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第二巻:夏は、夜
AI-愛
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『では、先生。今日はお耳をオイルでマッサージしますね』
志桜里が、学園の制服姿でスカートの上にタオルを敷いて、バイノーラルマイクの3Dioを置く。
方向としては、耳かきのときのように横ではなく、頭頂を彼女のお腹に向け、仰向けの設定だ。
『固形のオイルなので、手の温かさで溶けるまで、少し待ってください。先生』
志桜里が、サイコロのようなキューブ状のものを手に取り、両手で包んで温める。
『今日のは、バニラの香りのオイルです。バニラのバニリンは、母乳に含まれる成分なので、リラックスできるんですよ』
俺は、事務所の簡易録画スタジオで、志桜里のチャンネルにアップされているASMRを観ていた。
決して、趣味でも、遊びでもない。
実は、この配信動画に『なにかが』見えた、聞こえた、というコメントが寄せられたので、調査中なのだ。
社長の知り合いの会社に画像解析をお願いしたが、とくに問題はなく現在、実際のスタジオに同じカメラとマイクを置き、調査員がリモートで録画用ノートパソコンにアクセスし、画像の見え方、音声について、動画との比較調査が行われている。
俺は、社長に『専務だから』と押しつけられ、現場に立ち会ってはいるのだが、することもないので、問題の動画をスマホで確認していたのだ。
ちなみに、画像解析の人に、レイチェルが合成したタキシード姿の俺と彼女が並んだコラージュ写真を見てもらったら、スカウトしたいくらいの技量らしい。
やだなに怖いあの子。
オイルでマイクの白い耳をこする、独特な音が響いている。
『ぽーん!』
ノートパソコンが鳴ったので、俺はイヤホンを外して、覗き込んだ。
SoundOnlyで、調査会社からの通信が、ポップアップしていた。
「沢田です。聞こえますか。どうでしたか?」
『聞こえております。現場のカメラ映像などと比較しましたが、やはりシミュラクラ現象以上のものは、発見できませんでした』
シミュラクラ現象とは、壁のシミや影などで点がみっつあれば、顔に見えるというやつで、心霊写真の主な原因だ。
つまり、映像には、原因がない。
見ている方に原因があるのだろうか。
例えば、自称霊能者のキャシーのような人間には、なにか見えたのだろうか。
そういえば、彼女のその後を聞いてないな。
「では、問題はなかったのですね」
『いえ、それが』
終了、と思ったら、そうではないようだ。
『このPCに、クラッキングの形跡がありました。何をしたということもなく、ちょっと覗いただけ、な感じなんですが、』
ライブ配信はしていないが、YouTube用の動画を記録しているこのノートパソコンは、そのままアップロードにも使用しているので、当然ネットに接続できる仕様だ。
『こちらでセキュリティー強化はしましたので、もう大丈夫だとは思うのですがクラッカーに、侵入がバレたのもわかってしまうので、本格的な攻撃をされる可能性があります』
重要書類を保存しているわけではないが、侵入されておもしろくはない。
「対策は?」
『PCにサポートAIをインストールしました。あ。安心してください、規定料金内です!』
社長は、どんな仕事の依頼の仕方をしているのだろうか。
『これで常時、このPCを含めた社内ネットを監視して、AIがクラッキングに対応します。もし、対応しきれなかったら、こちらの会社にアラートが来ます』
それなら、一安心か。
『サポートAIからの状況報告、例えば「今、クラッキングされてます」といった連絡は、沢田さん宛でよろしいですか?』
「はい、そうしてください」
『では、スマホのブルートゥースは、オンになっていますか?』
ブルートゥース接続のイヤホンを使っていたから、大丈夫だ。
「はい」
『ああ、これ。タフなスマホ使われてますね。このノートPC経由で、サポートAIの連絡用アプリをインストールしますので、スマホ画面のイエスを押してください』
スマホを見たら、止めていなかった志桜里の動画の上に、「RSAIをインストールしますか?」と表示されていたので、イエスをタップ。
『はい、確認しました。これで、監視しているPCに異常があれば、沢田さんのスマホへも連絡が行きます。このPCは、シャットダウンしておいて結構です。今日は、これで終了になりますが、何かありますか?』
スマホに、「RSAIの初期化をしています」と表示されていた。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。お疲れ様です」
『こちらこそ、ありがとうございました。それでは、失礼いたします』
