(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

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第一巻:春は、あけぼの

茶色+金色

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「先輩、今夜うちに晩ご飯食べにこない?」
「いいですけど、何時ごろにお店に行けばいいんですか?」
 あみはカワイく、ちっちっち、と指をふり、
「今日は、お店お休み。だから、うちで」
「・・・せっかくのお休みなのに、ママにご迷惑じゃありませんか?」
 更にカワイく、ちっちっち、と指をふり、
「実は、最近お仕事で、お店を手伝えてないから、私がママに晩ご飯つくろうと思ってて」
「おお、親孝行ですね」
「うん。先輩にも来てほしい」
「・・・せっかくの親子団らんの邪魔じゃありませんか?」
 ぶんぶんと両手と首をふり、
「そんなことない。来てくれたら、私の手料理を食べてくれたら、すっごく嬉しい」
「・・・それなら、お邪魔させてもらいます」
 めちゃくちゃ恥ずかしいぞ。
「よかった。嬉しい」
 よし、でも機嫌のいいうちに、聞いておかなければならないことがある。
 心構えができているかいないかが、生死を分ける。
 居酒屋でのお手伝いは、給仕と洗い物しか見ていない。
「料理、得意なんですか?」
 何気なさを装った質問に、あみは、何を聞かれたのかわからなかったのかキョトンとし、意味を理解してマナジリが上がり、何かを思いついたのか口角があがった。
「お料理、得意じゃないけど、がんばってつくるから、残さないで食べてくれる?」
「・・・お、おう」
 この質問に、否と言う選択肢は、涅槃のこちら側には用意されていない。
「じゃあ、今晩は、とろろに、メカブに、納豆のヌルヌル尽くしだ!」
 修学旅行の夜に行った居酒屋で、俺が「ヌルヌルした食べ物が苦手」と言ったのを覚えていての仕返しだろう。
 でも、思わず、
「それ、ものすごく精力つきそう」
 と家に泊まっての添い寝経験者なことを、意識せずに呟いたら、
「そ、そういうんじゃないんだから」
 顔を真っ赤にして言い訳するのが、カワイかった。

 お店に行くのとは違って、自宅での食事への招待だ。
 手ぶらでいくわけにはいかない。
 あみは、お菓子モンスターなので、ケーキでも、と軽く考えていたのだが、ママがいる。
 お店での酒豪ぶりを見る、ともしかして、甘味は苦手かもしれない。
 では、ケーキとお酒のダブルで、と思うが、これはこれで難しい。
 あまり気にすることはないのだろうが、食事のメニューは教えてもらえていないので、買っていったお酒が、料理に合わない可能性もある。
 そもそも、居酒屋の経営者というプロに、どんな酒が適切か、簡単ではない。
 結構、悩んだ。
 これって逆に、プロポーズの挨拶をしにいくときより、難しい手土産の選択じゃないのか?

「いらっしゃいませ、先輩」
 制服にエプロンという、いつものお店スタイルのあみが、出迎えてくれた。
 俺も学園から帰ったまま、制服姿だ。
 いや、手抜きではなく、正装だから、学生の。
「お招きにあずかりまして、ありがとうございます。これ、つまらないものですが」
「わあ、綺麗。先輩、ありがとう」
 悩んだ末、手土産に選んだのは、花。
 大きな花束を持っていっても、飾る場所も大変だし、花瓶のサイズが合うかは、不確定要素だ。
 なので、テーブルフラワーという、コサージュサイズの小さな花束。
 そして、それを飾る壺のような形のガラス製グラスも買ってきた。
「よかったら、これに水を入れて、テーブルとかに飾ってください」
「うん、うん。さっそく飾る。とっても嬉しい」
 彼女らが、いつも挨拶できるように、玄関に置いてある父親と兄の遺影に手を合わせる。
 この隣にも、ちょうどいいサイズかもしれない。
 ここ用に、あとひとつ買ってきてもよかったかな。
 リビングへ案内された。
「ママ、先輩がお花買ってきてくれた」
「いらっしゃい。店に置いてもいいサイズだね。ありがとう」
「むー、家から持ち出さないで」
「・・・はいはい」
 いつも親子は、キッチンにある小さなテーブルで食事をしているようだが、今夜はリビングのソファーとローテーブルの間に座って食べるようだ。
 ちなみに、ママはすでにグラスを片手にもっている。
 テーブルに置いてあるセットを見るに、焼酎の炭酸割のようだ。
「先輩、何飲む?」
 ママと同じもので、と言おうとしたら、
「先輩の好きなビールも買ってきてあるからね?」
「・・・そのビールください」
 ママは吹き出し、
「何飲むって聞くなら、選ばせてあげなよ」
 正論だが、
『言い方よくない!」と思います」
 二人でハモってしまい、更に爆笑された。

「茶色いっていうか、全部煮てるっていうか、雑誌の『彼氏の胃袋つかむメニュー』上位選抜って感じ?」
「い、言い方よくない」
 ビシーッと指刺さして、ママを注意しているが、いつものような切れがないのは、図星なんだろう。
 テーブルに並んだ今晩のメニューは、個別に煮込みハンバーグ、大皿に肉じゃが、豚汁、鶏ゴボウの炊き込みご飯。
 確かに茶色の面積は多いが、がんばってプチトマトやコーン、サヤエンドウ、ニンジンなどを添えて、彩をよくしようとした努力は伺える。
 野菜が足りてないが、ハレの食卓なんだし、男向けのガッツリを意識してくれたのかもしれない。
「おいしそうですよ」
 ママが、自分への反論へ密かにブーイングするが、聞き流しておく。
「いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
 見た目は問題ないが、それでも「おいしい」と確信していたと断言したら、嘘になる。
 一応、覚悟しながら少し緊張して、煮込みハンバーグを割って、中まで火が通っているのをさり気なく調べてから、口に入れる。
「・・・おいしい」
「よかった。けど、今の間、何?」
「感動してたんじゃない?彼女の手料理に」
 ママがいろいろ言いたげに、投げやりに言った。
「え?本当?」
 喜ぶあみに、俺は、素直に強く頷いた。
 このカワイイ容姿で、料理劇マズキャラでないことに、感動していた。
 だって、お約束じゃないか。
 料理の見た目が普通だった分、逆に警戒してしまっていたのだ。
 豚汁も、炊き込みご飯も、肉じゃがも、おいしい。
 一般的に言えば、どれも少し甘めの味つけかもしれないが、俺には好みだ。
 よかった、本当によかった。
「おいしいですよ」
「お口にあって、よかった」
「ネットのレシピって本当に、偉大ねー」
「い、言い方よくない」
 ビシーッと指刺さしての注意の切れがないが、ネットレシピ万歳だ!
「先輩、炊き込みご飯おかわりもってくるね」
 保温している炊飯器のあるキッチンへ、席を外すあみ。
「あと、奇天烈なアレンジを止めた、あたしも褒めてほしー」
 不吉な言葉を聞いてしまったが、今はただ、このおいしさに感謝しよう。
 俺は口をモグモクさせながら、ママに向かって、サムズアップした。
 グッジョブ!
「あと、甘い玉子焼きは、諦めて。コゲで、あたしのお腹、もたないから」
 どうやら、ここに至るまでに無数の試作の屍があり、今日のは、淘汰から生き残ったメニューたちだったらしい。
 玉子焼き?
 好きではあるし、甘いのが好みだが、そんなことを言ったことあったか?
「そりゃ、あたしだって、手料理食べさせて育てた母親のプライドあるわよ」
 そのプライドで、アレンジ禁止を教え込んでやってくれ、いや、くださいお願いします。
 でも、また、あみの手料理を食べられることはあるのかな、とも現実的に少しだけ思った。
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