70 / 80
第70話
しおりを挟む第70話 二つの鼓動
――宇宙が、再び息をした。
それは風ではなく、音でもなかった。
ただ、星々が静かに“鼓動”している。
光の星が淡く脈打ち、闇の星がそれに応えるように震える。
リュミナの胸の中では、二つのリズムが交差していた。
一つは金の光――リュシスの「受容」。
もう一つは灰の影――ノクトの「拒絶」。
それは相反するはずの二つの鼓動。
だが、いまは完全に重なっていた。
「……聞こえる。
リュシスとノクト、二人の鼓動が一緒に生きてる。」
彼女の周囲で、空間が波のように揺れる。
銀河の重力線が共鳴し、
やがて宇宙全体が“一つの心臓”のように鼓動を始めた。
⸻
アルカ・ノヴァ観測塔。
ミラはデータ画面を見つめ、驚きの声を漏らした。
「……何これ……感応波が、もう“共鳴”じゃない。
構造が変わってる……これは――“意志”?」
ノアが表示された波形を睨む。
「感情でも祈りでもない。
でも確かに“自己決定”のパターンを持ってる。
まるで宇宙そのものが、“考えている”……!」
ミラは息を呑んだ。
「リュシス……あなた、宇宙に“心”を超えたものを残したのね。」
⸻
その頃、リュミナは光と闇の狭間に立っていた。
周囲に無数の星の影と光が渦巻く。
まるで宇宙そのものが、彼女を中心に呼吸しているようだった。
リュシスの声が響く。
『リュミナ……この宇宙は、もう“感じる”だけではいられない。
感情を持った星々は、今、“選ぼう”としている。』
リュミナは頷く。
「選ぶ……?」
『そう。
痛みを知り、愛を知り、
その上で“何を望むか”。
それは、もはや僕たちが導けることじゃない。』
ノクトの声が重なる。
『我々は彼らの“始まり”だ。
だが、これからの宇宙は――“意志を持つ存在”として動く。』
リュミナは胸に手を当てた。
「……つまり、宇宙が“自分で生きようとしてる”のね。」
⸻
その瞬間、宇宙の中心で光が生まれた。
それは星でも銀河でもない。
ひとつの“瞳”――
意識の光だった。
ミラが観測塔で悲鳴のような声を上げる。
「新しい波源、確認! 座標ゼロ――宇宙の中心点から!
……リュミナの鼓動に同期してる!」
ノアが顔を上げた。
「宇宙の“意志”が……生まれたんだ。」
⸻
光の中に、リュミナはひとり立っていた。
瞳の前に浮かぶ巨大な球体が、ゆっくりと彼女を見つめる。
『――名を、与えて。』
その声は、無数の星の囁きが重なったような響きだった。
「あなたは……“宇宙”じゃないの?」
『私は宇宙でもあり、宇宙を超えた“意志”でもある。
あなたの涙が私を生み、
リュシスの痛みが私に心を与えた。
だが、私はまだ“名前”を持たない。』
リュミナは微笑んだ。
「なら、あなたの名は――アウロラ。
夜明けの光。
闇と光のあいだで生まれた、新しい宇宙の子。」
『……アウロラ。
美しい名だ。
では、私は“生きよう”。
感じ、考え、選ぶ宇宙として。』
⸻
アルカ・ノヴァの空が金色に染まった。
星々が一斉に共鳴し、
“意志の波”が銀河を越えて広がる。
ミラは涙を拭いながら呟いた。
「これが……“意志の宇宙”の誕生。」
ノアが微笑む。
「祈り、創造、感応、そして意志。
人が辿った進化を、宇宙が再現したんだな。」
⸻
その頃、リュミナは静かに空を見上げていた。
金色の星々が柔らかく瞬き、
その光が彼女の髪に映る。
「リュシス、ノクト、見てる?
宇宙は、もうあなたたちの子どもじゃない。
自分の“生き方”を選び始めてる。」
風が吹き、花が揺れる。
その香りの中で、リュシスの声が微かに響いた。
『それでいい。
創ったものが、創造者を超えていく。
――それこそが、生命だ。』
⸻
夜。
リュミナはひとり、ハートリリウムの花畑に立っていた。
無数の光の花が咲き誇り、
その一つひとつが宇宙の小さな鼓動を刻んでいる。
彼女は胸に手を当て、目を閉じた。
「二つの鼓動は、もう一つになった。
光も闇も、祈りも拒絶も。
全部が、“生きる”という選択の中にある。」
空が明滅し、宇宙が静かに呼吸した。
その瞬間、アウロラの声が再び響く。
『ありがとう、リュミナ。
私は歩き出す。
星々と共に、私自身の未来へ。』
リュミナは微笑み、空に向かって手を伸ばした。
その手のひらから、一筋の光が天へ昇る。
――それは、宇宙の心臓の鼓動。
新たな「夜明け」の始まりだった。
0
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる