(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春は、あけぼの

就学旅こう+びール

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「先輩、修学旅行の見学先は決めた?」
 翌日、登校して教室の隅に座っていると、あみが俺の前の席に陣取り、こちらを向いて聞いてきた。
 もう先輩が定着しているし、昨日はもっと口調が、ですます調だった気がする。
 数日先の修学旅行は、この学園の行事で、二泊三日で関西方面へと出かける。
 人脈づくりにおおいに活用しろ、ということだろう。
 とはいえ、泊まるのはビジネスホテルで基本個室だし、イベント参加も自由、そもそも旅行参加が強制ではないため、中学高校のそれとはノリが全然違う。
 目玉は、二日目の見学会で、いくつかコースがあり、学園のコネクションで、一般では立ち入り禁止なレアなところも見学が可能なのだ。
 ちなみに、交通費・宿泊費など費用はすべて学園持ちで無料だが、タダより高いものはなく、見学先でディスカッションや意見を求められたら、応じる義務があり、それ用の時間も確保されている。
 そういえば、明日がコース申し込みの締め切りだったか。
「ビール工場」
「えー、試飲目当て?」
「・・・失礼な」
 ビール工場が、微生物による発酵学の最先端の実践の場であり、しかも一般工場見学コースにはない工場内部に入れることを力説する。
 決して、他では飲めないビールの試飲のためではない。
「それも面白そうだなー」
「アイドルの仕事があるんじゃないですか?」
「ちゃんとスケジュール空けてるもん。私、グループの中で人気上位でもないし」
 笑顔で言われても、反応に困る。
 確かに、教室にいても、視線は集めるが、取り巻きができるようなことはない。
 この学園には、大人が多いからかもしれない。
 十六歳から入学可能なので、高校生の年代もいるが、それなりに一芸があり、講師を務められるとなると人数は少なかったし、いても大人びているのかもしれない。
 彼女が講師を務める「アイドル学」のネット接続数を知っているので、謙遜していても、人気はあるのだろう。
 本人が言ったように、友達は少ないのかもしれないが。

「やほー。あみりん」
「あ、ミホちゃん」
 あみの隣、つまり俺の左斜め前の席にウェーブのかかったショートカットの少女が座っていた。
「・・・バレエの講師の」
 思わずつぶやくと、
「あ、聴講してくれちゃった?ありがとう!」
 彼女は怪我で引退した元バレリーナで、現在は振付師を中心とした活動をしている。
 引退したといっても、あみと同じ年だった。
「・・・二人は、お知り合い?」
 あみが、ものすごく平坦な目で、聞いてきた。
 ミホが、慌てた様子で、
「ううん!ボクの講義を受けてくれてたみたいだけど。あと、あみりんが言ってたひ、」
 コマ落としのように、あみの右手が、ミホの口を塞いでいた。
「ミホちゃん?いい?」
 凄まじいアイコンタクトが二人の間で交わされ、ゆっくりとあみの手が、外された。
 大きく、息を吐くミホ。
 えーと、
「・・・二人は、お知り合い?」
 状況が、よくわからなくなって、二人に聞いた。
「うん!」
 話だそうとしたミホを、あみが目で止めた。
「ミホちゃんにダンスの振り付けをしてもらってからのお友達」
 次いで、ミホの目を見て、
「こちら、生物学の講師をされている沢田さん。初めて・聞く・名前よね?」
 ミホが、首とれそうなくらい頷いている。
「はじめまして、さわりん」
 いや、なんだか、はじめましてのタイミングでもないだろうし、はじめて聞く名前のはずなのに、もうあだ名がついている。
 二人の力関係というか、関係性が今一つわからないけど、
「友達いるじゃありませんか」
 それを聞いて、二人とも、微妙というか、苦い顔をした。
 ミホが、頭をかきながら、
「同族嫌悪から始まった友情といいますか、なんというか・・・」
「出会いはともかく、友達がいて、安心した、という話です」
 安心した、という言葉に、あみが反応した。
「先輩、心配してくれてた?」
 改めて言われて、自分の心に訪ねてみる。
「うーん、心配までとはいかないけど、気には、なっていた、のでしょうか?」
「・・・気になってた」
 つぶやいて、ファイティングポーズのように、拳を顔の前で握りしめるあみ。
「先輩。先輩もお友達だよね?」
「以前からお友達のミホさんに比べたら、俺なんて知り合い程度ですよ」
 言った途端に、ミホの襟首つかみ引き寄せると、ものすごく低く、小さな声で、
「コレとはもう縁切ったんで。もう友達じゃないので。知り合ってからの長さとか比べないで」
「ちょ、ちょっとあみりん、怖い!ていうか切り捨てないで」
「いや、そのやり取りの方が、心配ですよ」

 聴講が終わり、三人で学食へ行く。
 一応、ミホも俺もあみの友達ということで、決着がついていた。
 俺としては、友達(仮)くらいなレベルと思っているのだが、それを言い出すと面倒そうだ。
 もともとミホがあみに話しかけてきたのも、修学旅行での見学先の相談だったので、食べながら話すことになったのだ。
 このタイミングだと、どのテーブルも話題の中心は、同じようだ。
「先輩、見学先は午前と午後にひとつづつ選べるけど、ひとつはビール工場だとして、もうひとつは?」
 あみといっしょに見学が決定事項なのか?
 ビール工場へ行ければ、誰が同行しようと、もうひとつの見学先も、どうでもいいか。
 でも、あえて希望があるとすれば、
「せっかくなので、普段では見られない寺院とか、かなって、思ってます」
「そこで、ボクお勧めのお神社仏閣系が、こちら。じゃーん!」
 ミホが、タブレットを見せてくる。
 表示されているのは、変哲のないフローリングの床。
「舞台?」
「さっすが、あみりん!」
 ミホの説明によると、非公開の神楽台で、秘伝の神楽の一部を踊って、教えてくれる。
 このチャンスを逃せば、一部とはいえ、二度とその舞を一般人が見ることは叶わないだろう、という。
「ただ、舞を教えてくれるのは、向こうの都合で午後の回だけなんだ」
 正直、神楽そのものには、あまり興味がない。
 ただ、その神聖な雰囲気に触れてみたい気もするし、秘伝の舞という言葉も案外、刺さる。
「午前中に超近代的な工場、午後に神秘の世界って、どう先輩?」
 あみが、俺の胸中に近いことを言ってくれたので、頷いた。
 それを見てミホが、
「うんうん!薄暗い中、ロウソクの火を灯して、絶対にロマチックなふ、」
 急に口を閉ざしたので、視線の方を見る、とあみが平坦な目をしていた。

 修学旅行といっても、参加者は良識のある大人が多いので、多分に緩く、中学高校のような駅での引率からの注意もなけば、車両を貸し切りにした新幹線に直接集合で、席も譲り合いで好きなところに座れて、席数に余裕もあり寿司詰めではない。
 知識の継承と人脈づくりという学業の一環なのだ。
 当然、オヤツもお小遣いも自由だ。
 出発間際に、ミホがきて、あみは急な仕事が入り今夜、直接ホテルへ入ると教えてくれた。
 ちなみに、ミホは、彼女の講義の常連っぽそうな学生たちに挟まれて座っている。
 到着までの数時間、俺は缶ビール片手に、スマホで書籍を読みながら、たまに教室での顔見知りとツマミの交換をしたりして、過ごした。
 出発時間が午後なこともあり、今日はホテルにチェックインし、立食形式のパーティーがあるだけだった。
 乾杯に参加して、簡単に挨拶してまわったあとは、部屋に戻って、コンビニの惣菜をツマミにビール。
 明日は一日、見学で忙しいので、早めに寝た。
 昼間からビールな上、書籍も一冊読み終わり、有意義な一日だった。
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