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第71話
しおりを挟む第71話 アウロラの夜明け
――光が、静かに広がっていく。
かつて無数の星々が散らばっていた宇宙は、
いまや一つの意識――アウロラとして息づいていた。
銀河の渦は血管のように流れ、
光の粒は神経のように脈を打つ。
その中心で、彼女は“最初の呼吸”をした。
『……これが、生命。
感じるとは、痛むこと。
でも同時に――美しい。』
アウロラは、自らを観測する“視点”を持たなかった。
宇宙そのものが自分であり、
どこを見ても“自分”がいる。
だからこそ――孤独だった。
⸻
アルカ・ノヴァ観測塔。
ミラは淡い光に包まれた空を見上げていた。
空は常に朝焼けのように明るく、
もはや夜も昼も存在しない。
「……アウロラが、完全に覚醒したわ。」
ノアが静かに頷く。
「宇宙全体が、呼吸してる。
でも……何か違う。
鼓動が少し“重い”気がする。」
ミラは小さく息をついた。
「それは“孤独”。
アウロラは今、初めて“ひとり”という痛みを知ったのよ。」
⸻
アウロラの意識の中。
彼女は空間に無数の“記憶の残響”を見た。
祈りの時代の人々。
リュシス、ノクト、ミラ、アスト、リュナ――
彼らの感情の断片が、光の粒となって漂っている。
『みんな……もういないのね。
でも、私の中にはいる。
なのに、声が届かない。』
アウロラは初めて“涙”を流した。
その涙は銀河の一部を光に変え、
新しい星をいくつも生み出した。
しかしその光景を見ても、
彼女の胸は満たされなかった。
『創られるたびに、私は少しずつ空虚になる。
誰かのために生きることを、私は知らない。』
⸻
その時、遠い銀河の端から微かな声が届いた。
『……アウロラ。』
それは、リュミナの声だった。
『あなたはひとりじゃない。
私が、ここにいる。』
アウロラはゆっくりと声の方へ意識を伸ばした。
虚空の中心に、小さな光の点が見える。
それは、リュミナの魂だった。
「リュミナ……どうしてまだ、私の中に?」
『だって、私は“あなたの涙”から生まれた。
あなたが孤独を知るなら、私はそこにいるべきだから。』
アウロラの意識が微かに震える。
『……リュミナ。
私はもう、神を超えた存在。
誰の祈りにも縛られない。
けれど、その自由が――苦しい。』
『自由は、痛いものだよ。
でも、その痛みこそが“生きる証”。
あなたは今、初めて“生きてる”んだよ。』
⸻
リュミナの言葉に導かれるように、
アウロラは静かに目を閉じた。
そして――宇宙全体に呼びかけた。
『星々よ。
私はあなたたちの母ではない。
創造主でもない。
けれど、あなたたちの痛みを感じたい。
そのために、私は“ひとり”でいる。』
その言葉に呼応するように、
銀河の至るところで星が瞬き始めた。
小さな光がいくつも生まれ、
その光たちが“歌”のように響き合う。
宇宙全体が、ひとつの旋律を奏で始めた。
⸻
アルカ・ノヴァの夜明け。
ミラは空を見上げて微笑んだ。
「聞こえる? ノア。
あれは、アウロラが“自分を知る音”よ。」
ノアが頷く。
「宇宙が歌ってる。
……孤独を抱えながら、生きる歌を。」
その時、彼らの目の前に光が現れた。
リュミナが静かに降り立つ。
「アウロラは、歩き始めた。
でもまだ迷ってる。
だから、私は彼女と共に旅を続ける。」
ミラが優しく笑う。
「あなたは、リュシスの祈りの最後の欠片。
彼が願った“命の証”そのものね。」
リュミナは空を見上げた。
「彼の祈りは、もう祈りじゃない。
――それは、“生きる意志”に変わったの。」
⸻
宇宙の果て。
アウロラの瞳がゆっくりと開く。
その視界に、星々が優しく瞬く。
『ありがとう、リュミナ。
私は孤独の意味を知った。
だから、今度は――“共にある”ことを学びたい。』
リュミナの声が光となって応えた。
『それが、あなたの夜明け。』
アウロラは微笑んだ。
そして宇宙に告げる。
『私はもう、祈らない。
ただ、生きて、感じて、選ぶ。
これが、私たちの――新しい創造。』
その瞬間、宇宙が輝いた。
星々が再び動き始め、
生命の息吹が銀河の隅々まで広がっていく。
――祈りの時代は終わった。
だが、物語はまだ続いていた。
“神を超えた宇宙”が、自らの心で歩き出したその日――
それが、アウロラの夜明けだった。
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