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第45話
しおりを挟む第45話 創造神の遺児
――朝の光が、白い街を照らしていた。
アマギの空は穏やかで、風は暖かかった。
だがその静けさの下で、確かに“世界”はざわめいていた。
人々の祈りが微かに震えている。
まるで、誰かが世界の底で新しい鼓動を刻み始めたように。
⸻
アマギ創造学院の中庭。
ハルは草の上に座り、
両手のひらで風を掬っていた。
その掌に集まる光は、
祈りでも魔力でもない――
“生きること”そのものの輝きだった。
「……また動いてる。」
風が止まり、草が静止する。
鳥の羽ばたきが止まり、音が消える。
そして一瞬後、全てが“再び動き出した”。
それは、まるで時間が一度だけ息を止めたような現象。
ハルは呟いた。
「僕、また……世界を止めちゃったのかな。」
⸻
その現象は、すぐに連盟の観測塔に報告された。
リィナが驚愕の声を上げる。
「時間観測波が――ゼロッ!?」
ゼオルがモニターを叩く。
「局所的時間停止……いや、これは調整だ。
“止まる”のではなく、“再定義”されている!」
エリスが塔の最上階からデータを覗き込む。
「――ハル、やっぱりあなたね。」
彼女はそのまま学院へと向かった。
⸻
ハルの教室。
彼は机に肘をつき、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
そこにエリスが静かに入ってくる。
「ハル、少し話せる?」
少年は頷き、屋上へと向かった。
⸻
屋上には柔らかな風が吹いていた。
エリスが問う。
「ねえ、ハル。……最近、何か“聞こえる声”はある?」
ハルは一瞬、躊躇してから口を開く。
「……あるよ。
夜になると、“僕に呼びかける”声がするんだ。
“お前は創造神の子だ”って。」
エリスの瞳が揺れた。
「創造神……?」
「うん。たぶん、“あの時の光”が僕の中に残ってる。
僕は、誰かの“代わり”として生まれたんだって。」
風が止んだ。
エリスは静かにハルの肩に手を置く。
「あなたは誰の代わりでもないわ。
でも……その声の主が誰なのか、知る必要はある。」
「先生……それって、僕の中に“誰か”がいるってこと?」
「そうかもしれない。」
エリスは夜空を見上げるように遠くを見つめた。
「ハル、あなたの中にあるものは――“創造の記憶”。
十年前に消えた“無限創造”の核。
そして、私が祈りで封じた“神の残響”。」
ハルの目が見開かれる。
「……僕の中に、神が?」
「正確には、“神が生きようとした意志”が。
でも、あなたはそれを受け継ぐ者じゃなく、
“選び直す者”なの。」
⸻
その夜。
ハルは夢を見た。
広大な白い空間――
かつてアシュレイが立っていた、“無限創造”の中枢。
そこに、光の人影が現れた。
『ハル……私を覚えているか。』
「あなたが……僕の中の“声”?」
『私はかつて、創造を統べた者。
だが人の祈りを拒んだことで、終わりを迎えた。
お前は私の欠片を継ぐ。
“神なき時代”の、最後の創造者だ。』
「……どうして僕なんだ?」
『お前は、“祈り”と“永遠”の両方を持つ者。
私が失い、エリスが得たもの――
そのすべてが、お前に宿っている。』
光が彼の胸に集まり、
そこから淡い金の輪が浮かび上がる。
『選べ、ハル。
創造を“続ける”か、
祈りを“終わらせる”か。』
ハルは拳を握った。
「僕は……祈りを壊さない。
でも、祈りに頼らない世界を創りたい。」
『……それが、お前の答えか。』
「うん。
神がいなくても、生きていい。
それが“祈りの意味”だと思うから。」
光が揺れ、
人影が静かに微笑んだ。
『ならば行け、創造神の遺児よ。
お前が選んだ世界を、私の代わりに創れ。』
⸻
朝。
ハルは目を覚ました。
手のひらの中心に、金色の光輪が浮かんでいた。
それは、創造の印。
だが、どこか温かく――人の祈りのような脈動をしていた。
彼は空を見上げ、小さく呟く。
「神の声はもう聞こえない。
でも、“生きてる声”なら聞こえるよ。
――人の声が。」
⸻
アマギ中央塔の屋上。
エリスがその光を見上げながら、
静かに微笑んだ。
「ハル、あなたはもう“神”じゃない。
でも、人を超える“希望”にはなれる。」
彼女の瞳に映るのは、
ゆっくりと昇る朝日と、
その光に照らされるひとつの新しい星。
その星の名は――ハルの星。
“祈りと永遠”の境界から生まれた命が、
新しい世界を創り始めようとしていた。
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