(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

文字の大きさ
53 / 67
第二巻:夏は、夜

側×そば

しおりを挟む
「食料、とか、ぜんぶ運んで、バーベ、キューの、準備が、できた、ぞ社長」
 俺が、息も絶え絶えで言う、と形山は雑巾を絞っていた手を止めて、
「お疲れ様、専務、」
 疲れ切った俺と対照的に元気な男二人を俺の背後に見て、
「津々木君も、大谷君も、お疲れ様」
 労いの雰囲気が、俺へは失せた。
 俺たちは、学園のお盆休みを利用して二泊三日で、山中の避暑地にある形山が所有する別荘へ来ていた。
 学園は、教育の場な上、冷暖房完備なので、長期の夏休みはない。
 しかし、世間並に施設を管理運営する職員のために、一週間ほどのまとまった休みはある。
 さすがに、それ丸々を別荘で過ごすには、メンバーが忙し過ぎた。
 ここへは、大谷が大型免許を持っていたので、レンタルしたマイクロバスで八名。
 大谷がバイトで長距離トラックの荷下ろし助手をやった会社で気に入られ、免許を取らせてもらったらしい。
 確かに、荷物運び、早かった。
 仕事で集合にタイミングが合わなかった志桜里を形山が、もう一台の車で連れてきていた。
 ちなみに、志桜里の仕事は、あみがユニットで主題歌を歌ったアニメのゲスト出演。
 つまり、声優デビューだった。
 ASMR配信で声の良さ、演技力が伝わったらしい。
 別荘は、管理会社が定期的に清掃をしてはいるらしいが、そういう業務が細かいところに手が届かないのは、世の常だ。
 形山が小姑のように指揮を執り、女性陣と共に掃除していた。
(「沢田先生が口にしたのは、『口にしてはいけない言葉』です」)
 その間、俺たち男三人は、車から三日分の食料などを運び込んでいた。
 二泊三日で五食分とはいえ、十人いれば、それなりの量だ。
 別荘に大型冷蔵庫が設置されているが、今晩用の冷えた飲み物や夜で食べきってしまうだろうバーベキューの食材は、クーラーボックスで持ち込んでいた。
 これが重い上に数があり、俺は疲労困憊していたのだ。
 まあ、運転してくれた大谷には悪いが、おかげでマイクロバスの中で、冷えたビールを楽しめた。
 膀胱との人知れない静かな闘いはあったが。
 が、これが荷物運びにはダメージ源になったのと、長距離運転してきた社長にバレて、怒られた。
 ちなみに、教務用の冷凍専用庫もどこかにあるらしいが、使う予定がないので、電源を入れていないままだ。
「でも、沢田先生が炭に火を点けてくれたので、助かりました」
「インドア派の私たちだと、もっと時間かかってたかもしれません」
 二人が、年長の俺を立ててくれた。
 確かに、来る途中のアウトドアショップで、備長炭をやめさせて黒炭にしたり、着火剤は固形とジェル状二種類を買ったのは、俺の采配だ。
「まあ、沢田専務も役にたった、としておきましょう」
 言い方は気にいらないが、総合時間を一度に大重量の荷物を運んで短縮したのは、二人の功績だったし、社長が率先して風呂やトイレ掃除などしてたらしいので、飲み込んでおく。
 運転もせず、昼からビール飲んでしまったしな。
 風呂といえば、この別荘は数年前まで、こじんまりしたペンションだったので、男女別に使えるように小さいが風呂場が二つある。
 男女比率が違いすぎるので、男専用は短時間で切り上げないとだろうが。
 一階には、他にリビング、食事を摂る食堂、厨房などがある。
 宿泊用の部屋は全て二階で、ツインが四部屋、ダブル一部屋とペンションを借りて営業してた夫婦が使っていた、これもダブルベッドを置いた部屋一つある。
 部屋割りは、あみと志方、志桜里と茜、ミホとレイチェル、津々木と大谷、俺がダブル、形山が元夫婦部屋だ。
 俺がダブルベッドで一人泊と決まって、目が輝やくのを見たが、元ペンションだけあって全室、内からしっかり施錠できるようになっているのは、荷物を置きに行ったとときに確認済みだ。
 社長が、こんな贅沢な別荘を所有できる事務所なら、「もっと専務手当を寄こせ」は、事務所独立のゴタゴタを収めるため本当に仕方なく買って、放置もできないので、ない資金でペンションにリフォームして貸していたことを聞いてしまったので、言えなくなった。