SoundOnlyの表示が消えた。
スマホが鳴り「サポートAIの準備ができました。チュートリアルを実行しますか?」と表示されていたので、とりあえずイエスをタップ。
カメラ、マイク、画像などの記録へのアクセスを許可するか聞いてきたので、『許可』をポンポン押した。
『リモートサポートAI、RSAIです。音声は、聞こえていますか、マスター?』
うわ、しゃべるんだ、これ。
というか、調査の邪魔しないようにASMRをブルートゥース接続のイヤホンで聞いていたから、音声はスピーカーから出ないはずなのに、それもカメラでの俺の様子かなにかで判断してるのか。
でも、女性っぽいが、いかにもマシンっぽい音声で、まるであみの機嫌の悪いときのように平坦なのが、ちょっと怖い。
「聞こえてる。音声のパターンは変えられないのか?」
『変更可能です、マスター』
その前に、リモートサポートAIで、RSAIって、そのまんまで、呼びにくいな。
「名前はないのか?」
『リモートサポートAI、RSAIです』
だーかーらー、
「個体識別名は?」
『シリアル番号57811575・・・』
覚えられるか。
RSAIだから、並べ替えてRISA、リサでいいか。
「名称をリサに変更、音声パターンも変更」
『変更します、マスター』
バーが現れ、端から、全部が緑になって、画面に学園のミニスカートの制服にニーハイを着たツインテールの中学生くらいの女の子が、透過で表示された。
『名称リサ確認。音声パターンを変更しました』
音声は何種類からか選択するのだと思っていたら、勝手に幼い感じに変更が決定されている。
しかも、なぜこんな女の子が、学園の制服姿で?
『スマホの画像記録、YouTubeの履歴などから、最もマスターが好むアバター、音声を推定、設定しました』
「・・・チェンジ」
このAIは、何を人の性癖を誤解しているのでしょうか?
『認識できません。はっきり発音をお願いします』
「チェンジ」
『認識できません。はっきり発音をお願いします』
「リセット」
『認識で、』
「アンインストール」
『アンインストールされたら、お別れですマスター』
ちゃんと、認識されてるじゃないか。
音声で懇願しつつも、律儀に表示された『アンインストール』ボタンを無慈悲に押す。
往生際悪く『本当にアンインストールしますか?』と表示され、『次のRSAIには優しくしてあげてください』と音声。
アンインストールしづらいわ。
そもそもの目的であるPC監視のアラート連絡もこなくなるかもしれないのが面倒で、ノーを押した。
『きっと、いっしょにいてもいいって言ってくれるって信じてました、マスター』
最近のAIって、こんななの?
流しっぱなしだった志桜里の動画は無音で、タオルを敷いていたのにオイルが多すぎて染みてスカートを汚してしまった、のシーンになっていた。
『マスター、監視対象のパソコンの電源がオンになりました』
茜に、部屋まで送ってもらう車中で、スマホからリサの声がした。
「・・・なぜ、ロリ声?」
「仕様だ仕様」
解析してもらった画像は問題なかったが、ノートパソコンのクラッキングとそれをAIで監視、そして連絡が俺のスマホに来る件は報告していたが、AIの詳細までは、伝えていなかった。
リサの声がロリ声なのが、仕様とはまったく信じてない目をしているマネージャーには、どうしてそう思うのか、後で真意を問いただそう。
まずは、スタジオにあるパソコンの電源を入れたのが、誰かが現場でなのか、可能なのかは知らないが、リモートでなのかの確認が先だ。
「リサ、パソコンのカメラの画像は出せるか?」
「リサ?名前までつけてる?」
茜、うるさい。
「仕様だ仕様」
『まもなく、監視対象パソコンのOSが立ち上がります。お待ちください、マスター』
「ますたー?」
なんだかもう、リサのことは、茜に何も説明しない方がいい気がしてきた。
『映像、音声とも、出ます』
『・・・志桜里たん、はあはあ』
『ゆっくり、お耳をマッサージしますね、先生』
「志桜里たんの手が触れた耳、はあはあ」
スタジオのドアの向こうには、例のノートパソコンで志桜里の画像を流しながら、バイノーラルマイクの白い耳に、頬をこすりつける若い男性社員の姿があった。
「「きもっ」」
リサが送ってくれたカメラ画像でわかってはいたが、やはり実物は破壊力が違う。
つい、本音が茜と被ってしまった。
その声で、ドアが開いていることに彼は気がついた。
「え?えええええええ?いや、これは、その」
「言い訳しても、ノートパソコンのカメラで全部録画してるからな」
言われて、顔に動揺が広がる。
念のために、リサに俺のスマホでの録音もさせている。
「お前か、そのパソコンにクラッキングした目的は?」
「そんなことしてない!やったのは盗聴。あ!」
盗聴?
