(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春は、あけぼの

フロート-あいス

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 制服を着て、ビュッフェ形式の朝食会場へ向かう。
 そのまま、見学に行くので、荷物も持っていく、と会場入り口に、あみが立っていた。
 珍しくスラックスの制服なのは、見学で工場の人が着る特殊な服を上から着る必要があったり、神楽の神社が生足での立ち入り禁止だからだ。
「おはよう。昨日は急なお仕事、お疲れ様でした」
 あみは、口を尖らし、
「おはようございます。でも、その昨日の夜、先輩はどちらへいらっしゃったんですか?」
 他人行儀な口調と言葉の意味がわからないでいると、隣を二日酔いっぽい学生が、通っていった。
 なるほど。
 きっと昨夜、彼女がホテルにチェックインしたときには、乾杯と挨拶だけの俺は、もうパーティー会場にいず、ホテルから街へ転戦しにいく連中を見て、俺も夜遊びに出撃したと思ったのだろう。
 別に、それを咎められる筋合いはないのだが。
 ちょうどブレザーのポケットに入れっぱなしだったコンビニのレシートを出し、
「昨日の夜、パーティーは乾杯だけで、部屋でコンビニ飯でしたが、何か?」
 キャッシュレスだと、財布を持ち歩かないので、レシートを適当にポケットにつっこむ癖を直さないといけないなと思っていたけど、役に立つ場合もあるんだな。
「部屋七〇九号室ですけど、空き缶とか、ゴミも確認します?」
「疑ってるわけじゃないもん!お仕事がんばってきたのに先輩、パーティー会場にいないし、部屋番号わかんないし!」
「お仕事お疲れ様。お腹減ってると、イライラしますからね。朝ご飯たべましょう」
 あみは、キっと俺を睨み上げ、
「今の子供扱いは、嫌い」
 平坦な声で囁き、ドスドス歩いていくあみを追って、俺はゆっくり歩いた。

 午前中のビール工場見学は、五名だけだった。
 やはり試飲があるせいか、午後の組の方が、盛況のようだ。
 俺とあみ以外の三名は、午後は日本酒の蔵元へ行き、そこでも試飲なので前座はビール、というのだから筋金入りだ。
 まあ、彼らのような酒豪が、昨夜は市街戦に出て、俺も夜遊びしていると疑われたのではあるが。
 繰り返すが、そうしていたとしても、誰にも咎められる筋合いはない。
 一般向けの見学コースが終わり、二組に分かれた。
 俺たち二人の非公開部分特別見学コースと、試飲直行コースだ。
 あみは、朝食のときから機嫌がよくなかったが、非公開部分特別見学コースになると、打って変わって明るくなって工場内用の埃を出さない服をスラックスの制服の上から着こんで、シャワーキャップのようなものを被り、きゃあきゃあ言いながら、エアシャワーの風を浴びていた。
 さすがはアイドルというべきか、マスクで目元くらいしか出ていなのに、カワイイのがわかるし、なんとなくオシャレに着こなしていた。
 俺?もろに工場で働くオッサンだ。
 一般コースのガラスの向こうからは想像できないくらい、工場内には大きな音が響いていた。
 なので、説明係の人に、俺とあみは、くっついて話を聞いていた。
 そのうち、説明のない通路を歩くときも、俺の腕をつかんで離さない。
 今後のビールのラインナップへの意見を聞かれ、季節限定のラガーでないジャンルのビール、ヒットすれば定番化、という単なるビールマニアの戯言を言っている間も、彼女は俺にくっついていた。
 ちなみに、あみは缶のデザインをもっとポップに的なことを言ったが、「酒」としての規制もあったりするのだろうな。
 ただ、工場は無人化が進んでいて、作業者にあまり会わない上、巨大なタンクなど、見慣れない機械類やそれを繋ぐパイプが、まるで金属製の巨人のハラワタのようで、規則的に響く音は鼓動のようで、場違いな場にいる不安感があり、あみがくっついていることで安堵している自分がいた。

「試飲券、二枚あげる」
 非公開部分も含め、全見学終了後、俺たちも試飲部屋に到着した。
 そこで、各々三枚の試飲券をもらった。
 これ一枚で、ビールもしくは清涼飲料水が一杯飲めるのだ。
 とはいえ、あみは未成年なので、ビールは飲めない。
 とはいえ、ジュース三杯も飲めない。
 だとしても二枚も巻き上げてビール飲むのも外聞が悪い。
「券三枚まとめてで、アイスフロートに、グレードアップできるみたいですよ?」
 壁に貼られた張り紙を見て、
「あー。でも、飲みたいでしょ?ビール」
 「ビール寄付」と「アイスクリーム付」が乗った天秤が見える。
 でも、ここで、「子供が無理しない」とか言えば、今朝の二の舞で、それは避けたい。
「ここでしか飲めない限定ビールは一種類。それと飲み比べにあと二杯くらいが、ちゃんと味がわかる限度ですよ。飲みすぎては、午後の見学に差し障りますし、神社で酒臭いのは避けたいです」
 お、かなり天秤が傾いたな。
「工場内用の服、暑かったから、アイスおいしいですよ、きっと」
 大きく傾いたが、まだ、ダメか。
 昼食前だから、アイス食べるのを気にしてるのか?
「もし食べきれなかったら、アイスもらいますよ。俺も嫌いじゃないですし」
「ダイエット・コーラをアイスフロートにグレードアップしてください」
 あみは、注文カウンターに勢いよく、券三枚を置いた。

 三杯目のビールを試飲しながら、壁の時計を見て、考えていた。
 この後、ホテルまで、工場の車が送ってくれる。
 ただ、試飲直行コースの三人がすでに移動しているように、こちらのコースは思ったより時間がかかって、昼食の時間がなさそうだ。
 ホテルには、次の見学先へのマイクロバスか、人数によってはタクシーが待っているので、昨夜も行ったコンビニでおにぎりでも買って車内で食べるか。
 時計から視線を下す、とあみのコーラ・フロートのグラスの中身が残り少ないのが目に入った。
 どうやら、アイスは残らないようだ。
 そろそろ出ないといけない時間でもある。
 ビールを飲み干す。
 目の前に、先の広がったストローが差し出された。
 屋台のかき氷用みたいに、アイスを食べるために先がスプーン状になっていて、コーラの茶色を纏った白いアイスクリームが少量、乗っていた。
「あー・・・一口、どうぞ」
 確かに、アイスを食べきれなかったらもらうとは言ったが、この量を食べられないわけではないだろう。
 グラスの残りを確認したのを、催促と思ったのだろうか。
 俺が「アイス付」を強く勧めたのを、「アイスわけてほしい」からだと勘違いしたのかもしれない。
 まあ、気を使ってくれたのだろう。
 ぱく。
「ありがとう」
 あみは、ストローの先の失われたアイスをゆっくりと確認し、のろのろとコーラだけが残ったグラスに差し込み、ためらうように口をつけると、吸った。
 先がスプーン状なので、ズズズッと思いの他、大きな音が響く。
 音をたてたのが恥ずかしかったのか、彼女は、耳まで赤くして顔を伏せた。
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