42 / 80
第42話
しおりを挟む第42話 祈りの果て
――あれから、五年が経った。
“共鳴条約”のもと、
世界は静かに、そして穏やかに進化を続けていた。
創造は祈りとなり、祈りは文化となった。
アマギ市では、子どもたちが毎朝、
空に向かって「今日も創れるように」と手を合わせる。
それが、日常の一部になっていた。
創造は制御され、調和を保っていた――
はずだった。
だが、その裏で、“異変”が始まっていた。
⸻
ある夜。
アマギの南端、廃棄区画のひとつ。
静寂を破るように、空間がねじれた。
その中心で、黒い光が立ち上がる。
「……我々は祈りを捨てる。」
声が響く。
十数人の人影が、黒い外套をまとって立っていた。
彼らの額には、かつての“創造紋章”が逆転した形で刻まれている。
「“有限”など偽りだ。
終わりを受け入れるなど、創造者の敗北にすぎない。」
黒衣の中央に立つ男が言った。
その名は――アシュレイ・カイト。
かつて創造連盟の高位研究員だった男。
だが、“無限創造”を否定したエリスに異を唱え、姿を消した人物。
「我々“無限派(インフィニスト)”は、祈りを拒絶する。
神でも人でもない、“永遠の存在”を取り戻すのだ。」
その瞬間、男の掌から光が生まれる。
それはかつてナミアが使った、“無感の創造素”。
黒く澄んだその光は、風景を静止させた。
⸻
翌朝。
アマギ中央塔の警報が鳴り響いた。
「北東区で“無限波”を確認!
建造物が時間停止領域に包まれています!」
リィナが叫ぶ。
「またナミアの残滓か!?」
ゼオルが首を振る。
「違う。これは……人為的な波形だ。
“無限派”が、ナミアのデータを再現している!」
エリスが立ち上がる。
「……アシュレイね。」
リィナが眉をひそめる。
「まさか、生きてたのか?」
「彼は“無限創造”の研究主任だった。
止めたはずのシステムを、自分の中に埋め込んで逃げたのよ。」
⸻
その日の夕暮れ。
エリスは“祈りの庭”と呼ばれる場所を訪れていた。
そこは、世界中の創造者が祈りを捧げる静寂の地。
空には“創造星”が輝き、
無数の祈りの光が花のように舞っていた。
「……祈りは、弱さなの?」
彼女の背後で、
懐かしい声がした。
「弱さだ。だが、それは“人間の証”でもある。」
ゼオルがゆっくりと歩み寄る。
「アシュレイは、強さを求めた。
永遠を望んだ者ほど、“有限”を恐れる。
だからこそ、お前の“祈り”が必要なんだ。」
「……でも、彼らは祈りを憎んでる。
“有限”を拒む者たちに、祈りは届くのかしら。」
ゼオルは小さく笑う。
「祈りは届かなくても、残る。
それが“祈りの果て”だ。」
エリスは静かに目を閉じた。
その言葉が、胸に染み渡っていく。
⸻
夜。
“無限派”の黒い光が、アマギの一角を覆った。
人々の時間が止まり、建物が沈黙する。
そこに、エリスが降り立った。
「アシュレイ!」
黒衣の男が、ゆっくりと振り向く。
その瞳は、ナミアを思わせるほど冷たかった。
「……やはり来たか、エリス。
君こそが“有限”の象徴だ。
だが、祈りは滅びる。
なぜなら、人は“終わり”を本気で受け入れられない。」
「終わりを恐れるのは、当たり前よ。
でも、恐れても前に進める。
それが“人間”なの。」
アシュレイは笑った。
「それを“矛盾”と呼ぶ。
矛盾はいつか世界を壊す。
だから私は、矛盾を消し、“静止した楽園”を創る。」
彼の手が光を放つ。
黒い波が世界を覆い、空の星々が一瞬消える。
エリスは両腕を広げ、祈るように呟いた。
「なら、私は“祈り”で抗う。」
彼女の胸が輝く。
金と桃色の光が混ざり合い、
空を割るように広がった。
⸻
静止した世界に、ひとつの音が戻る。
――心臓の鼓動。
エリスの“祈り”が、人々の胸に届いた。
止まっていた時間が再び流れ、
光が黒い闇を押し戻していく。
「見える? アシュレイ。
これが“祈りの力”。
永遠よりも、たった一瞬の“想い”の方が強いの!」
アシュレイが呻く。
「……祈りなど、儚い幻想だ!」
「幻想でいい。
でも、人はその幻想の中で――“生きたい”って願うのよ!」
光が爆発する。
黒い波が消え、空に再び星が戻った。
⸻
翌朝。
アマギの街に、祈りの鐘が響いた。
倒れていたアシュレイは姿を消し、
ただ黒い紋章だけが残されていた。
リィナが息を吐く。
「……あの男、まだ終わってねぇな。」
エリスは静かに頷く。
「ええ。でも、彼の“祈り”も、きっとどこかに残ってる。
誰もが、どんな形でも“救われたい”と思っているから。」
空を見上げる。
そこには、ゆっくりと昇る朝陽と――
ひときわ強く輝く“創造星”。
それは、祈りの果てに残った“希望”の光だった。
「……祈りは、終わらない。」
エリスの言葉が、世界に静かに染み渡った。
0
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる