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第二巻:夏は、夜
りょうり-料理
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オムライスの中身、チキンピラフを炊飯器で炊いて共通にして「卵で包むだけ」ということは、個性を出そうとすれば、アレンジ勝負となるのは必定。
昨夜のパフェ対決で、勝負魂に火がついていたのだろうか。
食堂テーブルに並んだのは、色とりどりと言うか、原型を留めていないオムライスたちだった。
なんとなく、スライムの違いをゲームでは色違いで表現するのを思いだした。
どの色が、どの程度の強さなのか分からないのが、初見殺しだ。
予定では、厨房に立った者が自分の分をつくり、ついでに他の人の分も、だったのだが、荒ぶる調理へだか芸術へだかの渇望が、人数分以上の皿へ具現化されていた。
俺は、素早くレイチェルがつくっただろう超スタンダードなオムライスの前に座ったが、スプーンへ伸ばす手を止められた。
「せっかくだから、小皿でとって、みんなで分けませんか?」
おずおずと小さく手を挙げて、志桜里が提案したからだ。
どうやら、自分がつくったオムライスの前に俺が座らなかったのが、お気に召さなかったらしい。
どの席に座れば、このロシアンルーレットな発言は、出なかったのだ?
しかも、本家ロシアンルーレットよりもタチが悪いのが、中が一発ではないのと一撃死でなく生殺しになることだ。
いや、止めを刺されるほどのモノを求めているわけではないのだが。
俺は、形山と目を合わせたが二人とも、普段は自己主張が少なめな志桜里の意見を止められるはずがない。
調理者たちの思惑も一致し、小皿と取り分け用スプーンが用意された。
そうか、まともなオムライスを多めにとって、腹が満たされ次第、戦線離脱すれば良い。
「スタッフが美味しくいただきました」は、製造者責任でお願いしたい。
「ご主人様、お取り分けしますね」
俺の返事も待たず、俺の小皿を取り上げた。
メイドとして、周りのお嬢様方の「つくったオムライスを食べてほしい」を優先させる気らしい。
世のご主人様方は、こんな仕打ちなのでしょうか?
あ、自分の安全確保のため、俺に毒見と危険物処理をさせる気だな。
本来の意図に気がついたときには、いつの間にか小皿は大皿になり、色とりどりなパレットのようになっていた。
知っているか?
絵具って毒性、強いんだぞ。
皿数は、多かったが、パレットには四種類。
つまり、調理者は四名なのだろうか。
「さあ、お召し上がりください」
形山と津々木、そして鈍いはずの大谷も気配を消していた。
社会性動物としてではなく、動物本来の危険信号には、敏感なようだ。
どうやら、俺が食べた反応で、地雷の位置を発見する気らしい。
しばらく前に、ハイタッチした一体感は、どこへ行ったんだ?
そうか、地雷か。
俺は、何気ないふりを装って、スプーンを迷うように、ダウジング棒のように、地雷原の上を動かした。
卵を何個使ったんだ?くらい分厚い、シャリがちょこんのバランス悪い寿司の玉みたいな上で、あみの表情が動いた。
これが、あみ作か。
以前、手料理を食べたが、ネットレシピを参考にして茶色かったが、美味しかった。
踏んでも、安全なはずだ。
しかし、スプーンですくいにくいな、これ。
「・・・あみ」
「うん?なあに?」
どうして自分作とバレたか気がつかずに、「美味しい」を確信した表情で聞いてくる。
「玉子が劇甘すぎて、チキンプラフに合わない」
「えええええ?だって先輩、甘い玉子焼きが好きでしょ?」
確かに、ホテルの朝食ビュッフェでスクラップエッグが甘くないとコーヒー用の砂糖をかけるくらい甘いのが好きだが、卵・鶏ひき肉・トマトの絶対合うトリオの仲へ甘味が割り込み引き裂いている。
スプーンの位置と表情で、誰が調理人か探っているのに気がついたメイドが、
「ご主人様、お行儀が悪いです」
「迷い箸はマナー違反だが、迷いスプーンはない、はず」
言い訳しても、ネタあがってるんだゴラァという目のメイド。
世のご主人様(略
「ほら、どれも美味しそうだから、迷ってしまって」
「でも、冷めてしまいます。美味しいうちにお召し上がりください」
反論を正論で叩き潰された。
そして、気がつかされたのだ。
一般的に料理は冷えたら、美味しさが減る。
つまり、放置すればするだけ、マズさが増すということだ。
どうやら、同じ考えに至った津々木がゴクリと喉を鳴らし、形山が遠い目をした。
いや、俺を待たずに、食べて良いんだぞ?
とりあえず、見えた目は安全そうな、ハートが切り取られてラインになったっぽい赤と黄色のコントラストをスプーンに乗せる。
「あ、それは、わたくしがつくりました」
メイドの告白に安堵し、口へ運ぶ。
「・・・レイチェル」
「はい、ご主人様」
「このハート、は苺ソースか?」
「はい、お店でも評判が良いのですが、いかがでしょうか?」
正直に言えば、悪くはない。
あみの玉に比べて、甘さ控えめなくらいだ。
しかし、オムライスの温かさが、邪魔だ。
熱せられた苺の香りが鼻を抜け、味覚を脳を混乱させる。
冷めた方が良かった、というさっきの「冷めてマズくなる」を裏切るトラップだ。
「あ、お店でメイドとのおしゃべりに夢中になって、オムライスが冷めてしまったご主人様へのオプション・サービスでした」
ワザと、だろう?
どうせ、他のお嬢様方の努力を無碍にして、メイドの無難オムライスを食べようとするだろう俺へのイヤガラセに決まっている。
「じゃあ、レイチェルのは、最後にいただきましょう」
条件付きとはいえ、安全地帯を見つけた形山が宣言し、男共も頷く。
最悪、苺ソースは、避けても良いとか、考えているのだろう。
その筋肉で、地雷原踏破してくれよ。
それに、テーブルの皿を観察する、とレイチェル作らしい小奇麗なオムライスには、ちゃんと透明感のないケチャップでハートが描かれたものもある。
はい、ワザとなの決定。
そっちを試食させろ、というか、こういう事態を予測して、苺ソース版を一皿、仕込んだのか?
恐ろしい子。
そういえば、苺ソースを強引に買った仕方は?と思ったら、浮腫んだ顔、ボサボサの髪、寝間着だろうダルダルの緑ジャージ姿で階段を降りてきた。
「おばようございまず」
無事?に起きたのは良いが、嫁入り前の女性なので、全身にモザイクかけてあげてほしい。
「顔、洗ってこよ?」
茜が洗面所へ連れて行ってくれて、皆が、ほっとした。
そして、眼の前の状況は、より悪化していた。
四つのうち、手料理が美味しかったあみ、メイト作に、お見舞いされてしまったのだ。
ロシアンルーレットに例えたが、これではビストロではなく、本当にピストルだ。
ビルの間を渡した鉄骨を歩く方が、まだ安全かもしれない。
とはいえ、あみはある意味勘違いだし、レイチェルはワザとだ。
俺の誕生日に、志桜里がロールキャベツ、ミホが「トマトと沢庵と豆腐のサラダ」だっけ?を作ってきてくれて、美味しかった。
ミホのアイディアが暴走しなければ、意外と安全圏なのか?
ダウジング・スプーンを繰り出すが、調理者がバレないように、無表情で通用しない。
シチューのようなホワイト・ソースがかかったオムライスに、つい今朝の口元を白く汚した茜を連想してしまう。
ちょうど、身支度する志方を洗面所に残して戻ってきた茜を見る、と小刻みに首を振った。
そうか、マヤ文明の番組出演をリビングで話していたから、調理していないのか。
シチューの元が、買い出しリストになかったことは、頭の隅に追いやり、口に運ぶ。
「・・・これは」
「シチューのルーがなかったから、ヨーグルトで代用したよ」
ミホが、元気よく言うが、それは色味だけで、代用と言わない。
それが通用するなら、ペンキでも良いことになる。
卵と酸味は合わない派で、アンチ・マヨネーズなので一番、苦手かもしれない。
しかも、シチューの口だったので、酸味を腐敗が原因と思ってしまった。
喉奥がすっぱいのは、ヨーグルトのせいだ、と自分を騙せ、俺。
「ま、マヨネーズ好きなら、好みじゃないか、これ」
俺は好きじゃない、これは無理だ、頼む食べてくれ、とパスを出すが、女優もボディービルダーも「体型のために、ちょっと」という顔をする。
「ヨーグルトは、油もカロリーも少ないから、ナイス・アイディアでしょ?」
「うん、そうだな。体型のために、マヨネーズを我慢している人に、ピッタリだな!」
理論武装を論破してやったら、目を逸らした。
「ちなみに、味見はしたのか、ミホ?」
「味、見?」
「マヨネーズに味が近いか、確かめた、よな?」
ミホも目を逸らした。
最後に残ったのは、透明感のない薄緑クリーム色ソースのオムライスだ。
ほうれん草などの色鮮やかな緑ではなく薄く、言葉を選ばなければ、ゾ××の××がかかったみたいだ。
スライムの連想が起きたのは、この色味のせいだろう。
ご丁寧に、ソースを避けられないようにか、全面を覆っている。
クリーミーな感じがするのが、シチューのルー不在が確定した今、怖いだけだ。
メイドがカスタードクリームをつくったらしいから、ヨーグルトではなく、牛乳の可能性は、まだある。
なにより、恐ろしいのが、調理者が暫定、志桜里なことだ。
形山を実験台にして、料理の練習をしているとは聞いたが、そのモルモットが遠い目をしているのが気になりすぎる。
誕生日につくってくれたロールキャベツは、どれほどの犠牲の上に日の目を見たのだろうか。
なにより、辛辣な批評をすれば、泣くかもしれない。
いろいろな意味で、お腹いっぱいを理由に、試食を遠慮したいが、それも叶わない。
一番、覚悟を決めて、ギャラリーが静まる中、なるべく少量を口に含んだ。
「・・・志桜里」
「・・・はい」
俺たちの緊張が伝わってか、不安そうに小声で答えがあった。
小声は、いつもか。
「美味しいぞ、緑色の食材が分からないが」
なぜか、皆から安堵のため息が出た。
形山たちが、微妙に体勢を変えて、志桜里皿を確保しやすいようにしているのが、イラつく。
「ミックスベジタブルのグリーンピースを潰しました」
それで、緑色が薄いのか。
緑豆を拾っている姿は、倹約生活の番組みたいで、ちょっと見たくないな。
まあ、ほうれん草は買ってないし、ブロッコリーが入っていたホイル焼きは、焼きソバで使いきってしまっていたから、仕方ないか。
チキンピラフやケチャップ(苺ソース)が赤く、卵が黄色いから、他の選択肢は白か緑くらいで、白はミホが取ったしな。
青がないだけ、良識的なのか?
そうえいば昔、上司がアメリカに仕事へ行った土産で青いケチャップを買ってきたが、原材料がほぼ化学物質だったのを思い出した。
「シチューのルーは、なかったって聞いたけど?」
「小麦粉をバターで炒めて、牛乳で伸ばしてホワイト・ソースをつくりました」
そういえば、買い出しリストに「食料難のとき用by形山」として、入ってたな。
冬山の別荘に閉じ込められた某グルメ漫画か、と思ったが。
あれも、朝食は焼きたてパン購入の予定だったのが、暗示的だ。
「昨日、レイチェルさんが、カスタードクリームに小麦粉使っていて思いついて、教えてもらいました」
小麦粉を使うんだ、カスタードクリーム。
ちなみに、志桜里のレイチェルへの「さん」付けも、地味な攻防戦の末、志桜里が勝ち取っていた。
へー、カスタードクリームを冷やす時間は計算できないくせに、ホワイト・ソースは教えられるんだ?とメイドを見る、と無表情でピーズされた、怖い。
世のご主人様方は(略
「あれ?みなさん食べないんですか?余ったんですか?」
洗面所から、フルモザイクから薄モザイク程度へは整った、スッピン志方が戻ってきた。
そこから目を逸らしてしまう分、緑ジャージの下に着た白Tシャツの首元ダルダル加減が目立つ。
超絶に頭デカくないと、そんなに伸びないだろう、普通は。
TikTokあたりで、首元伸ばしダンスでも流行ってるのか?
「これ、美味しいですよ!」
寝起きから十数分だろうに、元気だな。
「小分けして」の事情を知らない志方は、近くにあった皿からバクバク食べはじめる。
誰作をかは、敢えて見ないのが精神衛生的に、よろしい。
地雷を踏んで突破する勇者を味音痴呼ばわりはしたくない。
舌に不破の鎧か、伝説級の守護魔法が付与されているのだろう。
いやいや、呪いではなく、祝福のはずだ。
慌ててメイドが、小皿と「小分けして」を説明しようとしている隙に、俺はケチャップ版のレイチェル皿を引き寄せ、すかさず、
「あみ、志桜里、二人がつくったのと三分の一づつ、交換しよう」
俺のオムライス選択に眉根を寄せていたクレーマーと小分けの提案者を満足させて、口を塞ぐ。
「なあんだ結局、私の玉子の味付けが好きなんじゃない」
玉が分厚くてスプーンに乗せるのが難しいのを言い訳に、ピラフとコッソリ別に食べれば良いことに気がついただけだ。
「いただきます」
手を合わせて、領土確定と国交樹立を宣言した。
昨夜のパフェ対決で、勝負魂に火がついていたのだろうか。
食堂テーブルに並んだのは、色とりどりと言うか、原型を留めていないオムライスたちだった。
なんとなく、スライムの違いをゲームでは色違いで表現するのを思いだした。
どの色が、どの程度の強さなのか分からないのが、初見殺しだ。
予定では、厨房に立った者が自分の分をつくり、ついでに他の人の分も、だったのだが、荒ぶる調理へだか芸術へだかの渇望が、人数分以上の皿へ具現化されていた。
俺は、素早くレイチェルがつくっただろう超スタンダードなオムライスの前に座ったが、スプーンへ伸ばす手を止められた。
「せっかくだから、小皿でとって、みんなで分けませんか?」
おずおずと小さく手を挙げて、志桜里が提案したからだ。
どうやら、自分がつくったオムライスの前に俺が座らなかったのが、お気に召さなかったらしい。
どの席に座れば、このロシアンルーレットな発言は、出なかったのだ?
しかも、本家ロシアンルーレットよりもタチが悪いのが、中が一発ではないのと一撃死でなく生殺しになることだ。
いや、止めを刺されるほどのモノを求めているわけではないのだが。
俺は、形山と目を合わせたが二人とも、普段は自己主張が少なめな志桜里の意見を止められるはずがない。
調理者たちの思惑も一致し、小皿と取り分け用スプーンが用意された。
そうか、まともなオムライスを多めにとって、腹が満たされ次第、戦線離脱すれば良い。
「スタッフが美味しくいただきました」は、製造者責任でお願いしたい。
「ご主人様、お取り分けしますね」
俺の返事も待たず、俺の小皿を取り上げた。
メイドとして、周りのお嬢様方の「つくったオムライスを食べてほしい」を優先させる気らしい。
世のご主人様方は、こんな仕打ちなのでしょうか?
あ、自分の安全確保のため、俺に毒見と危険物処理をさせる気だな。
本来の意図に気がついたときには、いつの間にか小皿は大皿になり、色とりどりなパレットのようになっていた。
知っているか?
絵具って毒性、強いんだぞ。
皿数は、多かったが、パレットには四種類。
つまり、調理者は四名なのだろうか。
「さあ、お召し上がりください」
形山と津々木、そして鈍いはずの大谷も気配を消していた。
社会性動物としてではなく、動物本来の危険信号には、敏感なようだ。
どうやら、俺が食べた反応で、地雷の位置を発見する気らしい。
しばらく前に、ハイタッチした一体感は、どこへ行ったんだ?
そうか、地雷か。
俺は、何気ないふりを装って、スプーンを迷うように、ダウジング棒のように、地雷原の上を動かした。
卵を何個使ったんだ?くらい分厚い、シャリがちょこんのバランス悪い寿司の玉みたいな上で、あみの表情が動いた。
これが、あみ作か。
以前、手料理を食べたが、ネットレシピを参考にして茶色かったが、美味しかった。
踏んでも、安全なはずだ。
しかし、スプーンですくいにくいな、これ。
「・・・あみ」
「うん?なあに?」
どうして自分作とバレたか気がつかずに、「美味しい」を確信した表情で聞いてくる。
「玉子が劇甘すぎて、チキンプラフに合わない」
「えええええ?だって先輩、甘い玉子焼きが好きでしょ?」
確かに、ホテルの朝食ビュッフェでスクラップエッグが甘くないとコーヒー用の砂糖をかけるくらい甘いのが好きだが、卵・鶏ひき肉・トマトの絶対合うトリオの仲へ甘味が割り込み引き裂いている。
スプーンの位置と表情で、誰が調理人か探っているのに気がついたメイドが、
「ご主人様、お行儀が悪いです」
「迷い箸はマナー違反だが、迷いスプーンはない、はず」
言い訳しても、ネタあがってるんだゴラァという目のメイド。
世のご主人様(略
「ほら、どれも美味しそうだから、迷ってしまって」
「でも、冷めてしまいます。美味しいうちにお召し上がりください」
反論を正論で叩き潰された。
そして、気がつかされたのだ。
一般的に料理は冷えたら、美味しさが減る。
つまり、放置すればするだけ、マズさが増すということだ。
どうやら、同じ考えに至った津々木がゴクリと喉を鳴らし、形山が遠い目をした。
いや、俺を待たずに、食べて良いんだぞ?
とりあえず、見えた目は安全そうな、ハートが切り取られてラインになったっぽい赤と黄色のコントラストをスプーンに乗せる。
「あ、それは、わたくしがつくりました」
メイドの告白に安堵し、口へ運ぶ。
「・・・レイチェル」
「はい、ご主人様」
「このハート、は苺ソースか?」
「はい、お店でも評判が良いのですが、いかがでしょうか?」
正直に言えば、悪くはない。
あみの玉に比べて、甘さ控えめなくらいだ。
しかし、オムライスの温かさが、邪魔だ。
熱せられた苺の香りが鼻を抜け、味覚を脳を混乱させる。
冷めた方が良かった、というさっきの「冷めてマズくなる」を裏切るトラップだ。
「あ、お店でメイドとのおしゃべりに夢中になって、オムライスが冷めてしまったご主人様へのオプション・サービスでした」
ワザと、だろう?
どうせ、他のお嬢様方の努力を無碍にして、メイドの無難オムライスを食べようとするだろう俺へのイヤガラセに決まっている。
「じゃあ、レイチェルのは、最後にいただきましょう」
条件付きとはいえ、安全地帯を見つけた形山が宣言し、男共も頷く。
最悪、苺ソースは、避けても良いとか、考えているのだろう。
その筋肉で、地雷原踏破してくれよ。
それに、テーブルの皿を観察する、とレイチェル作らしい小奇麗なオムライスには、ちゃんと透明感のないケチャップでハートが描かれたものもある。
はい、ワザとなの決定。
そっちを試食させろ、というか、こういう事態を予測して、苺ソース版を一皿、仕込んだのか?
恐ろしい子。
そういえば、苺ソースを強引に買った仕方は?と思ったら、浮腫んだ顔、ボサボサの髪、寝間着だろうダルダルの緑ジャージ姿で階段を降りてきた。
「おばようございまず」
無事?に起きたのは良いが、嫁入り前の女性なので、全身にモザイクかけてあげてほしい。
「顔、洗ってこよ?」
茜が洗面所へ連れて行ってくれて、皆が、ほっとした。
そして、眼の前の状況は、より悪化していた。
四つのうち、手料理が美味しかったあみ、メイト作に、お見舞いされてしまったのだ。
ロシアンルーレットに例えたが、これではビストロではなく、本当にピストルだ。
ビルの間を渡した鉄骨を歩く方が、まだ安全かもしれない。
とはいえ、あみはある意味勘違いだし、レイチェルはワザとだ。
俺の誕生日に、志桜里がロールキャベツ、ミホが「トマトと沢庵と豆腐のサラダ」だっけ?を作ってきてくれて、美味しかった。
ミホのアイディアが暴走しなければ、意外と安全圏なのか?
ダウジング・スプーンを繰り出すが、調理者がバレないように、無表情で通用しない。
シチューのようなホワイト・ソースがかかったオムライスに、つい今朝の口元を白く汚した茜を連想してしまう。
ちょうど、身支度する志方を洗面所に残して戻ってきた茜を見る、と小刻みに首を振った。
そうか、マヤ文明の番組出演をリビングで話していたから、調理していないのか。
シチューの元が、買い出しリストになかったことは、頭の隅に追いやり、口に運ぶ。
「・・・これは」
「シチューのルーがなかったから、ヨーグルトで代用したよ」
ミホが、元気よく言うが、それは色味だけで、代用と言わない。
それが通用するなら、ペンキでも良いことになる。
卵と酸味は合わない派で、アンチ・マヨネーズなので一番、苦手かもしれない。
しかも、シチューの口だったので、酸味を腐敗が原因と思ってしまった。
喉奥がすっぱいのは、ヨーグルトのせいだ、と自分を騙せ、俺。
「ま、マヨネーズ好きなら、好みじゃないか、これ」
俺は好きじゃない、これは無理だ、頼む食べてくれ、とパスを出すが、女優もボディービルダーも「体型のために、ちょっと」という顔をする。
「ヨーグルトは、油もカロリーも少ないから、ナイス・アイディアでしょ?」
「うん、そうだな。体型のために、マヨネーズを我慢している人に、ピッタリだな!」
理論武装を論破してやったら、目を逸らした。
「ちなみに、味見はしたのか、ミホ?」
「味、見?」
「マヨネーズに味が近いか、確かめた、よな?」
ミホも目を逸らした。
最後に残ったのは、透明感のない薄緑クリーム色ソースのオムライスだ。
ほうれん草などの色鮮やかな緑ではなく薄く、言葉を選ばなければ、ゾ××の××がかかったみたいだ。
スライムの連想が起きたのは、この色味のせいだろう。
ご丁寧に、ソースを避けられないようにか、全面を覆っている。
