44 / 80
第44話
しおりを挟む第44話 祈りと永遠の境界
――世界は、穏やかに息づいていた。
祈りと創造が共存する“共鳴時代”の夜明け。
アマギの空は虹色の光で満たされ、
人々は毎朝、静かに空へ手を合わせていた。
その祈りが、
世界の均衡を保つ“律動”となっていた。
けれど――
その律動が、少しずつ乱れ始めていた。
⸻
アマギ中央塔・観測室。
ゼオルがデータを見つめ、眉をひそめる。
「……祈りの波形が不安定だ。
共鳴値の変動幅が、ここ数日で三倍に跳ね上がっている。」
リィナが端末を叩く。
「世界中で“祈りの暴走”が起きてる。
信仰や想念が強すぎて、形を持ち始めてるわ。」
エリスは静かにモニターを見つめた。
世界各地の空に、光の柱が立ち、
“祈り”そのものが具現化していた。
「……人々の祈りが、現実化している。」
ゼオルが低く唸る。
「つまり、“祈り”が神格化し始めてるってことか。」
⸻
その夜。
エリスは一人、祈りの庭にいた。
無数の光が舞うその場所で、
彼女は静かに膝をつく。
「……祈りは、いつも優しいはずなのに。
どうして、こんなにも重くなっていくの?」
そのとき、
背後から聞き慣れた声がした。
「優しさにも、形を与えすぎれば“力”になる。」
ゼオルだった。
「人は祈ることで世界を創る。
だが、“永遠を願う祈り”は、
いつしか“永遠を支配する祈り”に変わる。」
「……それは、アシュレイが言っていたことと同じね。」
「だが、あの男は“心”を捨てた。
お前は違う。祈りに意味を与えられる。」
エリスは立ち上がり、夜空を見上げる。
空の星々が、まるで呼吸するように瞬いていた。
⸻
翌朝。
世界各地で“奇跡”と呼ばれる現象が報告された。
祈りによって病が癒え、
雨が降り、争いが止まった。
だが同時に、
“祈りが暴走”した地域では異常が起きていた。
人々の強すぎる祈りが、
“祈りの存在”そのもの――**祈霊(しんれい)**を生み出していた。
⸻
アマギ北区。
空が歪み、光の渦が現れる。
祈りの残滓が形を成し、
翼を持つ“祈霊”が舞い降りた。
それは、美しく、そして狂気的だった。
周囲の祈りを吸収しながら拡大していく。
エリスが現場に到着した。
周囲の人々は祈り続けている――恐怖の祈りを。
「やめて……それ以上、祈らないで!」
だが、祈りの連鎖は止まらない。
恐怖が祈りを生み、祈りが形を生む。
エリスの胸の紋章が輝いた。
「――共鳴制御陣・発動。」
金色の光が走り、
祈霊の身体が分解されていく。
だがその断片が、空中で形を変えた。
子どもの姿。
その瞳に、無垢な光。
エリスは一歩、息を飲む。
「……あなた、名前は?」
子どもは小さく笑った。
「……“ハル”。」
その瞬間、世界の時間が一瞬止まった。
⸻
数時間後。
連盟の会議室では、緊張が走っていた。
リィナが報告書を机に叩きつける。
「ハル――あの祈霊の子、存在波が安定してる。
普通なら祈霊は消えるのに、あいつだけ“生きてる”んだ!」
ゼオルが唸る。
「つまり、祈りと現実の両方に属する存在……。
祈りの具現体が、命を得たということか。」
エリスは目を閉じた。
「祈りが“命”になる――。
それは、創造の原点そのものよ。」
「だが、危険だ。
もしその子が無限の祈りを吸収すれば、
世界が再び“静止”しかねない。」
エリスはゆっくりと微笑んだ。
「それでも、私はあの子を守る。
だって、彼は“祈りと永遠の境界”に生まれた子だから。」
⸻
夜。
ハルは、エリスの部屋の窓辺に座っていた。
星空を見上げながら、静かに尋ねる。
「先生。
祈りって、壊すもの?」
エリスは彼の髪を撫でた。
「祈りは壊すものじゃないわ。
ただ、時々“壊れてしまう”だけ。」
「……壊れても、もう一度作れる?」
「もちろんよ。
祈りは、壊れても残るもの。」
ハルは小さく微笑んだ。
その笑顔の奥で、エリスは確信した。
――この子は、次の時代の“鍵”になる。
祈りが形を持ち、命になる時代。
それは、美しくも、危うい“創造の臨界”だった。
⸻
エリスは夜空を見上げ、
静かに呟いた。
「祈りと永遠――。
この二つが混ざったとき、世界はまた変わるのね。」
星々が瞬く。
そのひとつが、ゆっくりと金に輝いた。
“新たな創造の胎動”が、
確かに始まっていた。
0
あなたにおすすめの小説
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる