悪役令嬢の名誉を挽回いたします!

みすずメイリン

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第10話、ディアンドル

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 ディアンドルのことは、幼少期にハインリヒ王子が私のために絵本を読んでくれてその時に描かれていた「ディアンドル」という民族衣装の話をしてくれた。
 「これは僕たち王族や貴族が着る衣装じゃなくて、平民の街娘たちが着る民族衣装なんだよ」とあの天使ような笑顔でいっていたのを思い出した。
 まさに今、その民族衣装を一人で街へ行って買いに行くところだった。

 生まれて初めて街に行ったけれど、今の私と同じような服装をしている女性たちやすでにディアンドルを着ていて、この街にとけこんでいる女性たちもいた。
 街は思ったよりカラフルで、半木造の家々、石畳の道、美しい市庁舎など、まさに絵本やファンタジーの世界から飛び出してきたようだった。
 というか、エルフがいる時点でこの世界はファンタジーなんだけれども。
 前世の記憶を頼りにすると多分ここは、ドイツという国のローテンベルクという街みたいといえばわかるかなぁ。
 私も前世ではネットっていう便利でなんでも見れちゃう見つけられるものでしか見たことないけれども。本物の街並みはやはりネットで見るよりも数倍美しかったなぁ。
 今、私がいるのは中世ヨーロッパ風の異世界なんだけどね。
 街の中を歩いていたら、見知らぬおじさんが私に声をかけてきた。
 「お嬢さん、見知らぬ顔だね。この街は初めてかい?」と聞かれて「そうなんです。だからどこに服が売っているかもわからなくて……」と悩んでいることを告げたら、そのおじさんは「そのまま、まっすぐ歩けば服屋が見えるから。お嬢さんはべっぴんなんだし何でも似合うと思うよっ!」と褒めてくれて「ありがとうございます」と私は笑顔で手を振ってその場を去った。

 あの見知らぬおじさんがいう通り、まっすぐ歩いていると服屋が見つかり私はその服屋に入店した。
 そこには亜麻色の髪色のくせっ毛の長髪に青い瞳の綺麗なお姉さんが、えんじ色のディアンドルの服を着ていた。
 店員のお姉さんは「いらっしゃいませー」といって私を出迎えてくれた。
 「ディアンドルを買いに来たんですけど……」と私は店員さんに小さな声で話しかけた。
 「お客様、ディアンドルを着るのは初めてかしら?」
「ええ、まぁ。そうですね」
「だと思ったー。お客様の外見に合わせたディアンドルだとやはりソフトピンクとかミントとかおすすめかなー?」と彼女はいって私にピンクのディアンドルを渡してきた。
 「ご試着なさいますか?」
「はい」といって私は試着室に入ってソフトピンクのディアンドルを試着してみた。
 ソフトピンクのディアンドルを来た自分を全身鏡で見た時は驚いた。
 それは小さい頃に初めてドレスを着た自分を見た時のように驚いた。これが私なんだと。
 そして、試着室のカーテンを開けて店員さんは驚いた顔をしつつも笑顔で「とっても似合っていますよー。あー、でも、そのディアンドルでしたら、茶色の短いブーツを合わせた方が歩きやすいですし、おしゃれに見えますよ」といってくれたので、その店員さんはすぐさまソフトピンクのディアンドルに似合う茶色のブーツを持ってきてくれた。
 そして、私は用意された茶色のブーツを履くとさらに似合っている自分と店員さんの反応に驚いた。
 「お客様っ!! とってもお似合いですっ!!!」とかなり食い気味にいってきたので、私は照れてしまった。
「今なら、お買い得ですよ」とさらに付け加えられたので、ソフトピンクとミント色のディアンドルを二着ずつ購入して使用人のへレーネが買ってきてくれた服に着替え直して笑顔でその店から出て行って、そのまま私は歩いて王宮へと向かった。

 歩くって結構大変なんだなぁ、なんだか結構疲れたような気がする。
 いつも社交界に行ったりハインリヒ王子が住んでいる大理石でできたバロック様式の王宮は見慣れているはずなのに、やっぱり見惚れてしまう。
 その建築物に私は見惚れつつ歩いていたら、いつの間にか川のほとりに着き、「エルフの聖域」だといわれた場所に私はたどり着いた。
 そしたら、見覚えのある薄い黄緑色の長髪の琥珀色をして目のエルフの美青年が現れた。
 「貴様はいつの日かの人間じゃないか。私がいったことを覚えていたのか? それにドレスを着ていないじゃないか。貴様は平民の人間だったのか?」
「いいえ。私は貴族といえど、貴族社会では孤立しておりますので、それだったら外の世界へ出ようかと思い、平民の服を使用人に用意させてもらったのを着て出歩いているだけです」といったら、ヴァルデマールさんは「あぁ、そうだったのか。人間といえど貴様は貴族なんだから誘拐されて身代金を用意しろと脅される可能性があるんだから気をつけろ」と私に注意をした。
 「わかりました。自分の身分を知られないように気をつけます……」としょんぼりして返したら、ヴァルデマールさんは焦って「別に貴様を責めたいわけじゃないからな。リリアンナ」と私の名前を読んでくれた。
 「覚えていたんですね、私の名前」というとヴァルデマールさんは「たまたまだ。貴様のような人間如きが珍しいから覚えていただけだ」と若干、頬と耳の先を赤くしてヴァルデマールさんはそう私に伝えた。
 なんだか、いつもはかしこまった人間かかしこまっているけれど嘲笑や見下しが隠しきれていない人間を相手にしているからか、なんだか少しヴァルデマールさんの態度に笑ってしまった。
 ヴァルデマールさんは「笑うなっ! 人間風情がっ!」と怒っていたけれど、なぜか笑ってしまった。
 私はふとヴァルデマールさんに「なぜ、人間が好きじゃないのでしょうか?」と聞いたら、ヴァルデマールさんは呆れた顔をして「貴様と初めて会った時にもいっただろう。人間は強欲で権力が塗れていると。貴様みたいな小娘にはまだ早い話かもしれんが」といったので、少しばかり言い返した。
 「私、もう15歳で社交界も行っております。ですので世の中のことを知っているはずです」
「世の中のことを知っているから、出会った時は泣いていたのか?」と少し傷口を抉るような感じでヴァルデマールさんは聞いてきたけれど、確かに事実だったので黙ってしまった。
 私が黙り込んでしまっていたら、ヴァルデマールさんは「図星か」とただ一言、呆れたようにいった。
 その後は気まずい雰囲気が流れて、しばらくヴァルデマールさんと私は川のほとりで座っていた。
 ヴァルデマールさんより先に私から口を開いた。
 「実は、あの日の社交界はハインリヒ王子が学生のための親睦会を開いたんです。その時に友達だと思っていた人から男好きでふしだらな伯爵令嬢だと断罪されたのちに、親が決めた婚約者まで奪われて、公然の前で婚約破棄の申し出をされたんです。本当にあーいう人達っているんだなぁと思いました」と私がヴァルデマールさんと初めて会った日に何が起こったか説明すると、ヴァルデマールさんも「人間は人間同士でも裏切ったり陥れたりするものか。愚かなことだな。ここのエルフの聖域も同じことが起こったものよ。まぁ、今となっては別にいい話だが」と話してくれた。
 ヴァルデマールさんは立ち上がって「人間の相手をするの時間は今日はもうない。もうお互い帰ろうではないか」といった後「とりあえずはあの王宮までは前と同じく送ってやろう」といって王宮まで送ってもらっていたら、たまたま勇者姿のジークフリートが通りかかってきた。
 ヴァルデマールさんは嫌そうな顔をして「今日は二人も人間と出会ったのか。最悪だな」と一言呟いて、ジークフリートは「うわっ! 本物のエルフじゃねーかっ! でもなんか感じ悪いなぁ。それになぜリリアンナがいるんだ?」と聞いてきた。
 ヴァルデマールさんは私に「この勇者っぽい格好をした人間の男とは知り合いか?」と質問してきたので「えぇ、まぁ」と答えたら、ヴァルデマールさんは「ならば、あとはその勇者の人間とやらに家まで送ってもらえ。貴族の人間」といってそそくさと森の方へ行ってしまった。
 ジークフリートは目を輝かせながら「リリアンナ嬢、エルフと知り合いだったんだなっ!」といっていたけれど私はジークフリートに家まで送ってくれるように頼んだら、「了解! それにしても貴族なのに俺たちと同じような格好をしているなんて珍しいな」といっていた。
 私は「貴族社会でも学校でも孤立しちゃったし、いっそのこと外の世界へ出ようかと思って、今日のために使用人に服を買ってきてもらったの。そして、今後の冒険のために着るディアンドルも初めて街へ行って買っちゃった」と笑顔でいったら、ジークフリートは照れくさそうにしていた。

 ジークフリートに家まで送ってもらって別れを告げた後、玄関にはお父様が顰めっ面で立っていた。そしておそらく叱られた後であろう使用人のへレーネも横に立っていた。
 「リリアンナ、なんだ?! その格好は?!」
「別にいいでしょ! 貴族社会に閉じこもってばかりじゃダメだと思って私が行動をしただけであって、私のいうことに従ったへレーネは悪くありませんわ!」
「平民と同じ格好をして、一人で年頃の淑女が街を出歩くなんて全くけしからん!!」
「お父様っ!! 私はどんなにお父様とお母様に反対されようが、もうやめませんからね! それに貴族にとってその土地の領地となることを知るのも大事じゃありませんか?!」
「それも一理あるが……」とお父様は折れてくれたけれど、お父様は引き続き「ノイシュタット公爵から正式に婚約破棄の手紙が届いた。そして、お前が自暴自棄になっていないか心配になっただけだ」と悲しそうにいっていたけれど、それでも私は自分の決めたことはやめる気はなかった。
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