クリーミーな感じがするのが、シチューのルー不在が確定した今、怖いだけだ。
メイドがカスタードクリームをつくったらしいから、ヨーグルトではなく、牛乳の可能性は、まだある。
なにより、恐ろしいのが、調理者が暫定、志桜里なことだ。
形山を実験台にして、料理の練習をしているとは聞いたが、そのモルモットが遠い目をしているのが気になりすぎる。
誕生日につくってくれたロールキャベツは、どれほどの犠牲の上に日の目を見たのだろうか。
なにより、辛辣な批評をすれば、泣くかもしれない。
いろいろな意味で、お腹いっぱいを理由に、試食を遠慮したいが、それも叶わない。
一番、覚悟を決めて、ギャラリーが静まる中、なるべく少量を口に含んだ。
「・・・志桜里」
「・・・はい」
俺たちの緊張が伝わってか、不安そうに小声で答えがあった。
小声は、いつもか。
「美味しいぞ、緑色の食材が分からないが」
なぜか、皆から安堵のため息が出た。
形山たちが、微妙に体勢を変えて、志桜里皿を確保しやすいようにしているのが、イラつく。
「ミックスベジタブルのグリーンピースを潰しました」
それで、緑色が薄いのか。
緑豆を拾っている姿は、倹約生活の番組みたいで、ちょっと見たくないな。
まあ、ほうれん草は買ってないし、ブロッコリーが入っていたホイル焼きは、焼きソバで使いきってしまっていたから、仕方ないか。
チキンピラフやケチャップ(苺ソース)が赤く、卵が黄色いから、他の選択肢は白か緑くらいで、白はミホが取ったしな。
青がないだけ、良識的なのか?
そうえいば昔、上司がアメリカに仕事へ行った土産で青いケチャップを買ってきたが、原材料がほぼ化学物質だったのを思い出した。
「シチューのルーは、なかったって聞いたけど?」
「小麦粉をバターで炒めて、牛乳で伸ばしてホワイト・ソースをつくりました」
そういえば、買い出しリストに「食料難のとき用by形山」として、入ってたな。
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あれも、朝食は焼きたてパン購入の予定だったのが、暗示的だ。
「昨日、レイチェルさんが、カスタードクリームに小麦粉使っていて思いついて、教えてもらいました」
小麦粉を使うんだ、カスタードクリーム。
ちなみに、志桜里のレイチェルへの「さん」付けも、地味な攻防戦の末、志桜里が勝ち取っていた。
へー、カスタードクリームを冷やす時間は計算できないくせに、ホワイト・ソースは教えられるんだ?とメイドを見る、と無表情でピーズされた、怖い。
世のご主人様方は(略
「あれ?みなさん食べないんですか?余ったんですか?」
洗面所から、フルモザイクから薄モザイク程度へは整った、スッピン志方が戻ってきた。
そこから目を逸らしてしまう分、緑ジャージの下に着た白Tシャツの首元ダルダル加減が目立つ。
超絶に頭デカくないと、そんなに伸びないだろう、普通は。
TikTokあたりで、首元伸ばしダンスでも流行ってるのか?
「これ、美味しいですよ!」
寝起きから十数分だろうに、元気だな。
「小分けして」の事情を知らない志方は、近くにあった皿からバクバク食べはじめる。
誰作をかは、敢えて見ないのが精神衛生的に、よろしい。
地雷を踏んで突破する勇者を味音痴呼ばわりはしたくない。
舌に不破の鎧か、伝説級の守護魔法が付与されているのだろう。
いやいや、呪いではなく、祝福のはずだ。
慌ててメイドが、小皿と「小分けして」を説明しようとしている隙に、俺はケチャップ版のレイチェル皿を引き寄せ、すかさず、
「あみ、志桜里、二人がつくったのと三分の一づつ、交換しよう」
俺のオムライス選択に眉根を寄せていたクレーマーと小分けの提案者を満足させて、口を塞ぐ。
「なあんだ結局、私の玉子の味付けが好きなんじゃない」
玉が分厚くてスプーンに乗せるのが難しいのを言い訳に、ピラフとコッソリ別に食べれば良いことに気がついただけだ。
「いただきます」
手を合わせて、領土確定と国交樹立を宣言した。
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陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
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