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第44話
しおりを挟む第44話 祈りと永遠の境界
――世界は、穏やかに息づいていた。
祈りと創造が共存する“共鳴時代”の夜明け。
アマギの空は虹色の光で満たされ、
人々は毎朝、静かに空へ手を合わせていた。
その祈りが、
世界の均衡を保つ“律動”となっていた。
けれど――
その律動が、少しずつ乱れ始めていた。
⸻
アマギ中央塔・観測室。
ゼオルがデータを見つめ、眉をひそめる。
「……祈りの波形が不安定だ。
共鳴値の変動幅が、ここ数日で三倍に跳ね上がっている。」
リィナが端末を叩く。
「世界中で“祈りの暴走”が起きてる。
信仰や想念が強すぎて、形を持ち始めてるわ。」
エリスは静かにモニターを見つめた。
世界各地の空に、光の柱が立ち、
“祈り”そのものが具現化していた。
「……人々の祈りが、現実化している。」
ゼオルが低く唸る。
「つまり、“祈り”が神格化し始めてるってことか。」
⸻
その夜。
エリスは一人、祈りの庭にいた。
無数の光が舞うその場所で、
彼女は静かに膝をつく。
「……祈りは、いつも優しいはずなのに。
どうして、こんなにも重くなっていくの?」
そのとき、
背後から聞き慣れた声がした。
「優しさにも、形を与えすぎれば“力”になる。」
ゼオルだった。
「人は祈ることで世界を創る。
だが、“永遠を願う祈り”は、
いつしか“永遠を支配する祈り”に変わる。」
「……それは、アシュレイが言っていたことと同じね。」
「だが、あの男は“心”を捨てた。
お前は違う。祈りに意味を与えられる。」
エリスは立ち上がり、夜空を見上げる。
空の星々が、まるで呼吸するように瞬いていた。
⸻
翌朝。
世界各地で“奇跡”と呼ばれる現象が報告された。
祈りによって病が癒え、
雨が降り、争いが止まった。
だが同時に、
“祈りが暴走”した地域では異常が起きていた。
人々の強すぎる祈りが、
“祈りの存在”そのもの――**祈霊(しんれい)**を生み出していた。
⸻
アマギ北区。
空が歪み、光の渦が現れる。
祈りの残滓が形を成し、
翼を持つ“祈霊”が舞い降りた。
それは、美しく、そして狂気的だった。
周囲の祈りを吸収しながら拡大していく。
エリスが現場に到着した。
周囲の人々は祈り続けている――恐怖の祈りを。
「やめて……それ以上、祈らないで!」
だが、祈りの連鎖は止まらない。
恐怖が祈りを生み、祈りが形を生む。
エリスの胸の紋章が輝いた。
「――共鳴制御陣・発動。」
金色の光が走り、
祈霊の身体が分解されていく。
だがその断片が、空中で形を変えた。
子どもの姿。
その瞳に、無垢な光。
エリスは一歩、息を飲む。
「……あなた、名前は?」
子どもは小さく笑った。
「……“ハル”。」
その瞬間、世界の時間が一瞬止まった。
⸻
数時間後。
連盟の会議室では、緊張が走っていた。
リィナが報告書を机に叩きつける。
「ハル――あの祈霊の子、存在波が安定してる。
普通なら祈霊は消えるのに、あいつだけ“生きてる”んだ!」
ゼオルが唸る。
「つまり、祈りと現実の両方に属する存在……。
祈りの具現体が、命を得たということか。」
エリスは目を閉じた。
「祈りが“命”になる――。
それは、創造の原点そのものよ。」
「だが、危険だ。
もしその子が無限の祈りを吸収すれば、
世界が再び“静止”しかねない。」
エリスはゆっくりと微笑んだ。
「それでも、私はあの子を守る。
だって、彼は“祈りと永遠の境界”に生まれた子だから。」
⸻
夜。
ハルは、エリスの部屋の窓辺に座っていた。
星空を見上げながら、静かに尋ねる。
「先生。
祈りって、壊すもの?」
エリスは彼の髪を撫でた。
「祈りは壊すものじゃないわ。
ただ、時々“壊れてしまう”だけ。」
「……壊れても、もう一度作れる?」
「もちろんよ。
祈りは、壊れても残るもの。」
ハルは小さく微笑んだ。
その笑顔の奥で、エリスは確信した。
――この子は、次の時代の“鍵”になる。
祈りが形を持ち、命になる時代。
それは、美しくも、危うい“創造の臨界”だった。
⸻
エリスは夜空を見上げ、
静かに呟いた。
「祈りと永遠――。
この二つが混ざったとき、世界はまた変わるのね。」
星々が瞬く。
そのひとつが、ゆっくりと金に輝いた。
“新たな創造の胎動”が、
確かに始まっていた。
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