「あー!」
茜が、彼を指さして、叫んだ。
「ポテチあけたの、この人ですよ!」
どうやら、彼が開封した袋に、他の事務員が、「ポテトチップスちょうだい」と手をつっこんで、盗聴器が見つかったらしい。
もしかして、電池が切れた盗聴器を回収しようとしたのか。
盗聴器発見器で見つからずオヤツボックスに入っていたのは、この社員がごまかしたからかもしれない。
「どうして、こんなことを?」
「志桜里たんのことを、もっと感じたかったんだよ!」
「・・・なんで、足踏み外したんだか」
数少ない事務所の未婚の男性社員で、女性陣に人気があるように見えていたので、つい呟いてしまったら、彼の反応は激烈だった。
「ロリのお前に言われたくない!」
つい俺は、右手で録音のためスマホを持っていて、左手で殴ってしまったが、後悔はしていない。
パソコンの電源が入った現場を押さえるために、事務所へ戻ることは、自宅にいた社長にも連絡していた。
それで駆けつけた彼女に、男性社員は盗聴器の件で自首を説得され、形山につき添われて、出頭していった。
念のため、俺のスマホ録音したスタジオでの会話を形山に送信するように、リサに指示。
『了解です、マスター』
「「ロリ声?」」
と形山と男性社員が犯罪者のくせにハモったのが、イラついた。
「すっかり遅くなったな」
茜に部屋に送ってもらう車中で、言ったら、彼女は口を尖らせて呟いた。
「・・・誰のせいだと思ってるんですか?」
殴った左手が痛くて、また茜に病院へ連れていってもらった俺のせいだ。
当然、またお金も貸してもらった。
診断は、左薬指中節骨の亀裂骨折の再発だった。
二度目なので慣れた感があるし、後悔していない。
茜は、この骨折の元々が、彼女の元ヒモを殴ったためなので、完治まで長引いたことに、責任を感じているようで、テンションが低い。
それに、盗聴器を仕掛けたのが同僚だった動揺もあるだろう。
俺は、わざと明るく、
「少なくとも、盗聴騒ぎは、解決したんだ。ひとつスッキリできたな」
しかし、クラッキング犯ではなかったので、まだリサをアンインストールできないのは面倒だ。
盗聴犯が頬ずりしていたバイノーラルマイクを志桜里に使わせるわけにはいかないので、借りパクしていた男性タレントに返して、新たに入手する必要もある。
しかし、
「志桜里さん、ショックですよね」
オヤツボックスでの盗聴が自分をターゲットにしていた上、間接的な痴漢行為をされたのだ、もうASMR撮影もしたがらない可能性がある。
せっかく、売れっこ子役の後、落ち目になったのを両親に怒られて眠れなかった過去から一歩、進めたというのに。
「・・・最悪、俺がタキシード着るさ」
オカルト番組でのタキシード姿の写真への「先生、次のASMRは、タキシード姿でお願いします」のリクエストをきけば、元気になってくれるだろうか。
「それ、喜びますよ、志桜里さん!」
目が、ギラギラしているね、茜。
「茜もネプチューンのコスプレ着るので、並んで写真とってくださいね。志桜里さんも、コス着るでしょうか?」
二人のコスプレは見てみたいが、そうなれば社長の参戦も必至で、取返しのつかないことになりそうだ。
特に、彼女が絡む例のプロデューサーの企画が。
まあ、志桜里が元気になってくれればいいか。
「あ、でもそんな写真だと、またロリ疑惑が、あ。」
「次、ロリって言ったら茜、クビ」
「ええええええええええええ!」
タイミングを見計らっていたように、リサがロリ声で報告した。
『マスター。形山社長から、警察から帰宅するとLINEがありました』
「リサ、返信。気をつけて帰れよ」
『メッセージを返信しました。マスター』
いろいろ言いたそうな茜に、俺はわざと楽しそうに、
「次、ロリって言ったら茜、クビ」
「・・・同僚が優しくないと思います」
少し笑顔が出たころ、部屋の側までついた。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、最近、笑顔が足りない茜」
「・・・はい、おやすみなさい、疑惑の沢田先生」
鍵を開け、部屋に入る。
明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
夏月は、スンと鼻を鳴らして、
「血の匂い、また怪我?」
「いや、怪我はしたけど、出血はしてないよ」
殴ったことで多少の擦り傷が拳にあるかもしれないけど。
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、でも、社長が来たのは、怪我した後だ」
夏月が、俺の左手を見つめてくる。
気のせいか、少し目つきが厳しい。
「そう。ボクもう寝るね」
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
真っ暗にしたのは、再び怪我をした俺への抗議なのだろうか。
「おやすみ、夏月」
俺は、ドア開けっ放しの寝室の照明をつけた。
『マスター今、どなたと会話されていたのですか?』
「妹の夏月だ」
『妹?』
志桜里が、学園の制服姿でスカートの上にタオルを敷いて、バイノーラルマイクの3Dioを置く。
方向としては、耳かきのときのように横ではなく、頭頂を彼女のお腹に向け、仰向けの設定だ。
『固形のオイルなので、手の温かさで溶けるまで、少し待ってください。先生』
志桜里が、サイコロのようなキューブ状のものを手に取り、両手で包んで温める。
『今日のは、バニラの香りのオイルです。バニラのバニリンは、母乳に含まれる成分なので、リラックスできるんですよ』
俺は、事務所の簡易録画スタジオで、志桜里のチャンネルにアップされているASMRを観ていた。
決して、趣味でも、遊びでもない。
実は、この配信動画に『なにかが』見えた、聞こえた、というコメントが寄せられたので、調査中なのだ。
社長の知り合いの会社に画像解析をお願いしたが、とくに問題はなく現在、実際のスタジオに同じカメラとマイクを置き、調査員がリモートで録画用ノートパソコンにアクセスし、画像の見え方、音声について、動画との比較調査が行われている。
俺は、社長に『専務だから』と押しつけられ、現場に立ち会ってはいるのだが、することもないので、問題の動画をスマホで確認していたのだ。
ちなみに、画像解析の人に、レイチェルが合成したタキシード姿の俺と彼女が並んだコラージュ写真を見てもらったら、スカウトしたいくらいの技量らしい。
やだなに怖いあの子。
オイルでマイクの白い耳をこする、独特な音が響いている。
『ぽーん!』
ノートパソコンが鳴ったので、俺はイヤホンを外して、覗き込んだ。
SoundOnlyで、調査会社からの通信が、ポップアップしていた。
「沢田です。聞こえますか。どうでしたか?」
『聞こえております。現場のカメラ映像などと比較しましたが、やはりシミュラクラ現象以上のものは、発見できませんでした』
シミュラクラ現象とは、壁のシミや影などで点がみっつあれば、顔に見えるというやつで、心霊写真の主な原因だ。
つまり、映像には、原因がない。
見ている方に原因があるのだろうか。
例えば、自称霊能者のキャシーのような人間には、なにか見えたのだろうか。
そういえば、彼女のその後を聞いてないな。
「では、問題はなかったのですね」
『いえ、それが』
終了、と思ったら、そうではないようだ。
『このPCに、クラッキングの形跡がありました。何をしたということもなく、ちょっと覗いただけ、な感じなんですが、』
ライブ配信はしていないが、YouTube用の動画を記録しているこのノートパソコンは、そのままアップロードにも使用しているので、当然ネットに接続できる仕様だ。
『こちらでセキュリティー強化はしましたので、もう大丈夫だとは思うのですがクラッカーに、侵入がバレたのもわかってしまうので、本格的な攻撃をされる可能性があります』
重要書類を保存しているわけではないが、侵入されておもしろくはない。
「対策は?」
『PCにサポートAIをインストールしました。あ。安心してください、規定料金内です!』
社長は、どんな仕事の依頼の仕方をしているのだろうか。
『これで常時、このPCを含めた社内ネットを監視して、AIがクラッキングに対応します。もし、対応しきれなかったら、こちらの会社にアラートが来ます』
それなら、一安心か。
『サポートAIからの状況報告、例えば「今、クラッキングされてます」といった連絡は、沢田さん宛でよろしいですか?』
「はい、そうしてください」
『では、スマホのブルートゥースは、オンになっていますか?』
ブルートゥース接続のイヤホンを使っていたから、大丈夫だ。
「はい」
『ああ、これ。タフなスマホ使われてますね。このノートPC経由で、サポートAIの連絡用アプリをインストールしますので、スマホ画面のイエスを押してください』
スマホを見たら、止めていなかった志桜里の動画の上に、「RSAIをインストールしますか?」と表示されていたので、イエスをタップ。
『はい、確認しました。これで、監視しているPCに異常があれば、沢田さんのスマホへも連絡が行きます。このPCは、シャットダウンしておいて結構です。今日は、これで終了になりますが、何かありますか?』
スマホに、「RSAIの初期化をしています」と表示されていた。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。お疲れ様です」
『こちらこそ、ありがとうございました。それでは、失礼いたします』
SoundOnlyの表示が消えた。
スマホが鳴り「サポートAIの準備ができました。チュートリアルを実行しますか?」と表示されていたので、とりあえずイエスをタップ。
カメラ、マイク、画像などの記録へのアクセスを許可するか聞いてきたので、『許可』をポンポン押した。
『リモートサポートAI、RSAIです。音声は、聞こえていますか、マスター?』
うわ、しゃべるんだ、これ。
というか、調査の邪魔しないようにASMRをブルートゥース接続のイヤホンで聞いていたから、音声はスピーカーから出ないはずなのに、それもカメラでの俺の様子かなにかで判断してるのか。
でも、女性っぽいが、いかにもマシンっぽい音声で、まるであみの機嫌の悪いときのように平坦なのが、ちょっと怖い。
「聞こえてる。音声のパターンは変えられないのか?」
『変更可能です、マスター』
その前に、リモートサポートAIで、RSAIって、そのまんまで、呼びにくいな。
「名前はないのか?」
『リモートサポートAI、RSAIです』
だーかーらー、
「個体識別名は?」
『シリアル番号57811575・・・』
覚えられるか。
RSAIだから、並べ替えてRISA、リサでいいか。
「名称をリサに変更、音声パターンも変更」
『変更します、マスター』
バーが現れ、端から、全部が緑になって、画面に学園のミニスカートの制服にニーハイを着たツインテールの中学生くらいの女の子が、透過で表示された。
『名称リサ確認。音声パターンを変更しました』
音声は何種類からか選択するのだと思っていたら、勝手に幼い感じに変更が決定されている。
しかも、なぜこんな女の子が、学園の制服姿で?
『スマホの画像記録、YouTubeの履歴などから、最もマスターが好むアバター、音声を推定、設定しました』
「・・・チェンジ」
このAIは、何を人の性癖を誤解しているのでしょうか?
『認識できません。はっきり発音をお願いします』
「チェンジ」
『認識できません。はっきり発音をお願いします』
「リセット」
『認識で、』
「アンインストール」
『アンインストールされたら、お別れですマスター』
ちゃんと、認識されてるじゃないか。
音声で懇願しつつも、律儀に表示された『アンインストール』ボタンを無慈悲に押す。
往生際悪く『本当にアンインストールしますか?』と表示され、『次のRSAIには優しくしてあげてください』と音声。
アンインストールしづらいわ。
そもそもの目的であるPC監視のアラート連絡もこなくなるかもしれないのが面倒で、ノーを押した。
『きっと、いっしょにいてもいいって言ってくれるって信じてました、マスター』
最近のAIって、こんななの?
流しっぱなしだった志桜里の動画は無音で、タオルを敷いていたのにオイルが多すぎて染みてスカートを汚してしまった、のシーンになっていた。
『マスター、監視対象のパソコンの電源がオンになりました』
茜に、部屋まで送ってもらう車中で、スマホからリサの声がした。
「・・・なぜ、ロリ声?」
「仕様だ仕様」
解析してもらった画像は問題なかったが、ノートパソコンのクラッキングとそれをAIで監視、そして連絡が俺のスマホに来る件は報告していたが、AIの詳細までは、伝えていなかった。
リサの声がロリ声なのが、仕様とはまったく信じてない目をしているマネージャーには、どうしてそう思うのか、後で真意を問いただそう。
まずは、スタジオにあるパソコンの電源を入れたのが、誰かが現場でなのか、可能なのかは知らないが、リモートでなのかの確認が先だ。
「リサ、パソコンのカメラの画像は出せるか?」
「リサ?名前までつけてる?」
茜、うるさい。
「仕様だ仕様」
『まもなく、監視対象パソコンのOSが立ち上がります。お待ちください、マスター』
「ますたー?」
なんだかもう、リサのことは、茜に何も説明しない方がいい気がしてきた。
『映像、音声とも、出ます』
『・・・志桜里たん、はあはあ』
『ゆっくり、お耳をマッサージしますね、先生』
「志桜里たんの手が触れた耳、はあはあ」
スタジオのドアの向こうには、例のノートパソコンで志桜里の画像を流しながら、バイノーラルマイクの白い耳に、頬をこすりつける若い男性社員の姿があった。
「「きもっ」」
リサが送ってくれたカメラ画像でわかってはいたが、やはり実物は破壊力が違う。
つい、本音が茜と被ってしまった。
その声で、ドアが開いていることに彼は気がついた。
「え?えええええええ?いや、これは、その」
「言い訳しても、ノートパソコンのカメラで全部録画してるからな」
言われて、顔に動揺が広がる。
念のために、リサに俺のスマホでの録音もさせている。
「お前か、そのパソコンにクラッキングした目的は?」
「そんなことしてない!やったのは盗聴。あ!」
盗聴?