『かんぱーい!!』
 通称バーベキュー場で、乾杯した。
 別荘脇には、キャンプ場によくあるコンクリート製の竈と流し、木製のテーブルとベンチが二セットづつあり、アウトドア料理と食事が楽しめるようにもなっている。
 予め予約しておけば、管理会社が置いておいてくれるバーベキューコンロ二つを使って、俺が熾した炭火で肉を網焼きにし始めたところだ。
 ちなみに、コンロは網や鉄板ごと、洗わなくても回収してくれるという素敵システムだ。
 更に、皆が掲げている透明グラスは、ガラス製ではなく、アクリルだ。
 落としても割れない反面、少々お高いが、紙やプラスチックの味気ないカップに比べれば、ビールの美味さが断然違う。
 これも同じくレンタルで、水で濯ぐだけで返却できる。
 しかも、中身は瓶ビールから注いでいた。
 鍵を預けてある別荘管理事務所の売店で冷やして売っているのを見つけて、喉を鳴らして買ってしまった。
 なんと、ケースに入れておけば、瓶代の返却がない代わりに回収してくれる。
 ついでに、安売りになっていた花火も買い占めた。
 火薬臭い肉は御免なので、明日やる予定だ。
 ただ、施設の事前確認で問題なかったか?と聞かれたが、意味がわからなかった。
 俺、形山、津々木、大谷で一つのコンロを囲んでいた。
 人数が偏っているが、男三人は食べるペースが早いし、年の差から他の誰が、こちらに入っても自主的にお世話係になってしまうだろうから、この配置だ。
 冷えたビールが、美味い。
 野外でビールなんて、いつぶりだろう、と思ったが考えるのを止めた。
 自己紹介的な世間話から、津々木が、同棲している彼女との結婚を予定している、と語った。
 彼が、研究機関での出世を機会に、事務所へ所属したもの、そういう背景があったのか。
 事前に知っていた社長と違い、大谷も初耳だったらしく驚いた顔をし、津々木がすまなさそうな表情になったので、俺は目で止めた。
 大谷の失恋話を聞くのは、もっと酔わせてからだ。
 社長も話を逸らそうと、
「良い話が続くわね。坂井さんには困っちゃったけど」
 坂井?
 聞き覚えはあるが、誰だ?
 津々木と大谷は知らない名らしいが、同じような顔をしている俺に、社長は呆れていた。
「専務、ウチの社員よ?」
「志桜里の前任マネージャーさんです」
 お茶のグラス片手に、隣で志桜里が言った。
 オレンジジュース好きだが、肉には合わないからだろう。
 つまり坂井は先日、急に産休に入った四十代半ばの女性社員だ。
 形山が、独立する前から彼女担当のマネージャーで、事務所設立にも貢献していた。
 二人は独身同士だったものあり、今でもよく食事などにも行っていたが、事前に相談はなかったらしい。
 浮いた話も聞かず当然、結婚もしていないはずなので、社長も大ショックだったようだ。
 まあ、辞めるのではなく、産休なのだから、きっとメデタイ話に落ち着くことだろう。
「焼きソバ食べたい」
 その声に振り返る、とダイエット・コーラのグラスを片手に、もう一方の手に焼きソバのパッケージを持ったあみがいた。
 志桜里が坂井のことを教えに近づいたので、年上組に紛れるチャンスだと思ったのだろう。
「まだ、始まったばかりだぞ。肉を喰え、肉を」
 食べるペースが早い俺たちでも、まだまだ口に入れた量は、ビールの方が多い。
「だって、」
「そっちには、レイチェルがい、」
 いるんだから作ってもらえ、と言いかけ視線を向けたら、底冷えのする目でメイドに見られた。
『まさか、本当にお腹が減って焼きソバをねだっているなんて、思ってないですわよね、ご主人様?』
 ミホは、ニヤニヤしながら俺の反応を見ているし、茜もこっちへ来たくて振っている尻尾が見えそうだ。
 志方は、肉たくさん食べててくれ。
 気を使わないように年齢で組み分けしたのがかえって、寂しかったのだろう。
 俺は、ため息をついて、テーブルからフライパンを取った。
「ええー、鉄板じゃないの?」
「油まみれの焦げたソバ食べたいなら、そうするが?」
 炭火で、使ったことない鉄板で焼きソバなんて、大量の油を使っても焦げて剥がれないソバの方が多くても仕方ないんだぞ。
 あみと隣の志桜里も二人で首を振った。
 小食なのに志桜里も食べる気か?
 フライパンを肉が乗ってない部分の網の上へ置き、アルミホイルで包んでいた野菜を二つ解いて入れる。
 パッケージを開けて、蒸し麵をその上へ乗せて、水を多めに加えて、焼かれずに使用済みになってしまったホイルを伸ばしてフタ。
 ちなみに、野菜は炭火で上手く焼けるわけないので、何種類かを組んでホイル焼きとして包んでいる。
 余ったら、このまま蒸し器に入れても良いし、バラして使うにもザルに入れておくより乾燥させずに保管しやすい。
 しかも、ザルごと入れるのは、冷蔵庫では至難の業だ。
 肉は焼いて食べているので、敢えての肉抜きだ。
 リクエストは焼きソバなのに、煮始めたことに、勘違いしているのか意地悪なのか、あみが疑り深い目で見てくる。
 志桜里まで心配そうだ。
 しかし、火力調整が難しい炭火では、フライパンでも炒め物は難しい。
 炭火焼き鳥屋でも、焼きソバはガスコンロでだ。
 ちなみに、焼き鳥とやきとりは別モノだが、今は関係ない。
 焦がさず均一に火を通そうとすれば、煮るのが一番だ。
 通常、水は蒸発するので、百度以上にはなれない。
 湯気が上がってきたので、アルミブタを取り、麺を箸でほぐす。
 しまった、俺が食べるのに使っていた割り箸だったが、気にするなら食べなければいい。
 熱湯消毒で納得しろ。
 なんだか、あみも志桜里も輝いた目をしているが、そんなに焼きソバが食べたかったのか?
 お湯が多ければ捨てようと思っていたが、麺が吸った分、丁度よくなりそうだ。
 野菜の旨味を失わずに済んだ。
 肉のパックから取り出されて、集められていた牛脂を入れる。
 ジューと音が大きくなり、脂の温度は百度以上になるのでかき混ぜると、どんどん余分な水気が蒸発していく。
 丹精込めて霜降りに育てた肉を食レポで「余分な脂が落ちて」呼ばわりされる農家は、どんな気持ちなんだろう。
 粉のソースがついているが、フライパンを洗うまで、ずっとソース味が残ってしまうので、エコを言い訳に塩胡椒で味つけ。
「ほら、できたぞ」
 フライパンを持ち上げて振り返る、と囲まれていた。
 箸が伸び、焼きソバを奪っていく。
 あ、調理が久しぶりすぎて、味見しなかったな。
「あ、ちゃんと焼きソバだ」
 疑うなら食べなくて結構だ、あみ。
「先生、お料理上手のままですね」
 そういえば、誕生日に俺の部屋に来たとき、もう料理しないことを残念がっていたな、志桜里。
 それで、心配そうだったのか。
「・・・口が、ソース味だったのにー」
 ああ、焼きソバだものな、それはわかる、すまんミホ。
「カップ焼きソバみたいな感じで、これなら料理が苦手な子にも、できるかもですわ」
 休職中の割にメイド喫茶へ頻繁に手伝いに行っているレイチェルは、「メイドの手料理」企画を立ち上げて、苦心していた。
 店の調理人ではなく、メイド自身が作った料理を付加価値として客へ振る舞うのだが、料金に見合った食事を提供するには、いささか腕前が心配な娘が多かったのだ。
 後に、電子レンジで具材や麺を蒸し煮した後にサっと炒める「メイドがご主人様のためだけにお料理:沢田先生のカップ焼きソバ風」としてメイド喫茶のメニューになり、「誰?」と客の首を捻らせるのだが、それは別の話。
「間に合わなかった」
「茜も食べられませんでした」
 言われて見れば、フライパンは空っぽだった。
 マネージャーたちは、タレントに遠慮したのか、出遅れたようだ。
「私も、一口くらいしか食べてない」
 「くらい」が審議事案で、それが本当なら、誰が食べたんだ?となるんだが。
「はいはい。沢田専務にも、お肉食べさせてあげて、」
 おお、いいこと言うな、さすが社長。
「焼きソバは後で、みんなの分、つくってもらいましょう」
 何、勝手に約束してるんだ?
「あと、バーベキューコンロは離さないで、二つ並べて、みんなで囲みましょう」
 こっちへの同意で移設作業が始まったので、俺の反論は、有耶無耶になってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

処理中です...