよ……!」
エリスは微笑んだ。
だがその瞳の奥には、静かな決意が宿っていた。
「――また創るわ。
今度は、“観測さえ超える世界”を」
⸻
その夜。
アマギの空に、金と蒼の光が再び交差した。
新しい時代の中で、“第零階層”の影が動き出す。
夢と現実の境界は、
今、再び揺らぎ始めていた。
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