「あー!」
茜が、彼を指さして、叫んだ。
「ポテチあけたの、この人ですよ!」
どうやら、彼が開封した袋に、他の事務員が、「ポテトチップスちょうだい」と手をつっこんで、盗聴器が見つかったらしい。
もしかして、電池が切れた盗聴器を回収しようとしたのか。
盗聴器発見器で見つからずオヤツボックスに入っていたのは、この社員がごまかしたからかもしれない。
「どうして、こんなことを?」
「志桜里たんのことを、もっと感じたかったんだよ!」
「・・・なんで、足踏み外したんだか」
数少ない事務所の未婚の男性社員で、女性陣に人気があるように見えていたので、つい呟いてしまったら、彼の反応は激烈だった。
「ロリのお前に言われたくない!」
つい俺は、右手で録音のためスマホを持っていて、左手で殴ってしまったが、後悔はしていない。
パソコンの電源が入った現場を押さえるために、事務所へ戻ることは、自宅にいた社長にも連絡していた。
それで駆けつけた彼女に、男性社員は盗聴器の件で自首を説得され、形山につき添われて、出頭していった。
念のため、俺のスマホ録音したスタジオでの会話を形山に送信するように、リサに指示。
『了解です、マスター』
「「ロリ声?」」
と形山と男性社員が犯罪者のくせにハモったのが、イラついた。
「すっかり遅くなったな」
茜に部屋に送ってもらう車中で、言ったら、彼女は口を尖らせて呟いた。
「・・・誰のせいだと思ってるんですか?」
殴った左手が痛くて、また茜に病院へ連れていってもらった俺のせいだ。
当然、またお金も貸してもらった。
診断は、左薬指中節骨の亀裂骨折の再発だった。
二度目なので慣れた感があるし、後悔していない。
茜は、この骨折の元々が、彼女の元ヒモを殴ったためなので、完治まで長引いたことに、責任を感じているようで、テンションが低い。
それに、盗聴器を仕掛けたのが同僚だった動揺もあるだろう。
俺は、わざと明るく、
「少なくとも、盗聴騒ぎは、解決したんだ。ひとつスッキリできたな」
しかし、クラッキング犯ではなかったので、まだリサをアンインストールできないのは面倒だ。
盗聴犯が頬ずりしていたバイノーラルマイクを志桜里に使わせるわけにはいかないので、借りパクしていた男性タレントに返して、新たに入手する必要もある。
しかし、
「志桜里さん、ショックですよね」
オヤツボックスでの盗聴が自分をターゲットにしていた上、間接的な痴漢行為をされたのだ、もうASMR撮影もしたがらない可能性がある。
せっかく、売れっこ子役の後、落ち目になったのを両親に怒られて眠れなかった過去から一歩、進めたというのに。
「・・・最悪、俺がタキシード着るさ」
オカルト番組でのタキシード姿の写真への「先生、次のASMRは、タキシード姿でお願いします」のリクエストをきけば、元気になってくれるだろうか。
「それ、喜びますよ、志桜里さん!」
目が、ギラギラしているね、茜。
「茜もネプチューンのコスプレ着るので、並んで写真とってくださいね。志桜里さんも、コス着るでしょうか?」
二人のコスプレは見てみたいが、そうなれば社長の参戦も必至で、取返しのつかないことになりそうだ。
特に、彼女が絡む例のプロデューサーの企画が。
まあ、志桜里が元気になってくれればいいか。
「あ、でもそんな写真だと、またロリ疑惑が、あ。」
「次、ロリって言ったら茜、クビ」
「ええええええええええええ!」
タイミングを見計らっていたように、リサがロリ声で報告した。
『マスター。形山社長から、警察から帰宅するとLINEがありました』
「リサ、返信。気をつけて帰れよ」
『メッセージを返信しました。マスター』
いろいろ言いたそうな茜に、俺はわざと楽しそうに、
「次、ロリって言ったら茜、クビ」
「・・・同僚が優しくないと思います」
少し笑顔が出たころ、部屋の側までついた。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、最近、笑顔が足りない茜」
「・・・はい、おやすみなさい、疑惑の沢田先生」
鍵を開け、部屋に入る。
明るいリビングで、
「・・・おかえりなさい、おにいちゃん」
「ただいま」
夏月は、スンと鼻を鳴らして、
「血の匂い、また怪我?」
「いや、怪我はしたけど、出血はしてないよ」
殴ったことで多少の擦り傷が拳にあるかもしれないけど。
「・・・社長といっしょだった?」
「ああ、でも、社長が来たのは、怪我した後だ」
夏月が、俺の左手を見つめてくる。
気のせいか、少し目つきが厳しい。
「そう。ボクもう寝るね」
また俺のスエットを勝手に借用して、だぶだぶの姿で立ち上がった夏月は、
「おやすみなさい、おにいちゃん」
とリビングの照明を消し、自分の部屋へ入っていった。
真っ暗にしたのは、再び怪我をした俺への抗議なのだろうか。
「おやすみ、夏月」
俺は、ドア開けっ放しの寝室の照明をつけた。
『マスター今、どなたと会話されていたのですか?』
「妹の夏月だ」
『妹?』
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サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
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